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第1章
5.『騒々しい者達』
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星野家本家の方は、地下に大きな部屋がある。地下は雪実の部屋と繋がっており、壁に隠し扉がある。
未だ身動きの取れない蒼を雪実と茜が「せーの」という掛け声で担ぐと、隠し扉の中へ。
そこで三人を通すために、扉を開けていた少女が感想を述べる。
「…雪実は良しとして、貴女はいとも簡単に実の兄をひょいっと持ち上げられるのね。」
「こんなの余裕だよ。柔道習ってるもん!」
「こら茜。初対面の人には敬語って、いつも叔父さんと叔母さんから言われてるはずでしょ?」
「あ、そうだった。ごめんなさーい。」
「敵意剥き出しだな。」
普段はそこまでがっつかない茜のはずが、今回は妙にこれでもかと言うほど噛み付く。
茜は、打ち解けた者には犬のように懐くが、気に入らなかった者には煽るような態度をとる癖がある様だ。
身動きの取れない蒼が見ていられなかったのか、少女に向かって軽く頭だけ下げる。
「ふふ、いいわよ。一応身内の仲なんだから。お姉ちゃんこれくらい我慢できますよぉ。」
と、言いながらも顔を引き攣らせながら茜を撫でようとする少女。しかし、すぐ様に茜は背後の気配に気づき手を叩き落とした。なんとも悪い空気が漏れ出す。
これが冷戦。
「…可愛くないわね。」
ボソッ、と無表情で言った言葉は、果たして本人に届いているのか否や…。
「さ、着いた」という雪実の声で、部屋の電気がパッとつく。
奥行があり、無駄な配置物がない分確かに「広い」とは思える室内。しかし、長い間放置されていたせいか埃が舞い、蜘蛛の巣がちまちまと張られている。
この部屋を色で表すとすれば、全員の意見合致で「灰色」だろう。
「うぅう~…シックハウス症候群になりそう。」
「おねえ、ここ新築じゃないよね…」
「それよりも雪実が俺の動けない足を容赦なく投げ捨て、鼻をつまんでいるなんていう驚きの光景を目の当たりにして少しショックだ」
まだつるが足に絡みついているようで、藍色に光り輝く蒼の足がなんとも滑稽である。
ちなみに今は上半身を茜に支えられた体勢である。
「なんという食欲減退色…。これじゃ食べる気にもならないね…」
「待て雪実。つるを食う前提で言ってんのかそれ。無理だからな?」
「でもつるって、食べれるヤツあったよね?ね?」
「同意を求めるな!!このつる絶対食えねぇだろ!おい食わせんなよお前!?」
子供のように目を輝かせる雪実。この状態の雪実は蒼を切り裂き兼ねない。
こうなってしまった以上、自らの命も危ないと察知した蒼は唾が飛ぶ勢いで少女に向かって注意をした。
「流石にそれは…私が魔法で作り出したものでもあるし、多分不味いわよ。」
「えぇ~…」
「何でそんな残念そうなんだよ…」
そんなくだらない会話にツッコミを入れている時、突如なにかの電子音が聞こえた。というよりもバイブレーションが鳴る音だ。
「何っ!?この奇怪な音は!!耳がムズムズするわ!!!」
「うるさいですっ!」
「あー、ごめん。私のだ。」
「違うおねえじゃないよ!この人がうるさいんだよっ!」
「もう、何なのこの子!」
本当にうるさいな…と耳を塞ぎたくなる中、雪実は至って冷静に自分のポケットから通信機器を取り出す。
長方形型の、タッチパネル式。ピ、と電子音が鳴ると、それを耳に当てる。
通信機器と言うよりかは__
「あ、もしもし……なごみちゃん?どうしたのさ。」
今の時代で言われるスマートフォンである。
「何何っ?なんでそんな不可思議なものに向かって喋っているの?何をしているの?」
興味津々にその場で飛び跳ねながら指を差して蒼に問うた。
そんなのも知らないのか…と一度は呆れたものの、よくよく考えてみればこの少女は幽霊だということを忘れていた。それにしても、見た目は現代の者とそう変わりない姿をしているのに、本当にこんな世間知らずなのだろうか。
蒼は疑問に思いながら仕方なく説明を始めた。
「あれはー…電話してるんだようん。……俺馬鹿だからまともな説明出来ない…」
「も~、そんなことも知らないのですかぁ?今、おねえが持っているものはスマートフォンというやつで__」
「電話!あぁ、一家に一台はある必需品の事ね。」
「無視しないでくださいよッッ!!!」
吠えるように茜が牙を向く。
それに対し、少女は何も知らないとでも言いたげな瞳をして口笛を吹き始めた。
…どうしたらこの二人は仲良く会話ができるのだろうか。
それよりも、先程の蒼の説明でも十分伝わったようだ。どうやら電話という存在は知っていたらしい。
「でもおっかしいわねぇ…そんなにコンパクトなものだったかしら?ほらもっとこう…こーんな形で、受話器に向かって話していたはずよね?」
そう言いながら少女は人差し指で受話器らしきものを描き、その後耳に当てるような仕草をする。
どうやら彼女は一昔前の電話の事しか知らないらしい。
そんな動作を見せつけられ、蒼が頭に浮かべたものは、
「家庭用電話機か。」
「今の時代は携帯電話ですよ!家庭用電話機の時代は…終わってはないですけど殆ど使わないところが多いんじゃないかな!」
「ふぅん。…よく分かんないけど分かった気がするわ。」
「いやどっちだよ。」
一瞬訝しげな表情をして、すぐに普通の表情に戻る。
彼女なりに考えてみたらしいが肩をガクンと落とした所を見る限り、思考がパンクしたのだろう。どうやら考えるのを止めたらしい。
…と、何故か電話の話題で盛り上がっていたが、会話が終了した途端に驚く程の静寂が場を包んだ。
今では雪実が誰かと話す声しか聞こえない。
この広い部屋のことだから、尚更緊迫感がある。
「……あ、それより蒼くん。話さなきゃいけないことがあったわ。」
「へ?俺に…?」
沈黙が破られ、再び会話が始まろうとした時だった。
「えぇ!?なごみちゃん今、玄関の前にいるの!?」
大層驚いた様子で、雪実がそう叫んだ。
未だ身動きの取れない蒼を雪実と茜が「せーの」という掛け声で担ぐと、隠し扉の中へ。
そこで三人を通すために、扉を開けていた少女が感想を述べる。
「…雪実は良しとして、貴女はいとも簡単に実の兄をひょいっと持ち上げられるのね。」
「こんなの余裕だよ。柔道習ってるもん!」
「こら茜。初対面の人には敬語って、いつも叔父さんと叔母さんから言われてるはずでしょ?」
「あ、そうだった。ごめんなさーい。」
「敵意剥き出しだな。」
普段はそこまでがっつかない茜のはずが、今回は妙にこれでもかと言うほど噛み付く。
茜は、打ち解けた者には犬のように懐くが、気に入らなかった者には煽るような態度をとる癖がある様だ。
身動きの取れない蒼が見ていられなかったのか、少女に向かって軽く頭だけ下げる。
「ふふ、いいわよ。一応身内の仲なんだから。お姉ちゃんこれくらい我慢できますよぉ。」
と、言いながらも顔を引き攣らせながら茜を撫でようとする少女。しかし、すぐ様に茜は背後の気配に気づき手を叩き落とした。なんとも悪い空気が漏れ出す。
これが冷戦。
「…可愛くないわね。」
ボソッ、と無表情で言った言葉は、果たして本人に届いているのか否や…。
「さ、着いた」という雪実の声で、部屋の電気がパッとつく。
奥行があり、無駄な配置物がない分確かに「広い」とは思える室内。しかし、長い間放置されていたせいか埃が舞い、蜘蛛の巣がちまちまと張られている。
この部屋を色で表すとすれば、全員の意見合致で「灰色」だろう。
「うぅう~…シックハウス症候群になりそう。」
「おねえ、ここ新築じゃないよね…」
「それよりも雪実が俺の動けない足を容赦なく投げ捨て、鼻をつまんでいるなんていう驚きの光景を目の当たりにして少しショックだ」
まだつるが足に絡みついているようで、藍色に光り輝く蒼の足がなんとも滑稽である。
ちなみに今は上半身を茜に支えられた体勢である。
「なんという食欲減退色…。これじゃ食べる気にもならないね…」
「待て雪実。つるを食う前提で言ってんのかそれ。無理だからな?」
「でもつるって、食べれるヤツあったよね?ね?」
「同意を求めるな!!このつる絶対食えねぇだろ!おい食わせんなよお前!?」
子供のように目を輝かせる雪実。この状態の雪実は蒼を切り裂き兼ねない。
こうなってしまった以上、自らの命も危ないと察知した蒼は唾が飛ぶ勢いで少女に向かって注意をした。
「流石にそれは…私が魔法で作り出したものでもあるし、多分不味いわよ。」
「えぇ~…」
「何でそんな残念そうなんだよ…」
そんなくだらない会話にツッコミを入れている時、突如なにかの電子音が聞こえた。というよりもバイブレーションが鳴る音だ。
「何っ!?この奇怪な音は!!耳がムズムズするわ!!!」
「うるさいですっ!」
「あー、ごめん。私のだ。」
「違うおねえじゃないよ!この人がうるさいんだよっ!」
「もう、何なのこの子!」
本当にうるさいな…と耳を塞ぎたくなる中、雪実は至って冷静に自分のポケットから通信機器を取り出す。
長方形型の、タッチパネル式。ピ、と電子音が鳴ると、それを耳に当てる。
通信機器と言うよりかは__
「あ、もしもし……なごみちゃん?どうしたのさ。」
今の時代で言われるスマートフォンである。
「何何っ?なんでそんな不可思議なものに向かって喋っているの?何をしているの?」
興味津々にその場で飛び跳ねながら指を差して蒼に問うた。
そんなのも知らないのか…と一度は呆れたものの、よくよく考えてみればこの少女は幽霊だということを忘れていた。それにしても、見た目は現代の者とそう変わりない姿をしているのに、本当にこんな世間知らずなのだろうか。
蒼は疑問に思いながら仕方なく説明を始めた。
「あれはー…電話してるんだようん。……俺馬鹿だからまともな説明出来ない…」
「も~、そんなことも知らないのですかぁ?今、おねえが持っているものはスマートフォンというやつで__」
「電話!あぁ、一家に一台はある必需品の事ね。」
「無視しないでくださいよッッ!!!」
吠えるように茜が牙を向く。
それに対し、少女は何も知らないとでも言いたげな瞳をして口笛を吹き始めた。
…どうしたらこの二人は仲良く会話ができるのだろうか。
それよりも、先程の蒼の説明でも十分伝わったようだ。どうやら電話という存在は知っていたらしい。
「でもおっかしいわねぇ…そんなにコンパクトなものだったかしら?ほらもっとこう…こーんな形で、受話器に向かって話していたはずよね?」
そう言いながら少女は人差し指で受話器らしきものを描き、その後耳に当てるような仕草をする。
どうやら彼女は一昔前の電話の事しか知らないらしい。
そんな動作を見せつけられ、蒼が頭に浮かべたものは、
「家庭用電話機か。」
「今の時代は携帯電話ですよ!家庭用電話機の時代は…終わってはないですけど殆ど使わないところが多いんじゃないかな!」
「ふぅん。…よく分かんないけど分かった気がするわ。」
「いやどっちだよ。」
一瞬訝しげな表情をして、すぐに普通の表情に戻る。
彼女なりに考えてみたらしいが肩をガクンと落とした所を見る限り、思考がパンクしたのだろう。どうやら考えるのを止めたらしい。
…と、何故か電話の話題で盛り上がっていたが、会話が終了した途端に驚く程の静寂が場を包んだ。
今では雪実が誰かと話す声しか聞こえない。
この広い部屋のことだから、尚更緊迫感がある。
「……あ、それより蒼くん。話さなきゃいけないことがあったわ。」
「へ?俺に…?」
沈黙が破られ、再び会話が始まろうとした時だった。
「えぇ!?なごみちゃん今、玄関の前にいるの!?」
大層驚いた様子で、雪実がそう叫んだ。
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