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第十章「フラれ悪魔様の告白」
悪魔たちの集う夜
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ザッザッ
森を進んで見えてきた湖には多くの悪魔が集まっていた。
「お帰りなさいませ、悪魔王子」
「今回は時間通りですのね」
妖艶な雰囲気を漂わせて近づく露出の高い女たち。こいつらは皆悪魔の中でもかなりの上級。エリートだ。悪魔にも貴族(階級?)ってのがあるが詳しい説明は今度に。
カツン
一際美しく色っぽい女が進み出てくる。
「元気そうね、ザク」
馴れ馴れしく話しかけてきた。俺様も軽く手を振って応えた。
「おう。そっちも相変わらず暇そうだな」
「私ほどの魅力があれば獲物はいくらでも寄ってきますから。王子のようなもの好きでもありませんし?ふふ」
「けけ。まあ確かにあんたはいつも綺麗だぜ」
女性の腰を引き寄せ、額に口づけた。相手も同じように返してくる。これは悪魔同士の友愛の挨拶だ。
「叔母さん」
「おねえさんでよろしいのに。でも、王子もますますかっこよくなられて、兄が喜ぶわね」
「それはねーって」
体を離さずしばらく話してると、ふと視線を感じ振り返った。
「?」
「どうしました、王子」
「...いや」
なんか一瞬ルトの視線を感じたような…?
(いや、気のせいだよな)
今ルトたちの世界だと夜のはず(悪魔の世界と人間の世界では時間の流れが違う)。あいつのことだから普通に寝てる時間だろう。そう思ってもやはり気になって視線を感じた方を見つめてしまう。
「あ!そこにいるのは!!あの時の赤髪悪魔!!」
「うげええ!やな奴と会っちまったー!」
「...んあ?」
騒がしい方に視線を移すと、それなりに着飾った見覚えのある二匹が並んでいた。少女の悪魔と少年の悪魔。
「えっと、誰だっけか」
「サキよ!!」
「インクだ!!」
「あーうん?(覚えてない)」
「んもう!相変わらず失礼な男ね!ま、男はみんなそうだけど!」
サキが顔を真っ赤にして怒ってる。インクはそれを冷めた目で見つめて、俺様の方に視線を戻した。
「俺らは、マスター…いや、レイン様の使い魔のインキュバスとサキュバスだ。もう忘れたのかよ」
「ああ、そんなんいたな」
いつぞやのゴーストタウンで住人をゾンビ化させてたやつらだな。
(あの時の悪魔か)
腕組みしてそいつらを見下ろす。
「お前らも総会来てたんだな」
「まあね、王の命令だし」
「俺らもほんとは仕事だったんだけどさ」
「仕事...まだあのイカレ野郎に使えてるのかよ」
レインとかいうあの男。奴を思い出し嫌悪感で顔をしかめた。あの男にやられた事を、ルトにしてしまったことを思い出す。
「っ・・・」
体中の血が沸騰するような怒りが湧き上がってきた。この使い魔たちもレインに命令されてやったのだし、仕方ないともわかっている。が、やはり気持ちはそう簡単に片付けられるわけではない。俺様は無意識に指の骨をボキボキと鳴らしていた。それを見た二匹が震えながら言った。
「いっ、イカれてるけど、彼…イカしてるのよ、人間で、男の癖に」
「そうそう!なんかすげーんだ!」
「っは!馬鹿馬鹿しい。次会ったらぜってー仕留めるから覚悟しとけって言っとけ」
「そんなこと言ったら私たちが怒られるわよ!」
「じ、自分で本人に言えよな!」
同時に怯えたような声を上げる二匹。それを無視し森の中心部、湖に向かう。するとそこに立っていた悪魔たちが俺様を見て顔色を変えた。ヒソヒソと遠巻きに囁くもの。にやりと下品に笑う奴。媚びた笑みを浮かべる悪魔。全部、鬱陶しい。
(早く終わらせてルトと寝よう)
そう思いながらイライラとしてると、急に湖が揺れだした。周りの悪魔が一斉に口を閉じる。湖に映る大きな月。空には月も星もなく光蟲の灯りだけが空を彩っている。こっちの世界に月はない、湖に映る月は人間たちの世界のものだ。
「...!」
欠けた月がゆっくり満ちていき、満月になる。その瞬間、湖の中心が渦を巻いて中から何かが出てきた。
「王よ!!」
「悪魔王様!!」
「王様万歳!」
辺りの悪魔が喜びの声を上げた。歓声をあげる悪魔たちの合間から、俺様はだらだらとそれを見守ってる。
『よくぞ集まった、悪魔諸君』
低い声が湖の水面を揺らす。それに伴いビリビリと肌に感じる殺気。
(ったく、仲間相手にこんな敵意向けるなよな)
俺様はまだ立っていられるが隣のサキとインクは膝をついて苦しそうにしてる。周りの悪魔たちも同様に。そんな中、王と呼ばれた男は湖の中心からゆらりと体を起こした。悪魔たちが姿勢をただし、身構えた。王の一挙一動を見守る。
ギシギシ...
『っく...やはり駄目か』
王は上半身を起こしただけで、それ以上は動こうとしない。いや、動けないのだ。傷だらけの王の体には、銀色に光る鎖が何本も絡まっていた。鎖は湖の奥深くへと埋まっている。その鎖は昔、とある牧師につけられたのだという。そしてそれは今も人間界に繋がっているらしい。この鎖がある限り王は動けず力も使えない。悪魔の力が強まる満月の時だけこうやって、姿を表せるのみ。
「王よ、ご無理をなさらずに!」
「そうです!お体に傷が!」
王が動けば動くほど鎖が食い込んでゆく。あのバカ…もとい悪魔の帝王の自由を奪うなんてもはや呪いだろう。
(大した牧師がいたもんだ)
なんて考えてると王がこちらを向いた。
『...』
何も言わずそらされる。本当に、そこには何もなかったかのような素振りで。
「んっと、毎回毎回気の触る…」
隣の二匹が震え上がっている。きっと自分たちが睨まれたのかと思ったのだろう。少し哀れに思い二匹をそれぞれの手で撫でてやる。
ぽんぽん
「はーい、怖くねー怖くねー」
「なっなによ!!馬鹿にしてえ!」
「べっっ!別に俺ら怖くなんか!」
「そんだけ元気がありゃ心配いらねーな」
インクをポカリと殴り、サキの額にデコピンをする。それをもろにくらい、それぞれ頭を押さえる二匹。
『ワシが居ぬ間、問題はなかったか』
「は、はい!」
王の質問に側近が素早く答える。それを見た王は目を細めた。そして
ぐちゃり
『全く、報告もできぬとは』
気持ちの悪い音をたててその側近はグチョグチョの液体に変わった。王はただ目を細めただけだ。それだけで人型のしかも大人の(階級が上でかなり強い悪魔)体が吹き飛んだのだ。その事実に湖全体が静まり返る。
『湖から人間界を見ていた。少しずつ人間どもが動き出しているようだが、それを問題なしと言うとは恐れ入ったぞ』
「も、申し訳ありません!」
「私から厳しく言っておきます!」
側近第二号、三号が前に出て謝罪する。それから液体状態の側近一号を回収していく。液体の状態で保持されてるならまだ死んではいないはず。流石に仲間相手で手を抜いたのか、気まぐれだったのか。
(それとも弱っているのか、な)
『さて、顔を見せろ。我が血を分けた者共よ』
そう王が呼びかけると何人かが姿を現す。
「はい、お兄様」
『ああルカか』
先程俺様と挨拶を交わした妖艶な女性が前に出て笑った。王の顔が少し和らぐ。
『元気そうで何よりだ』
「ええ、もちろんですわ。お兄様も無理なさらないでね」
『ふむ』
「父上」
二人の会話をぬって男の声が乱入してくる。それを聞き王は振り返った。
『お前は、第三王子のアクスか』
「はい、父上」
『第二王子の遠征地である人間界への旅…どうだった』
「とても新鮮で貴重な経験を得ることができました。次は一人で行ってみようと思います」
『ふむ、第二王子に負けぬよう努力するんだな』
「はい」
王子の一人が挨拶を終えると次々と悪魔たちが名乗っていく。血縁のものから貴族のものまで。ここで支配者である王に顔を覚えておいてもらえれば、王が解放されたとき何かしら優遇されるとでも思ってるのだろう。そうやってわらわらと群がっていく様は蛆虫がたかっているようにも見えた。
「はあ、馬鹿馬鹿しいぜ」
「あんたは行かなくていーの?」
「そうだそうだ、いつも偉そうにしてるくせに実は挨拶にもいけねー低級悪魔なのかっぐええ」
「うるせえ。それはお前らだろが」
五月蝿い少年悪魔を羽交い絞めにしてやる。ジタバタと暴れるのを抑えてると少しイライラが発散できた。
「俺様は嫌われ者なんだよ」
ヘラヘラと笑いながら王と呼ばれる男を睨んだ。王がこちらに向く。自ずと王の取り巻きもこっちを見てきた。
『愚息よ、こっちへ来い』
「「え?!」」
悪魔二匹が飛び上がって俺様を見る。愚息。王の愚息ってつまり??と顔に書かれている。俺様はため息交じりに首を振った。
「いや~俺様みたいなのが近づいたら体に毒っすよ王様」
『よい』
そう言ったあとギロリと睨んでくる。二度は言わぬ、ということだろう。渋々湖の中心へと進む。悪魔たちは黙って道を譲り、俺様をただ見守っている。
(仕方ねえ)
面倒事は避けたいがここで無視する方が面倒な事になりそうだ。一歩ずつ進みすぐ目の前という位置までくると王からの威圧感をひしひしと感じた。俺様と同じ、炎のような赤い髪に、黒の混じった赤黒い瞳。体中の傷がこれまでの戦いぶりを示す。俺様が王を観察してるように、王も俺様をジロジロと見ていた。
『悪魔の中でも珍しい赤毛。これは勝利と破壊の悪魔と呼ばれ古来から神格化されてきた。ワシの生まれ変わりとも呼ばれ、力も才もあるはずのお前が、まだ、手柄の一つも立てれておらぬとは…見かけ倒しも良い所だ』
呆れたように俺様を見る。側近たちはクスクスと笑っていた。俺様の兄弟である王子たちも蔑みの目で見てくる。昔からこの外見で兄弟からは僻まれてきた。慣れてるから気にならないが。
『まだ手がかり一つつかめておらぬのか』
「まーここでアホ面見せてるってことはそういうことっすよ」
『全く、第一王子はすでに二つ開放しておるというのにお前というやつは』
王は鎖をジャラジャラと鳴らし側近の用意した椅子に腰掛けた。そう、俺様含めた王子達には王から直々にとある仕事が課せられている。
『この鎖を一つでも多く開放したものを、次の王にしよう』
そう言い、兄弟たちに鎖を解放させようとしてるのだ、この王は。俺様もその仕事の一貫としてあの街、カラドリオスに何年も滞在していたのだが。
(結果から言えば牧師に飼われて昼寝三昧の毎日)
王や兄弟が呆れるのも当然だろう。しかも、俺様はどの兄弟よりも先に派遣されてる。一番手柄を立てている第一王子よりも何年も早くから。それなのに鎖の手がかり1つ手に入れられてない。
(まあ、やる気ないから仕方ねえけど)
『こうなったら配置変えをしたほうが良いのかもしれんな』
「!!」
配置変えは困る。ルトといられなくなる。
『ほう?あの地から離れるのが嫌か』
「.....」
『ならば鎖を開放せよ。できねば新しい息子を送ることになる。礎にされる前に手柄を立てるんだな』
話は終わりだ、と手で追い払われる。再び悪魔たちがわらわらと王に近寄っていった。再びあの愚かな挨拶会が始まるのだ。それをぼーっと眺めため息をつく。
(困ったことになったな...鎖をなんとかしねーとイカレ兄弟どもがあの街に来ちまう)
カラドリオスにはルトがいる。兄弟たちが訪れればひとたまりもないだろう。しかも悪魔が出てくるということは牧師の仕事が増えるってわけだよな。
(これ以上ルトに負担かけたくねえ)
俺様が鎖を探すしかない。ルトの仕事を増やさないようにするにはそれしかない。
「ったく、めんどくせえ」
「ねえ、ちょっと」
サキがちょいちょいと手招きしている。
(っち、それどころじゃねーのに...)
「なんだよ」
「ちょっと来て」
「?」
サキに連れられ湖の端に行く。そこには座り込んだインクがいて下を向いていた。地面に波紋がゆらゆらと広がってる。
「これ、見て」
渦の中を見ると、満月に照らされた古城が映った。
「あ、これ吸血鬼野郎の城か?」
ルトがやけに気に入ってる半吸血鬼。そいつの住んでいた城だった。城の外には数え切れないほどの馬車があった。人も大勢行き交っている。満月の夜は大体の動物が活発になる。こいつらも俺様たちのように集会でもしてるのだろう。
「なんか祭りでもやってんのか。つーか、なんでこんなん見てるんだ?」
「私たち以外にもう一人使い魔がいたでしょ?無駄に派手なジャックルってやつ。あいつが今マスターの護衛をしてここにいるらしいのよ」
「へえ」
「今回は狼男たちからの依頼で」
「狼男?」
そういえばバーで狼男を見かけたっけな。あれはこの祭りに参加するためだったのか。
「ええ、どうも吸血鬼と狼男の...って!別に依頼の事はどうでもいいわ!それより見て」
渦巻く水面をちょんとつついて城の映像が消える。そしてギラギラと目に眩しい金髪の悪魔が映った。似合わないスーツを着て会場の女性を口説いて回っている。
「私たち、マスターを透視するのは禁止されてるけど使い魔同士は許されてるの。だからあっちが気になって覗いてみたら...面白いものが映ったのよ」
「...何を見たんだ?」
「...はあ、鈍いわね、あんたの大事なお姫様よ」
「!!!」
「あの子とマスターが話してるとこをジャックルを通して見てしまって...伝えようか悩んだんだけどーーっきゃ!?」
「あいつ変な事してねえだろうなあ!!」
サキの腕をつかみ引っ張る。急に怒声を浴びせられ怯えていた。
「わ、私に怒らないでよ!」
「そうだ!サキを離しやがれ!!」
インクが間に入ってくる。手を放すと、二匹は俺様から離れていき、少し離れたところからこっちを睨んできた。
「っち!こうしてる場合じゃねえ...ルトを助けに行かねえと」
「え!ち、ちょっと!マスターの邪魔はしないでよ?!」
「俺らがリークしたって怒られる!」
「知るか!ルトに手出されて「はいそうですか」ってスルーできるか!ぶっ潰す!!!」
俺様は速攻扉を作り上げ、言い終えた頃には片足を突っ込んでいた。二匹が引き止めようとするのを押しのけて飛び込む。扉が閉じ世界から遮断された。そして、またグニャグニャの世界を進み
スタッ
人間界に降り立つ。時計台で時間を確認した。12時の少し前。いつもならこの時間はルトは教会で寝てる。だが、今日はなぜか吸血鬼の城にいるらしい。
「まだ移動してねーといいけど...」
急いで俺様は吸血鬼の城に向かった。
その先にまさかあんな事が起きてるなんて…この時の俺様には知る由もなかった
森を進んで見えてきた湖には多くの悪魔が集まっていた。
「お帰りなさいませ、悪魔王子」
「今回は時間通りですのね」
妖艶な雰囲気を漂わせて近づく露出の高い女たち。こいつらは皆悪魔の中でもかなりの上級。エリートだ。悪魔にも貴族(階級?)ってのがあるが詳しい説明は今度に。
カツン
一際美しく色っぽい女が進み出てくる。
「元気そうね、ザク」
馴れ馴れしく話しかけてきた。俺様も軽く手を振って応えた。
「おう。そっちも相変わらず暇そうだな」
「私ほどの魅力があれば獲物はいくらでも寄ってきますから。王子のようなもの好きでもありませんし?ふふ」
「けけ。まあ確かにあんたはいつも綺麗だぜ」
女性の腰を引き寄せ、額に口づけた。相手も同じように返してくる。これは悪魔同士の友愛の挨拶だ。
「叔母さん」
「おねえさんでよろしいのに。でも、王子もますますかっこよくなられて、兄が喜ぶわね」
「それはねーって」
体を離さずしばらく話してると、ふと視線を感じ振り返った。
「?」
「どうしました、王子」
「...いや」
なんか一瞬ルトの視線を感じたような…?
(いや、気のせいだよな)
今ルトたちの世界だと夜のはず(悪魔の世界と人間の世界では時間の流れが違う)。あいつのことだから普通に寝てる時間だろう。そう思ってもやはり気になって視線を感じた方を見つめてしまう。
「あ!そこにいるのは!!あの時の赤髪悪魔!!」
「うげええ!やな奴と会っちまったー!」
「...んあ?」
騒がしい方に視線を移すと、それなりに着飾った見覚えのある二匹が並んでいた。少女の悪魔と少年の悪魔。
「えっと、誰だっけか」
「サキよ!!」
「インクだ!!」
「あーうん?(覚えてない)」
「んもう!相変わらず失礼な男ね!ま、男はみんなそうだけど!」
サキが顔を真っ赤にして怒ってる。インクはそれを冷めた目で見つめて、俺様の方に視線を戻した。
「俺らは、マスター…いや、レイン様の使い魔のインキュバスとサキュバスだ。もう忘れたのかよ」
「ああ、そんなんいたな」
いつぞやのゴーストタウンで住人をゾンビ化させてたやつらだな。
(あの時の悪魔か)
腕組みしてそいつらを見下ろす。
「お前らも総会来てたんだな」
「まあね、王の命令だし」
「俺らもほんとは仕事だったんだけどさ」
「仕事...まだあのイカレ野郎に使えてるのかよ」
レインとかいうあの男。奴を思い出し嫌悪感で顔をしかめた。あの男にやられた事を、ルトにしてしまったことを思い出す。
「っ・・・」
体中の血が沸騰するような怒りが湧き上がってきた。この使い魔たちもレインに命令されてやったのだし、仕方ないともわかっている。が、やはり気持ちはそう簡単に片付けられるわけではない。俺様は無意識に指の骨をボキボキと鳴らしていた。それを見た二匹が震えながら言った。
「いっ、イカれてるけど、彼…イカしてるのよ、人間で、男の癖に」
「そうそう!なんかすげーんだ!」
「っは!馬鹿馬鹿しい。次会ったらぜってー仕留めるから覚悟しとけって言っとけ」
「そんなこと言ったら私たちが怒られるわよ!」
「じ、自分で本人に言えよな!」
同時に怯えたような声を上げる二匹。それを無視し森の中心部、湖に向かう。するとそこに立っていた悪魔たちが俺様を見て顔色を変えた。ヒソヒソと遠巻きに囁くもの。にやりと下品に笑う奴。媚びた笑みを浮かべる悪魔。全部、鬱陶しい。
(早く終わらせてルトと寝よう)
そう思いながらイライラとしてると、急に湖が揺れだした。周りの悪魔が一斉に口を閉じる。湖に映る大きな月。空には月も星もなく光蟲の灯りだけが空を彩っている。こっちの世界に月はない、湖に映る月は人間たちの世界のものだ。
「...!」
欠けた月がゆっくり満ちていき、満月になる。その瞬間、湖の中心が渦を巻いて中から何かが出てきた。
「王よ!!」
「悪魔王様!!」
「王様万歳!」
辺りの悪魔が喜びの声を上げた。歓声をあげる悪魔たちの合間から、俺様はだらだらとそれを見守ってる。
『よくぞ集まった、悪魔諸君』
低い声が湖の水面を揺らす。それに伴いビリビリと肌に感じる殺気。
(ったく、仲間相手にこんな敵意向けるなよな)
俺様はまだ立っていられるが隣のサキとインクは膝をついて苦しそうにしてる。周りの悪魔たちも同様に。そんな中、王と呼ばれた男は湖の中心からゆらりと体を起こした。悪魔たちが姿勢をただし、身構えた。王の一挙一動を見守る。
ギシギシ...
『っく...やはり駄目か』
王は上半身を起こしただけで、それ以上は動こうとしない。いや、動けないのだ。傷だらけの王の体には、銀色に光る鎖が何本も絡まっていた。鎖は湖の奥深くへと埋まっている。その鎖は昔、とある牧師につけられたのだという。そしてそれは今も人間界に繋がっているらしい。この鎖がある限り王は動けず力も使えない。悪魔の力が強まる満月の時だけこうやって、姿を表せるのみ。
「王よ、ご無理をなさらずに!」
「そうです!お体に傷が!」
王が動けば動くほど鎖が食い込んでゆく。あのバカ…もとい悪魔の帝王の自由を奪うなんてもはや呪いだろう。
(大した牧師がいたもんだ)
なんて考えてると王がこちらを向いた。
『...』
何も言わずそらされる。本当に、そこには何もなかったかのような素振りで。
「んっと、毎回毎回気の触る…」
隣の二匹が震え上がっている。きっと自分たちが睨まれたのかと思ったのだろう。少し哀れに思い二匹をそれぞれの手で撫でてやる。
ぽんぽん
「はーい、怖くねー怖くねー」
「なっなによ!!馬鹿にしてえ!」
「べっっ!別に俺ら怖くなんか!」
「そんだけ元気がありゃ心配いらねーな」
インクをポカリと殴り、サキの額にデコピンをする。それをもろにくらい、それぞれ頭を押さえる二匹。
『ワシが居ぬ間、問題はなかったか』
「は、はい!」
王の質問に側近が素早く答える。それを見た王は目を細めた。そして
ぐちゃり
『全く、報告もできぬとは』
気持ちの悪い音をたててその側近はグチョグチョの液体に変わった。王はただ目を細めただけだ。それだけで人型のしかも大人の(階級が上でかなり強い悪魔)体が吹き飛んだのだ。その事実に湖全体が静まり返る。
『湖から人間界を見ていた。少しずつ人間どもが動き出しているようだが、それを問題なしと言うとは恐れ入ったぞ』
「も、申し訳ありません!」
「私から厳しく言っておきます!」
側近第二号、三号が前に出て謝罪する。それから液体状態の側近一号を回収していく。液体の状態で保持されてるならまだ死んではいないはず。流石に仲間相手で手を抜いたのか、気まぐれだったのか。
(それとも弱っているのか、な)
『さて、顔を見せろ。我が血を分けた者共よ』
そう王が呼びかけると何人かが姿を現す。
「はい、お兄様」
『ああルカか』
先程俺様と挨拶を交わした妖艶な女性が前に出て笑った。王の顔が少し和らぐ。
『元気そうで何よりだ』
「ええ、もちろんですわ。お兄様も無理なさらないでね」
『ふむ』
「父上」
二人の会話をぬって男の声が乱入してくる。それを聞き王は振り返った。
『お前は、第三王子のアクスか』
「はい、父上」
『第二王子の遠征地である人間界への旅…どうだった』
「とても新鮮で貴重な経験を得ることができました。次は一人で行ってみようと思います」
『ふむ、第二王子に負けぬよう努力するんだな』
「はい」
王子の一人が挨拶を終えると次々と悪魔たちが名乗っていく。血縁のものから貴族のものまで。ここで支配者である王に顔を覚えておいてもらえれば、王が解放されたとき何かしら優遇されるとでも思ってるのだろう。そうやってわらわらと群がっていく様は蛆虫がたかっているようにも見えた。
「はあ、馬鹿馬鹿しいぜ」
「あんたは行かなくていーの?」
「そうだそうだ、いつも偉そうにしてるくせに実は挨拶にもいけねー低級悪魔なのかっぐええ」
「うるせえ。それはお前らだろが」
五月蝿い少年悪魔を羽交い絞めにしてやる。ジタバタと暴れるのを抑えてると少しイライラが発散できた。
「俺様は嫌われ者なんだよ」
ヘラヘラと笑いながら王と呼ばれる男を睨んだ。王がこちらに向く。自ずと王の取り巻きもこっちを見てきた。
『愚息よ、こっちへ来い』
「「え?!」」
悪魔二匹が飛び上がって俺様を見る。愚息。王の愚息ってつまり??と顔に書かれている。俺様はため息交じりに首を振った。
「いや~俺様みたいなのが近づいたら体に毒っすよ王様」
『よい』
そう言ったあとギロリと睨んでくる。二度は言わぬ、ということだろう。渋々湖の中心へと進む。悪魔たちは黙って道を譲り、俺様をただ見守っている。
(仕方ねえ)
面倒事は避けたいがここで無視する方が面倒な事になりそうだ。一歩ずつ進みすぐ目の前という位置までくると王からの威圧感をひしひしと感じた。俺様と同じ、炎のような赤い髪に、黒の混じった赤黒い瞳。体中の傷がこれまでの戦いぶりを示す。俺様が王を観察してるように、王も俺様をジロジロと見ていた。
『悪魔の中でも珍しい赤毛。これは勝利と破壊の悪魔と呼ばれ古来から神格化されてきた。ワシの生まれ変わりとも呼ばれ、力も才もあるはずのお前が、まだ、手柄の一つも立てれておらぬとは…見かけ倒しも良い所だ』
呆れたように俺様を見る。側近たちはクスクスと笑っていた。俺様の兄弟である王子たちも蔑みの目で見てくる。昔からこの外見で兄弟からは僻まれてきた。慣れてるから気にならないが。
『まだ手がかり一つつかめておらぬのか』
「まーここでアホ面見せてるってことはそういうことっすよ」
『全く、第一王子はすでに二つ開放しておるというのにお前というやつは』
王は鎖をジャラジャラと鳴らし側近の用意した椅子に腰掛けた。そう、俺様含めた王子達には王から直々にとある仕事が課せられている。
『この鎖を一つでも多く開放したものを、次の王にしよう』
そう言い、兄弟たちに鎖を解放させようとしてるのだ、この王は。俺様もその仕事の一貫としてあの街、カラドリオスに何年も滞在していたのだが。
(結果から言えば牧師に飼われて昼寝三昧の毎日)
王や兄弟が呆れるのも当然だろう。しかも、俺様はどの兄弟よりも先に派遣されてる。一番手柄を立てている第一王子よりも何年も早くから。それなのに鎖の手がかり1つ手に入れられてない。
(まあ、やる気ないから仕方ねえけど)
『こうなったら配置変えをしたほうが良いのかもしれんな』
「!!」
配置変えは困る。ルトといられなくなる。
『ほう?あの地から離れるのが嫌か』
「.....」
『ならば鎖を開放せよ。できねば新しい息子を送ることになる。礎にされる前に手柄を立てるんだな』
話は終わりだ、と手で追い払われる。再び悪魔たちがわらわらと王に近寄っていった。再びあの愚かな挨拶会が始まるのだ。それをぼーっと眺めため息をつく。
(困ったことになったな...鎖をなんとかしねーとイカレ兄弟どもがあの街に来ちまう)
カラドリオスにはルトがいる。兄弟たちが訪れればひとたまりもないだろう。しかも悪魔が出てくるということは牧師の仕事が増えるってわけだよな。
(これ以上ルトに負担かけたくねえ)
俺様が鎖を探すしかない。ルトの仕事を増やさないようにするにはそれしかない。
「ったく、めんどくせえ」
「ねえ、ちょっと」
サキがちょいちょいと手招きしている。
(っち、それどころじゃねーのに...)
「なんだよ」
「ちょっと来て」
「?」
サキに連れられ湖の端に行く。そこには座り込んだインクがいて下を向いていた。地面に波紋がゆらゆらと広がってる。
「これ、見て」
渦の中を見ると、満月に照らされた古城が映った。
「あ、これ吸血鬼野郎の城か?」
ルトがやけに気に入ってる半吸血鬼。そいつの住んでいた城だった。城の外には数え切れないほどの馬車があった。人も大勢行き交っている。満月の夜は大体の動物が活発になる。こいつらも俺様たちのように集会でもしてるのだろう。
「なんか祭りでもやってんのか。つーか、なんでこんなん見てるんだ?」
「私たち以外にもう一人使い魔がいたでしょ?無駄に派手なジャックルってやつ。あいつが今マスターの護衛をしてここにいるらしいのよ」
「へえ」
「今回は狼男たちからの依頼で」
「狼男?」
そういえばバーで狼男を見かけたっけな。あれはこの祭りに参加するためだったのか。
「ええ、どうも吸血鬼と狼男の...って!別に依頼の事はどうでもいいわ!それより見て」
渦巻く水面をちょんとつついて城の映像が消える。そしてギラギラと目に眩しい金髪の悪魔が映った。似合わないスーツを着て会場の女性を口説いて回っている。
「私たち、マスターを透視するのは禁止されてるけど使い魔同士は許されてるの。だからあっちが気になって覗いてみたら...面白いものが映ったのよ」
「...何を見たんだ?」
「...はあ、鈍いわね、あんたの大事なお姫様よ」
「!!!」
「あの子とマスターが話してるとこをジャックルを通して見てしまって...伝えようか悩んだんだけどーーっきゃ!?」
「あいつ変な事してねえだろうなあ!!」
サキの腕をつかみ引っ張る。急に怒声を浴びせられ怯えていた。
「わ、私に怒らないでよ!」
「そうだ!サキを離しやがれ!!」
インクが間に入ってくる。手を放すと、二匹は俺様から離れていき、少し離れたところからこっちを睨んできた。
「っち!こうしてる場合じゃねえ...ルトを助けに行かねえと」
「え!ち、ちょっと!マスターの邪魔はしないでよ?!」
「俺らがリークしたって怒られる!」
「知るか!ルトに手出されて「はいそうですか」ってスルーできるか!ぶっ潰す!!!」
俺様は速攻扉を作り上げ、言い終えた頃には片足を突っ込んでいた。二匹が引き止めようとするのを押しのけて飛び込む。扉が閉じ世界から遮断された。そして、またグニャグニャの世界を進み
スタッ
人間界に降り立つ。時計台で時間を確認した。12時の少し前。いつもならこの時間はルトは教会で寝てる。だが、今日はなぜか吸血鬼の城にいるらしい。
「まだ移動してねーといいけど...」
急いで俺様は吸血鬼の城に向かった。
その先にまさかあんな事が起きてるなんて…この時の俺様には知る由もなかった
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〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
余命半年の俺を、手酷く振ったはずの元カレ二人が手を組んで逃がしてくれません
ユッキー
BL
半年以内に俺は一人寂しく死ぬ。そんな未来を視た。きっと誰も悲しむ人は居ないだろう。そう思っていたから何も怖くなかった。なのにそんな俺の元に過去手酷く振り、今では世界的スターとなった元カレ二人がやってきた。彼らは全てを知っていた。俺がどうして彼らを振ったのか、そして俺の余命も。
全てを諦めた主人公と、主人公を諦めきれないイケメンサッカー選手とシンガーソングライターの再会が導く未来は?
ふたなり治験棟 企画12月31公開
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
落としたのは化粧じゃなく、みんなの心でした
444
BL
『醜い顔…汚らしい』
幼い頃、実母が病気によって早くに亡くなった数年後に新しい義母からそう言われたシリルは、その言葉が耳に残って16歳となった今も引きずっていた。
だが、義母のその言葉は真っ赤な嘘でシリルはとても美しかった。ただ前妻の息子であるシリルに嫉妬した結果こぼした八つ当たりの言葉であったのをシリルは知らずに、義母のいう醜い顔を隠すために化粧をする。
その結果、彼は化粧によって本当に醜い顔になってしまった。そんな彼が虐げられながらも徐々に周囲を絆す話
暴力表現があるところには※をつけております
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