牧師に飼われた悪魔様

リナ

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第十七章「死を告げる者」

★生き地獄

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「いっ、いやだあ!!!!やめ、ろっ!触るなっ!!」
『おっと、暴れたってアイツはこないんだ。諦めて気持ちよくなろーぜえ~?』
「っ…!!ざ、ク…ザク!!ザク、助けて!」


 アイツ、といわれて思い出した。

 ザクなら、ザクなら助けてくれる。

 この絶望的な世界から助けてくれるはず。


「…っザク!!」


 狂ったように名前を呼び続けた。

 最後の希望を賭けて。


「ザク…!!ザク!!」


 なのに、どんなに叫んでも


「ザク!!はあ、はあ…ケホッ、ザクっ…!!」


 あいつは現れなかった。

 喉が嗄れてもう声が出ない。

 ひび割れた唇から血が滲み、その血をジャックルが舐めとっていく。

『ほら、言っただろ~?アイツは来ない、来たとしてもルナちゃんの知ってるアイツじゃなくなってると思うぜ』
「…ぁ…く…」
『だから、ルナちゃん♪お利口さんになって、あんよをひらきましょ~ね~♪』

 誘導されるように足を開かされる。

(ザクが…こない…?)

 脱力して何も抵抗できない。ジャックルの熱いそれが、開かれた足と足の間、すでに咥え込まされている限界のそこにあてがわれた。絶対入るわけがないのに、ぐぐっと押し入ろうとしてくる。

 そこで俺は思い出した。


 “ルト、お前は近いうちに死ぬ”


 死神から告げられたあの言葉。

(そうか、俺は…ここで死ぬのか)

 不思議なぐらいあっさりと、死を受け入れてしまった。聞かされた時は実感のわかなかった死神の死の宣告も、この時を過ごせば理解せざるを得ない。

 悪魔に囲まれ、逃げ場のない場所で犯されて、ザクも来ない…この世界。

(死ぬんだ、俺は)

 こんな世界にいるぐらいなら、死んでしまいたい。苦しくて、痛くて、怖くて、悲しくて、辛い、こんな世界。

 今ならレイが「死にたい」「助けてほしい」といった意味がわかる。

(これが、生き地獄、ってやつ…なのかな)

 悪いことをしたかもしれない。殺してくれと、請うように言ったレイの顔を思い出す。

 俺はあの時、レイを殺してあげた方がよかったのだろうか。

(…いや、レイは俺に嘘をついていた)

 どうせあの話も嘘なのだろう。俺を誘き寄せて、レインに引き渡す為だけの嘘。

 (じゃあ、こんなことを考えても意味がない…)

「はは…」
『?』

 俺が笑うのをジャックルが不思議そうに見下ろしてくる。

『ルナちゃん?』

 もう好きにしたらいい。

 俺はどうせ、何をやってもここで死ぬんだ。

 ならせめてこれ以上醜態を晒さず静かに死ぬ方がずっとマシだ。


『アッ!!やばい!舌、噛む気ーーおい、何か布っ!!!』


 ジャックルが俺の意図に気付き、慌てて背後のネズミに声をかける…その時だった。


「はあ、…ジャック、俺は見張りをしていろって、言ったよな」


 絶対零度を感じさせる冷たい声が牢屋に木霊した。

(え…この、こえ…?)

 目の前にいたジャックルがびくりと肩を震わす。むしろ飛び上がる勢いで反応した後、あわあわと牢屋の先にある扉の方へ振り向いた。

『まままま、マスター!!??え、えっと、こ、これは~~~』

 慌てて俺から体を離しバンザイのポーズになるジャックル。何事かと、俺は放心状態のまま、ゆっくりと瞼を開けた。

「…!」

 扉の所にレインが立っていた。服に一切の汚れもなく、髪も整えられ、いつもと同じ腹の立つほど顔の整った男が涼しげな顔をしてこちらを見ている。

 (…レ、イン…)

 悪魔だらけの暗く恐ろしいこの世界で、まるでレインだけが別世界の人のように切り取られて見えるようだった。

 レインの瞳は脱け殻のような俺を捉えた後、牛男、ネズミを順番に確認し、最後にジャックルのところで止まった。瞳がすっと細められる。

「…いつ俺がルトに手を出していいと言った?」
『す、すみません~!ほんの出来心で~~!』
「…」
『ううう、えっと、あっと、な、なあ!おおおお前も何か言えって!』

 ジャックルが牛男に無理やり振った。俺の中にまだそれを埋めたまま、牛男は何か言おうと口を開き


 パツン


 何かが切れる音がした。

 するとすぐに、どしゃりと、後ろの気配が消えていく。振り向けば…そこには真っ二つになった牛男が地面に転がっていた。

「!!!!」

 あまりのことで悲鳴さえあげられなかった。真っ二つになった体から噴水のように赤い血が降ってくる。

「いつまでルトに触れてる、薄汚い獣の分際で」

 氷よりも冷たい表情で牛男の死体を見下ろすレイン。その冷たい視線は向けられてない俺まで震えるほど恐ろしいものだった。牛男の体が後ろに倒れる流れで、俺に入れられていたものもズルリと抜けていく。

「うぁっ…」

 たまらず声を漏らせばレインから手を差し伸べられた。

「大丈夫?ルト」
「…!」

 牛男の血を浴びて真っ赤な俺とレインが向かい合い、しばしの間見つめ合った。俺に向けられるレインの微笑みはいつもと同じかそれ以上に甘く優しいものだった。

 こんな状況にいても、レインは変わらない。

 悪魔一匹殺しても微笑み続ける。


「…」


 レインの徹底っぷりに俺は、寒気を通り越して…少し感動を覚えてしまった。

(…レイン、お前は、悪魔だ)

 体は人間だけど…心は誰よりも悪魔だ。心臓まで冷え切った、恐ろしい悪魔。

(だけど…)

 この場で一番“綺麗”だとも思った。

 このイカれた空間にいたせいで感覚さえオカしくなったのかもしれない。

 それでも俺はレインから目が離せなくなった。


「さ、ここじゃ落ち着いて話もできないし、俺の部屋に行こうか、ルト」


 甘く蕩けるような微笑みを向けられ、俺は…その手を握り返した。
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