Terminal~予習組の異世界召喚

文字の大きさ
9 / 25

ep8.その名はガリュウ

しおりを挟む

「逃げ切れると思うか。構築魔法・白亜の城」
「本気かよお前!」

 椿は、自分の足場と上級に100以上の白い魔法陣が展開される。それらは攻撃用ではない制御用、増設用、防御用と一人で魔法による要塞を構築するタイプの魔法。なんでも魔法の種類が多すぎるため、大技には名前を着けて、イメージを掴みやすくしているとか。
 だが、仮にも彼氏に本気の魔法を使うか。面白いには面白いが、こっちも本気にならないと死ぬ。俺も怒魔法の力を強め、全身から迸らせる。来るなら来ればいい、全力で相手するのみ。完全に制御された砲撃が、屈折しながら俺に向かって発射される。


「マニャとパニャ、すご」
【儂を忘れておるのか……おい小娘、儂の鼻の上で跳びはねるな】

 少し熱中しながら椿の魔法を殴っていると、ミーニャの声と呆れるような竜の声に目を向ける。その先では、拘束された竜の鼻の上で興奮してピョンピョンしているミーニャが居た。それは椿も砲撃を止めて、見ていた。
 ヤバい。

「ミーニャ! 卑怯だぞドラゴン」
【儂は、こんな馬鹿に捕まっておるのか……】
「ヘビしゃん。いたい?」
【……痛くはないが、なんというかな】

人質を取られたと嘆く椿。それを見て竜が呆れている。人が興奮してる姿を見て俺も少し冷静になり始める。何と言うか俺と椿のせいで、周囲の環境が滅茶苦茶だ。頭は冷えると、怒魔法も完全に消失して、しまった。

「椿落ち付け。お前が拘束しているからミーニャ無事だって」
「あ、そうか」

 ポンっと掌に拳を置いて納得する。一方で竜は、呆れているのか身動き一つせず、ジト目で椿と俺を見ている。

【馬鹿は終わったのか? なれば、止めを刺すがいい】

 そういって、目を瞑る竜。どうやら戦う気もそがれ、拘束された事で諦めたらしい。どう考えても余力は残っていそうだが、大人しい。ミーニャを鼻の上に乗せて、戦闘も無いなとは思うが。

 俺と椿は、互いに顔をお見合わせながら頷く。そして椿が指を弾いた瞬間、白い鎖と断頭台は、煙のように霧散したのだった。

―――――――
 それから互いに戦意喪失した俺たちは、恐る恐る一応自己紹介することにした。相手は竜といえ知性を持つ存在。会話は十分可能だった。

【なるほどな。お前達を召喚した国とは、争った事があるぞ。確かに勇者を傀儡としておったな】
「やっぱりか」

 俺たちは名前と素性を明かした。この世界を恨んでいる事、椿や俺の家族を見つけ出す目的。これまでの経緯を喋れば、竜は納得していた。人間側ではない視点からすれば、俺達を召喚した国は非人道的な場所らしい。
 そしてこちらの素性を明かした後、竜は自分の素性を明かした。

【お前達が名乗ったのなら、我も名乗ろう。我が名はガリュウ。誇り高き黒竜にして、今は亡き盟友、竜魔王アズトロの配下だった】

 目の前の巨大な黒竜。名をガリュウ。200年前まで存在した強大な魔王、竜魔王アズトロの部下であり魔王軍の将軍だったらしい。人間達を蹂躙し、魔物達を蹴散らす伝説にもなった竜らしい。だが200年前に勇者ではないターミナル出身の青年、後に英雄ガイザレスと呼ばれる男に敗北した。
 ガイザレスと戦い竜魔王は、死亡。ガリュウもその時の戦いで致命傷を負い撤退を余儀なくされた。そして竜魔王の国は人間に滅ぼされた。
 それからガリュウは、世界を転々としながら傷を癒しガイザレスへの復讐を狙っていた。だが人間の寿命は短くガイザレスはいつの間にか死んでおり、国も目的も失った彼はこの火山で静かに眠るだけの生活を送っていた。この火山は魔物が少なく、主を殺した事でガリュウのテリトリーとなった。
 既に50年以上住みついているため、魔物ですら警戒して近寄らない場所となる。さらに人間の国の国境にあるため、ガリュウを暴れさせない不干渉条約が敷かれているらしい。ただ、稀に召喚される勇者達は彼を狙って現れる。それを暇つぶしにしていたという。

本来勇者の召喚は200年周期が理想だが、勇者の召喚事態は小規模ながら行われ続けており、大規模な勇者召喚でないイレギュラーな召喚で呼ばれた奴らは、ガリュウを中ボスくらいに感じて挑んだんだろう。意気揚々と勇者の村を飛び出して出会ったのが魔王の直属の配下だった竜。正直言おうギャグの領域だ。
 是非ともその光景を見てみたかったものだ。

【しかし、人探しとはいうが。この世界は我から見ても広大。その世界から見つけるのは困難を極めるぞ】

 ガリュウの言うとおりだ。空を飛んで大陸を移動した俺も理解している。この広く情報が少ない世界で人探しをする無謀さを。俺だけなら既に諦めている。だが、ガリュウの言葉に反応した椿が奴の目を見つめながら指差す。

「オレは見つけるんだ。必ず」

 迷いなく宣言する椿の目は、揺らぎない太陽のような意思。しかし、その結末次第では太陽の光は全てを焼き尽くすだろう。絶望を知った時、椿がどうなるかはわからない。
 でも、俺は見届ける必要がある。願うべくは椿の願いの成就だが、俺にも結末を予想できない。

【そうか、覚悟はあるのだな。では、教えてやる。この火山を超え魔物の森を抜けた人の足で10日ほど行った所に人里がある】
「人里?」
【街と村の間といった規模だな。そこでは多くの人が行きかっている。むやみに探すよりは、手掛かりを得やすいだろう】

 ガリュウは過去に見た事のある町の方角を教えてくれる。

「マニャー!」
「おっと、どうしたのミーニャ?」
「むー」

 ガリュウの巨体を利用した滑り台で遊んでいたミーニャが頬を膨らませ尻尾を左右に振りながら椿に駆け寄る。そして心配する椿の手を尻尾で掴むとガリュウの尻尾を登っていく。

 見た限り一人で遊ぶのに飽きて、椿を呼びに来たようだ。

 丁度いいので人里の情報を聞き俺の中で今後の予定が出来始める。それにはまず下準備が必要なため、ガリュウに相談を持ちかける。

「そうだな街に行ってみようと思う。だがその前に聞くが、この場所は魔物や人は来ないのか?」
【7年以上訪れない。それがどうした?】 
「お前がよかったらだが、椿とミーニャをしばらくこの地域に置いていこうと思う……」   

 俺と椿は、召喚したヴァルハラではお尋ね者。この世界の情報伝達がどの程度か不明だが、椿の姿は目立つ。鮮やかな黒髪は、この世界では稀だ。異世界から召喚された勇者だというのが一目でわかってしまう。そして男女で移動する勇者となれば、情報はさらに絞れる。
 容姿からして目立つ椿が突然街に現れ、目立つ活躍なんてしたらすぐに足が付く。

「俺が斥候として街に溶け込む。それから機を見つけて街に紛れ込ませる。幸いにして俺の容姿は、この世界でも浮かないんでな」

 影虎なんて名前をしているが、俺自身は日本人の血を継いでいない。金髪に青眼な純白人の俺なら、金髪や特殊な髪色が多いこの世界に紛れやすい。日本人離れした素顔のおかげで他の勇者にもバレる事はない。だが、俺が留守の間が心配だった。
 椿は強いが、明確な弱点が存在するため、油断できない。

「お前の住処なら、余計な危険は避けられるんじゃないかと考えてな。迷惑なら別の場所に拠点を構えるつもりだが」
【構わん。だが我は関与せぬぞ】

 一応拠点を構える事に文句はないらしい。後は、椿の説得だけだな。一番厄介な事になりそうだなと当の本人を見る。膝の上にミーニャを座らせてガリュウの尻尾を滑っていた椿、その姿を見て本気でヴァルハラの聖女に喧嘩売った女と同一と思えない。
 異世界に来たはずなのに、何故子育てにせいを出しているんだろうかあいつは。ただ、本当に幸せそうに笑う姿だけは、この世界に来てよかったと思える。

 その後、火山の地形が少し変わった経緯はあるが椿の説得には成功。ある程度の準備を整え、街へと向かうことになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生女神さまは異世界に現代を持ち込みたいようです。 〜ポンコツ女神の現代布教活動〜

れおぽん
ファンタジー
いつも現代人を異世界に連れていく女神さまはついに現代の道具を直接異世界に投じて文明の発展を試みるが… 勘違いから生まれる異世界物語を毎日更新ですので隙間時間にどうぞ

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

合成師

あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...