ダンジョン最奥に住む魔王ですがこのままだと推しの勇者PTに倒されてしまいます。

田村ケンタッキー

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新たな資源改め屋台骨

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「あんたねえ、この期に及んでねえ!」

 ビクトリアは杖の先を隊長に向けた。

「ひい!? 武器はもう捨てましたよ!? 本当にもう抵抗しませんって!」

 全員が剣を捨て一つに固まっている。

「エルフ様、冷静になってください。ここで彼らを殺しても何の意味もありません。魔力を無駄にするだけです」

 エミリが戦意がないと汲み取り落ち着かせる。
 ならず者といえど王国と遠く離れた村を行き来する術を持っている。ここで殺してしまえば鉄が売れなくなってしまう。

「こ、殺しはしないわよ……ちょっと手加減して……ビビらせるくらい……のつもりだったけど、そうね、魔力の無駄遣いよね」

 杖を持ち直す。無抵抗な者を殺す趣向は持ち合わせていない。

「でも暴れないように枷は欲しいところよね……人を人形のように操る魔法があればいいんだけど」

 結局反乱を起こされてしまえば結果は同じになってしまう。

「エルフ様、いい案があります。彼らが所持する金目の物を村で預かるのが良いかと」
「あーなるほど? 仕事をした分返していくってこと?」
「そうです。勿論完全に安全が保障されるものではありません。それでも、きちんと仕事をこなせば報酬が貰えるとわかれば一か八かのギャンブルをしなくて済むとわかるはずです」
「報酬って……元はこいつらの所持品だけどね」
「半分以上は盗品だと思いますけど」
「それもそうね。回りくどいし面倒だけど、こいつらも生かして利用しないと立ち行かないものね」
「ご理解頂けて何よりです」

 ビクトリアはキャラバンたちを向く。杖を地面に突きたてると彼らは一人を除いて身をすくめる。

「話は聞こえてたでしょう? 今回は特別に命だけは助けてあげる。今後は生きていることをこの私に感謝しながら働きなさい!」
「ははー! エルフ様の仰せのままに!」

 隊長の言動は従順であったが本気にするはずがない。リスクはあるものの、融通が利く駒ができたと考えればいい買い物になったと言える。

「ふん、わかればいいのよ、わかれば」

 懐の大きさを見せるがそれを理解できないエッシは首を傾げる。

「え? 殺さないんですか?」
「え、エッシ……?」

 そして突然物騒なことを言い始めた。

「こいつらは我々の命を狙ったんですよ? 今は大人しくしているかもしれませんがいつまた襲い掛かってくるかわかりませんよ?」
「それは……そうだけど、私とエミリの話聞いてなかったの?」

 側にいて聞いていないはず。これは聞いた上での判断と行動。

「あ、魔力の無駄遣いが嫌ならわたしが殺してきましょうか? 鳥を締めるのは慣れていますので。こういう時くらいしか役に立つ場面がありませんので、わたし」

 エッシは意気揚々と剣を拾いに行こうとするが、

「エッシ、ステイ」

 エミリが彼女の襟首をつかんで止めた。

「まとまりかけた話をぶち壊しにするつもりですか?」
「ですがエミリ様。やはり危険だと思われます。生かしてたらきっと」
「エッシ。もしや口答えですか? いつからあなたはそんなに偉くなったんですか?」

 エミリは笑顔を浮かべている。村の男たちを虜にしたと言っても過言ではない笑顔に圧力が帯びている。

「え、あ、いや、口答えなんてそんな恐れ多い……」

 顔は青ざめ身体を震わせる。

「わかればよろしいのですよ。お願いですからこれからもお利口さんでいてくださいね」

 エミリがイタズラっ子を諭すような笑顔で肩に手を乗せると、

「っひぃっ!?」

 しゃっくりみたいな悲鳴を上げる。

「返事は?」
「ひゃ……ひゃい」
「よろしい」

 エミリは笑顔を崩さなかった。いつもと変わりのない笑顔のはずなのにビクトリアにはまったくの別物に見えた。

「それではエッシ、あなたにお仕事です。商談が無事にまとまりましたので手の空いている男たちを十人ほど呼んできてください。できますね?」
「は、はい! よろこんで!」

 エッシは何もないところでつまずきながらも村の中と走っていった。おどけた一面ばかり見ていたせいで先ほどの情け容赦のない一面が際立って見えた。

「……エルフ様。あまりエッシを責めないであげてくださいね。普段は本当に優しくていい子なんです」
「わかってはいるけど……ちょっと様子がおかしかったわよね」
「……彼女は子供の頃に両親を目の前で殺されたんです。必死で命乞いをしたのに最期まで聞き入れてもらえなかったそうです。そして両親を殺したのが、盗賊でした」
「仇みたいなものね、そりゃ生かしておけないわ」
「……正直、私もキャラバンを生かすことには抵抗のほうが大きいのです。いつ約束を破るかもわかりません。次戻ってきた時、今よりも十倍の人数で襲い掛かってくるかもしれません。考えれば考えるほど、想像上のリスクは無限に広がっていきます。それでも、それでも村を守るためには、お金を稼ぐにはこうするしかないのです」

 元々資源に乏しい土地。金になる物と言えば鉄くらい。それも将来的に枯渇するのは目に見えている。

「それに今度は王国が戦争の準備と来ました。勝てたらまだいいです、もしも負けたら……言葉も道理も通じない異民族がこの土地を荒らしにやってくるかもしれません……そうなったら、私は……私は……!」

 村を守るという重圧は一人の人間には耐え難いものだった。これ以上状況が悪化すれば村だけじゃなく彼女の命も危うい。

(エミリももう限界が近い……ああ、もどかしい……! なにか、何かないの!? 全てまるっと解決する奇跡のような手が……!)

 杖を絞るように力いっぱい握る。元は骨である杖だが少女の手ではビクともしない。

「ん……」

 そしてビクトリアは気づく。全てをひっくり返す一手に。

「あ、あああああ!!」
「ど、どうされたんです!? いきなり大声を出されて」
「……エルフ族の諺に失せ物も答えも樹下にあり、なんてあったけど……なんでまあ、今の今まで気付かなかったのかしら……」

 忘れたくても忘れられない出来事だったのに。

「……ねえ、隊長。もう一回、商談よ。喜びなさい、このエルフ様がとびっきり儲けさせてあげるわ」

 鉄の村の新たな屋台骨はまさに骨だった。
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