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第十五章「天使の歌とキラキラ悪魔様」
天使の歌声
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「おい、お茶はまだなのか」
「…」
「おい、牧師、聞いてるんだろ」
「……」
「おいこら、牧師」
朝から俺は頭を悩まされていた。目の前の…
「おい、この役立たず」
くそ生意気な少年によって。
***
少年が教会に訪れてきたのはほんの十五分ほど前のことだった。
「おい、この街に唯一ある教会というのはここであってるか」
朝の日課である庭の雑草抜きに専念していたら突然偉そうな少年の声が降ってきたのだ。顔を上げて少年を観察する。
(うわあ…美少年だな)
キラキラ輝く金髪は毛先まで手入れされていて、都会でしか見ないような艶のいい髪だった。服装は真っ白な生地に銀の装飾が施されておりどこかの貴族のような風格を漂わせている。眉間のシワはあるけど、顔はまだまだあどけなさが残っている。背も俺より頭一つぐらい低い。
(年下…だよな?)
身なりは同年代の少年とかけ離れて整っているし、何よりその高貴で偉そうな雰囲気はこの街の子供っぽくない。どこぞの金持ち家の坊っちゃん、という印象だった。俺は雑草から手を離し腰を上げる。
「…そうだけど」
どうせ度胸試し気分で遊びに来たんだろうが、久しぶりに教会を訪れた客なのだ。ちゃんと対応しようと思い直す。
「うちの教会に何か用かな?」
雑草の入ったごみ袋を横に置いて少年へ向き直る。少年はなんだかイライラとした感じで俺を睨んできた。腕を組んでふんぞり返り、なんだか無駄に偉そうだ。
「あのさあ、こっちは教会に引き取られた孤児なんかと会話してる暇ないんだけど。さっさと牧師を呼んできて」
はー喧嘩腰だなあといっそ清々しい気持ちになりながら苦笑いを受けべる。
「俺が牧師だよ」
「はあ?!お前が!?なよなよして弱っちそう…」
(なよなよして弱っちそうだと…!子供だからって好き勝手言いやがってええ!(←気にしてる))
心の中で思いっきり毒をはきつつ
(落ち着け、落ち着け、ここは大人の俺が我慢しないとな)
と冷静をなんとか保たせ無理矢理笑顔を作ってみる。頬がひくつくのは仕方ない。
「牧師に必要な素質は見た目の強さじゃなくて、心の強さなんだよ。坊や」
「坊やじゃない!ラウーラ様と呼べ!」
「らうーら…長いからララでいっか」
「なんだよっララって!勝手に女々しくするな!!」
「はは、似合ってると思うけど」
可愛いのにとは言わないでおく。自分が言われまくってて嫌な思いをしてるからそこは気を遣った。けれど、ララは顔を真っ赤にして怒っている。
「この僕をっ子供扱いするなんてっっ!!なんて奴だー!!」
子ども扱いも何も、俺より年下だろうし、見た感じ14、5歳ぐらいにしか見えない。
「あ、俺はルトだよ。よろしくな、ララ」
「だから!ララじゃないっ!」
「で、用は何だよ?お祈りの仕方でも聞きに来たのか?」
「…違う」
お祈りという言葉を聞いた途端、ピタリと少年の表情から感情が消えた。なんだ、その反応。ちょっと気になっていると少年はフンッと鼻息を荒くして腕を組み直した。
「とりあえず、喉渇いたっ」
「はあ?」
「なんか飲み物!」
「えええ…」
「さくさく歩けのろま!」
「はあ…牧師を召使いか何かと勘違いしてないか?ったく」
偉そうな態度にムッとするが、さっきのララの異変(お祈りと聞いた時の)の感じから、ただのひやかしとも思えなくて俺は教会の中に案内することにした。
そして冒頭に繋がるわけだ。ララは教会の椅子に行儀よく座ったまま腕を組み仏頂面してる。何も喋らなければ可愛い少年なのに口を開けば。
「おい、役立たず、喉が渇いたって言ってるだろっ!早く何かもってこい能無し!」
とても残念な内容を吐いてくる。なにぶんその少年の声が透き通るような綺麗な声だからより残念さに拍車をかけた。俺はため息をつき、手元の紅茶を眺める。
(んー…もう少しかかりそうだな)
コップを温めつつ紅茶を待つ。俺の様子を見てしびれを切らしたのか、後ろから急かしてきた。
「おい、聞いてるのか牧師!」
「うるさいなあ…今準備してるって。見たらわかるだろ」
「ああもうっ!僕をこんなに待たすなんて!許されると思ってるのかっ」
「知らないよ誰様だよ」
うちの悪魔様じゃないんだから、偉そうにされても困る。よし、もうこれでいいや。薄いかもしれないけどこれ以上うるさくされても面倒だ。やっつけ仕事で紅茶の入ったコップをつきつける。
「はい、紅茶」
「…うむ」
偉そうに俺からコップを受け取り、なんの躊躇もなく口を付けるララ。その顔を観察していると、急にその顔がしかめられた。
「え…なに、まずかった?」
「おい!これ、甘くないぞっ??」
「そりゃストレートだし」
「甘くしろ!ばか!」
「馬鹿って…砂糖がないぐらいでいちいち怒るなよ」
「う、うるさいな!」
ぷんぷんっと怒るララに角砂糖を渡し、ついでにミルクも注いできた。これで文句はあるまい。
「…うむ!」
嬉しそうに頷く。さっきまでの不機嫌は嘘のように消えていた。
(はは、なんだかんだで子供だな、反応が素直だ)
わかりやすく上機嫌になったララを見ながら自分も紅茶に口をつけた。
(あ、やっぱ薄いな。いれなおそうか…)
なんて思ってると階段を下りるような音が聞こえてきた。
とんっとんっとん
(ん、ザクかな・・・もう昼だけど)
だったら昼ごはん出しといたほうがいいかもと思い立ち、おもむろに立ち上がる。
「ごめん、ちょっと待ってて」
「?」
ララにそう伝えて俺はキッチンに戻った。
「お、ルト」
思った通りそこには半裸のザクが立っていた。上は何も着てない状態でキッチンの食物を漁っている。
「当たり前のように半裸…」
「けけ、今更何言ってんだよ~てか、腹減ったんだけどなんかある?」
「パンならある」
「え~ルトの手料理が食べたいな~」
「今お客さん来てて無理。出くわさないとは思うけど一応服も着といて」
「客…ああ、そういや気配があるな。人間のガキか」
くんくんっと鼻をきかせ、ララの正体をすぐにあててしまう。さすがザク、少し感心してしまった。
「だから、ザクは勝手に食ってて」
「は~?ガキなんか放っておけばいいだろ」
「だめだって、子供でも客だから…って、ちょっ触るな!」
教会に戻ろうとザクに背を向けると、後ろから腰を抱かれ、うなじにチュッと吸いつかれた。
「うひゃあっ」
予想外の刺激に甘えた声が溢れ、顔が赤くなる。
「やめっ、おい、ザク!っう」
ちゅっちゅっと首に吸いつかれては、舐められるの繰り返し。そんなザクの愛撫に満更でもなかった俺は流されかけたが、
(ダメダメ落ち着け俺!)
牧師としての理性をフル稼働させてザクの顔を引き剥がした。
「ばか!朝からっっ!盛るな!!!」
「んだよ~恋人同士の朝ってどこもこんなもんだぞ」
「いいから離れろ!」
「っけーつめてえ…昨日はあんなに可愛かったのにな~」
「それ以上喋ったら今日は触らせないぞ」
「うげっそれは困るっ」
「はあ、じゃあ行くから」
廊下を進み教会に戻る。すると、椅子に腰掛けたままララはすやすやと寝ていた。その顔はとても美しく清らかで、教会のステンドグラスをバッグにして、まるで天使のように見えた。
(うわーまつげ長いな…)
覗き込むようにララの顔を見たあと、その体に毛布をかけてあげた。すぐに起こすのは可哀想だし、本でも読んで待ってるかな。そうして俺は少年の寝顔を眺めつつ、読書に耽るのだった。
***
「最近身の回りで、怪奇現象が起きているんだ」
ララはそう言って、冷めた紅茶に口を付ける。数分前にやっとララが起きたので俺は膝の上に猫ザクをのせながらララの話を聞いていた。
「怪奇現象?」
「ひとりでに物が動いたり、窓が開いてないのに風が吹いたり、叩くような音がしたり…とにかく、僕の周りでありえないことが起きるんだ」
「それって、ポルターガイストかな」
「ぽるたあがいすと?」
オウム返しのようにララが聞き返してくる。それに頷いて答えた。
「ララの出くわした事に近い現象のこと。多くは幽霊とか妖精のせいとされていて、それ程怖いことではないと言われているけど。ちなみにララのその現象はいつから起きてるんだ?」
「それだけはわかっているんだ。変な事がおきだしたのは、この街に来てからだ」
「!!」
猫ザクを見る。今まで寝ていたはずの猫耳がぴくっと揺れ、その内心を表していた。
=…きな臭いな=
目を細めながらにゃあんと鳴く。
(そうだよな、この街に来てから変な現象が起きだしたって…)
ララの方に向き直ると、目を丸くしたララと目があった。
「?」
「そ、その猫…」
興味津々といった感じで猫ザクを見つめている。キラキラと大きな瞳を輝かせ、前のめりになっていた。
「ザクって言うんだ。抱いてみる?」
逃げられないようにすかさず猫ザクの脇腹を掴んで持ち上げた。ぶらんと手足を下に向けたザクが、恨めしそうな顔を向けてきた。それを無視してララに差し出す。
「い、いいの?」
おずおず、という感じで手を出してくる。そのまま壊れ物でも扱うかのように優しく、丁寧に抱きかかえるララ。
「…っ、かわいい」
よしよし、と耳の間を撫でた。仕方なく、というようにされるがままにされている猫ザク。清純な天使のような少年と猫、絵画のように絵になる二人だった。
(こんなに綺麗な子だったら皆甘やかしちゃうよな…)
今までのわがままっぷりにも納得してしまう。
「~♪」
上機嫌になったララは鼻歌を歌い始めた。その美しいメロディーは聞いてるだけで心が暖まる感じがした。
「♪~♪~~」
教会のステンドグラスの光に照らされ、ララ達の周りだけまるで、神話の中に入ってしまったかのような神々しく幻想的な空間になる。少年の背中から白い翼が生えたら、そのまま神の使いになれそうだ。
「…?」
ふと、ララの腕の中の猫ザクに視線を戻すと、とある異変に気づいた。
=…っ、うう=
猫ザクの様子がおかしい。顔色が悪い、というか、ぐったりしている。尻尾と手足をだらんと下げ、小さく唸っていた。
(絶対おかしい…)
ただ少年を嫌がってるとは違って、確かな異変を感じた。
「ちょ、ちょっとごめん」
少年から猫ザクを受け取り、額に手を置く。
「…っ!」
沸騰した湯をいれた鍋のように熱かった。しかも、ザク自身ぜえぜえと苦しそうに息を吐いてる。一体、どうしちゃったのかと慌てるがこのままにはしておけない。少年に軽く言って、急いで教会を出る。そのまま寝室に行き、そっとベッドに寝かしてやった。
「大丈夫か、ザク…!」
「…ああ」
猫の姿から戻ると、顔を真っ青にして頭を抱えていた。とにかく苦しそうだった。ベッドの上で寝転がるでもなく微妙な姿勢で座ったまま唸っている。
「ザク…!な、何があったんだよ??そんな弱ってる姿…初めて見たんだけど…」
「くそっ…あの歌声、本物だ」
「歌?ララの?」
「そうだ。あのガキの声、天使の歌声ってやつだ。浄化の力を持ってる」
「え!じゃあその浄化の力にあてられちゃったてこと?」
「ああ、悪魔にあれは猛毒…うっ、吐きそう」
のろのろと廊下に出てトイレに向かうザク。その背中はとても苦しげで、見ているだけでも辛かった。
(ついていってやりたいけどララを待たせてるし…っあーもう!)
自分の膝を叩いて勢いよく立ち上がる。
(ララのポルターガイストも放っておけない…!)
この街に来てから謎のポルターガイストに見舞われたというララ。きっと何か理由があるはずだ。ザクなら死にはしないだろうし、早めに終わらせてその後思いっきり看病してやろうと心に決める。
「…ごめん、ザク、いってくるよ」
多分聞こえてないだろうけど、ザクの消えた方に呟いて、俺はまた教会に戻った。退屈そうにハミングしてるララが俺に気づいて駆け寄ってくる。
「猫、大丈夫だった?」
「うん…寝てたら大丈夫と思う」
「そっか」
ホッとしたように表情を和らげるララ。
「とりあえずララの異変を調べてみよう」
もしも本当にララの怪奇現象がこの街のせいで起きているとしたら、放っておくわけにはいかない。この街には色々厄介なものがあるみたいだし。むしろ厄介なモノだらけなのだ。
(…あ、そうだ、どうせだしあれ持って行こうかな)
レインが欲しがっていたあの銀色に光る十字架。確か、あれは魔除けの力があるはず。ザクでさえ触れられない程のすごい力があるみたいだし、ザクがいない間の魔除けに使わせてもらおうかな。
「いや…、ま、いっか」
天使の歌声というララと共に行くのだし、魔除けには困らないだろう。それに、あまりあれに頼るのは良くない気がする。なんとなくだけど。
「何か言った?」
「いやなんでもない、行こうかララ」
「うん、頼むよ、能無し牧師」
「「・・・・」」
少々険悪な雰囲気を纏いつつも、俺はララに連れられ街におりるのだった。
「…」
「おい、牧師、聞いてるんだろ」
「……」
「おいこら、牧師」
朝から俺は頭を悩まされていた。目の前の…
「おい、この役立たず」
くそ生意気な少年によって。
***
少年が教会に訪れてきたのはほんの十五分ほど前のことだった。
「おい、この街に唯一ある教会というのはここであってるか」
朝の日課である庭の雑草抜きに専念していたら突然偉そうな少年の声が降ってきたのだ。顔を上げて少年を観察する。
(うわあ…美少年だな)
キラキラ輝く金髪は毛先まで手入れされていて、都会でしか見ないような艶のいい髪だった。服装は真っ白な生地に銀の装飾が施されておりどこかの貴族のような風格を漂わせている。眉間のシワはあるけど、顔はまだまだあどけなさが残っている。背も俺より頭一つぐらい低い。
(年下…だよな?)
身なりは同年代の少年とかけ離れて整っているし、何よりその高貴で偉そうな雰囲気はこの街の子供っぽくない。どこぞの金持ち家の坊っちゃん、という印象だった。俺は雑草から手を離し腰を上げる。
「…そうだけど」
どうせ度胸試し気分で遊びに来たんだろうが、久しぶりに教会を訪れた客なのだ。ちゃんと対応しようと思い直す。
「うちの教会に何か用かな?」
雑草の入ったごみ袋を横に置いて少年へ向き直る。少年はなんだかイライラとした感じで俺を睨んできた。腕を組んでふんぞり返り、なんだか無駄に偉そうだ。
「あのさあ、こっちは教会に引き取られた孤児なんかと会話してる暇ないんだけど。さっさと牧師を呼んできて」
はー喧嘩腰だなあといっそ清々しい気持ちになりながら苦笑いを受けべる。
「俺が牧師だよ」
「はあ?!お前が!?なよなよして弱っちそう…」
(なよなよして弱っちそうだと…!子供だからって好き勝手言いやがってええ!(←気にしてる))
心の中で思いっきり毒をはきつつ
(落ち着け、落ち着け、ここは大人の俺が我慢しないとな)
と冷静をなんとか保たせ無理矢理笑顔を作ってみる。頬がひくつくのは仕方ない。
「牧師に必要な素質は見た目の強さじゃなくて、心の強さなんだよ。坊や」
「坊やじゃない!ラウーラ様と呼べ!」
「らうーら…長いからララでいっか」
「なんだよっララって!勝手に女々しくするな!!」
「はは、似合ってると思うけど」
可愛いのにとは言わないでおく。自分が言われまくってて嫌な思いをしてるからそこは気を遣った。けれど、ララは顔を真っ赤にして怒っている。
「この僕をっ子供扱いするなんてっっ!!なんて奴だー!!」
子ども扱いも何も、俺より年下だろうし、見た感じ14、5歳ぐらいにしか見えない。
「あ、俺はルトだよ。よろしくな、ララ」
「だから!ララじゃないっ!」
「で、用は何だよ?お祈りの仕方でも聞きに来たのか?」
「…違う」
お祈りという言葉を聞いた途端、ピタリと少年の表情から感情が消えた。なんだ、その反応。ちょっと気になっていると少年はフンッと鼻息を荒くして腕を組み直した。
「とりあえず、喉渇いたっ」
「はあ?」
「なんか飲み物!」
「えええ…」
「さくさく歩けのろま!」
「はあ…牧師を召使いか何かと勘違いしてないか?ったく」
偉そうな態度にムッとするが、さっきのララの異変(お祈りと聞いた時の)の感じから、ただのひやかしとも思えなくて俺は教会の中に案内することにした。
そして冒頭に繋がるわけだ。ララは教会の椅子に行儀よく座ったまま腕を組み仏頂面してる。何も喋らなければ可愛い少年なのに口を開けば。
「おい、役立たず、喉が渇いたって言ってるだろっ!早く何かもってこい能無し!」
とても残念な内容を吐いてくる。なにぶんその少年の声が透き通るような綺麗な声だからより残念さに拍車をかけた。俺はため息をつき、手元の紅茶を眺める。
(んー…もう少しかかりそうだな)
コップを温めつつ紅茶を待つ。俺の様子を見てしびれを切らしたのか、後ろから急かしてきた。
「おい、聞いてるのか牧師!」
「うるさいなあ…今準備してるって。見たらわかるだろ」
「ああもうっ!僕をこんなに待たすなんて!許されると思ってるのかっ」
「知らないよ誰様だよ」
うちの悪魔様じゃないんだから、偉そうにされても困る。よし、もうこれでいいや。薄いかもしれないけどこれ以上うるさくされても面倒だ。やっつけ仕事で紅茶の入ったコップをつきつける。
「はい、紅茶」
「…うむ」
偉そうに俺からコップを受け取り、なんの躊躇もなく口を付けるララ。その顔を観察していると、急にその顔がしかめられた。
「え…なに、まずかった?」
「おい!これ、甘くないぞっ??」
「そりゃストレートだし」
「甘くしろ!ばか!」
「馬鹿って…砂糖がないぐらいでいちいち怒るなよ」
「う、うるさいな!」
ぷんぷんっと怒るララに角砂糖を渡し、ついでにミルクも注いできた。これで文句はあるまい。
「…うむ!」
嬉しそうに頷く。さっきまでの不機嫌は嘘のように消えていた。
(はは、なんだかんだで子供だな、反応が素直だ)
わかりやすく上機嫌になったララを見ながら自分も紅茶に口をつけた。
(あ、やっぱ薄いな。いれなおそうか…)
なんて思ってると階段を下りるような音が聞こえてきた。
とんっとんっとん
(ん、ザクかな・・・もう昼だけど)
だったら昼ごはん出しといたほうがいいかもと思い立ち、おもむろに立ち上がる。
「ごめん、ちょっと待ってて」
「?」
ララにそう伝えて俺はキッチンに戻った。
「お、ルト」
思った通りそこには半裸のザクが立っていた。上は何も着てない状態でキッチンの食物を漁っている。
「当たり前のように半裸…」
「けけ、今更何言ってんだよ~てか、腹減ったんだけどなんかある?」
「パンならある」
「え~ルトの手料理が食べたいな~」
「今お客さん来てて無理。出くわさないとは思うけど一応服も着といて」
「客…ああ、そういや気配があるな。人間のガキか」
くんくんっと鼻をきかせ、ララの正体をすぐにあててしまう。さすがザク、少し感心してしまった。
「だから、ザクは勝手に食ってて」
「は~?ガキなんか放っておけばいいだろ」
「だめだって、子供でも客だから…って、ちょっ触るな!」
教会に戻ろうとザクに背を向けると、後ろから腰を抱かれ、うなじにチュッと吸いつかれた。
「うひゃあっ」
予想外の刺激に甘えた声が溢れ、顔が赤くなる。
「やめっ、おい、ザク!っう」
ちゅっちゅっと首に吸いつかれては、舐められるの繰り返し。そんなザクの愛撫に満更でもなかった俺は流されかけたが、
(ダメダメ落ち着け俺!)
牧師としての理性をフル稼働させてザクの顔を引き剥がした。
「ばか!朝からっっ!盛るな!!!」
「んだよ~恋人同士の朝ってどこもこんなもんだぞ」
「いいから離れろ!」
「っけーつめてえ…昨日はあんなに可愛かったのにな~」
「それ以上喋ったら今日は触らせないぞ」
「うげっそれは困るっ」
「はあ、じゃあ行くから」
廊下を進み教会に戻る。すると、椅子に腰掛けたままララはすやすやと寝ていた。その顔はとても美しく清らかで、教会のステンドグラスをバッグにして、まるで天使のように見えた。
(うわーまつげ長いな…)
覗き込むようにララの顔を見たあと、その体に毛布をかけてあげた。すぐに起こすのは可哀想だし、本でも読んで待ってるかな。そうして俺は少年の寝顔を眺めつつ、読書に耽るのだった。
***
「最近身の回りで、怪奇現象が起きているんだ」
ララはそう言って、冷めた紅茶に口を付ける。数分前にやっとララが起きたので俺は膝の上に猫ザクをのせながらララの話を聞いていた。
「怪奇現象?」
「ひとりでに物が動いたり、窓が開いてないのに風が吹いたり、叩くような音がしたり…とにかく、僕の周りでありえないことが起きるんだ」
「それって、ポルターガイストかな」
「ぽるたあがいすと?」
オウム返しのようにララが聞き返してくる。それに頷いて答えた。
「ララの出くわした事に近い現象のこと。多くは幽霊とか妖精のせいとされていて、それ程怖いことではないと言われているけど。ちなみにララのその現象はいつから起きてるんだ?」
「それだけはわかっているんだ。変な事がおきだしたのは、この街に来てからだ」
「!!」
猫ザクを見る。今まで寝ていたはずの猫耳がぴくっと揺れ、その内心を表していた。
=…きな臭いな=
目を細めながらにゃあんと鳴く。
(そうだよな、この街に来てから変な現象が起きだしたって…)
ララの方に向き直ると、目を丸くしたララと目があった。
「?」
「そ、その猫…」
興味津々といった感じで猫ザクを見つめている。キラキラと大きな瞳を輝かせ、前のめりになっていた。
「ザクって言うんだ。抱いてみる?」
逃げられないようにすかさず猫ザクの脇腹を掴んで持ち上げた。ぶらんと手足を下に向けたザクが、恨めしそうな顔を向けてきた。それを無視してララに差し出す。
「い、いいの?」
おずおず、という感じで手を出してくる。そのまま壊れ物でも扱うかのように優しく、丁寧に抱きかかえるララ。
「…っ、かわいい」
よしよし、と耳の間を撫でた。仕方なく、というようにされるがままにされている猫ザク。清純な天使のような少年と猫、絵画のように絵になる二人だった。
(こんなに綺麗な子だったら皆甘やかしちゃうよな…)
今までのわがままっぷりにも納得してしまう。
「~♪」
上機嫌になったララは鼻歌を歌い始めた。その美しいメロディーは聞いてるだけで心が暖まる感じがした。
「♪~♪~~」
教会のステンドグラスの光に照らされ、ララ達の周りだけまるで、神話の中に入ってしまったかのような神々しく幻想的な空間になる。少年の背中から白い翼が生えたら、そのまま神の使いになれそうだ。
「…?」
ふと、ララの腕の中の猫ザクに視線を戻すと、とある異変に気づいた。
=…っ、うう=
猫ザクの様子がおかしい。顔色が悪い、というか、ぐったりしている。尻尾と手足をだらんと下げ、小さく唸っていた。
(絶対おかしい…)
ただ少年を嫌がってるとは違って、確かな異変を感じた。
「ちょ、ちょっとごめん」
少年から猫ザクを受け取り、額に手を置く。
「…っ!」
沸騰した湯をいれた鍋のように熱かった。しかも、ザク自身ぜえぜえと苦しそうに息を吐いてる。一体、どうしちゃったのかと慌てるがこのままにはしておけない。少年に軽く言って、急いで教会を出る。そのまま寝室に行き、そっとベッドに寝かしてやった。
「大丈夫か、ザク…!」
「…ああ」
猫の姿から戻ると、顔を真っ青にして頭を抱えていた。とにかく苦しそうだった。ベッドの上で寝転がるでもなく微妙な姿勢で座ったまま唸っている。
「ザク…!な、何があったんだよ??そんな弱ってる姿…初めて見たんだけど…」
「くそっ…あの歌声、本物だ」
「歌?ララの?」
「そうだ。あのガキの声、天使の歌声ってやつだ。浄化の力を持ってる」
「え!じゃあその浄化の力にあてられちゃったてこと?」
「ああ、悪魔にあれは猛毒…うっ、吐きそう」
のろのろと廊下に出てトイレに向かうザク。その背中はとても苦しげで、見ているだけでも辛かった。
(ついていってやりたいけどララを待たせてるし…っあーもう!)
自分の膝を叩いて勢いよく立ち上がる。
(ララのポルターガイストも放っておけない…!)
この街に来てから謎のポルターガイストに見舞われたというララ。きっと何か理由があるはずだ。ザクなら死にはしないだろうし、早めに終わらせてその後思いっきり看病してやろうと心に決める。
「…ごめん、ザク、いってくるよ」
多分聞こえてないだろうけど、ザクの消えた方に呟いて、俺はまた教会に戻った。退屈そうにハミングしてるララが俺に気づいて駆け寄ってくる。
「猫、大丈夫だった?」
「うん…寝てたら大丈夫と思う」
「そっか」
ホッとしたように表情を和らげるララ。
「とりあえずララの異変を調べてみよう」
もしも本当にララの怪奇現象がこの街のせいで起きているとしたら、放っておくわけにはいかない。この街には色々厄介なものがあるみたいだし。むしろ厄介なモノだらけなのだ。
(…あ、そうだ、どうせだしあれ持って行こうかな)
レインが欲しがっていたあの銀色に光る十字架。確か、あれは魔除けの力があるはず。ザクでさえ触れられない程のすごい力があるみたいだし、ザクがいない間の魔除けに使わせてもらおうかな。
「いや…、ま、いっか」
天使の歌声というララと共に行くのだし、魔除けには困らないだろう。それに、あまりあれに頼るのは良くない気がする。なんとなくだけど。
「何か言った?」
「いやなんでもない、行こうかララ」
「うん、頼むよ、能無し牧師」
「「・・・・」」
少々険悪な雰囲気を纏いつつも、俺はララに連れられ街におりるのだった。
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