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第五十八話
腐男子、謁見する
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その日の夕方ディルトさんに本屋まで送ってもらい
「それじゃヤマト君、またね。愛してるよ」
と、おでこにキスをされディルトさんは帰って行った。
裏口から店の中に入り、螺旋階段を上がって自室へと行く。
店内は静まり帰っていて人の気配が無かった。ノインさんはまだ仕入れから戻ってきていないようだ。
部屋に入り、ベッドへ一直線に行きそのまま倒れ込んだ。
(短期間に恋人が三人もできた……元の世界だとあり得ない話だな)
横向きになり、今後の事とか色々考えているうちにウトウトし、いつの間にか夢の世界へと誘われていた。
* * * * *
次の日、いつも通りに朝食を済ませて自室で制服に着替える。
結局昨日はあのまま眠りこけてしまい、目が覚めたら朝だった。
ディルトさんと結構歩いたし、久しぶりに運動したから疲れていたようだ。
後ろ手にしてエプロンの紐を結んでいると、ドアをノックしてエプロン姿のキールが入ってきた。
「ヤマト、おはよう」
「おはよう。キール、今日は早いな」
「後ろの紐、結んであげるよ。貸して」
キールが俺の手から紐を取り、結びながら耳元に顔を近づけてきた。
「……昨日、ディルトさんと何処へ行ったの? 何もされなかった?」
心臓がドクンと鳴った。
キールに本当の事を言っていいのかな……
成り行き上とはいえ、ディルトさんと恋人関係になったなんて言っても良いんだろうか。
でもあの時はあぁする他なかったし……
無言のままどう答えたら良いか悩んでいると、キールがエプロンの肩紐をずらしてブラウスのボタンを外しだした。
「なっ……ちょ、ちょっと、やめ」
「俺の質問に答えてくれたらやめてあげる。ほら、早く答えないと全部脱がしちゃうよ」
キールに言葉攻めをされて背筋がゾクゾクとした。
ヤバイ、力じゃ絶対敵わない。キールなら全部脱がしかねないので観念して言う事にした。
「言う、言うからやめてって!」
俺は昨日あった一部始終を全て話した。
キールは俺の話が終わると手で自分の顔を覆い、大きな溜め息をついた。
「ハァ……ヤマト…………ディルトさんまで恋人になったんだ……
というか、その話の流れだとシリウス王子とも恋人……いや、結婚して王妃? になっちゃうんじゃない?
ヤマトが王妃になったら俺どうしたらいいの!? 本屋の仕事は?
ディルトさんじゃなくてヤマトが仕事辞めなくちゃいけなくなるんじゃない!?」
キールに詰め寄られ、俺は言葉を失った。
そうなのだ。ディルトさんと恋人になったという事は、シリウスとも恋人にならないといけない訳で、そうすると俺はゆくゆくは王妃に……
そうしたら今の本屋の仕事は辞めなくちゃいけなくなる?
キールとエバン君とディルトさんとはどうしていったらいい?
駄目だ、パニックになってきた。
下を向いて混乱していると、キールにギュッと抱きしめられた。
「ごめん、一気に沢山言い過ぎた。一緒にゆっくり考えていこう?
王子にも相談してみようよ」
「……うん、そうだね。今度機会があったら相談してみる……」
キールは俺の口にキスをし、部屋を出て行った。
シリウスとは次はいつ会えるんだろうか。
俺が城へ直接出向いても会って貰えるんだろうか。来週の定休日にでもシリウスに会いに行ってみようかな。
そんな事を考えてのんびり構えていたら、シリウスに会う機会が早々にやってきた。
いや、シリウスというより王様と会う事に……なった。
来週の定休日を待たずして、本屋の営業中に使いの者です、とタキシード服姿の人達に声を掛けられ、国王様の勅令でこれから謁見して頂くとかでエプロン姿のまま、有無を言わさず強制的に城へと連れて来させられた。
「こちらでお待ち下さい」
そう言われて謁見の間という部屋に入った。
俺の部屋より遥かに広く、白で統一された壁と高い天井、左右の壁に沿って並んで立っている大きな柱、白い床の中央には赤い絨毯が敷かれてあり、中にはシリウスが立っていた。
「ヤマト!! 来てくれたのか、ずっとずっとお前に会いたかったぞ」
シリウスは駆け寄り、俺をキツく抱きしめてきた。
「シリウス……く、苦しい」
「す、すまん。父上はもうすぐ来るだろうから、俺と一緒にこのまま少し待ってくれるか」
シリウスが言うには、ここは王様が訪問者と会うためだけの部屋で、王様は用が終わり次第ここに来るとの事らしい。
「それにしても、何で王様は俺に謁見とか……急すぎて何が何だか」
「そ、それは……俺のせいなんだ。
父上があまりにも見合い話を勧めてくるモンだから、俺がヤマト以外の人と結婚する気は無いと言ってしまったんだ。
そうしたら父上が、ヤマトに直接会いたい、早く顔が見たいと言い出して。
父上はまた明日から数日間他の国へと行くから今日謁見したいと……
急ですまなかったな」
シリウスは俺を抱きしめたまま呟いた。
そうだ、シリウスと二人きりの今の内に、キール達の事とか話しておいた方が良いかな。
「あのさ、シリウスーー」
俺の言葉を遮るかの様に大きな両面扉がガコンと開いた。
使用人らしき人達が扉を開け、奥から王冠をかぶった人がニコニコしながら入ってきた。
「いやぁ、悪いね待たせてしまって」
シリウスと同じ薄紫色の髪を後ろに一つに結い、頭の上にはキラキラと光る豪華な王冠が乗っていた。更に白のファーで縁取られた、足首まである長い赤いマントを羽織っている。
間違いない、この人がシリウスのお父さん……王様だ。
王様の後ろにもう一人、黒いフードを頭にすっぽりかぶった黒マント姿の男も一緒に入ってきた。
執事や使用人にしては怪しい容姿……一体あの人は何者だ?
王様と黒マントの男はツカツカと部屋の中央奥まで行き、王様は一段上がった場所に置いてある椅子へと座った。
確か本で読んだ事があるけど王様に対してはしゃがんで片膝を立てて頭を低くするのが礼儀だったよな。
俺は本の通りにしようと焦ってしゃがもうとすると、王様が
「あぁ、そんな事しなくて良いよ、楽にしてくれていい。
君がヤマト君なんだね。
私の傍に来て顔を見せてくれるかい?」
そう言われてシリウスの顔を見ると、シリウスが黙って頷いた。
俺は恐る恐る王様の傍へと歩いて行った。
「それじゃヤマト君、またね。愛してるよ」
と、おでこにキスをされディルトさんは帰って行った。
裏口から店の中に入り、螺旋階段を上がって自室へと行く。
店内は静まり帰っていて人の気配が無かった。ノインさんはまだ仕入れから戻ってきていないようだ。
部屋に入り、ベッドへ一直線に行きそのまま倒れ込んだ。
(短期間に恋人が三人もできた……元の世界だとあり得ない話だな)
横向きになり、今後の事とか色々考えているうちにウトウトし、いつの間にか夢の世界へと誘われていた。
* * * * *
次の日、いつも通りに朝食を済ませて自室で制服に着替える。
結局昨日はあのまま眠りこけてしまい、目が覚めたら朝だった。
ディルトさんと結構歩いたし、久しぶりに運動したから疲れていたようだ。
後ろ手にしてエプロンの紐を結んでいると、ドアをノックしてエプロン姿のキールが入ってきた。
「ヤマト、おはよう」
「おはよう。キール、今日は早いな」
「後ろの紐、結んであげるよ。貸して」
キールが俺の手から紐を取り、結びながら耳元に顔を近づけてきた。
「……昨日、ディルトさんと何処へ行ったの? 何もされなかった?」
心臓がドクンと鳴った。
キールに本当の事を言っていいのかな……
成り行き上とはいえ、ディルトさんと恋人関係になったなんて言っても良いんだろうか。
でもあの時はあぁする他なかったし……
無言のままどう答えたら良いか悩んでいると、キールがエプロンの肩紐をずらしてブラウスのボタンを外しだした。
「なっ……ちょ、ちょっと、やめ」
「俺の質問に答えてくれたらやめてあげる。ほら、早く答えないと全部脱がしちゃうよ」
キールに言葉攻めをされて背筋がゾクゾクとした。
ヤバイ、力じゃ絶対敵わない。キールなら全部脱がしかねないので観念して言う事にした。
「言う、言うからやめてって!」
俺は昨日あった一部始終を全て話した。
キールは俺の話が終わると手で自分の顔を覆い、大きな溜め息をついた。
「ハァ……ヤマト…………ディルトさんまで恋人になったんだ……
というか、その話の流れだとシリウス王子とも恋人……いや、結婚して王妃? になっちゃうんじゃない?
ヤマトが王妃になったら俺どうしたらいいの!? 本屋の仕事は?
ディルトさんじゃなくてヤマトが仕事辞めなくちゃいけなくなるんじゃない!?」
キールに詰め寄られ、俺は言葉を失った。
そうなのだ。ディルトさんと恋人になったという事は、シリウスとも恋人にならないといけない訳で、そうすると俺はゆくゆくは王妃に……
そうしたら今の本屋の仕事は辞めなくちゃいけなくなる?
キールとエバン君とディルトさんとはどうしていったらいい?
駄目だ、パニックになってきた。
下を向いて混乱していると、キールにギュッと抱きしめられた。
「ごめん、一気に沢山言い過ぎた。一緒にゆっくり考えていこう?
王子にも相談してみようよ」
「……うん、そうだね。今度機会があったら相談してみる……」
キールは俺の口にキスをし、部屋を出て行った。
シリウスとは次はいつ会えるんだろうか。
俺が城へ直接出向いても会って貰えるんだろうか。来週の定休日にでもシリウスに会いに行ってみようかな。
そんな事を考えてのんびり構えていたら、シリウスに会う機会が早々にやってきた。
いや、シリウスというより王様と会う事に……なった。
来週の定休日を待たずして、本屋の営業中に使いの者です、とタキシード服姿の人達に声を掛けられ、国王様の勅令でこれから謁見して頂くとかでエプロン姿のまま、有無を言わさず強制的に城へと連れて来させられた。
「こちらでお待ち下さい」
そう言われて謁見の間という部屋に入った。
俺の部屋より遥かに広く、白で統一された壁と高い天井、左右の壁に沿って並んで立っている大きな柱、白い床の中央には赤い絨毯が敷かれてあり、中にはシリウスが立っていた。
「ヤマト!! 来てくれたのか、ずっとずっとお前に会いたかったぞ」
シリウスは駆け寄り、俺をキツく抱きしめてきた。
「シリウス……く、苦しい」
「す、すまん。父上はもうすぐ来るだろうから、俺と一緒にこのまま少し待ってくれるか」
シリウスが言うには、ここは王様が訪問者と会うためだけの部屋で、王様は用が終わり次第ここに来るとの事らしい。
「それにしても、何で王様は俺に謁見とか……急すぎて何が何だか」
「そ、それは……俺のせいなんだ。
父上があまりにも見合い話を勧めてくるモンだから、俺がヤマト以外の人と結婚する気は無いと言ってしまったんだ。
そうしたら父上が、ヤマトに直接会いたい、早く顔が見たいと言い出して。
父上はまた明日から数日間他の国へと行くから今日謁見したいと……
急ですまなかったな」
シリウスは俺を抱きしめたまま呟いた。
そうだ、シリウスと二人きりの今の内に、キール達の事とか話しておいた方が良いかな。
「あのさ、シリウスーー」
俺の言葉を遮るかの様に大きな両面扉がガコンと開いた。
使用人らしき人達が扉を開け、奥から王冠をかぶった人がニコニコしながら入ってきた。
「いやぁ、悪いね待たせてしまって」
シリウスと同じ薄紫色の髪を後ろに一つに結い、頭の上にはキラキラと光る豪華な王冠が乗っていた。更に白のファーで縁取られた、足首まである長い赤いマントを羽織っている。
間違いない、この人がシリウスのお父さん……王様だ。
王様の後ろにもう一人、黒いフードを頭にすっぽりかぶった黒マント姿の男も一緒に入ってきた。
執事や使用人にしては怪しい容姿……一体あの人は何者だ?
王様と黒マントの男はツカツカと部屋の中央奥まで行き、王様は一段上がった場所に置いてある椅子へと座った。
確か本で読んだ事があるけど王様に対してはしゃがんで片膝を立てて頭を低くするのが礼儀だったよな。
俺は本の通りにしようと焦ってしゃがもうとすると、王様が
「あぁ、そんな事しなくて良いよ、楽にしてくれていい。
君がヤマト君なんだね。
私の傍に来て顔を見せてくれるかい?」
そう言われてシリウスの顔を見ると、シリウスが黙って頷いた。
俺は恐る恐る王様の傍へと歩いて行った。
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