ダンジョン最奥に住む魔王ですがこのままだと推しの勇者PTに倒されてしまいます。

田村ケンタッキー

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骨の魔力

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「いったいぜんたい、我々はどこへ連れて行かれてるのですか?」
「うるさい。喋りながら歩いていると転んで舌を噛むわよ」
「そろそろ目隠しを外しても良くないですか? 初めて入る土地ですし、道なんて覚えられませんよ」
「今からあんたに見せるのは未来の金庫よ。こっちも慎重にならざるを得ないのよ」

 隊長は手を縛られ目隠しされた状態で山を歩いていた。側には杖を奪われた魔法使いもいる。同様に目隠しをされていた。この二人を見張るために先導のビクトリア以外に男三人が同行している。

「蜥蜴の骨でしたっけ? 私めは商才はありますがどうも魔法の才に恵まれなくてですね……それが杖の代わりになるなんてとてもとても、信じられませんな」
「ただの蜥蜴じゃないの。マナに適合しすぎた巨大蜥蜴。本当にあるんだからね」
「お言葉ですがエルフ様、商売においては百聞は一見に如かず。やはりこの目で見ないと白黒わからないのですよ」
「だからあんたんとこの魔法使いも連れて来たんでしょう。真偽をはっきりさせるためにもね」

 魔法使いは会話にこそ参加しないものの、ぶつぶつと小声を呟き続ける。

「……そうか、あたしは才能で負けたんじゃない、杖の差で負けたんだ……あたしにも骨があれば……遅れを取らない……」

 本人は周りに聞こえていないつもりだろうがビクトリアにはしっかり聞き取れていた。

(物騒なことを考えてるようね……馬鹿な真似しなきゃいいんだけど)

 十数年前に一度だけ通った道だったが不思議と身体が覚えているもので、例の洞窟に一度も迷子にならず無事に到着した。

(よかった~……無事に到着して……)

 これにはビクトリアも胸をなでおろす。なぜなら、

(最近、記憶力に自信なくなっていたのよね。村人の顔と名前が出てこなかったり。私の頭は若いままで正常のようね)

 隊長が魔法使いに話しかける。

「着いたらしいぞ。どうだ? 何か感じるか?」
「すごい……なんて濃いマナなの……地上なのにまるでダンジョンにいるみたい……」
「いいか、絶対に変な気を起こすんじゃないぞ。例えここにいる全員を殺したとしても道がわからんことには生きては帰れないんだからな」
「……あんた、ずっと思っていたけど何様なわけ?」
「……は?」
「魔法の才能が微塵もないのに魔法使いのあたしに指図してるの? いったいぜんたいどういう了見?」
「お前こそ、雇用主に向かってなんだその口は。杖を奪われたくせにでかい態度を取ってるんじゃないぞ、木食い虫」
「あら、あたしがいつ杖を奪われたかしら?」
「お前、まさか……!」
「その……まさかよ!」

 魔法使いは靴底に隠していた杖に触れて呪文を唱える。

「ファイア!」

 濃いマナをたっぷり吸収した炎の魔法は腕を縛るロープを焼き切るだけでなく、視界を奪うほどの光も発した。

「おほほほ! これが実力! あたしも知らざる真の実力!」

 魔法使いは見張りを振り切って洞窟に向かって走っていく。

「ひい! 俺は無実! あいつが勝手にやったことなんです!」

 隊長は地面に伏して無抵抗をアピールする。

「手間取らせてくれてんじゃないのよ、あの女!」

 ビクトリアも強い光のせいで視界を奪われていた。ただしきっちりと魔法使いの位置は把握していた。

(大丈夫、あいつは体重がある分、足音もでかい! おまけに鈍重!)

 常日頃から真夜中に素早く数の多い魔物を退治しているビクトリアにとっては止まった的も同然。
 すぐさま狙いを定めるも、

「……くっ、ファイア!」

 一瞬の迷いが発射を鈍らせる。
 発射された火の塊は魔法使いの背後で爆ぜる。

「当たりませんわ、当たりませんわ~!」

 そしてついに洞窟に飛び込んでしまった。

「私としたことが逃がしてしまうなんて……すぐに追うわよ!」
「あ、あの、エルフ様!」
「なに!?」
「……私はここに残ってもよろしいでしょうか」
「はあ!?」

 見張りの言葉に気が立っていたビクトリアだったが振り返るとすぐに冷静になる。

「い、いたい……いたいよぉ……」
「エルフ様、申し訳…………ありません……」

 火の魔法の勢いは凄まじく見張りの三人のうち、二人が深い火傷を負ってしまっていた。

「……そうね、あなたはここに残って二人の看病とこいつの見張りを続けなさい」
「すみません! すみません! すみません!」
「謝ることないわ。どうせあなたたちには期待してないから」

 ビクトリアは自分を強く責める。

(私のせいだ……私が不甲斐ないばかりに……)

 力で圧倒しているはずなのに、悪知恵で出し抜かれている。杖は一人一本なんて決まりはない。予備の準備くらい、少し考えれば思いつく。

(……よくもやってくれたわね。覚悟なさいよ)

 視界が戻ったところで洞窟の前へ。

「隠れてないで出てきなさい!」

 そう呼びかけると、

「ファイアーバード!」

 暗闇から火の鳥が飛び出してくる。

「マジックミラー!」

 前と同じように光の壁で受け取るも、

(詠唱を短縮したのに威力が増してる!? もう骨を拾ったの!?)

 洞窟に向かって返す。
 中で爆ぜた音が聞こえるが、

「ファイアーバード! ファイアーバード! ファイアーバード!」
「三連発!? マジックミラー!」

 不意を突かれるもマジックミラーで受け止められないことはなかった。

「あっはっは! すごいすごい! これが、これが骨の力! あと何発でもファイアーバードが放てられる! おまけに洞窟の中はマナが濃い! ついにあたしにもツキが回って来たってことね!」
「なに、いい気になってるのかしら。あんた如きがこの私に勝てるわけないでしょう」
「止まり木を燃やし炭にしろ! ファイアーバード!」

 倍以上の大きさの火の鳥が飛び出す。

「うざ! マジックミラー!」

 これも洞窟の中に跳ね返して爆ぜるが、

「あはははっ! あたんなーい!」

 けろっとした声が返ってきて神経を逆なでする。

「うざうざうざ! こっちに来て戦いなさいよ!」
「来るのはそっちでしょう!」

 にらみ合う両者。どちらも譲らない。

「あー、そう。じゃあエルフと短命種の格の差ってやつ、見せてあげるわ」
「へえ、そう。見せてもらおうかしら」
「ファイアーボール!」

 ビクトリアは火の玉を洞窟の中へ繰り出す。

「ははっ、ファイアーボール? ファイアーバードよりも格下じゃない? もしかして上級魔法がつかえ──」
「ファイアーボール!」

 爆発音。そして僅かな空白のうちに、

「ちょっとあんた! 人がまだ喋ってる最中」
「ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール!」

 洞窟は見た目よりも頑丈。ファイアーボール程度では崩れはしない。

「あ、あんた、いい加減に」
「まだ息の根があったか! ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール!」

 返事があればひとまずファイアーボール。

「……」
「ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール! ファイアーボール!」

 返事がなくてもファイアーボール。
 絶え間なく繰り返される火の玉の波状攻撃。たっぷりの魔力タンクに胡坐をかいた、物量作戦。この十数年でビクトリアは多くの魔物を狩ってきた。その分経験値が溜まり魔力量も大幅に成長していた。だからこそできる大雑把で豪快な作戦だった。
 十分間ほど火の玉を放ち続けた後に小休憩を挟む。

「聞こえてるー? もしくは爆発音で耳が遠くなっちゃって聞こえなくなっちゃった? それでも話はやめないんだけどさ~、私はまだまだやれるけどどうする~? さっさと降参して出てきてくれたら命だけは助けてあげるんだけど?」

 女魔法使いの返事は、

「誰がお前なんかに降参するか! この洞窟はあたしんだ! 誰にも渡さない! ごほっごほっ」

 熱に喉がやられ、喉がガラガラになっていたが威勢はそのままだった。
 正気であれば爆発音が続けざまに起こる洞窟の中などストレスで耐えられるはずがない。
 それでも彼女は骨にしがみつく。彼女はすでに骨の魔力に魅入られてしまっていた。

「あー、そう。じゃあこのまま──」
「それ以上やるならこっちにも考えがある!」
「ちょっとこっちが話してる最中でしょ、本当に耳が遠く──」
「あと一発でも火の玉を放ってみろ! その瞬間、あたしは大蜥蜴の骨をバラバラに爆散する!」
「は!? はあああ!?」

 正気でもなければ勝機もない。ならば最期は相手にいかに利益を残さずに散るか、もしくは道連れにできるか。行き詰った人間は合理性を失う。

「あと三十秒数えて、あたしのもとへ来なくても爆散する! 骨を捨ててあたしに殺されに来い!」
「はああ!? 何よ、その条件! 飲めるはずがないんだけど!」
「いーち! にー!」
「うっざああああ! あの女ああああ!!!」

 骨は頑丈であるが詠唱有ファイアーバードの威力なら破壊は可能だ。全損とは行かないだろうが売りに出せる量が減ってしまうかもしれない。

「ここまで馬鹿な生き物だとは思わなかったわ、短命の魔法使いってのは!」

 頭脳戦が通じない。ならば自分も頭を空っぽにして飛び掛かるか。いや体格差で勝てるはずがない。

「どうする……どうする……」

 困っていると思わぬところから助け船。

「お困りですかな、レディ」
「うわ、隊長!? 目隠しとロープは!? 見張りは何してるの!?」
「見張り殿は火傷を負った二人の治療に集中されています。ところでエルフ様、提案なのですが」
「動くな! それ以上動いたら丸焦げにする!」

 ビクトリアは隊長に杖を向ける。

「むー、私めはエルフ様の味方なのですが、今の状況では信じてもらえないのも仕方ありませんな。エルフ様、とりあえずここは私を信じて何も手出ししないでくれますかな」

 隊長は説得が難しいと考えると洞窟へ向かう。

「じゅうー!」
「あ、あんた、あいつと合流して何をするつもり!?」
「説得ですよ。私とて絶好の商機を失うのは惜しいのですよ。魔力ブースターになる大蜥蜴の骨。ぜひ欲しい。そして売りさばきたい!」
「じゅういちー!」

 そう言って隊長は洞窟の暗闇へと消える。

「じゅうに!」

 カウントダウンはまだ聞こえる。

「じゅうさん!」
「じゅうよん!」
「じゅうご!」
「じゅうろく!」
「じゅうなな!」
「じゅうはち!」
「じゅうきゅ」

 カウントダウンは19で止まった。
 そしてそれから十秒後の出来事だった。

「残念な報告です、エルフ様。説得に失敗してしまいました」

 隊長が暗闇から出てくる。魔法使いを連れて。

「あ、あんた、それ……」

 魔法使いの喉に大きな切り傷。そこから大量の血が流れていた。
 隊長は血糊の付いたナイフを持っていたが、

「おっと、これはお見苦しいものを」

 あっさりと捨てる。敵意を見せたらせっかく助かった命が無駄になってしまう。

「説得はしたのですが聞き入れてもらえませんでした。致し方なく、断腸の思いで、私自らがけじめをつけさせていただきました」
「あんた、仲間を殺したの……」
「仲間、ですか。正確には金を受け渡しする雇用関係でしたがね。まあ払う前に殺めてしまいましたが。金が浮いてラッキーなんて、はっはっは」
「……」
「おっと、失礼。場を和ませるつもりが逆効果でしたな。エルフ様、気に病まないでください。彼女がああなったのも説得に応じなかったからです。だからこの血は彼女の判断の末に流れたもの」

 説得とは言うがあまりに不自然だった。魔法使いの耳は聞こえなくなっていた。ならばそれ相応に隊長の声も大きくなければ届かないだろう。そもそも隊長の説得も聞こえなかった。
 隊長はずっと秤にかけていたのだ。ビクトリアと魔法使い。どっちにつけば自分に利するか。
 結果、ビクトリアと手を組むことを選んだ。魔法使いは骨の力を証明した時点で役目を果たしたと判断したのだろう。
 この男は冷徹な男だ。金で物事を判断する拝金主義。信用してはならない。しかし今回、彼に助けられたのは事実だ。

「……助かったわ。ありがとう」

 ビクトリアは言いたいことは山々だがまずは礼を言う。

「いえいえ、役に立てたのなら光栄です」

 しかし聞かねばいけないことが一つある。

「……ねえ、あんた、あのナイフは誰のなの」
「ナイフ、ですか。あれは魔法使いのですよ」
「……そう、わかったわ」

 十中八九、嘘だ。魔法使いが杖を隠し持っていたように、隊長はナイフを隠し持っていたに違いない。でなければ腕を拘束していたロープも切れないだろう。

(……短命種のくせに小賢しいわね)

 ほんの一瞬で、ほぼ奴隷の立ち位置から村を救った英雄に成り上がった。
 隊長は今で会って来た人間の中の誰よりも曲者だ。

「そうそう、エルフ様、ご提案があるのです。この素晴らしい商品をより輝かせるアイデアが私めにはあります。その許可を欲しいのです」

 早速売った恩を取り戻しに来た。

「いいわよ、言ってみなさい」
「この大蜥蜴の骨を、竜の骨ということにして売り出すのです」
「え、それって確かに儲けるだろうけどバレたりしないの」
「あっはっは! そこは私の腕の見せ所! 断定できない部位を売るのです。素人に牛と豚の骨の見分けがつきましょうか」
「で、でも……」
「お言葉ですがエルフ様。エルフ様が育った環境では縁が遠く理解しづらいことでしょうが、本来金と言うのはこうでもしないと手に入らないのですよ」
「そう、だけども」
「ご安心ください、きちんと売りさばいてみせます。例えバレたとしても知らなかったで通せばいい。それに本来の目的である魔力ブースターとしての役割は果たしているのです。牛の肉だろうが豚の肉だろうが腹を満たせればどちらでもいい。そういう時代なのです」

 論戦になればビクトリアに勝ち目はない。側にエミリがいればまた結果は違ったかもしれない。
 隊長もまた骨の魔力に魅入られた人間の一人だった。
 こうして洞窟に封じられていた骨の魔力は溢れ、伝播していく。
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