腐男子が男しかいない異世界へ行ったら色々と大変でした

沼木ヒロ

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第四十六話

腐男子、萌える

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 朝になり、朝食を一緒に食べ終えたロタは別れの挨拶をして、騎士団本部へ帰って行った。
 今夜からロタいないんだな……少し、いや、かなり不安だけどキールもノインさんもいるしな。
 いざとなったら時間停止能力使えば良いし……
 よし、ひとまずそれは置いておいて、今日も仕事頑張ろう。

 今日は定休日前の水曜日。
 明日の定休日は毎回ノインさんが本の仕入れに行く日だが、それとは別に取次、いわゆる問屋の人が注文した本や、その日に発売になった新刊をダンボールに入れ、毎朝持ってきてくれる。
 それを受け取るのはノインさんの役目だけど、今朝は俺が代わりに受け取った。

「おはようございます! これが今日の分です……って、アレ、今日はノインさんじゃないんですね!
 はじめまして、僕はエバンっていいます。いつもお世話になってます」

 その取次の人は俺にダンボールを渡した後、丁寧な挨拶をしながらペコリとお辞儀をしてニッと笑った。
 口の両サイドからは小さな牙が見え、頭の上には大きな三角の猫耳が生えてピョコピョコ動いている。
 紺色の髪に黄色い瞳で瞳孔は縦長……
 わー、猫人族だ。初めてこんなに近くで見た。
 年も身長も俺と同じ位かなぁ。
 幼さが残る顔付きに猫耳がよく似合っていた。
 イイ、猫耳イイ! もふもふしたい、触りたい!

 俺が思わず凝視していると、エバン君は顔がみるみる赤くなっていった。

「……あのー……僕の顔に何かついてますか?」

「あ、いや、おはようございます、ノインさんは今用事で手が離せなくて……えっと、はじめまして、俺は」
「ヤマトさん、ですよね? とても可愛くて美人な店員さんだと、凄い噂になってますよ」

 どこでそんな噂になってるんだろうか。面と向かって言われると何だか恥ずかしい。
 どう返答したら良いのか考えながら、受け取ったダンボールを足元に置いていると、エバン君が俺の前にしゃがみ込み、顔をジッと見つめてきた。

「単なる噂だから、あまり気に留めてなかったんですけど……今日お会いしてビックリしました。
 こんなに可愛らしい顔立ちの方は生まれて初めて見ました……
 これからはヤマトさんに会いにお客としても伺いますね!」

 猫耳をピクピク動かしながら頬を赤らめ、再びニッと牙を光らせて笑った。

(エバン君……かっ、可愛い……!
 猫耳たまんない……尻尾、尻尾もあるのかな……もふもふさせてくれないかな)

 俺は無言でうなずきつつ、初めて近くで見る事ができた猫人族のエバン君(主に猫耳)に終始釘付け状態だった。

 その後、エバン君と別れた俺はキールと一緒に朝の掃除を終わらせ、開店までに本の品出しをしていった。
 今日は割と新刊が多めなので、さすがのキールも今日だけは俺にひっついて来ず、黙々と雑誌コーナーで品出しをしていた。ちなみに俺は文庫本、新書コーナーで品出しをした。

 次々と店のカートに乗せられている文庫本の新刊を手に取る。
 んー、本がピカピカ光ってて綺麗。やっぱ新刊っていいな。
 一冊一冊の装丁や表紙、タイトルを確認して置き場所を決める。これが結構楽しい。
 ついでに面白そうな新刊が無いかチェックもして、良さそうなのは後の休憩時間の時に忘れずに買う。
 最近ハマっているカプは不良生徒×真面目眼鏡先生とか、魔法使い×勇者とか。
 立場が上の人が受けになって下で悶える感じがまたイイんだよなぁ。
 おかげでそのカプものの本が部屋にどんどん積み本として増えていっている。
 毎日ちゃんと読んで消化していかないとな。

 色々モヤモヤ考えつつも、手だけはちゃんと動かして順調に作業を行なっていると、誰かが店の入り口の扉を激しくノックしている。
 開店までまだ一時間以上あるのに誰だ?と思い扉を開けると……突然黒フードをかぶった人に抱きつかれた。

「ヤマト! ……俺を……俺をかくまってくれ!」
「……えぇっ!?」

 聞き覚えのある声。黒フードからは見覚えのある薄紫色の髪が見えた。
 何とシリウス王子だった。
 しかも珍しい事に、周りには護衛の人が誰もおらず王子一人だけだった。

 かくまうってどういう事? こんな朝早くから、何者かに追われている?
 ノインさんに事情を説明し、とりあえず二階の一番奥の二つ目の倉庫部屋へ王子を連れて行った。

「あ、あのー、シリウス様、一体何が」

 王子は頭にかぶっていたフードをとった。綺麗な薄紫色の髪がサラサラと少し乱れる。それを手で乱暴に整えながら王子は呟いた。

「……家出してきたんだよ」

 い、家出!?
 一国の王子が家出!?

「だってさ、俺、何度も嫌だって断ったのに、無理矢理見合いさせられそうになったんだぞ!?
 しかも俺が全然知らない奴と。そんなの絶対に嫌だ」

 王子はメチャクチャ怒った顔をして、パイプ椅子に座って腕組みをしている。
 俺は入り口横の壁にもたれ、黙って話を聞いていた。

「あのまま城にいたらマズイと思って、皆が寝静まった後に部屋の窓からこっそり抜け出してきたんだよ。
 でも頼れる奴っていったらヤマト位しか思い浮かばなくて……
 馬車を乗り継いでここまで来た」

「は、はぁ……でもシリウス様が部屋にいなくて今頃大変な事になってるんじゃ」
「そーかもなー。俺兄弟いないし、大騒ぎになってるか、それとも口外しないよう全員に口止めして、一部の奴等が秘かに俺を探しているかだな……
 クソ、皆俺の気持ちも知らねークセに勝手に話を進めやがって……」

 王子は勢いよく立ち上がり、俺の方へズカズカやって来てバンッ! と大きな音を立てて壁ドンしてきた。

「という訳で、少しの間俺をここにかくまえ。これは命令だ」

 そう言いながらもう片方の手で顎クイまでかましてきた。王子をかくまうとかそんなのどうしたら……

「ヤマト、シリウス様が来たって…………えっ!?」

 キールがノックもせずいきなりドアを開け、ドアのすぐ横で壁ドンと顎クイをされている俺を見て固まった。

 俺は石の様に固まっているキールと、超ドヤ顔で俺を見つめている王子の顔を見た後、深い溜め息をついたのだった。
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