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後
しおりを挟む「え? あの……」
「うるさいっ! オレの気が変わらないうちに、さっさといなくなってしまえ!!」
怒鳴りつけられると思わずフラフラ新通路に行きそうになりますが、いやいや流され人生に竿を立てると誓ったでしょうと踏みとどまる。
というか、どうしたものかなこれ。今のレオナールから敵意は感じないようだけど、意図がつかみきれない。わたくしが困っていることを察することができるなら、その原因もなんとなく想像できるはずで……というか、わたくしは今日侯爵閣下に会いに来ているのですから、まあこうなっているのは閣下の不興を買ったせいというのは、誰でもすぐ思いつくはずで。
なのにあえてわたくしの手助けをしようとする? そんなことってありえる?
もだついていると相手が怒るかも、でも一歩が踏みだしきれない、と迷っていると、同い年の男の子はふーっと息を吐き出し、わたくしをじっと見つめた。
「……った」
「はい?」
「ッ――。一回しか言わないから聞いとけ。…………悪、かった」
唇を噛みしめ、叱られた子どものような表情で、ごくごく小さく……それでも彼はそう言った。
わたくしは信じられなくて瞬きするが、はっと我に返り、襟を正す。
逃げ回っているうちに随分ひどい格好になっているのだけど、それでも一応、ちゃんとしてから。
「確かに、あなたの謝罪を聞きました。レオナールさま」
許しますとまでは明言しない。でも、気持ちを受け取ったことは伝えた。
優雅にお辞儀を一つしてから、作り出された新たな道を上っていく。
――もしかしたら、侯爵閣下にお届けする一本道かもしれないし、歩いている途中に崩れて圧死とか、あるかもしれない。
でも、それで人生終わるならまあ、そこまでかなって。訳もわからない間に階段から落とされるよりはまだ、感動を信じて裏切られてからの終焉って方が納得できるかなって……そんな風に、思ったのでした。
◇◇◇
結論。レオナール氏は嘘はついていませんでした。確かに道は屋敷の外に通じていた。
「おはよう、マノン。かくれんぼは楽しかった?」
――ただ、侯爵閣下の方が一枚上手だったというか、待ち伏せされたらどうにもならないですね! 読まれていたのか、魔法を使ったせいで検知でもされたのか、それともレオナールが道を開いた場所の運が悪かったのか。
穴からひょっこり顔を出した所を、そのまま首元をつかまれて引っ張り上げられ、がっくんと首が揺れた。強い力をぎりぎりと込められて、意識が遠のきそうになる。
「本当に、きみは昔から私を困らせる女だった……優しくしてあげたいけど、忍耐の限界なんだ。一度、痛い目に遭ってもらおうかな……」
――閣下、残念なお知らせがあるのですが、母はもう死んでいて、ここにいるのは別人だし、わたくしちょっと代行しろって言われても無理ですねって返すしかない系女子なのですが――って弁明したいけど、声を出すどころか、息もできない。組み付く手を振りほどこうとしていた腕から力が抜けてだらりと落ちる。
もう駄目だ、と思ったその瞬間。
「――そこまでだ、デュジャルダン侯爵!」
天使様の声が、聞こえた気がした。
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