腐男子が男しかいない異世界へ行ったら色々と大変でした

第一話

腐男子、子猫を救う

　先程隠し撮りさせて貰った店長×店員の画像をニマニマしながら見つめ（我ながら気持ち悪いと思う）、薄暗い夜道を制服姿で歩いて帰る。

（……早く帰ってあのＢＬゲームの続きしようっと）

　俺の名前は海野大和（うみのやまと）。
　成績は普通、運動神経も普通、友達もまぁまぁいる、顔立ちだけは美人の母さんに似てくれたおかげで良かった為、‪嬉しい事に何度かラブレターを貰った経験がある。
　どこにでもいる普通の高校一年生……
と言えれば良かったのだが、自分は周囲の誰にも言えない秘密事がある。
　先程も述べた通り自分は男だがＢＬボーイズラブ作品が好きな腐っている男子、通称腐男子なのだ。

　ＢＬモノにハマったきっかけは中学の時。
　隣の席の女子が「この受けの男の子、大和君に似てるよね！」と鼻息荒く見せてきたＢＬ漫画だった。
　学生服姿の美麗な男子二人が濃厚なキスを何度もしているシーンのページを突然見せられ、俺は思わず飲んでいたコーヒー牛乳をブッと噴いてしまった。
　その様子を見ていた他の女子が「ちょっと、大和君ドン引きしてるでしょ！　似てるからってそんなページ見せちゃ駄目だよ！」とＢＬ漫画を奪い去っていった。

　しかし、俺はドン引きしたのではなく美麗な男子達のキスシーンに見惚れてしまっていたのだった。
　それまで友情、戦いの王道少年漫画しか知らなかった俺は、世の中にこんな素敵なジャンルのものが存在していたのかと心ときめき、あの禁断のキスシーンが脳裏に焼き付いて離れなかった。

　それからというもの、親と友達には内緒でＢＬ漫画や小説、ＣＤ、ゲームをネットで買い漁り（良い時代になったなぁ）自宅でコッソリ楽しんだ。
　ＢＬでしか描けない心の葛藤や人物の関係性が他には無い魅力となり、ズブズブとハマっていったのだった。
　更には通学途中などにＢＬっぽい男子達を見つけてはコッソリスマホで撮影し、一人でニマニマ眺める非常に痛い日々を送って現在に至る、という訳だ。

　ちなみに男がＢＬモノ好き、と聞くと誤解を受けそうなのだが、俺の場合は自分自身が男と付き合ったりキスしたり掘ったり掘られたりしたい訳ではない。
　例えば男２人がじゃれあっていたら即座に頭の中で攻め×受け設定しそっと柱の陰から覗いてニマニマしたいだけなのだ。
　ＢＬ当事者ではなく、外野で見守りたい。
　そんな感じ。

　更に言うとＢＬの漫画や小説、ＣＤ、１８禁ゲームに至るまで（俺が高校生だという事はひとまず置いておいて欲しい)色々嗜んで興奮で胸は熱くなるのだが俺の下半身は熱くならず反応した事が無い。
　しかし女性の裸には反応するのでやはり自分の性的な対象は女性のようだ。
　まぁ中学からこんな趣味なので年齢＝彼女いない歴の立派な童貞なんだけどね……
　ラブレターをくれた女子達、本当にごめんなさい。
　今は女子との恋愛よりＢＬ趣味の方が楽しいんだ。
　いつか将来的にはこの趣味を理解してくれる心の広い、優しくて綺麗な彼女ができたら良いな。

　そんな夢見たいな事を願いつつ、ボーッと歩いていると道路のど真ん中に白い子猫が立ち止まっているのを見つけた。
　そんな所にいると危ないぞ、と思っていたら大型トラックがクラクションを鳴らしながら猛スピードで子猫の方へ向かってきていた。

『危ないっ!!』

　言葉より先に体が子猫の方へ動いていた。
　子猫を掴んで道路の端の草むらの方へ優しくすくい投げた。
　次の瞬間、鈍い音がし、俺は宙を舞って地面へと叩きつけられた。

　あーー……俺トラックにはねられちゃった……

　視界はぼやけ、周囲の音が聞き取り辛い、声も出ない、全身が物凄い痛い、動かない。
　口や鼻、耳から血かな……何かが出ているのが分かる。

（俺、このまま死ぬのかな……）

　ふと、部屋にある大量のＢＬ本とかゲーム、パソコンの中身の事が頭をよぎる。
　ヤバイ、アレ親に見られるのかな……
　特にパソコンの中に保存している俺のＢＬ盗撮コレクションだけはかなりヤバイ。
　死ぬ前に全て削除したかった。
　変な趣味をもってしまった残念な息子でごめんよ、母さん、父さん。

　うつ伏せで倒れ、息も絶え絶えで色々考えてた俺の顔の横に何かが近寄ってきた。
　さっき助けた子猫のようだった。
　子猫が鳴いているみたいだが俺は耳がもう聞こえなかった。
　視界もさっきよりぼやけてきた。
　いよいよヤバイのかな。

　ってか死んだらどうなるんだろ。
　天国って本当にあるのかな。
　ラノベとかでよくある異世界転移しないかな……

　そう願っているうちにゆっくりと意識が遠のいていった。