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第十八章「奇跡の十字架」
限界
しおりを挟む「ザク…?」
ルトが振り返って顔を覗き込んでくる。不安を悟られたくなくて、ルトの視線から逃げるように顔を背けた。かわりに、もっと強い力で抱きしめる。
「すまねえ…でも、お前を失いたくない、失わせたくないんだ…」
「…わかってるよ。俺も、死にたいわけじゃない」
「ルト…」
せめてこの想いだけでも伝わってほしい…そう思って、優しくルトの額に口付けた。家族よりもっと大事な者に贈る親愛の証。
「…!」
ルトは少し驚いてから、爪先立ちになり同じように俺様の額に口付けてくる。
「ルト…っ」
「大丈夫だよきっと。だってほら、ザクが俺を守ってくれるんだろ?」
「…ああ」
そうだ、俺様がルトを守るんだ。
不安になってる場合じゃない。
「あらあらあ、見せ付けてくれるわねえ~」
いつぞやの酒場のマスターが近づいてきた。ルトが赤くなりながらマスターと会話を交わしていく。そこでふと話の流れで、マスターと一緒に病院に付き添うこととなった。
(病院なら、危険はない…か?)
万が一ルトが傷を負っても、病院の中にいればすぐ治療できる。宿やここにいるよりむしろ安全かもしれない。俺様はそう判断して、ルトと共に歩き出した。
…けれどそれが間違いだったと、俺様は後々、思い知る。
***
病院で出会った少女とその母親が仲直りするところまではよかった。しかし、その後少女がルトを引っ張っていったトイレでまさかの同族の気配を感じ取り、鳥肌がざわりと立つ。
(これは…ミラーゴーストか?)
「いや、いやだ、声が聞こえる…!!」
少女が頭を抱えて悲鳴をあげる。ミラーゴーストがぼそりぼそりと不気味な声で少女にだけ聞こえる声で囁いた。
=アンナノオ母サンジャナイヨ、オ母サンハ、アナタヲ信ジテクレルカラ=
「あんなのお母さんじゃない、お母さんはあなたを信じてくれる、信じてくれないのはお母さんじゃないからだって…!!」
(とりついた相手の一番言われたくない言葉を囁く…よくやる手法だ)
少女はまんまとゴーストにのせられどんどん精神を削られていく。
「ど、どうしたんだ、ハルカちゃん?」
ルトが慌てて少女に駆け寄る。ゴーストの声が聞こえていないルトはこの状況でひとり蚊帳の外だ。
=オ母サンジャナイオ母サンジャナイオ母サンジャナイオ母サンジャナイオ母サンジャナイ=
「違うの、お母さんはお母さんよ!!うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいいいい!!」
ゴーストに操られるように少女は髪を掻き乱しながら叫んだ。さすがに哀れに思い、最後の最後の瞬間に俺様はゴーストをじろりと睨みつけやった。ゴーストはビクリと震えて少女に囁くのをやめる。
すっ…
気絶した少女を抱き上げた。
「…ルト、この病院から出るぞ」
誘導するように言うがルトは首を振ってNoと言う。
「今のどういうことだよ?」
ルトは少女に親しみを覚えているためこの状況で捨て置けないのだろう。
(くそ…厄介なことになった)
いくら低レベルとはいえミラーゴーストという“人外”と関わるのは良くない。というか危険だ。こいつ自体はそこまで危険性はないが、こいつを手引きした“者”が危険なのだ。
ミラーゴーストは鏡に宿る思念が暴走したもの。だから一人では決して移動できない。
(こうやって何かに取り憑くには、宿っている鏡を持ち歩く協力者が必要だ)
そして俺様はその“誰か”が誰なのか…なんとなくわかっていた。少女は精神を蝕みこの病院に最近送り込まれたのだ。元の性格から百八十度変わる変貌…錯乱。それは、この街に一ヶ月前から起こっている、子供が失踪する事件の被害者の症状と似ていた。
つまり、この少女はナイトメアの事件に巻き込まれミラーゴーストをつけられて帰ってきた…そう考えるのが妥当だろう。少女に取り憑くミラーゴースト=ナイトメア相手だと思って臨む覚悟が必要ということだ。そんな面倒くさいこと絶対したくない。俺様はさっさとこの場から去りたくて早口で少女の今後を話す。精神を蝕む程度なら…すぐには死にはしない。支えてくれる家族もいる。
(こんな子供に構ってる場合じゃねえんだ、ルト)
「何言ってるんだ!!10年もあんなことになるなんて、ハルカちゃんの人生がぐちゃぐちゃになるだろ!!」
ルトは断固として少女のそばから離れようとしなかった。
(この、頑固者…っ!!)
「そんな事ッ!ルトと関係ないだろうがッ!!わかってるのか!!お前はレイスに告げられているんだぞ!!!!」
俺様が強めの言葉を選んで否定しても、こういう時に限ってルトは引いてくれない。果敢に、真っ直ぐな青い瞳をこちらに向けて噛みついてくる。
「ああ、そうだな。確かにハルカちゃんと俺は他人だよ。今日知ったばかりで今後も付き合っていくかわからない人達だよ…。でもそれをいったら俺たちもだろ?しかも悪魔と牧師だし。言ってしまったら俺とお前は他人どころじゃない、敵同士になるはずだ、なのに俺たちは」
(そうだ。わかってる。確かにその通りだ、ルト)
だが、今はそんな話をしている場合じゃない。一刻も早くこの少女から離れなければいけないのだ。もしもナイトメアの奴らがこの少女を回収にきたり、接触しにきたら…ルトに牙を向けてきたら…考えれば考えるほど嫌な方向に考えてしまう。
「ルト…今はそんな事を言ってる場合じゃない、お前は…」
「わかってるよ、でもハルカちゃんを放っておくなんてできない。だって、こうゆうことに俺が関わってきたから、ザクとも知り合えた…分かり合えたんだぞ、なのにお前がそれを否定するわけ?!」
ルトの必死な訴えが、夢に出てきたルトの声と重なる。
=オレを殺シテ=
何を思ったのか、ミラーゴーストが俺様に囁いてきた。
=オレを、オレヲソノ手デ殺しテ=
やめろ、やめろと呟き、奥歯を噛み締める。
(やめろ!!俺様が、殺すわけ、ないだろ!!誰にも…殺させない…!!!)
頭の中がぐちゃぐちゃで、色々な感情が溢れて、こぼれていく。普段なら制御できるはずの言葉も…止められなかった。
「………………………いやだ」
どうしてわかってくれないんだよ?
なんで言うことを聞いてくれないんだ?
死ぬと宣告されたのに、どうして危ないことに突っ込もうとする?
もしもお前が死んで俺様だけ残されたら、どうやって生きろと?
一人虚しくお前を守れなかった自分を呪い続ける惨めな人生を歩めというのか?
(勝手だ…ルトは本当に勝手だよな…!)
自分より弱い者を愛するという事に、俺様はものすごい疲労と限界を感じた。ぷつりと何かが切れたような気がする。
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