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10層ボス ダーペント戦 中編
ダーペントは吠えなかった。すでに攻撃の動作に入っていたからだ。
弱者たるロビンには二択が緊急で迫られていた。
(回避か、防御か……)
咄嗟に行動は、
「痛いのは嫌だけど防御!!!」
盾を構えて全力の防御態勢。
ダーペントの攻撃。最も硬く最も大きく最も大きい頭部による頭突き。
成人男性であるロビンの身体はいともたやすく吹っ飛び、勢い殺せないまま壁に背中からぶつかる。
「ぁあっ」
地面に頭から落ちる。彼が落ちた場所は天井から水が滴り、水たまりになっていた。水たまりに顔が浸かっていても彼は動こうとしなかった。
「師匠おおおおお!!」
テオが前に出そうになるがマチルドが彼を引き留める。
「待ちなさい、テオ。今行ったら危ないわ」
「放せよ、マチルド! すぐに助けに行かないと!」
「ビクトリア! あたしがこの子を引き止めてるのも長くは続かない! 早く回復魔法を!」
「わかってるっての! ヒール!」
ビクトリアが回復魔法を唱えるとロビンの身体は光に包まれた。
「よく見なさい、テオ。ロビンのHPを」
攻撃を受けた後のロビンは三割にまで減らされたが回復魔法を受けて八割まで回復した。
「彼はちゃんと生きている。選択を誤らなかった。やるじゃない」
ロビンは生きていた。まずは腕を立てて上半身を起こした。
「ぶはあ! 死ぬかと思った! 寿命で死んだばあちゃんの声が聞こえたぞ、まじで!」
水たまりから顔を出すといつもの調子で口叩き。
「危なかった……あの瞬間、回避を選んでいたら冗談抜きで死んでたぜ……」
頭突き攻撃は動きが鈍く隙が多い。ただしあの瞬間は距離が近く、回避は間に合わなかっただろう。
この分析も運良く生き残れたからできるもの。まだまだ戦士としての未熟のロビンはそこまで考えることはできなかった。
賭けであった。コインの裏表を当てるような確率で彼は勝利をもぎ取った。
「案外俺ってのは運がいいのかもな……ぜいたくを言うならあとは金運と恋愛運も欲しいな」
剣を杖にしてふらりと立ち上がる。
「だああああああ!! だあああああ!」
ダーペントがじわりじわりと距離を詰めてくる。また頭突きを狙っている。今度は逃げ場所も与えずにトドメを刺しに来ているのだろう。
「……前言撤回。今は贅沢言わないので生き残るだけの運をくれ!」
仲間たちの援護を待ちたいところだが、
「離してくれ! たぶん師匠はいま、お腹が痛いんだ! だから本気を出せないんだ! 俺がテオ・スラッシャーで助けてやるんだ!」
「この馬鹿テオ! この距離じゃ当たるわけないでしょう!」
「じゃあ近づいて当てる!」
「それだとロビンにまで当たってしまうでしょう! あなたの必殺技、結構幅は広くに届くのよ!」
「じゃあ俺はどうすればいいんだ!」
「ひとまず落ち着け!!」
テオの暴走をビクトリアとマチルドが止めていた。テオは少年ながら力が強い。これも勇者の恩恵。しかし今はあまりメリットには感じられない。
敵の情報がはっきりとしないまま変に動かれては余計に事態はこんがらがってしまう。
「……どうにか俺一人で乗り切れってか」
スキル『隠密』を使っても無駄だ。あれは何度も使えば効果が薄れる。効果は一度きりと割り切るのが賢明。それに水を浴びてしまったために足跡が残る。ダーペントほどのレベルと知能があればすぐに見破られてしまう。
防御を固めるのも厳しい。身体よりも防具のほうが根を上げてしまっていた。鉄の盾はすでに限界で人間の蹴りでも割れそうなほどに壊れかけていた。武器の修繕はダンジョン内でも鍛冶屋と錬金術師がいれば可能だがそういった特殊なスキルを持つ貴重な人材はよっぽどのことがない限りダンジョンに潜りたがらない。
(どうする……どうする……)
ほんの数秒も全財産を投げてまで欲しくなる。考えて考えて考える。
「だあああ……だああああ……!」
ダーペントは唸り声を上げていた。
「おいおい。追い込んでるのはお前なのに威嚇かよ。どんだけ余裕なんだよ」
ふとロビンは違和感を覚える。
(あれ、なんでこいつ、すぐにトドメを刺しに来ないんだ……?)
圧倒的有利なのはダーペントに変わりはない。
「だああああ~~~……だあああ~~~~」
唸り声もよく聞けば怯えにも聞こえなくはない。
(俺に怯えてる? 実は俺には秘められた力が……なんてのは絶対にありえねえ。っつーことは……)
ロビンはちらりと視線を下に落とす。そこには水たまりがあった。
(いやまあ垂れた水が岩を穿つことはあってもこんな少量の水に怯えるはずがない。じゃあもしかして岩をも溶かす酸だったり? それもねえ、それだと俺はとっくに骨になってら)
特に肌にピリピリとした感覚もしない。本当にただの水。
(じゃあなんで怯える? 身体が岩できてるあいつが……)
観察を続ける。するとダーペントの皮膚は鈍く光っていることに気付いた。
(あの光り方、どこかで……あっ!!)
不意に幼少の記憶が思い出す。村のはずれで両親の畑仕事の手伝いもろくにせずに夢中になった遊び。
「マチルド!! 魔法を頼む!! 一発だけでいい! とびっきり大きいの!!」
「いいけど、さっきも見たでしょう! 爆炎を受けてもピンピンしてるのよ!?」
「そうじゃねえ! あいつに食らわしてやるのは、水魔法だ!!」
マチルドはにわかに信じられなかった。
しかしロビンの自信満々の目を見て、信じる気になった。
弱者たるロビンには二択が緊急で迫られていた。
(回避か、防御か……)
咄嗟に行動は、
「痛いのは嫌だけど防御!!!」
盾を構えて全力の防御態勢。
ダーペントの攻撃。最も硬く最も大きく最も大きい頭部による頭突き。
成人男性であるロビンの身体はいともたやすく吹っ飛び、勢い殺せないまま壁に背中からぶつかる。
「ぁあっ」
地面に頭から落ちる。彼が落ちた場所は天井から水が滴り、水たまりになっていた。水たまりに顔が浸かっていても彼は動こうとしなかった。
「師匠おおおおお!!」
テオが前に出そうになるがマチルドが彼を引き留める。
「待ちなさい、テオ。今行ったら危ないわ」
「放せよ、マチルド! すぐに助けに行かないと!」
「ビクトリア! あたしがこの子を引き止めてるのも長くは続かない! 早く回復魔法を!」
「わかってるっての! ヒール!」
ビクトリアが回復魔法を唱えるとロビンの身体は光に包まれた。
「よく見なさい、テオ。ロビンのHPを」
攻撃を受けた後のロビンは三割にまで減らされたが回復魔法を受けて八割まで回復した。
「彼はちゃんと生きている。選択を誤らなかった。やるじゃない」
ロビンは生きていた。まずは腕を立てて上半身を起こした。
「ぶはあ! 死ぬかと思った! 寿命で死んだばあちゃんの声が聞こえたぞ、まじで!」
水たまりから顔を出すといつもの調子で口叩き。
「危なかった……あの瞬間、回避を選んでいたら冗談抜きで死んでたぜ……」
頭突き攻撃は動きが鈍く隙が多い。ただしあの瞬間は距離が近く、回避は間に合わなかっただろう。
この分析も運良く生き残れたからできるもの。まだまだ戦士としての未熟のロビンはそこまで考えることはできなかった。
賭けであった。コインの裏表を当てるような確率で彼は勝利をもぎ取った。
「案外俺ってのは運がいいのかもな……ぜいたくを言うならあとは金運と恋愛運も欲しいな」
剣を杖にしてふらりと立ち上がる。
「だああああああ!! だあああああ!」
ダーペントがじわりじわりと距離を詰めてくる。また頭突きを狙っている。今度は逃げ場所も与えずにトドメを刺しに来ているのだろう。
「……前言撤回。今は贅沢言わないので生き残るだけの運をくれ!」
仲間たちの援護を待ちたいところだが、
「離してくれ! たぶん師匠はいま、お腹が痛いんだ! だから本気を出せないんだ! 俺がテオ・スラッシャーで助けてやるんだ!」
「この馬鹿テオ! この距離じゃ当たるわけないでしょう!」
「じゃあ近づいて当てる!」
「それだとロビンにまで当たってしまうでしょう! あなたの必殺技、結構幅は広くに届くのよ!」
「じゃあ俺はどうすればいいんだ!」
「ひとまず落ち着け!!」
テオの暴走をビクトリアとマチルドが止めていた。テオは少年ながら力が強い。これも勇者の恩恵。しかし今はあまりメリットには感じられない。
敵の情報がはっきりとしないまま変に動かれては余計に事態はこんがらがってしまう。
「……どうにか俺一人で乗り切れってか」
スキル『隠密』を使っても無駄だ。あれは何度も使えば効果が薄れる。効果は一度きりと割り切るのが賢明。それに水を浴びてしまったために足跡が残る。ダーペントほどのレベルと知能があればすぐに見破られてしまう。
防御を固めるのも厳しい。身体よりも防具のほうが根を上げてしまっていた。鉄の盾はすでに限界で人間の蹴りでも割れそうなほどに壊れかけていた。武器の修繕はダンジョン内でも鍛冶屋と錬金術師がいれば可能だがそういった特殊なスキルを持つ貴重な人材はよっぽどのことがない限りダンジョンに潜りたがらない。
(どうする……どうする……)
ほんの数秒も全財産を投げてまで欲しくなる。考えて考えて考える。
「だあああ……だああああ……!」
ダーペントは唸り声を上げていた。
「おいおい。追い込んでるのはお前なのに威嚇かよ。どんだけ余裕なんだよ」
ふとロビンは違和感を覚える。
(あれ、なんでこいつ、すぐにトドメを刺しに来ないんだ……?)
圧倒的有利なのはダーペントに変わりはない。
「だああああ~~~……だあああ~~~~」
唸り声もよく聞けば怯えにも聞こえなくはない。
(俺に怯えてる? 実は俺には秘められた力が……なんてのは絶対にありえねえ。っつーことは……)
ロビンはちらりと視線を下に落とす。そこには水たまりがあった。
(いやまあ垂れた水が岩を穿つことはあってもこんな少量の水に怯えるはずがない。じゃあもしかして岩をも溶かす酸だったり? それもねえ、それだと俺はとっくに骨になってら)
特に肌にピリピリとした感覚もしない。本当にただの水。
(じゃあなんで怯える? 身体が岩できてるあいつが……)
観察を続ける。するとダーペントの皮膚は鈍く光っていることに気付いた。
(あの光り方、どこかで……あっ!!)
不意に幼少の記憶が思い出す。村のはずれで両親の畑仕事の手伝いもろくにせずに夢中になった遊び。
「マチルド!! 魔法を頼む!! 一発だけでいい! とびっきり大きいの!!」
「いいけど、さっきも見たでしょう! 爆炎を受けてもピンピンしてるのよ!?」
「そうじゃねえ! あいつに食らわしてやるのは、水魔法だ!!」
マチルドはにわかに信じられなかった。
しかしロビンの自信満々の目を見て、信じる気になった。
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