ダンジョン最奥に住む魔王ですがこのままだと推しの勇者PTに倒されてしまいます。

田村ケンタッキー

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20層 先に倒されたボスとマチルドの因縁 後編

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「し、知らないわ、あなたなんて」

 トンガリ帽子を取る手を払おうとするも逆にその手首を掴まれてしまう。

「お前が忘れても俺は忘れねえんだよ! 見ないうちにますますいい女になりやがって。でも耳の形は昔のままだな。背中のほくろの数は変わったか」
「離してよ!」

 高レベルの魔物と遭遇してもほくそ笑む彼女とはまるで別人だった。

「ジャック。今の君は紳士とかけ離れていますよ」

 トニョはそう言いながらも傍観している。彼が介入するのはあくまで魔法や戦闘でのみ。個人のプライベートにはつっこみたがらない。

「……嘘だろ、マチルド……その男と……」

 ロビンはショックを受けていた。彼にとってマチルドは憧れの女性だったからだ。知りたくない過去を知ってしまい、身体が硬直していた。

 その中で咄嗟に動く男がいた。

「マチルドから離れろよ!!」

 テオだった。マチルドにしつこく言い寄るジャックをはねのけようと思いっきり両手で押すと、

「あん?」

 ジャックの身体は想像よりも遠く吹き飛んだ。

「なんだぁ、このガキ? バフを貰っていたにしてもこの俺を突き飛ばすとはよぉ」

 すぐさま宙で身体を翻し、両足で着地する。

「いい度胸してるじゃねえか。運動が足りねえと思ってたんだ」

 左右対称の双剣を同時に抜く。
 攻撃を受ければそれすなわち喧嘩の始まり。子供のイタズラであろうとだ。彼が育った街ではそれが常識だった。彼もそうした環境下で育った。

「なにやってんだと言いたいところだが、よくやったぞ、テオ!」

 ロビンは盾を構える。

「馬鹿テオ。面倒ごと引き起こさないでくれる?」

 そう言いながらもビクトリアも杖を構える。
 皆に謝るや逃げるの選択肢はなかった。
 
 戦意を見せつけられたジャックは笑いながら、

「よかったぜ、腰抜けじゃなくて……これでお前らは、強者に喧嘩を売った間抜けだぜ!」

 もはや戦いは免れられない。
 その時両者の間に巨大な氷山が落下する。地面に落ちた瞬間に足元にまで氷は押し寄せる。

「双方そこまでです。今すぐ頭を冷やしなさい。敵を見誤ってはいけませんよ。ここで戦って消耗しても何の得にもなりません」

 傍観を決めていたトニョが介入し、強大な力を見せつけて圧倒させる。
 驚異的なその規模だけでない。

(この大規模な魔法を詠唱もなく一瞬で……マナ濃度の高いダンジョンでもこれほどの魔法の発動は簡単にできることじゃない……)

 ビクトリアは冷気に晒せながらも汗をかく。
 視線に気づいたのか、トニョは彼女に向けて笑顔を見せる。

(おまけに疲れを見せずピンピンしてる…………)

 フードを引っ張って顔を隠す。

 瞬間的にできた雪原に足跡ができる。

「すげー! 雪降ったあとみてえだ!」

 テオはついさっきまで臨戦態勢であったにも関わらず、剣を忘れて走り回っていた。

「うお!?」

 そして足を滑らせて転んだ。

「あははは! 滑っちまった! かき集めればスキーもできるんじゃないか!?」

 転んでもなお笑顔を見せる。
 それを見ていたジャックは、

「……チッ。てめーだって無駄に力を見せびらかしてるんじゃねえよ」

 舌打ちをこぼし兄弟子に文句を言いながら剣を納める。
 こうして人同士の諍いはトニョの機転によってひとまず回避に成功した。

「さて皆さん。お腹は空きませんか? このあと親睦を深めるためにもお食事を一緒にどうです?」

 トニョはロビンとビクトリアに話を持ち掛ける。
 二人は自分の気持ちよりも仲間の気持ちを優先する。振り返って、彼女の意思を確認する。

「……」

 マチルドは無言で首を横に振った。

「というわけで連れがこうなのでお断りだ」
「そうですか、残念です」

 残念と言いつつもトニョは笑顔を崩さない。わかっていたという態度だった。食事を誘ったのは特別な狙いがあったわけではなく、社交辞令に過ぎなかった。

「冷凍した鴨ローストがあったんですけど」
「……鴨ロースト」

 ビクトリアは唾を飲み込む。

「ちょっとなびいてんじゃないよ」

 ロビンは鴨ロースに惹かれるビクトリアと雪遊びに夢中のテオを引っ張って21層へと向かった。
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