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第十四章「海賊船と呪いの秘宝」
ルトの嫉妬
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***
「はー!すごかったね!」
アリスが頬杖をつきながら先ほどの海の生き物たちの公演を思い返している。ちなみに俺たちは今近くのカフェで昼食をとっていた。
「ルトはどれが一番好きだった?」
「えっと、アリスは?」
「んー私はね…うーん、全部!全部面白かったわ!」
「はは」
一番を聞いてるのに全部は欲張りすぎだろ、と笑った。アリスは「いいのよ!」と言って漁師さんの腕に腕を絡ませる。
「欲張りな方が幸せになれるもの♪」
「ええ、そうなのか…?」
「世界で一番幸せで、ラブラブな私が言うんだからきっとそうなのよ!」
「どんな自信だ」
漁師さんと嬉しそうに微笑み合ってるアリス。その姿を見てると、急に肩をザクに抱かれた。
「ラブラブってんなら俺様達も負けてねーと思うけど?」
「わっ…なに張り合ってんだよ!ザク!」
ザクがにやにやしながら俺の顔に近づいてきた。
「ちょっ、ちかい!」
「近づかねーとキスできねーし」
「そうじゃなくて!アリス達もいるし、というかここ外だから!テラス席だし!!!落ち着け!」
ザクの口を手で押し返す。さすがに人目を気にしてくれたのかそれ以上は押してこなかった。ほっと息をつく。
「ええ~ルトがキスするとこ初めて見れると思ったのに!」
「なっ!!」
アリスは残念顔で紅茶をすすっていた。友人がキスしてる所なんて普通はみたくないはずだが。俺の感性がおかしいのかと戸惑っているとアリスが笑いながら手を振ってきた。
「ああごめんごめん。ルトの幸せそうな所が見れそうでワクワクしただけだから」
「なんだよ…驚かせるな…」
「あはは!困らせちゃったならごめんねー?」
アリスが悪戯っぽく笑う。それからふと、アリスの目がキランと光った。
「あ、でもね!もちろん男同士ってのも気になってるからね???ねえ、ねえどっちがどっちなの?やっぱり体格的にはルトが」
「わーーーーーー!!」
(ちょっ!周りの客に聞こえたらどうすんだよ!)
アリスの言葉を慌てて遮った。俺一人が取り乱していると、ザクが「まあ座れよ」と椅子を寄せてきた。
「けけけ、それを聞いたら戻ってこれねーぞ?俺様たちのことをもうまともに見れねえかもしれねえぜ。それでも聞きたいか?俺様達の話」
「きく!!ききたい!!」
「聞くのかよ。肝すわってんなあ」
ふんふんと鼻息を荒くしてアリスはザクに顔を寄せた。ザクもザクで強気な姿勢は嫌いじゃないんだろう。逃げずに見つめている。
(ちょ!アリスと近すぎだろ!ザクのやつ!)
まさかザク、アリスのこと狙ってるのか?!と焦った。
「「ルト?」」
俺が黙り込んでいるのに疑問を覚えたのか、ザクとアリスがこちらを見て名前を呼んできた。
「おーい、ルトー」
ザクだけもう一度呼んでくる。ぷいっと顔をそらし無視した。面白くない。今の目の前の状況は全く面白くなかった。二人とも俺にとって大切な人なのにすごくもやもやする。
「…けけ」
俺の様子を見てザクが小さく笑った。
スタッ
そして急に立ち上がって俺の手を取ったと思えば、有無を言わさず引っ張ってきた。流れるままに椅子から立ち上がらされる。
「えっちょ、ザク??」
「帰るか」
「ええ?!」
どうして急に?と目で訴える。まだこれから夜ご飯食べに行く予定もあるのに(予約とかはしてないけど)。戸惑っているとザクがアリス達に声をかけた。
「わりー!俺様達、先帰るわ~」
「もう帰っちゃうの?」
「おう。なんか怪我がまだ本調子じゃねーみてーでさ。痛み出したわ」
そう言ってコートの前を開けた。Tシャツの下から包帯が見えるのでアリス達にもその怪我の重さは伝わったらしい。二人とも顔を痛々しくしかめている。本人がケロッとしてたから今の今まで気づかなかっただろう。
「そんな大怪我してたんだ…ごめんなさい、大変な時にデートになんか誘っちゃって…」
「そんな悲しそうな顔すんな、こっちも楽しめたぜ」
「!」
アリスの体をザクがぽんぽんと抱きしめた。
(!!)
それにまた俺はイラっとしてしまい、自己嫌悪する。ただの別れの挨拶なのになんて心の狭い男なんだと。
「ザク、少しあっちで休もう」
怪我が痛むといってるし休ませてやりたい。早く行こう、とザクの腕を引いた。なのにザクは動こうとしない。
ぐぐっ
俺が引っ張ってるのをわかってるはずなのに。しかも嬉しそうに俺のことを見てくるのだ。本来俺にイラついてもおかしくない状況なのに。
(なんで笑ってんだよ…)
その視線に更に戸惑う。
「ルトー!また誘うねー!!」
俺らの様子に気付くことなくアリス達は去っていった。手を繋いで帰る姿は仲良さげで微笑ましい。
「じゃ帰るか」
そう言ってやっとザクが歩き出した。痛がる様子もなくけろっとしてる。
「ちょっと、待ってザク!」
「…」
「ザク!無視するなよ!怪我が痛むって言ってたけど大丈夫なのか?教会に戻る前に少し休んだ方が…」
「けけけ。んなの嘘だっつの」
ザクはいたずらっぽく笑って、迷わず教会への道を進んでいく。本気で心配しかけていたのにと憤慨していると
「だって、あんまりにもルトが可愛いくてさ~独り占めしたくなった★」
「はああ??」
「だってルト嫉妬してただろ?」
「えっ」
「さっきアリスと話してるとき、お前すごい睨んでたぜ」
「ええっ…そんなつもりは…」
ない。睨んでたつもりはない。でも、イライラしてたから、無意識に睨んでいた可能性がある。
(アリス…マジでごめん…)
今度会うとき何か奢ろう。俺は咳払いをしてニヤニヤして見下ろしてくる男の方を見た。
「別に、嫉妬じゃないから」
「ふーん?」
「なんだよその顔!アリスは友達だし、相手もいるし…嫉妬なんてお門違いだろ」
「そうだなー?」
「~~!!もういい!帰る!」
「けけ、帰ったらたっぷり可愛がってやるから拗ねんなって」
「うるさい!!馬鹿ザク!」
夕日に染まる帰り道を、俺たちはそれなりに仲良く(?)話しながら帰ったのだった。
***
「けけけ、あのまま終わると思ったか?まだ寝かさねーぜ?」
「いや誰に話しかけてるんだよ」
ザクが窓の外に話しかけていた。もう末期かもしれない。冷たい視線を送るが全くめげてないザク。というか。
「ずっと気になってたんだけど、破片から食らった臭気は抜けたのか?」
「ん?ああ、あれな」
風呂上がりでパンツ一丁のザクが、自分の腹を撫でながら考え込む。
「あの時は腹の怪我で色々吹っ飛んだけどどうだろうな。でもとりあえず今はそんな気配はしねーな」
「なんだそれ、結局はよくわからないってことか?」
「んー消えたかはわかんねーわ。もしかしたら体に残ってるかもしれねーし。なにぶんあのクソ親父様のパワーは計り知れんから」
タオルで自分の髪を拭きつつ、色々思い出しては頭を振った。
(だめだ、考えれば考えるほど不安になってきた)
「はあ、ザクもこの十字架で浄化できたらよかったんだけどな」
「うぎゃあああそれをだすなああああ!」
今回の件で俺のものとなってしまった、いわくつきの十字架をタンスから取り出す。それが見えかけただけでザクが悲鳴を上げて窓の外に出ていってしまった。どうやら正気状態でもこの十字架は近づけないっぽい。あんな状態では臭気を浄化する前にザクが死んでしまうだろう。
=だめだ!それはだめだ!本能的に受け付けねえ!!=
「もうしまったって」
=そっそうか…ふう=
窓の外からひょっこり顔を出したザクはいつの間にか猫の姿になっていた。十字架のショックかな。どっちでもいいけど久しぶりの猫型で新鮮だった。近寄って、ひょいっと抱いてみる。
「なんか異変あったら、ちゃんと言うんだぞ」
=わーってるよ、心配性だな=
抱いたままザクの猫耳の間に顔をうずめて、すりすりと鼻をこすりつけてみた。石鹸の匂いがする猫ザクはずっと抱っこしていたくなるぐらい癒される。もちろん喋らなければ、なんだけども。
=なあなあ、ルト=
「なに」
=それじゃ頼みがあるんだが=
「うん」
猫ザクがにゃあんと甘えるように鳴きながら俺にしっぽを絡ませてくる。
=昔から言い伝えられてる悪魔独自の浄化方法があるんだ=
「えっ!ど、どうするんだ?」
=まずはそのベッドに仰向けに寝てもらってだな=
「なんでベッド…」
=うううっなんか胸が急にっ苦しくっ…!!!=
「!!わ、わかったよ、ほら!」
あまりにも苦しそうに震え出すものだから、俺は焦ったようにベッドに腰掛けた。そしてコテンと枕に頭を置く。猫ザクが足元にすとんと着地して俺の体の上に乗っかってきた。ベッドで猫に見下されながら寝てるこの状況に俺は??と首を傾げる。
「こ、こんなんでザクを浄化できるのか?」
=ああ、ばっちりだ=
猫ザクがくるくるとお腹の上で歩き出したと思ったら、口でボタンを外し始めた。
「ええ、っな、なにしてっ」
=何って、その準備=
「いや、これなんか違うことしてるみたいな気分に…」
=え~やだルトのえっち~何期待してるんだ~=
「…」
=いやそんな冷たい顔すんなよ=
猫の姿のまま、けけけと笑うザク。
(はあ、馬鹿馬鹿しい…)
俺が起き上がろうと肘を付いた時だった。急に猫ザクの尻尾がシュルンッとしなった。そして。
ぽんっ
「うわあ!」
「けけ」
人間姿に戻ったザクに再度ベッドで押し倒された。上半身裸のザクに押し倒されるのは毎度、かなりの迫力があるため、ひゅっと息を呑んでしまう。引き締まった筋肉に少し汗ばんだ肌。髪が張り付いた首元、鎖骨、手首。喋らなければ本当に格好いいのにな、なんて素直に思う。でも、それと同時に、同じ男とは思えないこの格差はなんだと神を呪いたくなる。
(成長し終えてもザクの体には追い付けそうにないな…)
なんとも残酷な世界である。
「さてと」
そんな俺の葛藤はザクの呟きで中断された。
「ルトに浄化してもらおうかな~」
「うひゃっそんな所触るな!俺はもう寝る!」
「何言ってるんだよ~ダブルデート行ってやっただろうがー」
「結構ザクも楽しんでただろ!んんっ…あ、え?!」
ザクの口が俺のパジャマに近づき、外されてない唯一のボタンを咥えた。先の割れた舌を使って器用にボタンを外される。舌が肌にかする度にビクッと体が震えてしまう。
「やめっザク…っ!」
「なんだよ、猫の時はそんなに嫌がらなかったのに」
「だって猫の時はなんか…下心感じないし」
「けけけっ男に下心がない瞬間なんてねーよ~!」
「悪魔だけだからそれっ!俺は別にっずっとはしないし!」
「はいはい、脱げたぞーまだ抵抗するか?」
それでもいいけど?と眉をあげて見下ろしてくる。それを少し見つめてから、俺はため息をついて…ザクの首に腕を回して抱きついた。
「し…しない……」
「ん~~~?それは一体どっちの話かな~?セックスしないの方か、抵抗しないの方か」
俺に言わせたいのかはぐらかしてくる。俺だけが抱きついてる状況。ザクはベッドに手をついたまま俺を見下ろしたまま動かない。こういう時に限って無理矢理襲ってこないんだからたちが悪い。というか性格が悪い。
(悪魔だし当たり前か…)
目の前の赤い瞳と目を合わせた後、顔を横にそらした。それからボソボソと言う。
「て…ていこう、しない」
「!!」
目を見開いたあと、にやっと笑うザク。
「はー!すごかったね!」
アリスが頬杖をつきながら先ほどの海の生き物たちの公演を思い返している。ちなみに俺たちは今近くのカフェで昼食をとっていた。
「ルトはどれが一番好きだった?」
「えっと、アリスは?」
「んー私はね…うーん、全部!全部面白かったわ!」
「はは」
一番を聞いてるのに全部は欲張りすぎだろ、と笑った。アリスは「いいのよ!」と言って漁師さんの腕に腕を絡ませる。
「欲張りな方が幸せになれるもの♪」
「ええ、そうなのか…?」
「世界で一番幸せで、ラブラブな私が言うんだからきっとそうなのよ!」
「どんな自信だ」
漁師さんと嬉しそうに微笑み合ってるアリス。その姿を見てると、急に肩をザクに抱かれた。
「ラブラブってんなら俺様達も負けてねーと思うけど?」
「わっ…なに張り合ってんだよ!ザク!」
ザクがにやにやしながら俺の顔に近づいてきた。
「ちょっ、ちかい!」
「近づかねーとキスできねーし」
「そうじゃなくて!アリス達もいるし、というかここ外だから!テラス席だし!!!落ち着け!」
ザクの口を手で押し返す。さすがに人目を気にしてくれたのかそれ以上は押してこなかった。ほっと息をつく。
「ええ~ルトがキスするとこ初めて見れると思ったのに!」
「なっ!!」
アリスは残念顔で紅茶をすすっていた。友人がキスしてる所なんて普通はみたくないはずだが。俺の感性がおかしいのかと戸惑っているとアリスが笑いながら手を振ってきた。
「ああごめんごめん。ルトの幸せそうな所が見れそうでワクワクしただけだから」
「なんだよ…驚かせるな…」
「あはは!困らせちゃったならごめんねー?」
アリスが悪戯っぽく笑う。それからふと、アリスの目がキランと光った。
「あ、でもね!もちろん男同士ってのも気になってるからね???ねえ、ねえどっちがどっちなの?やっぱり体格的にはルトが」
「わーーーーーー!!」
(ちょっ!周りの客に聞こえたらどうすんだよ!)
アリスの言葉を慌てて遮った。俺一人が取り乱していると、ザクが「まあ座れよ」と椅子を寄せてきた。
「けけけ、それを聞いたら戻ってこれねーぞ?俺様たちのことをもうまともに見れねえかもしれねえぜ。それでも聞きたいか?俺様達の話」
「きく!!ききたい!!」
「聞くのかよ。肝すわってんなあ」
ふんふんと鼻息を荒くしてアリスはザクに顔を寄せた。ザクもザクで強気な姿勢は嫌いじゃないんだろう。逃げずに見つめている。
(ちょ!アリスと近すぎだろ!ザクのやつ!)
まさかザク、アリスのこと狙ってるのか?!と焦った。
「「ルト?」」
俺が黙り込んでいるのに疑問を覚えたのか、ザクとアリスがこちらを見て名前を呼んできた。
「おーい、ルトー」
ザクだけもう一度呼んでくる。ぷいっと顔をそらし無視した。面白くない。今の目の前の状況は全く面白くなかった。二人とも俺にとって大切な人なのにすごくもやもやする。
「…けけ」
俺の様子を見てザクが小さく笑った。
スタッ
そして急に立ち上がって俺の手を取ったと思えば、有無を言わさず引っ張ってきた。流れるままに椅子から立ち上がらされる。
「えっちょ、ザク??」
「帰るか」
「ええ?!」
どうして急に?と目で訴える。まだこれから夜ご飯食べに行く予定もあるのに(予約とかはしてないけど)。戸惑っているとザクがアリス達に声をかけた。
「わりー!俺様達、先帰るわ~」
「もう帰っちゃうの?」
「おう。なんか怪我がまだ本調子じゃねーみてーでさ。痛み出したわ」
そう言ってコートの前を開けた。Tシャツの下から包帯が見えるのでアリス達にもその怪我の重さは伝わったらしい。二人とも顔を痛々しくしかめている。本人がケロッとしてたから今の今まで気づかなかっただろう。
「そんな大怪我してたんだ…ごめんなさい、大変な時にデートになんか誘っちゃって…」
「そんな悲しそうな顔すんな、こっちも楽しめたぜ」
「!」
アリスの体をザクがぽんぽんと抱きしめた。
(!!)
それにまた俺はイラっとしてしまい、自己嫌悪する。ただの別れの挨拶なのになんて心の狭い男なんだと。
「ザク、少しあっちで休もう」
怪我が痛むといってるし休ませてやりたい。早く行こう、とザクの腕を引いた。なのにザクは動こうとしない。
ぐぐっ
俺が引っ張ってるのをわかってるはずなのに。しかも嬉しそうに俺のことを見てくるのだ。本来俺にイラついてもおかしくない状況なのに。
(なんで笑ってんだよ…)
その視線に更に戸惑う。
「ルトー!また誘うねー!!」
俺らの様子に気付くことなくアリス達は去っていった。手を繋いで帰る姿は仲良さげで微笑ましい。
「じゃ帰るか」
そう言ってやっとザクが歩き出した。痛がる様子もなくけろっとしてる。
「ちょっと、待ってザク!」
「…」
「ザク!無視するなよ!怪我が痛むって言ってたけど大丈夫なのか?教会に戻る前に少し休んだ方が…」
「けけけ。んなの嘘だっつの」
ザクはいたずらっぽく笑って、迷わず教会への道を進んでいく。本気で心配しかけていたのにと憤慨していると
「だって、あんまりにもルトが可愛いくてさ~独り占めしたくなった★」
「はああ??」
「だってルト嫉妬してただろ?」
「えっ」
「さっきアリスと話してるとき、お前すごい睨んでたぜ」
「ええっ…そんなつもりは…」
ない。睨んでたつもりはない。でも、イライラしてたから、無意識に睨んでいた可能性がある。
(アリス…マジでごめん…)
今度会うとき何か奢ろう。俺は咳払いをしてニヤニヤして見下ろしてくる男の方を見た。
「別に、嫉妬じゃないから」
「ふーん?」
「なんだよその顔!アリスは友達だし、相手もいるし…嫉妬なんてお門違いだろ」
「そうだなー?」
「~~!!もういい!帰る!」
「けけ、帰ったらたっぷり可愛がってやるから拗ねんなって」
「うるさい!!馬鹿ザク!」
夕日に染まる帰り道を、俺たちはそれなりに仲良く(?)話しながら帰ったのだった。
***
「けけけ、あのまま終わると思ったか?まだ寝かさねーぜ?」
「いや誰に話しかけてるんだよ」
ザクが窓の外に話しかけていた。もう末期かもしれない。冷たい視線を送るが全くめげてないザク。というか。
「ずっと気になってたんだけど、破片から食らった臭気は抜けたのか?」
「ん?ああ、あれな」
風呂上がりでパンツ一丁のザクが、自分の腹を撫でながら考え込む。
「あの時は腹の怪我で色々吹っ飛んだけどどうだろうな。でもとりあえず今はそんな気配はしねーな」
「なんだそれ、結局はよくわからないってことか?」
「んー消えたかはわかんねーわ。もしかしたら体に残ってるかもしれねーし。なにぶんあのクソ親父様のパワーは計り知れんから」
タオルで自分の髪を拭きつつ、色々思い出しては頭を振った。
(だめだ、考えれば考えるほど不安になってきた)
「はあ、ザクもこの十字架で浄化できたらよかったんだけどな」
「うぎゃあああそれをだすなああああ!」
今回の件で俺のものとなってしまった、いわくつきの十字架をタンスから取り出す。それが見えかけただけでザクが悲鳴を上げて窓の外に出ていってしまった。どうやら正気状態でもこの十字架は近づけないっぽい。あんな状態では臭気を浄化する前にザクが死んでしまうだろう。
=だめだ!それはだめだ!本能的に受け付けねえ!!=
「もうしまったって」
=そっそうか…ふう=
窓の外からひょっこり顔を出したザクはいつの間にか猫の姿になっていた。十字架のショックかな。どっちでもいいけど久しぶりの猫型で新鮮だった。近寄って、ひょいっと抱いてみる。
「なんか異変あったら、ちゃんと言うんだぞ」
=わーってるよ、心配性だな=
抱いたままザクの猫耳の間に顔をうずめて、すりすりと鼻をこすりつけてみた。石鹸の匂いがする猫ザクはずっと抱っこしていたくなるぐらい癒される。もちろん喋らなければ、なんだけども。
=なあなあ、ルト=
「なに」
=それじゃ頼みがあるんだが=
「うん」
猫ザクがにゃあんと甘えるように鳴きながら俺にしっぽを絡ませてくる。
=昔から言い伝えられてる悪魔独自の浄化方法があるんだ=
「えっ!ど、どうするんだ?」
=まずはそのベッドに仰向けに寝てもらってだな=
「なんでベッド…」
=うううっなんか胸が急にっ苦しくっ…!!!=
「!!わ、わかったよ、ほら!」
あまりにも苦しそうに震え出すものだから、俺は焦ったようにベッドに腰掛けた。そしてコテンと枕に頭を置く。猫ザクが足元にすとんと着地して俺の体の上に乗っかってきた。ベッドで猫に見下されながら寝てるこの状況に俺は??と首を傾げる。
「こ、こんなんでザクを浄化できるのか?」
=ああ、ばっちりだ=
猫ザクがくるくるとお腹の上で歩き出したと思ったら、口でボタンを外し始めた。
「ええ、っな、なにしてっ」
=何って、その準備=
「いや、これなんか違うことしてるみたいな気分に…」
=え~やだルトのえっち~何期待してるんだ~=
「…」
=いやそんな冷たい顔すんなよ=
猫の姿のまま、けけけと笑うザク。
(はあ、馬鹿馬鹿しい…)
俺が起き上がろうと肘を付いた時だった。急に猫ザクの尻尾がシュルンッとしなった。そして。
ぽんっ
「うわあ!」
「けけ」
人間姿に戻ったザクに再度ベッドで押し倒された。上半身裸のザクに押し倒されるのは毎度、かなりの迫力があるため、ひゅっと息を呑んでしまう。引き締まった筋肉に少し汗ばんだ肌。髪が張り付いた首元、鎖骨、手首。喋らなければ本当に格好いいのにな、なんて素直に思う。でも、それと同時に、同じ男とは思えないこの格差はなんだと神を呪いたくなる。
(成長し終えてもザクの体には追い付けそうにないな…)
なんとも残酷な世界である。
「さてと」
そんな俺の葛藤はザクの呟きで中断された。
「ルトに浄化してもらおうかな~」
「うひゃっそんな所触るな!俺はもう寝る!」
「何言ってるんだよ~ダブルデート行ってやっただろうがー」
「結構ザクも楽しんでただろ!んんっ…あ、え?!」
ザクの口が俺のパジャマに近づき、外されてない唯一のボタンを咥えた。先の割れた舌を使って器用にボタンを外される。舌が肌にかする度にビクッと体が震えてしまう。
「やめっザク…っ!」
「なんだよ、猫の時はそんなに嫌がらなかったのに」
「だって猫の時はなんか…下心感じないし」
「けけけっ男に下心がない瞬間なんてねーよ~!」
「悪魔だけだからそれっ!俺は別にっずっとはしないし!」
「はいはい、脱げたぞーまだ抵抗するか?」
それでもいいけど?と眉をあげて見下ろしてくる。それを少し見つめてから、俺はため息をついて…ザクの首に腕を回して抱きついた。
「し…しない……」
「ん~~~?それは一体どっちの話かな~?セックスしないの方か、抵抗しないの方か」
俺に言わせたいのかはぐらかしてくる。俺だけが抱きついてる状況。ザクはベッドに手をついたまま俺を見下ろしたまま動かない。こういう時に限って無理矢理襲ってこないんだからたちが悪い。というか性格が悪い。
(悪魔だし当たり前か…)
目の前の赤い瞳と目を合わせた後、顔を横にそらした。それからボソボソと言う。
「て…ていこう、しない」
「!!」
目を見開いたあと、にやっと笑うザク。
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