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第十七章「死を告げる者」
仲直り
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「本当のお母さんはもうずっと前に死んじゃったの」
花の茎を整えながら、少女はぼそぼそと話し出した。
それまでは昨日の病院食に嫌いなものが入ってたとか、隣りの少年がイタズラしにくるの、とかそういう少女らしい話をしていた。俺がずっと相槌をうつだけで聞き手に回ってたから話しやすい人だと思われたのかもしれない。三つ編みのあとの残る茶髪を弄りながら少女は話し続ける。
「父親は生まれてすぐに死んじゃってるから、私ひとりになっちゃって。親族も面倒がって私のことを押し付けあってて、ああ、自分はいらない存在なんだなって思ってたときにね」
「…」
「さっきの泣いてた…ううん、私が泣かしちゃったあの人が、私のことを引き取ってくれたの。顔とか全然似てないけどずーっと遠い親戚らしくて。住んでいた街っていうのもかなり遠くにあるらしいんだけど、私と一緒に住むためにこっちにきてくれたんだ」
「へえ、いい人じゃないか」
「うん…」
「それ、知ってるのに、どうしてあんなことを言っちゃったの?何か嫌なことでもされた?」
「ううん…」
少女は落ち込んだ様子でブンブンと頭を横に振る。どう言葉にしていいのか悩んでいるのだろうか。口をつぐんで、黙り込んでしまった。
「…じゃあ、俺の話をしようかな」
「え…?」
右手と左手の指を重ね合わせながら、少女を見やり、それから花に視線を戻して口を開いた。
「俺はルトっていうんだけどね、実はハルカちゃんと一緒で親がいないんだ」
「!!」
「詳しくは誰も教えてくれなかったから知らないってのが正しいんだけど、まあ、物心つく頃にはもう死んでいてさ。そういう…家族とかとの記憶がないんだ」
「…ルトさん…」
「そう思うと寂しいけど、俺の事、拾ってくれた人がいたし、今はまあ…好きになってくれる人がいるから、俺は幸せなんだ」
「…そう、なの?」
「うん。だから俺は、家族がどうこうっていうのはあまり“幸せ”には関係ないって思ってる。たとえ一緒に住んでる家族が血は繋がってなくても、一緒にいたい、支えあいたいってお互いが心を繋げられるなら、それはきっと、もう家族なんだよ」
「…そ、っか、…そうだといいな」
「ハルカちゃんはどう?あの人といて今まで全然楽しくなかった?」
「ううん、たのしかった…お菓子、作るのが上手で…食べ過ぎて、太っちゃったもん」
「はは、それは幸せ太りっていうんだよ」
よしよし、と頭を撫でる。そして、少女の手から花を受け取って花瓶にさした。これで花は大丈夫だろう。
「じゃあ謝ろう、俺も一緒に行くから」
「…うん」
「よし、えらい」
「…えへへ。ちゃんと謝る。だから、私が謝ったら、その…馬鹿にしないで聞いてほしい事があるの」
「え?」
「あなたなら、信じてくれるかもしれない」
「い、いいけど…どういうこと?」
「今は内緒」
「え、あ、ちょっと…!」
少女はどこか吹っ切れたような顔で、病院に戻っていった。よくわからないがついていくしかないようだ。
***
それから俺たちはマスターと一緒にいた少女の母親と合流し、
「ごめんなさい、ママ」
「ハルカ…私こそ、私の方こそ、ごめんね…不安だったのよね…アカネみたいな強いお母さんになってあげたいのに私は…」
「違うの、違うの…ママ、大好きだから泣かないで」
母娘両方がぽろぽろと涙し抱き合うのを見守った。
(よかった…本当によかった、仲直りできて)
自分の事のように嬉しくなり目頭が熱くなった。目元を擦っていると、ひとしきり泣いて落ち着いた少女が、俺の方に泣きはらした顔を向ける。
「お願い、ついてきて」
「え」
「こっち…」
「ハルカちゃん?ちょっ…」
母親とマスターに不思議そうな目を向けられながら、俺は少女に引っ張られていく。少女に案内されたのは病院内の女子トイレで、俺はとっさに踏ん張って中に入るのを拒否した。
「何してるの、ルトさん早くこっち」
「え、そ、それはさすがに…っ」
「大丈夫誰もいないから」
「そういう問題じゃないだろ!それにっこんな場所で何が…」
「鏡をみたいだけなの」
「え?」
「鏡を見たら終わるから、お願い…」
うるうる、と瞳を濡らして見つめられたら…断れなかった。
(中に人がいないなら…ささっと鏡を見てダッシュで出れば迷惑にならないはずっ…!)
深呼吸をして、腹をくくる。ゆっくりと俺は女子トイレの中に踏み入った。
「し、失礼します…」
「ルトさん私の横に立って」
「え…わかった」
言われたとおり少女のすぐ横に立つ。すると目の前の鏡に2人の姿が映った。何の変哲もない姿見鏡だ。
「…これがなに?」
「見てて、すぐ現れるから」
「…あらわれる?」
少女の真剣な横顔に嘘をついているような様子はない。
(仕方ない…ここまできたらとことん付き合おう)
俺はもう一度鏡に視線を戻した。そうしてしばらく鏡とにらめっこしていると―――ゾクリと何かの視線を感じた。同時に少女が悲鳴に近い声をだす。
「…きたっ!!!」
「え、なにが??」
「お化け!」
少女が鏡を指差す。
花の茎を整えながら、少女はぼそぼそと話し出した。
それまでは昨日の病院食に嫌いなものが入ってたとか、隣りの少年がイタズラしにくるの、とかそういう少女らしい話をしていた。俺がずっと相槌をうつだけで聞き手に回ってたから話しやすい人だと思われたのかもしれない。三つ編みのあとの残る茶髪を弄りながら少女は話し続ける。
「父親は生まれてすぐに死んじゃってるから、私ひとりになっちゃって。親族も面倒がって私のことを押し付けあってて、ああ、自分はいらない存在なんだなって思ってたときにね」
「…」
「さっきの泣いてた…ううん、私が泣かしちゃったあの人が、私のことを引き取ってくれたの。顔とか全然似てないけどずーっと遠い親戚らしくて。住んでいた街っていうのもかなり遠くにあるらしいんだけど、私と一緒に住むためにこっちにきてくれたんだ」
「へえ、いい人じゃないか」
「うん…」
「それ、知ってるのに、どうしてあんなことを言っちゃったの?何か嫌なことでもされた?」
「ううん…」
少女は落ち込んだ様子でブンブンと頭を横に振る。どう言葉にしていいのか悩んでいるのだろうか。口をつぐんで、黙り込んでしまった。
「…じゃあ、俺の話をしようかな」
「え…?」
右手と左手の指を重ね合わせながら、少女を見やり、それから花に視線を戻して口を開いた。
「俺はルトっていうんだけどね、実はハルカちゃんと一緒で親がいないんだ」
「!!」
「詳しくは誰も教えてくれなかったから知らないってのが正しいんだけど、まあ、物心つく頃にはもう死んでいてさ。そういう…家族とかとの記憶がないんだ」
「…ルトさん…」
「そう思うと寂しいけど、俺の事、拾ってくれた人がいたし、今はまあ…好きになってくれる人がいるから、俺は幸せなんだ」
「…そう、なの?」
「うん。だから俺は、家族がどうこうっていうのはあまり“幸せ”には関係ないって思ってる。たとえ一緒に住んでる家族が血は繋がってなくても、一緒にいたい、支えあいたいってお互いが心を繋げられるなら、それはきっと、もう家族なんだよ」
「…そ、っか、…そうだといいな」
「ハルカちゃんはどう?あの人といて今まで全然楽しくなかった?」
「ううん、たのしかった…お菓子、作るのが上手で…食べ過ぎて、太っちゃったもん」
「はは、それは幸せ太りっていうんだよ」
よしよし、と頭を撫でる。そして、少女の手から花を受け取って花瓶にさした。これで花は大丈夫だろう。
「じゃあ謝ろう、俺も一緒に行くから」
「…うん」
「よし、えらい」
「…えへへ。ちゃんと謝る。だから、私が謝ったら、その…馬鹿にしないで聞いてほしい事があるの」
「え?」
「あなたなら、信じてくれるかもしれない」
「い、いいけど…どういうこと?」
「今は内緒」
「え、あ、ちょっと…!」
少女はどこか吹っ切れたような顔で、病院に戻っていった。よくわからないがついていくしかないようだ。
***
それから俺たちはマスターと一緒にいた少女の母親と合流し、
「ごめんなさい、ママ」
「ハルカ…私こそ、私の方こそ、ごめんね…不安だったのよね…アカネみたいな強いお母さんになってあげたいのに私は…」
「違うの、違うの…ママ、大好きだから泣かないで」
母娘両方がぽろぽろと涙し抱き合うのを見守った。
(よかった…本当によかった、仲直りできて)
自分の事のように嬉しくなり目頭が熱くなった。目元を擦っていると、ひとしきり泣いて落ち着いた少女が、俺の方に泣きはらした顔を向ける。
「お願い、ついてきて」
「え」
「こっち…」
「ハルカちゃん?ちょっ…」
母親とマスターに不思議そうな目を向けられながら、俺は少女に引っ張られていく。少女に案内されたのは病院内の女子トイレで、俺はとっさに踏ん張って中に入るのを拒否した。
「何してるの、ルトさん早くこっち」
「え、そ、それはさすがに…っ」
「大丈夫誰もいないから」
「そういう問題じゃないだろ!それにっこんな場所で何が…」
「鏡をみたいだけなの」
「え?」
「鏡を見たら終わるから、お願い…」
うるうる、と瞳を濡らして見つめられたら…断れなかった。
(中に人がいないなら…ささっと鏡を見てダッシュで出れば迷惑にならないはずっ…!)
深呼吸をして、腹をくくる。ゆっくりと俺は女子トイレの中に踏み入った。
「し、失礼します…」
「ルトさん私の横に立って」
「え…わかった」
言われたとおり少女のすぐ横に立つ。すると目の前の鏡に2人の姿が映った。何の変哲もない姿見鏡だ。
「…これがなに?」
「見てて、すぐ現れるから」
「…あらわれる?」
少女の真剣な横顔に嘘をついているような様子はない。
(仕方ない…ここまできたらとことん付き合おう)
俺はもう一度鏡に視線を戻した。そうしてしばらく鏡とにらめっこしていると―――ゾクリと何かの視線を感じた。同時に少女が悲鳴に近い声をだす。
「…きたっ!!!」
「え、なにが??」
「お化け!」
少女が鏡を指差す。
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