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「にーさま! あげぱん!!」
「……クリスタ。私にわかるように言ってくれ」
「ああ……保護者と再会できたらご褒美にあげるって、さっき話したんだ。大丈夫かな?」
兄の袖を引いて幼女がおねだりをすると、殿下が素早く解説し、ロジェが鞄から取り出す。するとセドリックは納得したようになり、すっと懐から財布を出す。
「そういうことであれば……お代はいくらでしたか?」
「ええと、それは……」
「いいよ、別に。俺が勝手に買ったんだ。よその家の子に食べ物あげるなんてちょっと無神経だったしさ」
殿下が言いよどむと、横からロジェが口を出した。セドリックは今度はロジェに目を向け、淡々と告げる。
「きみが出したのか、ロジェ=ギルマン。それならなおさら払わねば」
「あん? どういう意味だそりゃ。庶民の懐事情を察してくださってるってか?」
「別に含意なんてない。ただ、こういうことはきっちりしておきたいだけだ――」
「パンー! ねえ、パンー!!」
にらみ合い、怪しげな雰囲気になった貴族と平民だったが、幼児の催促で喧嘩の気配は霧散した。セドリックはロジェから揚げパンを受け取り、妹に与える。そして財布から硬貨を出してロジェの前に置いた。
ロジェは眉を寄せたものの、嬉しそうな顔でパンにかぶりついているクリスタを見ると毒気が抜かれたようにため息を吐き、自分の財布を取り出す。
「これだと多い。釣りだ」
せめてもの意地だったのだろうか。セドリックもそれ以上ごねることはなく、釣りといわれた分を大人しく受け取っていた。
金の足りてない庶民に分けてやるよ(笑)なんて貴族ムーブではなく、本当にただ貸し借りをきちっとしておきたいだけだったらしい。
まあ、お堅い人間であることは、きっちりボタンを留めているファッションなどからすぐにわかる。そういう性分なのだろう。
そんな堅物の彼だが、パワフルな妹には頭が上がらないらしい。
「クリスタ、急ぎすぎだ。もっと味わって食べなさ――」
「ん! にーさま!」
「いや……私はいい。というか、あのな。そんな直接食べ物を分け合うなんて、将来淑女となる人間として、はしたな――」
「ん!!!!」
「…………」
結局兄が負けた……与えられた揚げパンの隅っこをもそもそ囓っている。
なんというか、和む光景だ。少し前はカリカリしていたロジェも、すっかりにやけ顔である。
「セドリックはどんな用事で街に来たの? もう済んだ?」
静かに兄妹の微笑ましい様子を見守っていた殿下が、頃合いを見て声を上げた。妹に揚げパンを与えられてちょっと困ったように下がっていたセドリックの眉が、通常通りの形に戻る。
「自分の用事であれば、一応もう終わっていますが……」
「そっか。まだ出かけるところがあるなら、その間クリスタを見ておこうかとも思ったんだけど」
「恐れ多いです、殿下。そのような」
伯爵子息が真顔で言っている。本当ですよ。百パーセント同意ですよ。
まあそんな我々の平凡なる主張を、全部発光スマイルでなぎ倒してくるのがこの方なんですけどね。
「にーさま! クリスタ、あそこいきたい! おどーぐや!」
しかし今日は対セドリック最終兵器が他に控えていたようだ。
揚げパンを食べ終わって元気もフルチャージされた幼児が、強く自己主張する。
「道具って、魔道具店?」
「……ええ、まあ」
「それならぼくたちもちょうど見てみたい所だったんだ。案内をお願いしてもいいかな?」
わたくしやロジェ相手だったら、セドリックは断っていたかもしれない。
しかし、他ならぬ皇子殿下と、そして妹からのお願いである。
ため息を吐きつつも、彼は首を縦に振った。
「……クリスタ。私にわかるように言ってくれ」
「ああ……保護者と再会できたらご褒美にあげるって、さっき話したんだ。大丈夫かな?」
兄の袖を引いて幼女がおねだりをすると、殿下が素早く解説し、ロジェが鞄から取り出す。するとセドリックは納得したようになり、すっと懐から財布を出す。
「そういうことであれば……お代はいくらでしたか?」
「ええと、それは……」
「いいよ、別に。俺が勝手に買ったんだ。よその家の子に食べ物あげるなんてちょっと無神経だったしさ」
殿下が言いよどむと、横からロジェが口を出した。セドリックは今度はロジェに目を向け、淡々と告げる。
「きみが出したのか、ロジェ=ギルマン。それならなおさら払わねば」
「あん? どういう意味だそりゃ。庶民の懐事情を察してくださってるってか?」
「別に含意なんてない。ただ、こういうことはきっちりしておきたいだけだ――」
「パンー! ねえ、パンー!!」
にらみ合い、怪しげな雰囲気になった貴族と平民だったが、幼児の催促で喧嘩の気配は霧散した。セドリックはロジェから揚げパンを受け取り、妹に与える。そして財布から硬貨を出してロジェの前に置いた。
ロジェは眉を寄せたものの、嬉しそうな顔でパンにかぶりついているクリスタを見ると毒気が抜かれたようにため息を吐き、自分の財布を取り出す。
「これだと多い。釣りだ」
せめてもの意地だったのだろうか。セドリックもそれ以上ごねることはなく、釣りといわれた分を大人しく受け取っていた。
金の足りてない庶民に分けてやるよ(笑)なんて貴族ムーブではなく、本当にただ貸し借りをきちっとしておきたいだけだったらしい。
まあ、お堅い人間であることは、きっちりボタンを留めているファッションなどからすぐにわかる。そういう性分なのだろう。
そんな堅物の彼だが、パワフルな妹には頭が上がらないらしい。
「クリスタ、急ぎすぎだ。もっと味わって食べなさ――」
「ん! にーさま!」
「いや……私はいい。というか、あのな。そんな直接食べ物を分け合うなんて、将来淑女となる人間として、はしたな――」
「ん!!!!」
「…………」
結局兄が負けた……与えられた揚げパンの隅っこをもそもそ囓っている。
なんというか、和む光景だ。少し前はカリカリしていたロジェも、すっかりにやけ顔である。
「セドリックはどんな用事で街に来たの? もう済んだ?」
静かに兄妹の微笑ましい様子を見守っていた殿下が、頃合いを見て声を上げた。妹に揚げパンを与えられてちょっと困ったように下がっていたセドリックの眉が、通常通りの形に戻る。
「自分の用事であれば、一応もう終わっていますが……」
「そっか。まだ出かけるところがあるなら、その間クリスタを見ておこうかとも思ったんだけど」
「恐れ多いです、殿下。そのような」
伯爵子息が真顔で言っている。本当ですよ。百パーセント同意ですよ。
まあそんな我々の平凡なる主張を、全部発光スマイルでなぎ倒してくるのがこの方なんですけどね。
「にーさま! クリスタ、あそこいきたい! おどーぐや!」
しかし今日は対セドリック最終兵器が他に控えていたようだ。
揚げパンを食べ終わって元気もフルチャージされた幼児が、強く自己主張する。
「道具って、魔道具店?」
「……ええ、まあ」
「それならぼくたちもちょうど見てみたい所だったんだ。案内をお願いしてもいいかな?」
わたくしやロジェ相手だったら、セドリックは断っていたかもしれない。
しかし、他ならぬ皇子殿下と、そして妹からのお願いである。
ため息を吐きつつも、彼は首を縦に振った。
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