1 / 168
序章
洗礼
しおりを挟む
色とりどりのステンドグラスを通して、朝日が入ってくる。その光は様々な色に反射し、教会の中を神秘的に映している。ふと、頭に液体がかかった。
(・・・・っ!)
服の襟から水が入りぞぞっと震えるのを必死にこらえる。
=これであなたは清められた=
大教会の牧師様の仰々しい言葉が頭上から降ってくる。
「汝、神の使いとして生きてゆくことを誓うか」
「「神の助けによって決意します」」
教会に、洗礼を受けた者達の誓いの声が響く。俺も自分にしか聞こえない程度の音量で誓った。
「・・決意します」
神なんかこれっぽっちも信じてないけど、と心の中で呟く。教会のパイプオルガンが賛美歌を奏で始め、賛美歌隊の少年たちが祝福の歌を歌う。
こうして、俺の牧師人生は始まることとなった。
***
青々と茂るブドウ畑と、牛の群れが延々と山を埋め尽くしている。その上には、絵の具で塗りつぶされたかのような青い空、うっすらと白い筋のような雲が広がっている。まるで絵本の中に入ってしまったかのような感覚に陥るこの景色。便利とは口が裂けても言えない田舎だが、この美しい景色を見ているとそれなりにいいところだと思えるのだった。
「・・・・ふう、洗礼も終わったし何か食べに行こうかな」
教会の門をくぐり、それらの景色を見回しながら階段を下りていく。
「やあ、君」
「?」
「そこの、銀髪の君!」
教会の長い長い説明を聞きおえ、やっと解放されたかと思ったのに今度は何だ。振り返って声の主を見る。そこには地味そうな男が立っていた。背丈は170程の細身で、このやせた土地によくいそうな、地味な顔をした男だった。自分の一回りは年上だろうその男はニコニコと友好的な雰囲気で近づいてくる。確かこの男、同じ牧師志願者だったよな、さっきの洗礼の時もいた気がする。
「共に洗礼を受けた者同士、晩食でもどうかね」
なんでほぼ初対面のお前と行かなきゃいけないんだよ。訝しげな顔で相手の顔を睨む。
「ああ、私はイワン・ジャスティナ。初めまして」
「...ルト・ハワード」
(ここで無視するのも・・・後々めんどいか)
仕方なく、差し出された手を握り返す。奴は笑顔のまま俺の手を強く握った。それからおもむろに手をぐいっと引っ張られ、もう片方の腕を腰に回される。まるでこの男に抱かれているような姿勢になった。
(?!)
一瞬ギクリとするが、背中をぽんぽんと叩かれすぐに体が離れた。なんだ、ただの挨拶か。
(・・・・どうもこの地の挨拶には慣れられない。どうして抱きつく必要がある?)
不機嫌そうにため息をついてみたら、イワンが心配そうな視線を向けてきた。
「そういえば、先ほどの洗礼の時も君は声がほとんど出ていなかったな。どこか体の調子でも?」
俺の事どんだけ見てんだよ、隣にいたわけでもあるまいし。洗礼者は他に何十人といたはず。
(はあ・・・)
昔から俺は人目を引いた。特に男に。一年のほとんどが太陽の光が届かない土地で生きる人間特有の――この白い肌、白い髪そして青い瞳。他の土地に移り住むうちに、俺はやっとこの外見がかなり目立つことに気づいた。他の奴らは日々の畑仕事のおかげでこんがりと日焼けしている。その分俺は日焼けしないから(赤くなるだけ)馬鹿にされるか、物好きに絡まれるかのどちらかだった。
・・・物好きの説明はいいだろう。きっとこのイワンという男もその分類に入るのだろうから。見ていたらわかると思う。
「ちょうどそこに宿がある、少し休憩しようではないか。ルト。」
「・・・いや、いい。問題ない」
(さっき会ったばかりの奴と宿なんて行くと思うか馬鹿が)
俺の心配、というより少しでも会話を続けたいという意図が見え見えの男に嫌気がさし、俺は背中を向け歩き出した。これ以上こんなやつに割ける時間はない。少々大人気ない態度だとはわかっているが俺のカンが間違っていなければ、奴とは関わらない方がいい。絶対めんどくさい。
「待ちなさい」
ぐいっと腕をひかれる。
(ほらな・・・・)
予想が的中した、全く嬉しくない。男を遠慮なく睨みつける。
「別に君の不利益なことは何もない、私はこの辺りを統治するジャスティナ家の人間だ。不自由はさせないし贅沢もできる。」
いやいやもう十分不自由してますから。それに、いくら見習いとは言えこれが牧師の人間のセリフとは思えない。親の金で偉い顔しやがって何が不自由はさせないだ。不満を込めて、掴んできた奴の右手を睨む。けれど男は気づいてないフリをして離そうとしない。少しずつ村人たちが足を止め、こちらを見に集まってきている。しかし何かするというわけでもなく好奇の目を向けてくるだけだ。
(ふんっ・・・どこへ行ってもそうだ)
結局は皆そうやって遠目で見てるだけ、都合よく誰かが助けにくるなんて、子供向け童話じゃあるまいし現実世界じゃありえない。
「ひとまずあそこの店で食事でもどうだね。ふむ。そんなに急いでるなら...一度だけやらしてくれれば、満足するがね?」
最後の言葉を耳打ちされ、ゾッと鳥肌が立つ。
(・・・とうとう本音が出たな)
そろそろ頭の血管がぷツンといきそうだ...いやでも俺牧師だし暴力はよくない。暴力は。
さわっ
「!!!!」
下半身を嫌な手つきで撫でられた。
(~~~っこのくそヘンタイヤロウ!!)
俺は怒りを込めて拳を振りかざした――
ドカッ
くぐもった音が教会の裏道に響いた。ゴミを漁る猫たちが驚いて去っていく。
「・・・?!」
「うう!い、痛い!!」
蹲る変態牧師男。俺は振りかざしたままの拳をゆっくりと下ろす。そして変態男の後ろに現れた背の高い茶髪男に目を向けた。その男の足が俺の代わりにこいつを懲らしめてくれたみたいだ。
「大丈夫だか?ほら、めんどいことになる前にトンズラすっべ」
独特のイントネーション。しかもかなり訛ってる。ここの村の者か?どちらにしろまた男か。俺はため息をついて、茶髪男に引っ張られるように路地を駆けだした。
(・・・・っ!)
服の襟から水が入りぞぞっと震えるのを必死にこらえる。
=これであなたは清められた=
大教会の牧師様の仰々しい言葉が頭上から降ってくる。
「汝、神の使いとして生きてゆくことを誓うか」
「「神の助けによって決意します」」
教会に、洗礼を受けた者達の誓いの声が響く。俺も自分にしか聞こえない程度の音量で誓った。
「・・決意します」
神なんかこれっぽっちも信じてないけど、と心の中で呟く。教会のパイプオルガンが賛美歌を奏で始め、賛美歌隊の少年たちが祝福の歌を歌う。
こうして、俺の牧師人生は始まることとなった。
***
青々と茂るブドウ畑と、牛の群れが延々と山を埋め尽くしている。その上には、絵の具で塗りつぶされたかのような青い空、うっすらと白い筋のような雲が広がっている。まるで絵本の中に入ってしまったかのような感覚に陥るこの景色。便利とは口が裂けても言えない田舎だが、この美しい景色を見ているとそれなりにいいところだと思えるのだった。
「・・・・ふう、洗礼も終わったし何か食べに行こうかな」
教会の門をくぐり、それらの景色を見回しながら階段を下りていく。
「やあ、君」
「?」
「そこの、銀髪の君!」
教会の長い長い説明を聞きおえ、やっと解放されたかと思ったのに今度は何だ。振り返って声の主を見る。そこには地味そうな男が立っていた。背丈は170程の細身で、このやせた土地によくいそうな、地味な顔をした男だった。自分の一回りは年上だろうその男はニコニコと友好的な雰囲気で近づいてくる。確かこの男、同じ牧師志願者だったよな、さっきの洗礼の時もいた気がする。
「共に洗礼を受けた者同士、晩食でもどうかね」
なんでほぼ初対面のお前と行かなきゃいけないんだよ。訝しげな顔で相手の顔を睨む。
「ああ、私はイワン・ジャスティナ。初めまして」
「...ルト・ハワード」
(ここで無視するのも・・・後々めんどいか)
仕方なく、差し出された手を握り返す。奴は笑顔のまま俺の手を強く握った。それからおもむろに手をぐいっと引っ張られ、もう片方の腕を腰に回される。まるでこの男に抱かれているような姿勢になった。
(?!)
一瞬ギクリとするが、背中をぽんぽんと叩かれすぐに体が離れた。なんだ、ただの挨拶か。
(・・・・どうもこの地の挨拶には慣れられない。どうして抱きつく必要がある?)
不機嫌そうにため息をついてみたら、イワンが心配そうな視線を向けてきた。
「そういえば、先ほどの洗礼の時も君は声がほとんど出ていなかったな。どこか体の調子でも?」
俺の事どんだけ見てんだよ、隣にいたわけでもあるまいし。洗礼者は他に何十人といたはず。
(はあ・・・)
昔から俺は人目を引いた。特に男に。一年のほとんどが太陽の光が届かない土地で生きる人間特有の――この白い肌、白い髪そして青い瞳。他の土地に移り住むうちに、俺はやっとこの外見がかなり目立つことに気づいた。他の奴らは日々の畑仕事のおかげでこんがりと日焼けしている。その分俺は日焼けしないから(赤くなるだけ)馬鹿にされるか、物好きに絡まれるかのどちらかだった。
・・・物好きの説明はいいだろう。きっとこのイワンという男もその分類に入るのだろうから。見ていたらわかると思う。
「ちょうどそこに宿がある、少し休憩しようではないか。ルト。」
「・・・いや、いい。問題ない」
(さっき会ったばかりの奴と宿なんて行くと思うか馬鹿が)
俺の心配、というより少しでも会話を続けたいという意図が見え見えの男に嫌気がさし、俺は背中を向け歩き出した。これ以上こんなやつに割ける時間はない。少々大人気ない態度だとはわかっているが俺のカンが間違っていなければ、奴とは関わらない方がいい。絶対めんどくさい。
「待ちなさい」
ぐいっと腕をひかれる。
(ほらな・・・・)
予想が的中した、全く嬉しくない。男を遠慮なく睨みつける。
「別に君の不利益なことは何もない、私はこの辺りを統治するジャスティナ家の人間だ。不自由はさせないし贅沢もできる。」
いやいやもう十分不自由してますから。それに、いくら見習いとは言えこれが牧師の人間のセリフとは思えない。親の金で偉い顔しやがって何が不自由はさせないだ。不満を込めて、掴んできた奴の右手を睨む。けれど男は気づいてないフリをして離そうとしない。少しずつ村人たちが足を止め、こちらを見に集まってきている。しかし何かするというわけでもなく好奇の目を向けてくるだけだ。
(ふんっ・・・どこへ行ってもそうだ)
結局は皆そうやって遠目で見てるだけ、都合よく誰かが助けにくるなんて、子供向け童話じゃあるまいし現実世界じゃありえない。
「ひとまずあそこの店で食事でもどうだね。ふむ。そんなに急いでるなら...一度だけやらしてくれれば、満足するがね?」
最後の言葉を耳打ちされ、ゾッと鳥肌が立つ。
(・・・とうとう本音が出たな)
そろそろ頭の血管がぷツンといきそうだ...いやでも俺牧師だし暴力はよくない。暴力は。
さわっ
「!!!!」
下半身を嫌な手つきで撫でられた。
(~~~っこのくそヘンタイヤロウ!!)
俺は怒りを込めて拳を振りかざした――
ドカッ
くぐもった音が教会の裏道に響いた。ゴミを漁る猫たちが驚いて去っていく。
「・・・?!」
「うう!い、痛い!!」
蹲る変態牧師男。俺は振りかざしたままの拳をゆっくりと下ろす。そして変態男の後ろに現れた背の高い茶髪男に目を向けた。その男の足が俺の代わりにこいつを懲らしめてくれたみたいだ。
「大丈夫だか?ほら、めんどいことになる前にトンズラすっべ」
独特のイントネーション。しかもかなり訛ってる。ここの村の者か?どちらにしろまた男か。俺はため息をついて、茶髪男に引っ張られるように路地を駆けだした。
40
あなたにおすすめの小説
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
余命半年の俺を、手酷く振ったはずの元カレ二人が手を組んで逃がしてくれません
ユッキー
BL
半年以内に俺は一人寂しく死ぬ。そんな未来を視た。きっと誰も悲しむ人は居ないだろう。そう思っていたから何も怖くなかった。なのにそんな俺の元に過去手酷く振り、今では世界的スターとなった元カレ二人がやってきた。彼らは全てを知っていた。俺がどうして彼らを振ったのか、そして俺の余命も。
全てを諦めた主人公と、主人公を諦めきれないイケメンサッカー選手とシンガーソングライターの再会が導く未来は?
ふたなり治験棟 企画12月31公開
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
落としたのは化粧じゃなく、みんなの心でした
444
BL
『醜い顔…汚らしい』
幼い頃、実母が病気によって早くに亡くなった数年後に新しい義母からそう言われたシリルは、その言葉が耳に残って16歳となった今も引きずっていた。
だが、義母のその言葉は真っ赤な嘘でシリルはとても美しかった。ただ前妻の息子であるシリルに嫉妬した結果こぼした八つ当たりの言葉であったのをシリルは知らずに、義母のいう醜い顔を隠すために化粧をする。
その結果、彼は化粧によって本当に醜い顔になってしまった。そんな彼が虐げられながらも徐々に周囲を絆す話
暴力表現があるところには※をつけております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる