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第2章
9.『リスクを呼ぶ好奇心』
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特定の位置を見つめる。
そこには心配そうになごみを見つめる永陽の姿がある。
それがなごみには視えているかどうか…。
しかしなごみは見つめていた場所と正反対の、真後ろを振り返った。
暗い表情。まさか、視えていなかったのか。
「あの……。」
固唾を飲む。結果はどうだったのか。
痺れを切らしたのか、永陽自ら話し掛ける。
「なごみちゃん。私が視えてるかしら?」
その瞬間、なごみの肩がピクリと動いたのを見逃さなかった。それは、永陽が話し掛けた直後の出来事。…間違いない。
なごみには、永陽が視えていたようだ。
「なごみちゃん?」
綿飴のような優しい声音で、もう一度名前を呼ぶ永陽。
確かにこの声は届いているはずだ。だが、目の前の袴の少女は硬直して動かない。
「なごみちゃん!」
よく見てみれば、目に生気が宿っていない。何処か不自然だ。それをすぐに察した雪実は、なごみに近付き身体を揺らす。
“危険”な事というのに気づいたのは蒼だった。
「言わんこっちゃない…!おいっ!!今すぐなごみちゃんを別室に運べ!このままだと死ぬぞっ!!」
「そんな…っ!」
「やだ、やだぁ!なごみさん…!」
次々に悲惨な声を上げ、茜に至っては大量の涙を流す。
雪実はと言うと今の事実を聞かされ、腰を抜かしてしまったようだ。動けない状態である。
最悪の事態になってしまい、蒼も心底焦り始める。
「嘘でしょ…霊気は制限を掛けたはずなのに、どうして…。」
「なごみちゃんは俺が別室まで運ぶ。……お前らはしばらくこの部屋で反省でもしとけ。どれだけ大変な事になったのか…よく考えろ。」
そう吐き捨てると、蒼はいつの間にか眠ってしまったなごみを背負い部屋から去って行った。
蒼の言っていた“危険”が本当のことになろうとは思わなかった少女三人。いや、本当は心の奥で「~なるかもしれない」ということは考えていた。
だが、起きてしまったことには変わりないのだ。
「…ごめんなさい、本当にごめんなさい。」
沈黙を破ったのは永陽であった。
陰りのある表情で涙混じりの声。そして身体も微かに震えている。
恐怖したのだろう。
「なんで、お姉ちゃんが謝って……私にだって非はあるよ…」
「だって!!!興味本位でやってしまったことなのよっ!?それが許されると思って……っ!」
永陽は、幽霊だからこそ『ここに居る』と主張したかった。
『説明がしたい』だなんて都合の良すぎる押し付け。
所詮はもう、身を捨てた存在なのだから普通は他人から視られないのが当然なのだ。
それを永陽は__破ろうとした。
「黙って見て面白がってた私も悪いよ!だからそんなに自分を責めないで…?」
「そんな事言って、もしなごみちゃんが最悪死んだりしてしまったら…私達、掛ける言葉がないわよね。」
「っ!」
「……。」
衝撃的な物言いに、二人は言葉を失った。
「……今の私にはネガティブな発言しかできないようだから…少し時空を彷徨って来るわ…。」
永陽なりに『頭を冷やしてくる』と言いたかったのだろう。白いワンピースを翻すと宙に浮き、やがて藍色の粒となり、弾けて消えてしまった。
取り残された二人は最早、絶望でしかない。
「……。」
「おねえ…。」
自分の心の中で意を決した雪実は、ゆっくりと立ち上がった。
_____。
一方、なごみを連れた蒼は…勝手で申し訳ない、と心で思いながらも雪実の部屋のベッドで寝かせていた。
生気のなかった目も今では閉じられており、規則正しく寝息を立てている。
どうやら、命に別状はなかったようだ。
それだけ分かると、蒼は安堵のため息をついた。
「……言い過ぎた、訳でもないか…さっきの俺の言葉は俺自身にも同じ事を言えるんだよな……。」
また深いため息をつく、今度は落胆の意を込めたものだ。
先程のなごみの行動を止めることが出来なかった蒼は、それを妙に気にしていた。
それは多分、こういう状況になってしまったからだろう。
もしも、こんな事にはならずに今頃簡単に永陽と話せてさえいれば、何も問題はなかったのだろう。
「初めて会った時からこんなんじゃ、なあ…。」
なごみに頭が上がらない。
固く目を瞑るその少女のあどけない寝顔を見ながら、苦い憂愁を噛み締めて。
近くの棚には起きた時のために一杯の水を用意してある。
何をしているのだろうか、自分は。
勝手に彼女が起きるのを期待して、ただ待っているだけではないか。
もしも永遠に起きなかったとしたら、どうするべきだ。
頭の中で悶々と暗い考えが浮かび上がる。
ここは、変に考え込まないのが得策だろうか、いや…そうすれば脳内が自動的に『思考停止』を働かせてしまい、何も考えれなくしてしまうような気がした。
「本っ当、脳筋って言われてもおかしくないな…。」
なごみが寝ている隣で、ただ目覚めるのをひたすらに待つ。
今蒼が出来る事は、何度考えてもそれしか無かった。
そこには心配そうになごみを見つめる永陽の姿がある。
それがなごみには視えているかどうか…。
しかしなごみは見つめていた場所と正反対の、真後ろを振り返った。
暗い表情。まさか、視えていなかったのか。
「あの……。」
固唾を飲む。結果はどうだったのか。
痺れを切らしたのか、永陽自ら話し掛ける。
「なごみちゃん。私が視えてるかしら?」
その瞬間、なごみの肩がピクリと動いたのを見逃さなかった。それは、永陽が話し掛けた直後の出来事。…間違いない。
なごみには、永陽が視えていたようだ。
「なごみちゃん?」
綿飴のような優しい声音で、もう一度名前を呼ぶ永陽。
確かにこの声は届いているはずだ。だが、目の前の袴の少女は硬直して動かない。
「なごみちゃん!」
よく見てみれば、目に生気が宿っていない。何処か不自然だ。それをすぐに察した雪実は、なごみに近付き身体を揺らす。
“危険”な事というのに気づいたのは蒼だった。
「言わんこっちゃない…!おいっ!!今すぐなごみちゃんを別室に運べ!このままだと死ぬぞっ!!」
「そんな…っ!」
「やだ、やだぁ!なごみさん…!」
次々に悲惨な声を上げ、茜に至っては大量の涙を流す。
雪実はと言うと今の事実を聞かされ、腰を抜かしてしまったようだ。動けない状態である。
最悪の事態になってしまい、蒼も心底焦り始める。
「嘘でしょ…霊気は制限を掛けたはずなのに、どうして…。」
「なごみちゃんは俺が別室まで運ぶ。……お前らはしばらくこの部屋で反省でもしとけ。どれだけ大変な事になったのか…よく考えろ。」
そう吐き捨てると、蒼はいつの間にか眠ってしまったなごみを背負い部屋から去って行った。
蒼の言っていた“危険”が本当のことになろうとは思わなかった少女三人。いや、本当は心の奥で「~なるかもしれない」ということは考えていた。
だが、起きてしまったことには変わりないのだ。
「…ごめんなさい、本当にごめんなさい。」
沈黙を破ったのは永陽であった。
陰りのある表情で涙混じりの声。そして身体も微かに震えている。
恐怖したのだろう。
「なんで、お姉ちゃんが謝って……私にだって非はあるよ…」
「だって!!!興味本位でやってしまったことなのよっ!?それが許されると思って……っ!」
永陽は、幽霊だからこそ『ここに居る』と主張したかった。
『説明がしたい』だなんて都合の良すぎる押し付け。
所詮はもう、身を捨てた存在なのだから普通は他人から視られないのが当然なのだ。
それを永陽は__破ろうとした。
「黙って見て面白がってた私も悪いよ!だからそんなに自分を責めないで…?」
「そんな事言って、もしなごみちゃんが最悪死んだりしてしまったら…私達、掛ける言葉がないわよね。」
「っ!」
「……。」
衝撃的な物言いに、二人は言葉を失った。
「……今の私にはネガティブな発言しかできないようだから…少し時空を彷徨って来るわ…。」
永陽なりに『頭を冷やしてくる』と言いたかったのだろう。白いワンピースを翻すと宙に浮き、やがて藍色の粒となり、弾けて消えてしまった。
取り残された二人は最早、絶望でしかない。
「……。」
「おねえ…。」
自分の心の中で意を決した雪実は、ゆっくりと立ち上がった。
_____。
一方、なごみを連れた蒼は…勝手で申し訳ない、と心で思いながらも雪実の部屋のベッドで寝かせていた。
生気のなかった目も今では閉じられており、規則正しく寝息を立てている。
どうやら、命に別状はなかったようだ。
それだけ分かると、蒼は安堵のため息をついた。
「……言い過ぎた、訳でもないか…さっきの俺の言葉は俺自身にも同じ事を言えるんだよな……。」
また深いため息をつく、今度は落胆の意を込めたものだ。
先程のなごみの行動を止めることが出来なかった蒼は、それを妙に気にしていた。
それは多分、こういう状況になってしまったからだろう。
もしも、こんな事にはならずに今頃簡単に永陽と話せてさえいれば、何も問題はなかったのだろう。
「初めて会った時からこんなんじゃ、なあ…。」
なごみに頭が上がらない。
固く目を瞑るその少女のあどけない寝顔を見ながら、苦い憂愁を噛み締めて。
近くの棚には起きた時のために一杯の水を用意してある。
何をしているのだろうか、自分は。
勝手に彼女が起きるのを期待して、ただ待っているだけではないか。
もしも永遠に起きなかったとしたら、どうするべきだ。
頭の中で悶々と暗い考えが浮かび上がる。
ここは、変に考え込まないのが得策だろうか、いや…そうすれば脳内が自動的に『思考停止』を働かせてしまい、何も考えれなくしてしまうような気がした。
「本っ当、脳筋って言われてもおかしくないな…。」
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今蒼が出来る事は、何度考えてもそれしか無かった。
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