牧師に飼われた悪魔様

リナ(腐男子くん準備中)

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第十六章「カラドリオス街長選挙」

選挙協力のお願い

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 どんどんどん!!

「んあ?」
「なんだろう、こんな早くに…」

 むにゃむにゃと半目のままベッドから出ようとする。足が床につく瞬間、横で寝ていたザクに腕を回され、布団の中に戻された。

 ぐいっ、ぽすっ

「ちょっ、ザク、なにするんだよ…行かなきゃ」
「んなの放っておけよ」
「放っとけって言われても、居留守するわけにも行かないだろ」
「やっとララの子守が終わって、久しぶりのルトとの二人きりタイムなんだぜ?誰にも邪魔されたくねえ」
「…わがまま言うな馬鹿ザク」

 ザクの腕を引き離し、服を着る。毎度のことだが朝になると体が綺麗になってることには感動してしまう。やってる間は俺の都合なんて全く無視してくるが、終わった後はきっちり後始末をしてくれるという…なんとも言えない彼氏ムーブを決めてくる。

(俺が気を失う前まではあんなに俺様の癖に…ああもうっ、朝から何考えてんだか!)

 ボタンをとめながらで悶々としていると、後ろからけけけという笑い声が届いてきた。

「どうだ、きれいだろ?」
「…」
「俺様が毎晩きれいにしてやってるからな~」
「…お前が汚してるんだから当たり前だろ」
「けけけ、大事に汚してるからいいだろ?」
「意味わかんないし、死ね」
「けけ、久しぶりに聞いた気がするな、ルトの死ね♪」
「…褒めてないからっっ」

 髪を整えるのをやめてさっさと廊下に出た。階段をおり、教会の扉を開けにいく。

 がちゃっ

 そこには畏まった身なりの男が五人立っていた。その中心に青色のスーツを着た黒髪の女性がいる。立ち位置と雰囲気から、彼女がこの集団のトップだと察した。

(あれこの人…なんかどこかで見たことあるような…?)

 その女性を含め、立っていた全員が俺を見るとあからさまに顔をしかめてくる。

「…思ったより、若いな」
「?」

 女性は低い声で呟いた後、顎で五人に何かを指示した。前髪をオールバックにした側近っぽい男が前に出てくる。

「あなたが、こちらの牧師でしょうか」
「…はい」
「実はあなたに、選挙活動のご協力を、お願いしたいのです」
「え…?」

 早朝からなにやら騒がしいなと思えば、選挙活動の話だって?

「私の選挙のお手伝いを…頼みにきました」

 選挙の手伝い。瞬きを繰り返す。

(なんだそれ…)

 本音を言ってしまえば、全く気乗りがしない。というか意味がわからない。

(だって、選挙って…正々堂々勝負するものだろ)

 それを、こうやって根回しするって卑怯じゃないか?俺の顔に怪訝な色が出ていたのだろう、女性が含みのある営業スマイルを向け割り込んできた。

「私はベラ・クラレンスです。今回の選挙の候補者、といえばわかってくださるでしょうか」
「は、はあ…ルト・ハワードです」

 そういえば選挙のポスターにそんな名前があった気がする。なにぶんララのことで昨日まで手一杯だったから、選挙のことまで気が回せてなかった。俺の煮え切らない反応に女性は目を細める。

「しかし、お若い牧師とは聞いてはいましたが、これほどとは…」

 オールバックの側近がひそひそとベラ・クラレンスに耳打ちしている。

(聞こえてるぞ…)

 感じ悪いしもうさっさと帰ってもらおう。

「すみませんが、俺はそういうのやらないので、丁重にお断りします」
「それは残念ですね。私が当選したときに…有利に扱って差し上げるつまりですが」
「…」

 呆れた。俺がそんなことで懐柔できると思ってるのか。

「あなたにやっていただくことも、簡単な事ですよ。賄賂とかそのようなものは一切ありません。私の思想を教会で語ってほしいのです。話す内容はこちらが用意するのでそちらが苦労することは全くありません」
「…」
「どうです、いい条件と思いませんか」
「…馬鹿にしないでください」

 俺は姿勢をただし、その女性と真っ向から睨み合った。

「俺は牧師。どんな人間にも平等に接しなくてはいけません。だから、あなたの思想がどんなに正しくても俺は介入しません」
「…」
「それに、俺なんかが介入しなくてもあなたは当選すると思いますよ」
「!」
「正しい道を導けるなら、の話ですが」

 俺の言葉に目を見開く女性。後ろの男たちは俺の口ぶりに苛立ちを感じているようでかなり強めに睨んできた。

「貴様!牧師だからって偉そうに!」
「うるさいぞ、クライド」
「ーっ、は、はい!」

 前に出た男を、一言で制し、再び俺の方を向いてきた。その一言だけでも、彼らがどれだけ統制が取れているのかがわかった。女性はスーツを直し、営業スマイルをほどく。そして、好戦的な瞳を向けられた。彼女の素の表情、なのだろう。

「面白いな、君」
「…」
「牧師など軟弱者ばかりだと思って大した期待はしていなかったが、気が変わった。君の気が変わるまで何度でも通わせてもらう」
「えぇ…」
「では、今日はこれ以上いても仕方がない。それに何より私はこれでも多忙の身だ。帰らせてもらおう」
「は、ちょ…」
「ルト・ハワード、また寄らせてもらう。では失礼する」
「あ…」

 凛とした態度で、去っていく。

(な、なんだったんだ…)

 その後ろ姿を眺めながら、俺は呆気にとられていた。

「なんだか強烈なねーちゃんだなあ~」
「っうわ!」

 ザクが耳元で急に囁いてきて、飛び上がる。振り向けば、半裸のままのザクが真後ろに立っていた。

「ああいう手合いは夜化けるんだよ」
「化け…っ」
「エロくなるっつーことだ」
「うるさいな!聞いてないだろ!」
「けけ、ルトが照れるなよ~…ま、でもルトは一生そういうのは見れねーだろうな~」
「え」
「一生女を抱くな、俺様に抱かれろ、っつーことだ」

 にやりと笑いかけられる。

(そ、そうだ…今まで俺、気にしてなかったけど…ザクといたら永遠に童貞のま、まに……なるのか?!)

 ガーーン。あまりの衝撃に俺は放心状態になってしまう。ザクが何か後ろで話しかけてくるが、俺はそれを無視して教会の中に戻った。

(いや、だめだろ…それは…なんか、こう……人間、いや男として?いや生物として悲しくないか?)

 生物の真理まで考えてしまう。

「…俺、出かけてくる」
「え、ちょ、ルト~~???」
「追いかけてきたら今日はえっちしない」
「えええええええ!」

 その言葉で大人しく足を止めたザク。それを置いて俺は街に向かうのだった。

 とある目的のために。


 ***


「え~?女の子とやった事あるかって?」

 シータがおぼんをくるくる回しながら見てくる。

「そんなこと聞いてどうするのさ~ルトくんってば~」
「いいからイエスかノーで答えろ」
「そりゃイエスだけど~?この年でノーはなかなかないっしょー♪」
「…!!」

 ガーーン(二回目)

 嘘だろ。こんな変態でも女性経験があるのか??!と恐れおののく。休憩中のシータを呼びつけて店の裏で俺は聞き取り調査を行っていた。主に女性経験についての。

「ふーん??」

 シータがへーという顔で意味ありげに俺を見てくる。

「なになに、どうしちゃったのルトくんってば…もしかして、女の子を抱きたくなっちゃった?」
「うっ」
「あーいけないんだあ~浮気だ~」
「うるさいなっ!お前に関係ないだろっ!」
「まあルトくんは元々ノーマルだもんねー。そりゃ興味ないほうがおかしいか~…なんなら僕が教えてあげようか?女の子とのやり方」
「結構です」
「敬語止めて~w」

「あれ?シータなにしてるんにゃ?」

 店の裏に、見知った顔が現れた。藍色の髪が美しい…いや、藍色が似合うイケメンのアイザックさんだった。後ろには仏頂面のクリスもいた。

「お店にいないから休みかと思えば、こんな所でおさぼりかにゃ~?」
「違うよ。ルトくんに呼びつけられてさ。だ~いじな相談に乗ってあげてたんだよ?ね?」
「黙れ変態」
「あらはっ呼んだのそっちなのにひどいなあ~でもちょっと嬉しい♪」
「はーシータは相変わらずきもいにゃー」
「はいはいもうそれでいいしー。って、立ち話もアレだし、そろそろ店に入らない?席に案内するからさ~」
「じゃあ俺は帰…」

 帰ろうとすると、がしりとシータに腕を掴まれた。

「まだ話は終わってないでしょ?」
「…お、終わったよ、もう」
「えーっ?まだルトくんの童貞卒業作戦立ててないじゃん!」
「うわっばか!」
「え、なになに、ルトくんって童貞さんだったの?か~わい~」
「くくく」

 (ああもうっ!シータの声が大きいからアイザックさんとクリスにまでバレたじゃないか!!)

 しかもクリスめッちゃ笑ってるし。むかつくからアイツの頭の上にバケツとか降ってこないかな。多分衝突する前に剣で切っちゃうだろうけど。とりあえず笑われてるだけでは悔しいので、きっと強めに睨み付けといた。だがやはりクリスは余裕の笑みのまま見下ろしてくる。

「そうか、お前…見た目も下半身も子供なんだな」
「なっ!!」
「あ、違うな」
「?!」
「性格もか」
「!!!!」
「はいはいクリス~、ルトくんを苛めないの!店行くよ!」
「っふ」

 馬鹿にされたように笑われ、そのまま店の中へと消えるクリスたち。このまま帰れば馬鹿にされて終わりだろう。

(くそっ…!もうどうにでもなれ!)

 半分涙目で、俺は店に踏み込むのだった。
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