牧師に飼われた悪魔様

リナ

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第十二章「悪魔様の婚約者」

スクープ探し

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「ふあ~あ...」

 ザクが欠伸をした。その様子を俺は教会の机から眺めた。休み明けの午前中。鳥のさえずりしか聞こえない静かな教会で、俺は牧師服をまといザクは人間の姿のまま窮屈そうに教会の椅子に寝ている。

(..最近は猫の姿にならないんだな)

 悪魔をやめたからだろうか。どんな心境の変化かは知らないが少し残念だった。猫の姿可愛かったのに。昼間っから屋根の上で寝てる姿とか、草むらでうっすら目を開けて蝶を眺めてる姿とか、なんだかんだリリと遊んでやってる所も。どんどん猫ザクの姿が浮かんでくる。

 (俺って意外にザクのこと見てたんだな)

 新たな発見をしつつ、ぼーっとザクを眺めた。

「ザクのやつ、寝てるときぐらい眼帯を取ればいいのに」

 暇でやることもない。ザクの横に移動して腰掛けた。起こさないように気をつけながら眼帯に手を伸ばす。眼帯にかかる赤髪をどけて額が見えるようにする。

 (珍しく無防備…)

 眼帯をほどいて普段見れない方の瞼を撫でた。ま、夜は...取ってるんだけど。昼間の明るい時間に眼帯をとってるとちょっと新鮮な感じだ。

「...はあ」

 昼間から何を思い出してるんだか。最後に左目にキスをしようかと顔を近づける。すると

 パチリ

「っあ」
「。。。」

 前髪がかするほどの距離でザクの右目が開いた。このタイミングで起きたっぽい。すぐに体を戻そうとする。が。

 がしっ

 ぐいっと腰の後ろに腕をまわされ、身動きが取れなくなってしまう。

「えっと…ザク」
「なに、襲ってくれるんじゃねーの?」
「違う!!」
「なーんだ、待ってて損したぜ」

 そういって無理矢理キスしてきた。ちょ、ほんとにやめろ!!ていうか狸寝入りだったのかよ!性格悪いぞ!!睨みつけるとけけけと笑うザク。

「さ、続きしようぜ、牧師様」
「何言ってんだよ!昼間からそんな事するわけないだろっ」

 しかも教会の中で。不謹慎すぎる。

「あれ~?俺様はもう一度昼寝しようぜって言ったんだけどなあ~あれれ~牧師様は何を考えたのかな~?」
「な、ななな...」

 顔を真っ赤にして言葉をなくす。そして奴の頬を思いっきりつねってやった。両手で。

「いててて!!」
「変態はお前だろ馬鹿ザク!」
「けけ、怒んなよ。別に変態だからって嫌いにならねーから安心しろって、いてててて」
「もう!黙れ!」
「なんだよ~怒ってる顔も可愛いな~襲いたくなるだろ~」
「っっ死ね!!」

 自分が持ったままの眼帯を投げつける。ザクはそれをキャッチして付け直した。そして俺にキスしてくる。何故か額に。

「?」

 見上げると、優しく笑いかけられた。急にそんな顔されたら、どう反応していいかわからない。目をそらし教会の扉の方を見た。すると、俺はあることに気づく。

「―――っ?!」

 女性がこちらを見ていた。絶句。口をパクパクさせ彼女の方を見る。橙色の髪にすらっとスタイル抜群の体。二十代ぐらいで(色気が半端ないけど)白い肌は陶器のように美しい。服はあまり見かけないデザインでとても彼女ににあっていた。こんな綺麗な女性初めて見た。そんな人にザクとイチャついてるのを見られ、見られ…うわあああ(受け入れたくない)。

 (どっちにしろ黙ってたらだめだ…何か言わないと…)

「...あ、あの!」

 俺が声をかけようとするとその女性は一歩下がった。そしてぽろりと涙を流す。

「ええっ?!大丈夫ですか?」

 近寄ろうとすると全力で逃げられた。追いかけて教会の外に出たが、すでに姿はなく。俺は数秒フリーズしていたが、すぐに正気に戻った。

「ど、どどどどど、どうしよ...(色んな意味で)」
「けけ。そんな泣きそうな顔するなよ」
「誰のせいだ!」

 お前のせいで誤解されたぞ絶対。しかも教会にわざわざ訪れたということは何か困り事があったのだろう。ザクと黙り込んでると、突然何者かの声が響いた。

「ごきげんよう!二人共!」

 突然の明るい声。頭上からだった。教会の天井にナーシャさんがいた。彼女は悪魔を対象にした“情報誌”を手がけるカリスマ編集長。その背中には美しい翼がある。紫色の長い髪は飛行の邪魔なのだろう、後ろで一つに結ばれていた。

「ねえねえスクープないかしら?」

 ナーシャさんは両手の人差し指と親指を使い四角の枠を作る。その枠に入れ込むように俺たちを覗いてきた。

「うーん、何度見てもいい絵ね★」
「あの…それ、ナーシャさん…」
「おい、ナーシャぱんつ見えてんぞ」
「!!」

 俺が言いにくそうにしてるとザクが容赦なく指摘した。

「!」

 それを聞いたナーシャさんは目をぱちくりとさせたら後、下を確認した。ぎりぎりのスカートをはいた状態で天井の足場で仁王立ちしていて、その下にいる俺たち。角度的にはモロ見えである。

「...あら、失礼★」

 照れ隠しのように笑って足を閉じる。よかった、怒ってないようだ。てっきりザクの目でも潰すかと思った。ホッとした次の瞬間...ナーシャさんが視界から消えた。次に、すぐ横でものすごい音がする。

 ドゴオオン!!

 恐る恐る音のした方を見ると、地面に埋められるように踏まれているザクの姿が。もちろん踏んでいるのはナーシャさんだ。満面の笑みで狂気を感じる。

「よくも私の下着を見たわね?」
「ふがもばぶべえっ!」

 踏まれていてザクはくぐもった声しか出ない。多分「見たくてみたわけじゃねえ」と言いたいのだろう。

「いい?少しでも思い出してみなさい?脳をえぐり出して炙って食べてやるから」

 こわい。元天使とは思えない狂暴さだ。俺まで姿勢を正してしまう。

「...ま、いいわ。怪我が治ってるみたいでよかったわ」
「けっお前のせいで増えたっつの」

 ナーシャさんがどいた事でやっと話せるようになる。服についた砂を払いながら起き上がるザク。その体についたかすり傷が見る見る内に治っていく。どうやら治癒力も元に戻ったみたいだ。大怪我してからは小さな怪我でも治癒するのが遅くなっていたから心配したが。これで大体の敵なら心配要らないだろう。

「それで…ナーシャさんは何の用があってここに来たんですか?」

 俺が声をかけると、頷いてきた。

「そう、それなの」
「?」
「実は最近ネタ不足…いえ、ネタはあるのよ?でも暗い話題ばかりで。だからここで面白いネタを発掘しに来たわけ」

 そういって腰に手を置き不敵に笑う。

「だから、あなたたちに話題を提供してもらおうと思ったの。だってあなたたちって存在自体がすでに面白いじゃない?」
「ええ?面白いですかね…」
「王位継承寸前の悪魔王子が人間に恋をして国を追われる、なんてすごいスキャンダルよ?普通は転がってないレベルのネタよね!!」
「??」

 俺は意味が分からずザクの方を見た。ザクは頭をかきながらめんどくさそうに目をそらす。ちょっと前から色々隠されてる気がする。

「おい、ザク」
「わーったよ、言うよ。でも今夜な。長くなるし」
「約束だからな。すっぽかしたらもう二度と俺に触れないと思えよ」
「うげっ!わかったって…」
「ふふふ、すっかり飼い慣らされてるわねえ。本当にすごいわ。昔の王子からは想像できない変わりようね」
「そうなんですか?」

 昔のザクというのは気になる。そこで慌ててザクが間に入ってきた。

「おい昔の話なんていいだろ。面白くもねえ。それで?ナーシャは何がしたんだ?ルトや俺様にインタビューでもするつもりか?」
「それもいいけど...あなたたちを一日密着させてほしいの!」
「え」
「めんどっ」

 ナーシャさんはそこで咳払いをした。咳にあわせて大きな胸が揺れる。(あ、そういえばさっきの女性はあまり胸がなかったな...って何考えてんだか)さっきの事を思い出し気が重くなる。これからどうしよう、色々と。

「国を追い出されたとは言え、下々の者たちは気になってるはずよ。王子が今どうしてるか。どうして人間なんかに?ってね。あ、ついでに注文させてもらうと、隠し撮り形式でやらせてほしいの。撮られてると思ってる二人を撮っても面白みがないし」
「はあ?引き受けるって言ってねえのにどんどん説明しやがって。さすが鬼編、イッテえ!」
「何か言った?」

 ナーシャさんの爪がザクの額に刺さってる。なんかいつぞやも見たなこの光景。少し笑える。

「で、どうするの?あ、報酬は期待しないでね。その代わり情報を売ってあげるから」
「情報?」
「ええ、世界は今どれぐらい歪んでるのかとか。ナイトメア。悪魔界の情勢。あとはザクの昔話とかもいいわよ?情報量は自信があるの」
「質はともかくな~イテッ」
「次は口を縫い付けるからね」

 今掲示された情報はどれも魅力的だ。ナイトメアのことを知ればレインに有利なことを知れるかもしれないし、教会本部のことも聞きたいことが色々ある。単純に世界の事も気になる。

(あとやっぱり…ザクの話が聞きたい)

 そうなれば、俺の答えは一つだ。大きく頷く。

「...わかりました」
「ルトやんのかよっ?!」
「きゃ~!そう言ってくれると思ったわ!ありがとうルトちゃん!」
「でも顔とか住所は出さないでくださいね」
「もちろんよ~あなたが狙われたら嫌だもの!任せて!」
「いや、後ろ姿だけでもダメだろ!変な奴がルトに興味を持ったらどうする!」
「その時はあなたが責任をもって守ればいいじゃない。ね?ルトちゃん」
「守れるよな、ザク」
「うぐぐ...」

 顔をしかめるザク。でもそれ以上は何も言ってこなかった。OKということだろう。

「じゃあ早速だけど。さっき隠れてこの写真撮ってみたの。確認してもらってもいいかしら?」

 そう言ってナーシャさんがカメラを見せてくる。画面には俺とザクが映っていた。バッチリ、キスしてる所だった。

「!!!」
「さすがに声かけれなくて、でも写真は撮っといた★いや~でも始まっちゃうかと思ってヒヤヒヤしたわ」
「...!!」

 見られていたかと思うと死にそうだった。あの女性にも見られたし、ナーシャさんには撮られてたし、もう最悪だ。

「これは消してください」
「あらそう、残念」

 あっさり消去してくれた。もうないよな?と不安を抱えつつ他の写真も確認していく。最後の一枚に、俺の額にキスをするザクの姿があった。これはまだマシか、何て思ってたときだった。それを見たナーシャさんが息をのむ。

「どうしたんですか?」
「あ、…うん、ごめんなさいね。ちょっとびっくりしちゃっただけ」
「?」
「じゃあこれで確認は以上よ」

 そう言ってカメラを服の中に戻すナーシャさん。って、そのセクシーな服のどこに隠してるんだ。素朴な疑問が頭に浮かぶ。

「私は消えるから。あなたたちはいつもどおり過ごしてて頂戴」

 バサバサっと羽ばたいて飛んでいく。すぐにその姿は見えなくなった。ぽつーんと残される俺達。

「....」

 ちらっと横を見ると、イラついているザクがいた。どうやらまだ撮影の事、納得していないようだ。

「ザク」
「メシいってくる」

 何か言うより先に姿を消してしまうザク。どうやら俺が思ってるよりずっと怒ってるようだ。

「...はあ」

 俺もお腹すいた。でも作る気力はない。

 (仕方ない、外で済ましてしまおう)

 教会の扉に立てかけてある看板を裏返す。「外出中。御用のある方は中でお待ちください。」という面が見えるようにした。

「...よし」

 早速別行動もアレだと思うけど、ま、いいや。俺が悩むことではない。街に向けて教会を出るのだった。
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