ダンジョン最奥に住む魔王ですがこのままだと推しの勇者PTに倒されてしまいます。

田村ケンタッキー

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憎しみの果てで悪魔は微笑む 1

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 竜の厄災は終焉を迎えようとしていた。
 口から泡を吹き出しながらサファイアドラゴンが倒れる。
 最後に立っていたのは土を司るトパーズドラゴンだった。龍脈からマナを補給できるアドバンテージは大きく、他のドラゴンとは一線を画す。しかしほぼ同格の相手と対峙し無傷では済むはずがなく、全身の宝石にヒビが入っていた。宝石には大量のマナが秘められているがヒビが割れてしまえばそこから血のようにマナは漏れてしまう。ここまで傷ついてしまえば他のドラゴンとさほど変わらない。理論上、回復魔法を施せば元には戻るが人体の修復よりも膨大なマナを要する。人体の切り傷は生きてさえいれば塞がるが宝石の傷は何億年経とうと塞がりはしない。
 ルビードラゴン、エメラルドラゴンもまた虫の息だった。全身の宝石はくすみ、輝きを失っていた。
 トパーズドラゴンは呼吸と尻尾を荒くしたまま、周囲を睨みつける。まだ敵がいないか、いくらでも相手になってやると興奮冷めやらぬ。

「この痴れ者があああ!」

 ノワールが叫びながら魔力を放出するとトパーズドラゴンの動きは次第に鈍くなり、石像のように動かなくなった。

「なんてことを、なんてことを、してくれたのだ!! お前らを同時にテイムするのにどれだけ手間と時間をかけたと思っている!!!」

 宝石竜のテイムは揺るぎない偉業。しかしそれはあくまでいくつもの偶然がたまたま重なっただけの奇跡。運任せの運用で長く続くはずがない。

「そうかそうか、なぜ66層に留まり続けていたのがようやくわかったぞ」

 リチャードは真相にたどり着く。

「さてはここでしか、宝石竜を操れないのだろう?」

 現在66層は今までのどの層よりもマナ濃度が異常に濃くなっている。濃さだけなら80層に並ぶ。そのため魔法もレベルに見合わぬ性能になる。マッチの火が火柱に、コップ一杯の水が雨になるように、宝石竜に首輪を着けたのだ。

「ぐ、ぐぬぬぬ……!」

 ノワールは否定せず睨み返しながら歯ぎしりをする。

「宝石の光に目がくらんだな。そもそも貴様程度の小物に宝石は不釣り合いだったのだよ。返してもらうぞ、我が秘宝も!」

 一度は撤退を考えたが流れ込んだ勝機に飛びつかずにはいられない。戦う理由と負けらない理由を再確認し、切りかかる。

「トパーズドラゴン!」

 指示を出すとトパーズドラゴンは瞬時に待機状態から覚醒し尻尾を叩きつける。
 ゴゴゴ!!!
 リチャードとノワールの間に地割れが発生する。ノワール側の地面が上に突き出し、リチャード側の地面が下に崩れ落ちていく。同時にリチャードの頭上に多くの岩が落ちていく。

「ふははは! すり潰されて礫になってしまえ!」

 地の利を得たノワールは高らかに笑う。

「なんのこれしき!」

 リチャードは足に力を込めて高く跳躍する。そして落ちてくる岩を足場にしてノワールの場所まで登りつめる。

「むっ!?」

 肌で高度の魔力反応を感知する。すぐさま後方に下がると、数秒前まで立っていた場所が爆発する。

「ちぃっ! あと少しだったのに!」
「ふははは! そちらの魔法は66層と相性が悪いようだな!」

 爆発魔法の恐れるべき点は威力よりも隠密性だ。見えないことが脅威なのに、ここでは容易く感じ取れてしまう。

「黙れ、下賤な劣等種! 朕を笑うとは百年早い!」

 リチャードの後方に巨石が接近する。トパーズドラゴンの攻撃だった。

「なんのこれしき!」

 空中で身体をひねっての回し蹴りで砕く。

「真っ先に主を殺せば手間が省けると思ったが……致し方ない! まずはお前からだ、トパーズドラゴン!」

 現時点での最も警戒すべき相手は宝石竜。ダンジョンの地形を変える能力は翼を持たない者に圧倒的に不利に追いやる。

「トニョ君! できることでいい! ノワールを足止めしておいてくれ!」

 返事は頭上から聞こえる。

「やれことだけのことは、やります」

 見上げてみればトニョは箒で空を飛んでいた。あれなら足場の心配をしなくて済む。

「吾輩も箒の飛行を練習すべきだったかな……」

 嘆いている間にも頭上から巨石が落ちてくる。

「ワンパターンが過ぎるぞ!」

 リチャードは手頃な巨石を見極めると避けずに受け止める。

「うおおおお!!!」

 そして受け止めた巨石をトパーズドラゴンの顔に目掛けてぶん投げる。
 トパーズドラゴンは長い尻尾を払って岩石を砕く。

「そこだ!」

 投げた岩石よりも早く動き、回り込んだリチャードはトパーズドラゴンの顔に剣を突き立てる。
 カキィン!

「弾かれたか!」

 目を潰そうとしたがあと一歩届かず。瞼を閉じられ、宝石に剣を弾かれる。
 すぐさまトパーズドラゴンのカウンターがやってくる。利き手によるパンチだった。
 リチャードはとっさに剣で受け止めるが、

「ぐ、重い! これで手負いか!」

 見た目以上に体力が残っている。動きも反応も素早い。宝石竜三体を相手にした後とは思えない。

「が、しかし! 吾輩の敵ではない!」

 リチャードは殴られながらも剣はトパーズドラゴンの皮膚を突き刺していた。
 トパーズドラゴンは未知の痛みに絶叫する。

「宝石竜とはいえ、生き物だ。全身が宝石ではない。宝石の下には皮膚が、そして宝石と宝石の間に僅かに隙間がある。そうでなければ身体を動かせないからな」

 細胞と細胞の間に針を突き立てるような繊細さが必要とされるが、経験豊富かつ大胆なリチャードなら一発で決められる。

「とう!」

 地面に押しつぶされる前に剣を抜いて地面に着地する。
 トパーズドラゴンの足から黄色い血が湧き水のように溢れてくる。トパーズドラゴンの身体はマナの豊富な宝石で構成されている。体内を流れる血もまた同じ。微粒子のような宝石が含まれている。一滴でも回収すれば億万長者になれる、魔術的にも価値が高い血に目もくれない。
 リチャードの目的はただ一つ。ひたすら純粋にそのために戦っている。

「言葉に傾ける意思があるならよく聞け、トパーズドラゴン。お前に前に立つ男は、貴様の同胞を百体は殺したダンジョンの主だぞ」
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