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【第4章】ロデオに吹く情熱の風 フラメンコも愛も踏み込みが肝心

ブチ切れるカルメンとアレクシス嬢

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 カルメンは自分の身体と床の間に出来た影に右手を伸ばした。これだけ面積の大きい影であれば銃身の長いライフル銃を隠せる。
 ノールックでアレクシスの顔を予想し引き金を引いた。

「あぶなっ!?」

 二発は前髪を掠める。
 カルメンはアレクシスの足を掴み身体を転がす。

「おおう、柔術!?」

 怪力の身体が糸を引かれるように操られ地面に転がる。

「動くな!」

 カルメンは先に立ち上がり銃口を向けていた。

「命乞いをしろ、アレクシス! 貴様は拙を侮辱した! よりにもよって貴様にだ! お前らしからぬ、惨めで哀れな姿を晒してから殺してやる!」

 仮面が外れ、むき出しとなった怒りの眼差しも向けていた。
 アレクシスは手を上げる。

「……あなた、色白で美形だったのね。男だったらときめいていましたのに」

 ただし命乞いはしない。あくまで淑女らしく気品のある姿を見せた。

「お望みなら今すぐ死ね!!!」

 カルメンは引き金に指をかけようとした。

「待って、カルメン!」

 そこへ勇敢にもアルフォンスは二人の間に割って入る。
 アレクシスを手を広げて庇う。

「撃っちゃだめだ、カルメン。僕に君の怒りはわからない。けど僕は、君にアレクシスお姉さまを殺してほしくない! 君がアレクシスを殺したら、僕は、君を愛せなくなってしまう!」

 ライフル銃を向けられても微動だにしなかった。
 微動するのはライフル銃、カルメンの手だった。知り合いであろうと目的を達成するために躊躇なく弾丸を打ち込んできた腕がぶれ始めていた。

「……ハアハアハア……ハアハアハア……ハアハアハアハアハア……!」

 カルメンの身体に異常が発生した。呼吸が浅くなり汗を大量に流し顔色もさらに白くなっていく。

「拙は、アルフォンス様に、銃口を向けた……? 説は、節は、もう、しないと心に誓ったのに??? またこどもにじゅうむけて、ころそうと?????」

 ついに武器であるライフル銃を落とす。

「カルメン……?」

 明らかに様子がおかしい。心配したアルフォンスが声をかけた。

「こないで!!!!」

 カルメンは顔を両手でうずくまる。

「違う違う違う違わない!!!! ああああああああ!!! 切は、接は、アルフォンス様に銃を……!」

 心の傷がうずき始めた。
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