僕と自分と俺の日々

いしきづ川

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ウォーキング

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スポーツの秋、夜も涼しくなっていた。筒井和也は夕食後に近所にある川の土手を肩に反射安全ベルトかけて歩いていた。この道は車と歩道が分けてあり、夜のウォーキングにはもってこいのエリアだった。
和也は少し前に散髪屋で太ってる事に気がついてから、余裕のある時は歩くことにしていた。
『5年前は走ってたんだけどな~。』

 この道を知ったのはマイホームを建てる事になった5年前の春。住宅ローンを組むときに提出した健康診断書見た当時の保険担当者から団信(団体信用生命保険)に普通の金額で入れる健康状態ではないと言われた事が始まりだった。

※ ※ ※ ※

「筒井様。大変申し上げにくいのですが、拝見させて戴いた健康診断書をみると、「E」判定が多く以前にご提示させていただいた金額での保険契約は難しく、割高の契約となります。」
「えっ、高くなるんですか?」
「残念ながら、そうなります。奥様の名前だけで住宅ローンを組まれる場合は、先日のご提示した保険割合で可能なのですが…」

それを聞いた妻が和也をなだめるように

「家の財布は一緒なんだし私が住宅ローンを組もうか?」

妻の提案を受け入れる柔軟さは和也にはなかった。和也は自分が住宅ローンを組む事が正解なのだと、この時は思っていた。

「いや、いいよ。君だけで組まなくて大丈夫。」
和也は妻にそう答えると保険の担当者へ向き直り
「これって健診の結果が良くなれば保険割合が安い方で契約出来るんですよね?」
保険の担当者は健康診断書を和也へ返却をした。
「はい、その通りです。」
和也は続けて確認をした。
「住宅ローンは秋に契約するし、今日契約しなくても大丈夫ですよね?」
「はい、秋までご検討を戴ければと思います。」

保険の担当者は急がず、秋に結論を出しても問題ないと和也たちに伝えてきた。
「分かりました。私の会社は次の健診が秋にあります。9月だったかな。その健診結果で再度判断してもらっても大丈夫ですか?」
「そうですね。その時の健康診断書で判断は可能だと思います。」

和也の妻が不思議そうな顔で和也に尋ねた。
「どうしたの?なにかしようとしてるの?」
和也は出来ることはやりたいと思っていた。
「多分だけど、なんとかしようとおもう。痩せたら体調改善されるところもあるやろ。ずっと、動いてなかったからね。ちょっと仕上げてみるわ。」

妻は和也が何をしようとしているか理解できたが、ホントにやるのか分からなかった。
「そうなの?高い方で保険に入ったらいいんじゃない?」
「まぁ、秋まであるし、やれることをやってみるよ。お金かかってるから頑張れるはず。」
和也の意思が強かったことは後に結果としてでる事になった。

そこから半年かけて結婚してからずっと続く幸せ太りと闘い、見事に仕上げて痩せてみせた。健診結果も「B」判定となり団体信用生命保険は安い方で入ることが出来た。当時、健診結果をみた保険の担当者は久し振りにみた和也の姿を見て驚いた。

「凄いですね。まさか本当に仕上げてこられるとは、これなら今回だけになりますが審査にギリギリ通ると思います。素晴らしい。」
和也は保険の担当者の驚いている姿が予想通りなものだったので満足だった。
「いやいや、僕も驚いてます。いいランニングコース見つけたんですよ。」

※ ※ ※ ※ 

歩きながら5年前の回想していた和也は今の自分の身体を見て

『いつの間にか最強のリバウンド王(自分)を生み出してしまってた。強ぇ~(-_-;)』

和也のウォーキングは今夜も続く。
そんな時に曇り空から水滴がポツッと頬に落ちてきた。
『あっ、雨?』
和也は最強の自分との話し合いに入った。
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