僕と自分と俺の日々

いしきづ川

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散髪屋にて

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筒井和也(つつい かずや)40歳は妻に言われて町の散髪屋💈にいた。

妻いわく今夜の食事会に合わせて耳までかかった伸びた髪を切って来いというものだった。
店主に案内された席に座ると今日はいつもより短髪にしてくれと注文していた。

「今夜は久し振りに友達家族と外食なんです。」
店主は愛想よく和也の話を聞いていた。
「髪の長さ横は何ミリにしますか」
店主が訪ねると
「3ミリで!刈り上げでお願いします。あとはお任せで良いようにしてもらえますか?髪型よくわかんなくて!😄やっぱり清潔感大事でしょ。ヘッドスパもつけちゃおうかな。」

店主は和也からの注文を承ると、ヘットスパの準備を鏡の前に置き、バリカンを手にもって散髪を始めた。
和也はそれに合わすように目を閉じて、散髪が終わるのを待った。和也は目を開けたときに髪型が変化しているのを見るのが嫌いではなかった。

目を閉じながら頭の中で和也は今夜の食事で会う同僚と友達の事を考えていた。
そもそも縁というのは不思議なもので、一年前にたまたま元仕事の同僚の結婚式の二次会で、二十数年ぶりに高校時代の女友達と再会。
同僚の奥さんと言うのが、なんとその彼女というわけで。
その上、和也の妻もその和也の女友達と同じ高校で彼女を知っていた。
その同僚が今回、和也と同じ町に引っ越してくることになった。
そして引っ越しから一ヶ月たったゴールデンウィーク前の週末に、その夫婦同士で外食をすることになり、これが今回散髪に行く事になった経緯というわけだった。

散髪が終わると店主が声をかけてくれた。そして手持ち鏡で後頭部を写してくれた。

「後ろはこんな感じでいかがですか?」
和也はその鏡をみて驚いた。髪型よりも頭部の他の部分に目がいった。
『えっマジ?頭に肉付いてる。太ってる?』
心のなかで呟いたが、口から出た言葉は
「ありがとうごさいます。大丈夫です。」

そして前を向いて目の前の鏡をみた。髪型短くなってる事で顔が大きく見えてしかたなった。
『ええ~、ヤバイな俺』
和也はゆっくりと顔を左右に向けて自分の首を探したがそこにハッキリとした首との境界線はなかった。

店主は淡々と顔剃りとヘッドスパを進めていくが、和也の頭の中は先程の気付きから散髪どころではなかった。

『今日久々に食事会やけど、絶対太ったと思われるやん。ええ~( ̄▽ ̄;)』

帰って妻にその話をすると

「えっ!今更なにいってんの?」

現実を受け入れられない和也は薄~く、これからダイエットする事を決意した。

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