ダンジョン最奥に住む魔王ですがこのままだと推しの勇者PTに倒されてしまいます。

田村ケンタッキー

文字の大きさ
9 / 107

10層ボス ダーペント戦 中編

 ダーペントは吠えなかった。すでに攻撃の動作に入っていたからだ。
 弱者たるロビンには二択が緊急で迫られていた。

(回避か、防御か……)

 咄嗟に行動は、

「痛いのは嫌だけど防御!!!」

 盾を構えて全力の防御態勢。

 ダーペントの攻撃。最も硬く最も大きく最も大きい頭部による頭突き。
 成人男性であるロビンの身体はいともたやすく吹っ飛び、勢い殺せないまま壁に背中からぶつかる。

「ぁあっ」

 地面に頭から落ちる。彼が落ちた場所は天井から水が滴り、水たまりになっていた。水たまりに顔が浸かっていても彼は動こうとしなかった。

「師匠おおおおお!!」

 テオが前に出そうになるがマチルドが彼を引き留める。

「待ちなさい、テオ。今行ったら危ないわ」
「放せよ、マチルド! すぐに助けに行かないと!」
「ビクトリア! あたしがこの子を引き止めてるのも長くは続かない! 早く回復魔法を!」
「わかってるっての! ヒール!」

 ビクトリアが回復魔法を唱えるとロビンの身体は光に包まれた。

「よく見なさい、テオ。ロビンのHPを」

 攻撃を受けた後のロビンは三割にまで減らされたが回復魔法を受けて八割まで回復した。

「彼はちゃんと生きている。選択を誤らなかった。やるじゃない」

 ロビンは生きていた。まずは腕を立てて上半身を起こした。

「ぶはあ! 死ぬかと思った! 寿命で死んだばあちゃんの声が聞こえたぞ、まじで!」

 水たまりから顔を出すといつもの調子で口叩き。

「危なかった……あの瞬間、回避を選んでいたら冗談抜きで死んでたぜ……」

 頭突き攻撃は動きが鈍く隙が多い。ただしあの瞬間は距離が近く、回避は間に合わなかっただろう。
 この分析も運良く生き残れたからできるもの。まだまだ戦士としての未熟のロビンはそこまで考えることはできなかった。
 賭けであった。コインの裏表を当てるような確率で彼は勝利をもぎ取った。

「案外俺ってのは運がいいのかもな……ぜいたくを言うならあとは金運と恋愛運も欲しいな」

 剣を杖にしてふらりと立ち上がる。

「だああああああ!! だあああああ!」

 ダーペントがじわりじわりと距離を詰めてくる。また頭突きを狙っている。今度は逃げ場所も与えずにトドメを刺しに来ているのだろう。

「……前言撤回。今は贅沢言わないので生き残るだけの運をくれ!」

 仲間たちの援護を待ちたいところだが、

「離してくれ! たぶん師匠はいま、お腹が痛いんだ! だから本気を出せないんだ! 俺がテオ・スラッシャーで助けてやるんだ!」
「この馬鹿テオ! この距離じゃ当たるわけないでしょう!」
「じゃあ近づいて当てる!」
「それだとロビンにまで当たってしまうでしょう! あなたの必殺技、結構幅は広くに届くのよ!」
「じゃあ俺はどうすればいいんだ!」
「ひとまず落ち着け!!」

 テオの暴走をビクトリアとマチルドが止めていた。テオは少年ながら力が強い。これも勇者の恩恵。しかし今はあまりメリットには感じられない。
 敵の情報がはっきりとしないまま変に動かれては余計に事態はこんがらがってしまう。

「……どうにか俺一人で乗り切れってか」

 スキル『隠密』を使っても無駄だ。あれは何度も使えば効果が薄れる。効果は一度きりと割り切るのが賢明。それに水を浴びてしまったために足跡が残る。ダーペントほどのレベルと知能があればすぐに見破られてしまう。
 防御を固めるのも厳しい。身体よりも防具のほうが根を上げてしまっていた。鉄の盾はすでに限界で人間の蹴りでも割れそうなほどに壊れかけていた。武器の修繕はダンジョン内でも鍛冶屋と錬金術師がいれば可能だがそういった特殊なスキルを持つ貴重な人材はよっぽどのことがない限りダンジョンに潜りたがらない。

(どうする……どうする……)

 ほんの数秒も全財産を投げてまで欲しくなる。考えて考えて考える。

「だあああ……だああああ……!」

 ダーペントは唸り声を上げていた。

「おいおい。追い込んでるのはお前なのに威嚇かよ。どんだけ余裕なんだよ」

 ふとロビンは違和感を覚える。

(あれ、なんでこいつ、すぐにトドメを刺しに来ないんだ……?)

 圧倒的有利なのはダーペントに変わりはない。

「だああああ~~~……だあああ~~~~」

 唸り声もよく聞けば怯えにも聞こえなくはない。

(俺に怯えてる? 実は俺には秘められた力が……なんてのは絶対にありえねえ。っつーことは……)

 ロビンはちらりと視線を下に落とす。そこには水たまりがあった。

(いやまあ垂れた水が岩を穿つことはあってもこんな少量の水に怯えるはずがない。じゃあもしかして岩をも溶かす酸だったり? それもねえ、それだと俺はとっくに骨になってら)

 特に肌にピリピリとした感覚もしない。本当にただの水。

(じゃあなんで怯える? 身体が岩できてるあいつが……)

 観察を続ける。するとダーペントの皮膚は鈍く光っていることに気付いた。

(あの光り方、どこかで……あっ!!)

 不意に幼少の記憶が思い出す。村のはずれで両親の畑仕事の手伝いもろくにせずに夢中になった遊び。

「マチルド!! 魔法を頼む!! 一発だけでいい! とびっきり大きいの!!」
「いいけど、さっきも見たでしょう! 爆炎を受けてもピンピンしてるのよ!?」
「そうじゃねえ! あいつに食らわしてやるのは、水魔法だ!!」

 マチルドはにわかに信じられなかった。
 しかしロビンの自信満々の目を見て、信じる気になった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺のレベルが常人では到達不可の領域にある件について ~全ユーザーレベル上限999の中俺だけレベル100億いった~

仮実谷 望
ファンタジー
ダンジョンが当たり前のようにある世界になって3年の月日が流れてずっとダンジョンに入りたいと願っていた青年が自宅にダンジョンが出現する。自宅の押し入れにダンジョンが出現する中、冷静に青年はダンジョンを攻略する。そして自分だけがレベル上限を突破してレベルが無尽蔵に上がり続けてしまう。そうしていづれは最強への探索者として覚醒する青年なのであった。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

俺の家に異世界ファンタジーガチャが来た結果→現実世界で最強に ~極大に増えていくスキルの数が膨大になったので現実世界で無双します~

仮実谷 望
ファンタジー
ガチャを廻したいからそんな理由で謎の異世界ガチャを買った主人公はガチャを廻して自分を鍛えて、最強に至る。現実世界で最強になった主人公は難事件やトラブルを解決する。敵の襲来から世界を守るたった一人の最強が誕生した。そしてガチャの真の仕組みに気付く主人公はさらに仲間と共に最強へと至る物語。ダンジョンに挑戦して仲間たちと共に最強へと至る道。 ガチャを廻しまくり次第に世界最強の人物になっていた。 ガチャ好きすぎて書いてしまった。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。