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第2章
7.『袴着の少女』
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「は、ははははじめまして!ま、まっままま」
「はい一旦落ち着いてなごみちゃーん…深呼吸深呼吸…。」
「すううううう……はああぁぁあ」
「はいじゃあ改めて自己紹介をどうぞ。」
「は、初めましてっ!祀杞なごみと申します!何卒、何卒宜しくお願いします!」
袴を着た少女はだいぶテンパりながらも自己紹介を何とか終わらせたようだ。
初めて顔を合わせるが…良識のある、いい家の娘さんなイメージが蒼の中でついた。
「よろしく、…えっと。なごみちゃん」
「うわっ、お兄様がちゃん付けってなんか違和感…。」
「おにい気持ち悪い」
普段の口の悪さを隠し、これでも十分なくらいには爽やかな挨拶をしたつもりなのに、阿呆な妹と従妹のせいで堪忍袋の緒が切れそうになる。ここでは流石に切れれないが。
「な、何を言っているのだねチミ達…おれ……ぼ、ボクはいつでも爽やかぁで、紳士的だろう?」
「「「……ぷ。」」」
なごみ以外の三人が、同時に吹き出した。
それもその筈だ、普段から素の蒼を知っている二人、そしてずっと何処からか見守っていた永陽にとっても吹かざるを得ないものだろう。
状況を理解していないような表情でなごみはオロオロとし始める。
「あ、あの…」
「ちょっとおにい!おにいのせいでなごみさんが迷惑してるじゃん!」
「うっわ、お兄様こんな可愛い女の子を困らせるなんて…」
「う、うっせ!大体お前らが俺の事を侮辱するからだろ!一時的なキャラチェンだよキャラチェン!」
引いたような仕草で雪実と茜の二人は蒼の近くから離れていく。そんな楽しそうな様子をずっと黙って見ている永陽は変わらず笑いを堪えるばかりだ。その場に縮こまって笑いを発散させるように床を叩いている。
一方、素の口調に戻った蒼。なごみはそんな蒼を見て何か安心したのか、ふわっと笑う。
「やっぱり、お兄様はお兄様なんですね…。」
「おうそうとも!俺は人類最強と言われるお兄様で……え?」
思わず素っ頓狂な声を上げる。
「お兄様」と言った主はなごみなわけで、初対面の人からそういう呼称で呼ばれるのは初めてだ。
大体その名で蒼のことを呼ぶのは雪実しかいない。大方、何らかの影響なのだろう。
変わらず目を白黒させていると、なごみと視線が合う。
その瞬間、いたずらがバレた子供のように心臓がばくばく脈打つ感覚を覚えた。
これはきっと、照れの感情だろう。
蒼は衛星中継ばりに遅く、顔を赤くさせた。
「ななななっ、なんで!?えっ!?」
「あぁ~、お兄様落ち着いてほら。相手はなごみちゃんだから安心するが良い。」
「何が安心だ!!安心と言うよりか…羞恥だろこれ!なんか恥ずいわ!!!」
「ふ、ふふ…蒼にも羞恥という感情があるのね。」
誰だって年頃の男の子はそう考えるだろう。
いきなり初対面の、そして純粋で無垢そうな可愛い女の子に「お兄様」と呼ばれれば、動揺しないわけないだろう。
正直言って、今蒼はこれでもかと言うくらいテンションが上がっているようだ。
「ご、ごめんなさいっ!雪実ちゃんと従兄弟の話をする時に、その、おに…蒼くんのことを呼称で呼んでいるのがわかって…それでつい影響されちゃって…。」
「派生は鬼様からだけどね。」
「それでおにいは鬼様からお兄様へと昇格したんだね…。」
「…それ、俺初耳なんだけど……。」
「あっ、その話も聞いたことあります!」
はいっ!と元気良く挙手をするなごみ。
よく見れば袴は袴でも留袖のようだ。晴れ舞台で良く着る印象を受けるが、はっきりと言ってしまえばなごみの着ている袴はそこまで派手ではなく、寧ろシンプルなものだった。
現代とはまた違った、古風な雰囲気に蒼は慣れないようで、少し歯痒い気持ちになっているようだ。いい意味で。
「まぁまぁ思い出話はまた今度にしよう。それよりもなごみちゃんから私の従兄妹に何か言いたいことがあったんじゃないの?」
「えぇ~…もっとお話したかったなぁ…。あっ、そうだったよ雪実ちゃん!忘れてたぁ。」
「忘れてたんかい!」
すかさず雪実がツッコミを入れる。その点でも流石は異名、戦車とも言える。
「言いたいこと?」
「えっ、えっ!なんですかなごみさん!」
大層うきうきした様子で茜が問う。どうやら早くも懐いているようだ。
一方、他人には自身の姿は見えないだろうと自動的に影を薄くしていた永陽もここは真剣な眼差しでなごみを見つめる。
「えと…大した事じゃないんですけど…。今度、祀杞家に来てみませんか?という事で…」
「私は勿論行きたいです!!」
「こら茜!も~……舞い上がってるうちの従妹可愛すぎぃ!」
「ひゃ~、おねえやめてよ擽ったい!」
「あ、雪実ちゃんのいとコンモード発動した。」
これはどうしよう、と蒼は唸る。
勧誘を受けたのは良いものの、こんな女の子揃いの中に一人、男である自分が混じっていくのは無理があるんじゃないだろうか、と。
しかしその場の空気に流され、蒼は意見を言えないままでいた。
暗い顔をしている蒼に目が付いたなごみは更にこう言った。
「当日私の従兄弟も来ます。お兄様、男の子もちゃんといますから安心してください。」
「!? い、いや俺は行くなんて一言も…」
「私達と同年代の子一人、二歳年上の人一人…ですね。」
「だから行くなんて一言も!!」
「嘘!?年同じの子がいるの!?益々行きたいよ!ね、お兄様!」
「えぇ……」
圧倒的に雰囲気で流される。拒否権なんてないだろうな…と悟った蒼は渋い顔で「じゃ、行きます…」と承諾した。
そこら辺一面に花が咲いたような笑みを浮かべるなごみ。
「決まりですね!じゃあお家に帰ったら早速話付けてきます!あ、後ですねもう一つ。」
と、楽しい雰囲気から一転、なごみは改まったような仕草で話を進める。
「祀杞家と、星野家に関する……重大なお話です。」
「はい一旦落ち着いてなごみちゃーん…深呼吸深呼吸…。」
「すううううう……はああぁぁあ」
「はいじゃあ改めて自己紹介をどうぞ。」
「は、初めましてっ!祀杞なごみと申します!何卒、何卒宜しくお願いします!」
袴を着た少女はだいぶテンパりながらも自己紹介を何とか終わらせたようだ。
初めて顔を合わせるが…良識のある、いい家の娘さんなイメージが蒼の中でついた。
「よろしく、…えっと。なごみちゃん」
「うわっ、お兄様がちゃん付けってなんか違和感…。」
「おにい気持ち悪い」
普段の口の悪さを隠し、これでも十分なくらいには爽やかな挨拶をしたつもりなのに、阿呆な妹と従妹のせいで堪忍袋の緒が切れそうになる。ここでは流石に切れれないが。
「な、何を言っているのだねチミ達…おれ……ぼ、ボクはいつでも爽やかぁで、紳士的だろう?」
「「「……ぷ。」」」
なごみ以外の三人が、同時に吹き出した。
それもその筈だ、普段から素の蒼を知っている二人、そしてずっと何処からか見守っていた永陽にとっても吹かざるを得ないものだろう。
状況を理解していないような表情でなごみはオロオロとし始める。
「あ、あの…」
「ちょっとおにい!おにいのせいでなごみさんが迷惑してるじゃん!」
「うっわ、お兄様こんな可愛い女の子を困らせるなんて…」
「う、うっせ!大体お前らが俺の事を侮辱するからだろ!一時的なキャラチェンだよキャラチェン!」
引いたような仕草で雪実と茜の二人は蒼の近くから離れていく。そんな楽しそうな様子をずっと黙って見ている永陽は変わらず笑いを堪えるばかりだ。その場に縮こまって笑いを発散させるように床を叩いている。
一方、素の口調に戻った蒼。なごみはそんな蒼を見て何か安心したのか、ふわっと笑う。
「やっぱり、お兄様はお兄様なんですね…。」
「おうそうとも!俺は人類最強と言われるお兄様で……え?」
思わず素っ頓狂な声を上げる。
「お兄様」と言った主はなごみなわけで、初対面の人からそういう呼称で呼ばれるのは初めてだ。
大体その名で蒼のことを呼ぶのは雪実しかいない。大方、何らかの影響なのだろう。
変わらず目を白黒させていると、なごみと視線が合う。
その瞬間、いたずらがバレた子供のように心臓がばくばく脈打つ感覚を覚えた。
これはきっと、照れの感情だろう。
蒼は衛星中継ばりに遅く、顔を赤くさせた。
「ななななっ、なんで!?えっ!?」
「あぁ~、お兄様落ち着いてほら。相手はなごみちゃんだから安心するが良い。」
「何が安心だ!!安心と言うよりか…羞恥だろこれ!なんか恥ずいわ!!!」
「ふ、ふふ…蒼にも羞恥という感情があるのね。」
誰だって年頃の男の子はそう考えるだろう。
いきなり初対面の、そして純粋で無垢そうな可愛い女の子に「お兄様」と呼ばれれば、動揺しないわけないだろう。
正直言って、今蒼はこれでもかと言うくらいテンションが上がっているようだ。
「ご、ごめんなさいっ!雪実ちゃんと従兄弟の話をする時に、その、おに…蒼くんのことを呼称で呼んでいるのがわかって…それでつい影響されちゃって…。」
「派生は鬼様からだけどね。」
「それでおにいは鬼様からお兄様へと昇格したんだね…。」
「…それ、俺初耳なんだけど……。」
「あっ、その話も聞いたことあります!」
はいっ!と元気良く挙手をするなごみ。
よく見れば袴は袴でも留袖のようだ。晴れ舞台で良く着る印象を受けるが、はっきりと言ってしまえばなごみの着ている袴はそこまで派手ではなく、寧ろシンプルなものだった。
現代とはまた違った、古風な雰囲気に蒼は慣れないようで、少し歯痒い気持ちになっているようだ。いい意味で。
「まぁまぁ思い出話はまた今度にしよう。それよりもなごみちゃんから私の従兄妹に何か言いたいことがあったんじゃないの?」
「えぇ~…もっとお話したかったなぁ…。あっ、そうだったよ雪実ちゃん!忘れてたぁ。」
「忘れてたんかい!」
すかさず雪実がツッコミを入れる。その点でも流石は異名、戦車とも言える。
「言いたいこと?」
「えっ、えっ!なんですかなごみさん!」
大層うきうきした様子で茜が問う。どうやら早くも懐いているようだ。
一方、他人には自身の姿は見えないだろうと自動的に影を薄くしていた永陽もここは真剣な眼差しでなごみを見つめる。
「えと…大した事じゃないんですけど…。今度、祀杞家に来てみませんか?という事で…」
「私は勿論行きたいです!!」
「こら茜!も~……舞い上がってるうちの従妹可愛すぎぃ!」
「ひゃ~、おねえやめてよ擽ったい!」
「あ、雪実ちゃんのいとコンモード発動した。」
これはどうしよう、と蒼は唸る。
勧誘を受けたのは良いものの、こんな女の子揃いの中に一人、男である自分が混じっていくのは無理があるんじゃないだろうか、と。
しかしその場の空気に流され、蒼は意見を言えないままでいた。
暗い顔をしている蒼に目が付いたなごみは更にこう言った。
「当日私の従兄弟も来ます。お兄様、男の子もちゃんといますから安心してください。」
「!? い、いや俺は行くなんて一言も…」
「私達と同年代の子一人、二歳年上の人一人…ですね。」
「だから行くなんて一言も!!」
「嘘!?年同じの子がいるの!?益々行きたいよ!ね、お兄様!」
「えぇ……」
圧倒的に雰囲気で流される。拒否権なんてないだろうな…と悟った蒼は渋い顔で「じゃ、行きます…」と承諾した。
そこら辺一面に花が咲いたような笑みを浮かべるなごみ。
「決まりですね!じゃあお家に帰ったら早速話付けてきます!あ、後ですねもう一つ。」
と、楽しい雰囲気から一転、なごみは改まったような仕草で話を進める。
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