Terminal~予習組の異世界召喚

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ep17.勇者

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 俺とアマリナと藤也の三人は、隣の国に行くため黒竜の山を避け、森を抜けるコースを歩いていた。
  右腕を負傷している藤也に代わって荷物を持ってやる事にしているが、基本的にアマリナが苦手な俺は、会話に詰まっていた。
  何日か野宿もしているため業務的な会話はするものの、基本的に会話はない。

  だがそんな生活も後一日と言ったところか。アマリナの話では目的の国に辿りつくのは、後少しだと言う。何度か魔物や野生動物に襲われるが、俺はもちろんのこと、アマリナも撃退してくれた。
  アマリナも風魔法を使うらしく威力は風刃の比ではなかった。そして、接近戦もアマリナがつけている籠手の力かは謎だが、怪物じみた膂力で相手を握りつぶす。勇者ではないと聞いていたが、俺が知る居世界の人間の中では聖女ヴァルハラのに続いて強者だった。勇者である藤也より遥かに強いだろう。戦闘となればエノクとしての俺では勝てない。
  まぁ隣の国に行けば、別れるのだから戦う事もないだろう。  

 「あのさ、アマリナさん」

  俺とアマリナがあまり仲が良くない事を知っている藤也が、気まずそうに彼女に話しかける。それでいい。この空気はお前がどうにかしてくれ。俺は荷物持ちとして頑張るから。

 「……どうした藤也」
 「いや、なんか。空が」

  藤也がアマリナと俺を見た後、空を見上げる。俺とアマリナもつられて空を見上げれば、確かに俺達の行く先の空が荒れていた。黒雲が膨れ上がり、雷がゴロゴロと鳴り始める。
  まるでこの先に不幸が待っているかのような予感がする。
  そして、それは予感ではなく現実となった。

ドゴォオンン
「うわ」
 「っ」
 「……」

  黒雲から雷が俺たちその傍に立っていた大木に落ちる。間近に雷が落ちた事で藤也が驚いてすくみ上がった。けれど、俺は雷に乗じて急接近した二つの影を見て、腰に挿してあったナイフを構える。
  同じくアマリナも戦闘態勢に入って風の魔法を起動する。直ぐにでも攻撃できる姿勢を取った俺達の前に現れたのは二人の男女だった。

  みる限りハ虫類系の素材で出来た鱗鎧を装備した茶髪の細身な高校生くらいの男。手に巨大なハンマーを持ってこっちを挑発的な目で見てくる。。
その相方らしき長い金髪を腰まで垂らした、白い羽が散りばめられた鎧を身に纏った女。腰に青く煌めく槍を装備して殺気を放ってくる。
  正体不明だが俺達に接近した速度や、隠す気もないほど強力な魔力からして、勇者と断定する。顔も何処か日本人だしな。だが問題は勇者二人が居る事ではなく、俺達の前に現れた理由だ。

  硬直状態を先に破ったのはアマリナだった。

 「……何の用だアカネ」
 「お久しぶりねアマリナ。何よその目は」

  槍を持った女の名前をアマリナが呼ぶ。それに答えた女は、背中の槍を手に取りながら、話しかける。どうやら二人は知り合いのようだな。だがアマリナの警戒のし方から、良い関係じゃないことは明白。
  そして奴の名前だがアカネと呼んだか。アカネ、あかね、茜か朱音。勇者確定とみていいだろうか。明らかに日本人だな。俺のクラスにはいなかったはずだから、別の国の召喚に巻き込まれたか、何かだろう。ならこっちを見て黙っているハンマー男も勇者で確定。

 「お前の経歴を知っていて、私が歓迎するとでも思ったか勇者殺し」
 「あら、人聞きの悪い。私は他国の兵士を血祭りに上げただけよ。何の問題もない」
 「勇者、殺し?」

 藤也がアマリナの会話に口を挟む。女は藤也の顔を見てクスクスと笑い、続ける。

 「確かに私は、敵国の勇者ばかりを狙って殺してるわ。けど召喚国の敵を殺すのはある意味当然じゃない」
 「それだけならな。だがお前は自国のギルドメンバーの勇者ですら小競り合いの末に殺している。意図的と捉えられても仕方ないだろう」

アマリナの声に怒気が籠る。そして話を聞いている限り女は、勇者でありながら勇者を狩る事を生業としているらしい。
となれば、奴等の狙いは一目瞭然。

 「……そうね。うんそう。私は勇者を殺すことが目的。だから、貴方には悪いんだけど、彼を渡してくれない?
 育ってない勇者なんて、最高の獲物だもの」
 「渡すと思うのか?」
 「昔の貴方なら渡すわね。一人が大好きだもんね。……けれど余程気に入ってるのか今は渡さないのね。殺意全開で向き合われちゃ、手荒に行くしかないわ」
 「あ、アマリナさん」

 藤也も自分が狙われているとわかって警戒。右腕が使えないため左腕で予備の剣に手を掛ける。だが藤也では、確実に勝てない。
 俺の見立てでも無理だ。アマリナであっても二人相手は自殺と見て良い。そこに足手まとい二人(全力を出さない俺と負傷した藤也)。

 詰んだか。

 勇者狩り相手にこれは不味い。俺は巻き込まれた感じだから、逃がしてもらえないだろうか。藤也には悪いが、俺の秘密とお前の命なら、お前を捨てる。
 仮に戦闘になれば、アマリナと藤也が死んだ後にしか、俺は戦えない。俺は間違えてはいけない。俺の正体は椿の安全に関係する事を。
 故に俺の力は、使うべき時しか使ってはいけない。
この二人にも義理はある。だが椿の身の安全を秤に掛ければ傾くのは椿の方にだ。
 現に勇者狩りなんて奴等がいることがわかった以上、迂闊に力を見せるわけにはいかない。

 「藤也、エノク。決して戦おうとするな。逃げる事だけを考えろ」
 「そんな」

  アマリナにも余裕は一切見えない。そんな俺達の様子を静観していたハンマー男が腰を曲げて、突進の構えを取る。どうやら我慢の限界が来たのかバチバチと魔力が電撃へ変わり、攻撃の動作を取っている事がわかる。

 「ごちゃごちゃ長げ~よ。お前らは全員此処で俺らの経験値になればいいんだよォオオ!!」
 「風刃」

  突然電撃を纏いながら突進してきたハンマー男に合わせて、風刃を起動。突風を起こして周囲の地面から葉っぱや土を持ちあげて目くらましをする。
  ハンマー男は、土埃に目をやられたのか立ち止まる。

 「散会!」

  アマリナが俺の作った隙を見て叫ぶ。元々そのつもりだったので俺は風刃で追い風を起こしながら、距離を取るために走りだす。藤也とアマリナもそれぞれ別方向に走り出した。
  敵は2人だから3人で別々の方向に逃げるのはセオリーだ。運が悪くても最悪一人は助かる。だが2人は死ぬ可能性が高い。
  それは理解していたが、俺は運が悪いらしい。

  全力で走りながら、距離を取ったと思った時、背後から人の気配がして振り返る。

 「ふ~ん。結構足が速いのねイケメン君」
 「ちっ」

 俺の背後には、手に槍を構えた女勇者が迫っていた。そいつは、俺の目を狙って槍をつき出してくる。

 咄嗟に横に飛んで回避するが、槍で頬を切り裂かれる。

 「避けたんだ。君は素人だって聞いていたんだけど?」
 「--誰にだ」

 横に飛んで、距離を取った俺は頬の血を拭う。それにしても3分の1を引いてしまうとはな。
 一番避けたかった奴が俺の目の前にいる。
 先程のハンマー男だけでも藤也の5倍は強い見立てだ。勇者であることを考慮しても明らかに異質の強さ。正直アマリナで互角かどうかだな。相性によって変化するだろう。
だが今目の前にいる女は……藤也の50倍は強い。

 魔力量もそうだが持っている槍から迸る魔力は危険だ。それに身のこなしに隙がなく、動きも速い。
 間違いなく、歴戦の勇者だな。

 「途中で寄ったギルドよ。色々聞かせて貰ったわ。受付嬢の子からイケメンだって聞いてたから楽しみにしてたの」
 「イケメン……ね。素直に受け取っておこうかな」

 俺が女の軽口に付き合い、少しづつ後ろに下がると女は俺を見て言った。

 「けどビックリね。


まさか勇者がもう一人アマリナの側に居たなんて」

その言葉を聞いて、俺の警戒レベルはMAXに上がる。俺は女を睨み付けながら、「何のことだ」と白を切る。何故そんな発言になったかわからない。
アマリナならまだしも、女には俺は風刃しか見せていない。なのにどうして俺=勇者と推測できた?

 「貴方はステータス系の勇者じゃないみたいね。可愛そうだから教えてあげる。
 勇者にも種類があるのよ。勇者が魔法を持っているのは共通だけど、私やカズヤはステータスとレベルが適用された勇者なのよ」

ステータスやレベルだと。ゲームの話か?

「召喚前の世界に関係するのか、別の要因か不明だけどね。私は自分や見た相手のステータスやレベルを確認するスキルを標準装備してる」

スキルっていうのは、魔法とは別の能力か。俺の知識通りならスキルは、ゲームのスキルだと思って良いか。
となると確かに俺や椿とは別種類の勇者ということか。確かにその可能性もあるだろう。
 同じ世界に召喚された勇者とはいえ、召喚前の世界がバラバラなら、同じ法則だけの筈がない。もとの世界から持参した技術や能力があっても不思議ではない。

 故に奴は、ステータスとレベルという概念を持ってターミナルに召喚された勇者なんだろうか。

 「ステータスの概念を持ってない割には、貴方は上手く隠蔽してるわね。私が鑑定スキルを持っていなかったら見逃してた」

 鑑定スキルか。椿が警戒していた魔法といった所か。だが椿が対策として風刃をくれたんだ。俺の魔力や素性を隠蔽するために。
となると奴の鑑定スキルが椿の隠蔽を上回ったと言うことか。

 「名前もステータスも一般人の枠を出てないけれど、その武器の名前も隠さないと丸ばれよアハハ」

 女はクスクスお腹を抱えて笑う。風刃の名前だ? どういうことだ。奴には何が見えている。漢字にしたのが不味かったのだろうか。
いや、そんな馬鹿な理由で見破られたなんて、認めたくないな。

 「困惑してるわね。読んであげるわ…風刃なんか認めないからな馬鹿虎! 私が作ったんだから命名権は私にあるんだ、だからこれはゼピュロスウィンドスーパーアルティメットセーフティブレードだ。 だそうよ。アハハ、ばっかみたいな名前、イヒヒヒ」

 一つ言わせてくれ。椿……後で泣かす。
だが目の前で爆笑している女を先にどうするかだな。椿は泣かすとして、どう切り抜けるべきか。
 椿は泣かすとして。

 「へ、へぇ。この武器そんな名前だったんだな。……拾った武器だから知らなかったよ」

 白を切る。俺は関係ない。
 頼むからそう言うことにして流してくれ。

 「惚けたってダメよ」

 神は居ない。椿は泣かす。

 「それとさっきから携帯が点滅してるけど?」

 女の言葉を聞いてポケットを確認する。だが俺はそこで気がついた。

 「ほら、勇者じゃない。あなたの世界にスマホの文化があるかはわからなかったけれど、引っ掛かったわね。ターミナルの人間が携帯持ってるわけないでしょ」

 嵌められた。ついくせでポケットを見たが、奴の言うとおり。この世界で携帯を確認する奴は、勇者と見て間違いない。
 厄介な奴だな。実力もある上に、勇者を探しなれてる。

 「わかったよ。認める。だが俺からも質問だ」
 「え、何かな?」

 槍を構えながら女は、俺の質問を待つ。見る限り、俺への返答と同時に向かってくるんだろうな。

 「あのハンマーも俺が勇者だって知ってるのか?」
 「ふふ、知らないわよ!」

 超スピードで女が動き、矛先が俺の心臓目掛けて突き出される。音すら置き去りにした一撃は、女の不適な笑みとともに俺へと届いた。 
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