ダンジョン最奥に住む魔王ですがこのままだと推しの勇者PTに倒されてしまいます。

田村ケンタッキー

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憎しみの果てで悪魔は微笑む 2

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 トニョはまんま言われたとおりに箒があることをいいことにノワールを離れた距離からけん制する。つかずはなれずで風魔法で攻撃する。

「朕を見下ろす不届き者めがー! 正々堂々降りて戦えー!!」

 ノワールはそう叫びながら爆発魔法を連発する。
 トニョは勿論聞く耳を持たなかった。

(冗談じゃない……あの得体の知れない魔法を見て近づけるほど蛮勇じゃない……)

 瞼の裏にこびりつく光景。背中に紐で括りつけた動かないビクトリアを想う。

(魔力感知のエキスパートである彼女が知恵比べに負けてしまった。そんな狡猾な策略家をがどう戦えと言うのだ)

 攻撃の風魔法もグラビティではなく風の刃。圧倒的有利に立っていながら致命傷にならない程度の風の刃をちまちまと撃つという省エネかつ消極的。実態は攻撃よりも嫌がらに近い。
 トニョは慎重すぎる性格ゆえにノワールを過大評価し、必要以上に恐れていた。そしてみすみす仲間ビクトリアを傷つけてしまった自分を過小評価していた。

(今は生き残るためにも時間稼ぎに専念すべきだ……本当であれば行方不明のテオ君の捜索もしたいが、ノワールから目を離してはいけない……)

 テオはあれから姿を見せない。生きてさえいればひょこっと顔を出しそうなものだが……宝石竜四体が起こした厄災に巻き込まれたのだ。いくら幸運のステータスが高いとはいえ、到底無事とは考えにくい。

(せめて身体の一部でも見つかれば……っ、だめだだめだ! どうして悪く考える! 無事だと信じなければ!)

 気持ちというものは一度落ちだすとなかなか浮上しなくなる。まるで重力に引かれるように。

「おっと……!」

 目の前に魔力反応。減速しながら降下し、爆発をくぐる。

「躱すでないわ!」
「なんて無茶を言う……」

 風魔法のエキスパートであるトニョにとって魔法の解明には至らないものの、爆発魔法は絶対不可避の魔法ではなかった。常に風を読むこと、マナの流れを意識する彼ならば高濃度マナによる過剰反応が発生する66層以外でもリチャードよりも素早く察知ができる。
 だからこそ歯痒い。もっと爆発魔法の情報を引き出していればビクトリアを守れたかもしれない。

(恨みますよ……リチャードさん……)

 静かに、大きな異変さえ起きなければ浮上することのないヘドロのようなヘイトが心の奥底に溜まり込んでいく。

「はっはっは! やるではないか、トニョくん!」

 恨まれているとは露知らず、リチャードは豪快に笑いながらトパーズドラゴンの尻尾を切り落とす。

「もう少しだ! もう少しで宝石竜を片づける! しばらくそっちを釘付けにしておいてくれ! なんだったら倒してもいいのだぞ!」
「こちらもこちらで無茶を言う……」

 倒すのであれば謎の解明は避けては通れないが爆発魔法はトニョにとっても不可思議だ。マナの量に対し、あまりに威力が高すぎる。威力だけを再現するとしたら風魔法でマナをこれでもかと密集させて火の魔法で引火するのがベターだ。しかしいくら観察してもそこまでの量のマナを運び、消費している気配はない。
 エルフであれば人間の知らない神秘を使って、と理解はできないが納得はできる。
 しかし獣人が、人間よりも魔法の才に劣る種族が人間の知らない技術を使っているとなると途端に理解も、納得すらもできなくなる。それがたまらなく不愉快で、悍ましいのである。

(まあ、このままのらりくらり箒で飛んでいればリチャードさんがトパーズドラゴンを倒し、順当にノワールを倒すのでしょう……そしてダンジョンを取り戻し、その後は……)

 ふと、その後が気になる。仮にノワールを倒し、悪魔召喚という最悪の結果を免れたとしてもその後はどうなる。
 そもそも人間がエキドナに潜り始めたのは地上に魔物が溢れ始めたからだ。
 リチャードは管理不足だったと反省しているらしいが……現状エキドナが活性化している謎も管理者でありながら解明してできていない。
 強さは認めている。なにせ賢者ですら倒せない宝石竜を圧倒しているのだから。しかし管理者としての素質には疑問が残る。果たしてこのまま主として君臨させていいものなのだろうか。なにせ獣人だ。いつ人間に牙を剥くか、それは本人にしかわからないのである。

「トニョくん、危ない!」

 トニョはその呼びかけで我に返る。考え事に没頭してしまっていた。

「落ちろ、ハエが!」

 巨大な爆発魔法が炸裂する。
 天井を覆うほどの黒煙が広がる。

「くっ……!」

 トニョは黒煙の中から抜け出す。

「ちぃ、生きてやがったか! しぶといハエだ!」
「生きていたか! しかし……!」

 箒には水をかけても消えないほどに火が延焼していた。

「仕方ありませんね……!」

 圧倒的な地の利を捨てて地面に戻らざるを得なかった。二本の足で地面に立つと使い物にならなくなった魔道具を放棄する。

「ふっふっふ、どうだ? 朕と同じ目線に立って、ようやく怖さがわかるだろう?」

 ようやくハンデを埋めたノワールは落ち着きを取り戻す。
 この状況はトニョをより精神的に追い詰める。しかし繊細な心を持つ彼は絶望はすれど決して泣き言は言わない。

「……意外と背が低いのですね」

 必死に強がって見せた。

「はっはっはっは! いいね、トニョくん! 最高だ!!!!」

 リチャードはトパーズドラゴンの踏み付けを跳ね返しながら豪快に笑う。

「楽に死ねると思うなよ、羽根をもがれたハエが……!」
「おっと爆発魔法は僕に通用しませんよ。風魔法で勝負するなら僕に分がある」

 一帯に見掛け倒しのつむじ風を起こす。

(さて、どう反応する……?)

 威嚇は想像以上に効果てきめんだった。

「ぐにゅにゅにゅにゅ……!」

 ノワールはブルドッグのように顔をシワだらけにする。しかし追い詰められたことによって彼は奥の手を出した。

「くそ! こうなれば仕方あるまい! おい、いつまでサボっているつもりだ、ブラン! 仕事の時間だ!」

 主であるノワールの呼びかけには逆らえない。ブランと呼ばれた従者は主の陰から姿を現す。

(このタイミングで伏兵!? どうする、ここで畳み掛けるか!?)

 しかし万が一のことがあるといけないとトニョは攻撃をしなかった。ひとまず身を固め、敵の姿を確認する。ありとあらゆる不意打ちに警戒していたがそれは杞憂に終わる。

「ぐっ……!」

 ブランが姿を現したかと思えば地面に膝が着く。肩で呼吸をし、目は虚ろ。戦う前からすでに衰弱しきっていた。

(こちらを騙すための演技の可能性も否定できませんが……見るからにあの症状は……)

 彼女の症状をリチャードが叫ぶ。

「シロ君、どうしたんだ! 酷いマナ欠乏症じゃないか!」

 魔力は魔法の根源を司る必要不可欠なエネルギーだ。魔力の元はマナである。そしてまた魔力を捻出するエネルギーもマナである。この世界の万物は少なからずマナで構成されている。マナ欠乏症とは力量を越える魔法を使役した時に発症する。通常であればマナ欠乏症が発症する前に身体が危険信号を察知し、気絶するなどのセーフティをかけるものであるが、外部から強制されるようなことがあればセーフティを外すこともできる。

「まったく、まるでなってない従者だ……主が起きている間に眠りこける従者がおるか?」
「もうしわけ……ございません……」

 ノワールの叱責にブランはただただ頭を下げるだけだった。

「ノワール! さては貴様! シロ君に宝石竜の回復を強いたな!?」

 リチャードは激怒する。しかし怒りのあまり周りが見えなくなりトパーズドラゴンの尻尾に敷かれる。

「おや、勉強不足の脳足らずにしては察しが良いではないか」

 いくら66層がマナが濃いとしても無傷の宝石竜を使役できるはずがない。弱らせた状態ではないと不可能だ。そして宝石竜は四体とも全身に微細な傷を残しているもののほぼ全快の状態まで回復していた。
 その回復役を担ったのがブランだった。宝石竜一体の回復でも容易ではない。いくらダンジョンに深く潜り、数多の魔物を屠り、レベルを上げていたとしても元は獣人。魔力の伸びには限界がある。四体も回復し、絶命していないのは奇跡に近い。

「貴様あああ! 宝石竜を手に入れるためなら近縁種の彼女も捨てるのか!!!」
「何をそこまで憤る。奴隷一匹と宝石の山が交換トレードできるのだぞ」
「ああ、そうだったな……! 貴様は見下げた下種だったな! 考えるだけで反吐が出るから忘れていたぞ!」

 リチャードは持ち前の筋力でトパーズドラゴンの尻尾を持ち上げる。

「そこで待っていろ! 命の価値をまるでわかっていない貴様を教育してやる!」
「命の価値だと? とことんお前は救えないなぁ! 朕の命以外に価値などないわ!」

 ノワールは忠実な下僕に命令を下す。

「ブラン。ここで足止めをしろ。命に代えてもな」
「……承知しました」

 そう言ってノワールは隠密スキルを発動し、姿を消す。

「逃げるなあああああ卑怯者があああああああノワアアアアアアル!!!!!」

 いくら叫んでも当然返事はない。
 リチャードが仇敵をみすみす逃す自分の至らなさに絶望していると、

「……ああ、いい叫び声ですね。リチャードさん。66層全体に届きそうな声でした」

 トニョはまるで他人事のように言う。

「トニョ君……! 君がそんなことを言う人間だとは思わなかったよ!」
「おっと勘違いしないでください。褒めてるんですよ」
「仇敵を逃した吾輩をか!?」
「いいえ、逃していません。僕が捕えています。得意の重力魔法でね」

 トニョが胸の前で右手をぎゅっと掴むと、

「ぐああああああああああ! 身体が潰れそうだ!!」

 どこからともなく聞き覚えのある叫び声が聞こえた。
 65層の方面にノワールが這いつくばっていた。

「貴様、どうやって朕を!! 隠密スキルを発動していたのだぞ!」

 四本足で踏ん張るが次第に地面に唇が着く。

「隠密スキルは姿を隠せど実体が消える訳ではありません……光は誤魔化せても音は誤魔化せない。おっとここで言う音とはあなたの発する足音ではありません。跳ね返ってくる音です。エコーって言うんですけどね、まあ説明する義理はありませんね。あなたは私の弟子でも弟弟子でもありません。人類の敵ですから」

 トニョがここに来て切り札を出したのは爆発魔法の危険を排除したと考えたからだ。

「ええ、本当にあなたは恐怖でしたよ。レベル80を超える化け物ですから。だからずっと観察していました。あなたの魔法や身体能力など。もしもあなたがリチャードさんの化け物じみた筋力を持っていたら重力魔法なんてちょっとした負荷にすぎませんからね。ですがあなたの身体能力なら重力魔法でも縛り付けられると判断しました。あと爆発魔法も脅威でした。結局なぜあそこまで威力が高められたかまでは究明できませんでしたが、空間移動魔法を使っていないのであれば対処のしようがあります」

 ノワールが地面にキスをしながらうめき声をあげる。

「おっと、そろそろ肋骨、それか背骨が折れる時間ですか。心臓が潰れるが先か、呼吸困難が先かは……僕にもわかりません」

 謎の爆発魔法を操るノワールを圧倒するトニョ。彼こそが魔法使い殺しの弟子と恐れられる魔法使いである。直接的な恨みはなかったが容赦はしない。

「ロビンさん……代わりに僕が敵を取っておきますよ」

 重力魔法によって時期に仇敵の命は終わる。これで悪魔召喚の恐れも消える。
 良いこと尽くしだったが異を唱える者がいた。

「トニョ君! 今すぐ重力魔法を止めるんだ!」

 リチャードだった。彼は必死に呼びかける。

「何故です? 脅威はここで終わらせなくては」
! シロ君を今すぐ解放するんだ!!!」

 トニョの骨をも砕く重力魔法の網に、衰弱状態のブランもかかっていた。
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