ダンジョン最奥に住む魔王ですがこのままだと推しの勇者PTに倒されてしまいます。

田村ケンタッキー

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ビクトリアvsキャラバン改め強盗団

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 キャラバン改め強盗団は本性を現した。護衛の男たちが剣を抜くが、

「お前ら、手を出すんじゃないよ。このチビはあたしの獲物だ」

 魔法使いの女はローブを脱ぐ。彼女は着やせするタイプだった。歩くたび、喋るたびに顎の下のぜい肉が揺れる。

「身体は小さいが耳が尖っている……エルフだ……しかもあの耳の尖りよう……純血に近いエルフだ。この近辺にエルフの村があるとは聞いていたが、一匹だけなんて好都合だわ。一度いたぶってみたかったのよ、ハーフじゃない、本物のエルフを……」

 ビクトリアはエミリとエッシに指示を出す。

「二人とも、私の後ろに隠れてなさい。門の中よりも安全よ」
「言われなくてもすぐに隠れられる場所はここくらいですよ~!」

 エッシは泣きごとを言いながらビクトリアの後ろでしゃがみ込む。

「そうね~、火の粉は飛んでくるかもだからしゃがみ込んだほうが安全かも。エミリもそうしたら」

 エミリはビクトリアの背後で立ったままでいた。

「いいえ、大丈夫です。エルフ様を信じてますから」
「あっそ。あとで泣き言言っても聞いてあげないから」

 隊長はやる気満々の魔法使いの女に話しかける。

「おい、加減しろよ。後ろの女はなるべく傷つけるな。価値が落ちる」
「そういう作戦なんでしょう~? 価値のある女を盾にして戦意を削ごうってチビのくせに小賢しいわね~」
「俺はお前の雇い主だぞ。これは命令だ」
「あたしが受けた仕事はあなたの護衛よ~? むしろこうやって人狩りの手伝いしてるだけボーナスが出るってもんじゃない?」
「まったく小賢しいのはどっちだ……」
「確認だけど、本当にエルフはどうなってもいいの? エルフの生き血はすすれば不老不死になるなんて噂もある。あんたの好きな金になる話じゃない」
「出たよ、魔法使いの悪い癖だ。根拠のない出鱈目を信じやがる。エルフの生き血をすする? うぅ、想像しただけで吐きそうだ……とにかくエルフはどうなってもいい。あの女はなるべく傷つけるなよ。傷つけたらボーナスが減ると思え」
「りょ~か~い」

 そして魔法使いの女は言った側から詠唱を始める。

「止まり木を燃やし炭にしろ」
「お前、それ、最大火力の──」
「ファイアーバード!」

 杖から炎が渦巻き、火の鳥に変貌する。

「あーらあーら手が滑っちゃったわ! ごーめんなさいねー!」

 火の鳥は一直線にビクトリアたちの元へ飛翔する。

「あーははは! 詠唱すらできずに死になさーい!!」

 ビクトリアはふうっと息を吐いた。

「……なんだ、人間の魔法使いってこんなものなのね──マジックミラー」

 その一言で四角形の光の壁が現れる。初めて発動した時よりも厚く、眩い。
 火の鳥は光の壁にぶつかるとぴたりと動きを止める。まるでキツツキが口ばしが抜けなくなって呆然とするように。

「──は?」

 呆然としていたのは魔法使いの女も同じだった。
 火の鳥は熱せられたロウソクのように丸め込まれていき、

「返すわよ、おデブさん」

 勢いを殺さずに跳ね返した。
 形は維持できなかったがエネルギーはそのままに火の雨となって、キャラバンに降りかかった。

「うわああああああああ!?」
「ぎゃあああああああ!!!」

 運の悪い護衛はもろに浴びてしまい、慌てて燃える装備を脱ぐ。

「グヌオオオオ!」

 火の粉は輓獣にも襲い掛かる。動転した輓獣が鋭利な角で兵士を一人、二人と突き上げていく。

「おい、お前! どうしてくれるんだ! このままだとキャラバンが全滅だ!」

 隊長が激怒するも、

「う、嘘でしょう……あたしの最大火力が……あんなチビに……なにかの間違い……」

 魔法使いの女は現実を受け入れられずにいた。

「あれが最大火力って……くそったれ長老のファイアボール以下じゃない……これがエルフと人間の差ってやつなのかしら……」

 この時不幸にも彼女は勘違いしてしまう。長老はエルフ族の中でも上澄みであり、相対する魔法使いの女は底辺であることを知らずに種族だけで勝負が決すると考えるようになってしまう。後に賢者と肩を並べる魔法使いの男に出会った時、彼女もまた絶望することになる。
 そしてビクトリアの慢心を拍車をかけるようにエミリは拍手する。

「御見事です、エルフ様! 今日という日を村史に刻みましょう!」
「あなた、忙しそうにしてたけどそんなことまでしてたの……」

 魔法使いの女は使い物にならない、兵士は壊滅状態。

「ぐぬぬ、こうなったら……」

 追い詰められた隊長は決断する。

「美しくも聡明で麗しいレディたち! 商談をしましょう!」

 みっともなくも逞しい、精一杯の命乞いだった。
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