牧師に飼われた悪魔様

リナ

文字の大きさ
162 / 168
第十八章「奇跡の十字架」

限界

しおりを挟む

「ザク…?」

 ルトが振り返って顔を覗き込んでくる。不安を悟られたくなくて、ルトの視線から逃げるように顔を背けた。かわりに、もっと強い力で抱きしめる。

「すまねえ…でも、お前を失いたくない、失わせたくないんだ…」
「…わかってるよ。俺も、死にたいわけじゃない」
「ルト…」

 せめてこの想いだけでも伝わってほしい…そう思って、優しくルトの額に口付けた。家族よりもっと大事な者に贈る親愛の証。

「…!」

 ルトは少し驚いてから、爪先立ちになり同じように俺様の額に口付けてくる。

「ルト…っ」
「大丈夫だよきっと。だってほら、ザクが俺を守ってくれるんだろ?」
「…ああ」

 そうだ、俺様がルトを守るんだ。

 不安になってる場合じゃない。


「あらあらあ、見せ付けてくれるわねえ~」


 いつぞやの酒場のマスターが近づいてきた。ルトが赤くなりながらマスターと会話を交わしていく。そこでふと話の流れで、マスターと一緒に病院に付き添うこととなった。

(病院なら、危険はない…か?)

 万が一ルトが傷を負っても、病院の中にいればすぐ治療できる。宿やここにいるよりむしろ安全かもしれない。俺様はそう判断して、ルトと共に歩き出した。



 …けれどそれが間違いだったと、俺様は後々、思い知る。




 ***



 病院で出会った少女とその母親が仲直りするところまではよかった。しかし、その後少女がルトを引っ張っていったトイレでまさかの同族の気配を感じ取り、鳥肌がざわりと立つ。

(これは…ミラーゴーストか?)


「いや、いやだ、声が聞こえる…!!」


 少女が頭を抱えて悲鳴をあげる。ミラーゴーストがぼそりぼそりと不気味な声で少女にだけ聞こえる声で囁いた。

 =アンナノオ母サンジャナイヨ、オ母サンハ、アナタヲ信ジテクレルカラ=
「あんなのお母さんじゃない、お母さんはあなたを信じてくれる、信じてくれないのはお母さんじゃないからだって…!!」

 (とりついた相手の一番言われたくない言葉を囁く…よくやる手法だ)
 少女はまんまとゴーストにのせられどんどん精神を削られていく。

「ど、どうしたんだ、ハルカちゃん?」

 ルトが慌てて少女に駆け寄る。ゴーストの声が聞こえていないルトはこの状況でひとり蚊帳の外だ。

 =オ母サンジャナイオ母サンジャナイオ母サンジャナイオ母サンジャナイオ母サンジャナイ=
「違うの、お母さんはお母さんよ!!うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいいいい!!」

 ゴーストに操られるように少女は髪を掻き乱しながら叫んだ。さすがに哀れに思い、最後の最後の瞬間に俺様はゴーストをじろりと睨みつけやった。ゴーストはビクリと震えて少女に囁くのをやめる。

 すっ…

 気絶した少女を抱き上げた。

「…ルト、この病院から出るぞ」

 誘導するように言うがルトは首を振ってNoと言う。

「今のどういうことだよ?」

 ルトは少女に親しみを覚えているためこの状況で捨て置けないのだろう。

 (くそ…厄介なことになった)

 いくら低レベルとはいえミラーゴーストという“人外”と関わるのは良くない。というか危険だ。こいつ自体はそこまで危険性はないが、こいつを手引きした“者”が危険なのだ。

 ミラーゴーストは鏡に宿る思念が暴走したもの。だから一人では決して移動できない。

 (こうやって何かに取り憑くには、宿っている鏡を持ち歩くが必要だ)

 そして俺様はその“誰か”が誰なのか…なんとなくわかっていた。少女は精神を蝕みこの病院に最近送り込まれたのだ。元の性格から百八十度変わる変貌…錯乱。それは、この街に一ヶ月前から起こっている、子供が失踪する事件の被害者の症状と似ていた。

 つまり、この少女はナイトメアの事件に巻き込まれミラーゴーストをつけられて帰ってきた…そう考えるのが妥当だろう。少女に取り憑くミラーゴースト=ナイトメア相手だと思って臨む覚悟が必要ということだ。そんな面倒くさいこと絶対したくない。俺様はさっさとこの場から去りたくて早口で少女の今後を話す。精神を蝕む程度なら…すぐには死にはしない。支えてくれる家族もいる。

 (こんな子供に構ってる場合じゃねえんだ、ルト)

「何言ってるんだ!!10年もあんなことになるなんて、ハルカちゃんの人生がぐちゃぐちゃになるだろ!!」

 ルトは断固として少女のそばから離れようとしなかった。

 (この、頑固者…っ!!)


「そんな事ッ!ルトと関係ないだろうがッ!!わかってるのか!!お前はレイスに告げられているんだぞ!!!!」
 

 俺様が強めの言葉を選んで否定しても、こういう時に限ってルトは引いてくれない。果敢に、真っ直ぐな青い瞳をこちらに向けて噛みついてくる。

「ああ、そうだな。確かにハルカちゃんと俺は他人だよ。今日知ったばかりで今後も付き合っていくかわからない人達だよ…。でもそれをいったら俺たちもだろ?しかも悪魔と牧師だし。言ってしまったら俺とお前は他人どころじゃない、敵同士になるはずだ、なのに俺たちは」

 (そうだ。わかってる。確かにその通りだ、ルト)

 だが、今はそんな話をしている場合じゃない。一刻も早くこの少女から離れなければいけないのだ。もしもナイトメアの奴らがこの少女を回収にきたり、接触しにきたら…ルトに牙を向けてきたら…考えれば考えるほど嫌な方向に考えてしまう。

「ルト…今はそんな事を言ってる場合じゃない、お前は…」
「わかってるよ、でもハルカちゃんを放っておくなんてできない。だって、こうゆうことに俺が関わってきたから、ザクとも知り合えた…分かり合えたんだぞ、なのにお前がそれを否定するわけ?!」

 ルトの必死な訴えが、夢に出てきたルトの声と重なる。


 =オレを殺シテ=


 何を思ったのか、ミラーゴーストが俺様に囁いてきた。


 =オレを、オレヲソノ手デ殺しテ=


 やめろ、やめろと呟き、奥歯を噛み締める。

(やめろ!!俺様が、殺すわけ、ないだろ!!誰にも…殺させない…!!!)

 頭の中がぐちゃぐちゃで、色々な感情が溢れて、こぼれていく。普段なら制御できるはずの言葉も…止められなかった。



「………………………いやだ」



 どうしてわかってくれないんだよ?

 なんで言うことを聞いてくれないんだ?

 死ぬと宣告されたのに、どうして危ないことに突っ込もうとする?

 もしもお前が死んで俺様だけ残されたら、どうやって生きろと?

 一人虚しくお前を守れなかった自分を呪い続ける惨めな人生を歩めというのか?

(勝手だ…ルトは本当に勝手だよな…!)

 自分より弱い者を愛するという事に、俺様はものすごい疲労と限界を感じた。ぷつりと何かが切れたような気がする。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

竜人息子の溺愛!

神谷レイン
BL
コールソン書店の店主レイ(三十七歳)は、十八歳になったばかりの育て子である超美形の竜人騎士であるルークに結婚を迫られていた。 勿論レイは必死に断るがルークは全然諦めてくれず……。 だが、そんな中で竜国から使者がやってくる。 そしてルークはある事実を知らされ、レイはそれに巻き込まれてしまうのだが……。 超美形竜人息子×自称おじさん

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

偏食の吸血鬼は人狼の血を好む

琥狗ハヤテ
BL
人類が未曽有の大災害により絶滅に瀕したとき救済の手を差し伸べたのは、不老不死として人間の文明の影で生きていた吸血鬼の一族だった。その現筆頭である吸血鬼の真祖・レオニス。彼は生き残った人類と協力し、長い時間をかけて文明の再建を果たした。 そして新たな世界を築き上げた頃、レオニスにはひとつ大きな悩みが生まれていた。 【吸血鬼であるのに、人の血にアレルギー反応を引き起こすということ】 そんな彼の前に、とても「美味しそうな」男が現れて―――…?! 【孤独でニヒルな(絶滅一歩手前)の人狼×紳士でちょっと天然(?)な吸血鬼】 ◆閲覧ありがとうございます。小説投稿は初めてですがのんびりと完結まで書いてゆけたらと思います。「pixiv」にも同時連載中。 ◆ダブル主人公・人狼と吸血鬼の一人称視点で交互に物語が進んでゆきます。 ◆年齢制限の話数には(R)がつきます。ご注意ください。 ◆未来、部分的に挿絵や漫画で描けたらなと考えています☺

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…? 2025/09/12 ★1000 Thank_You!!

好きです、朝比奈先パイ。~元引きこもりの美少年、陽キャヤンキー先輩に溺愛される~

すずなりたま
BL
 小中学校でいじめに遭い、引きこもりだった少年、斉賀希。 自分を変えるために渾身のイメチェンをし、過保護な親元を離れて男子校へと入学した。  しかし入学式の前日、寮で不良たちに絡まれ大ピンチ!!そんな希のピンチを救ってくれたのは、悪名高い二年の朝比奈柊馬だった。  希は礼をするために朝比奈を探すのだが、見つけた途端強引に彼の部屋へと連れ込まれて……!? 表紙イラスト:風鈴さん

処理中です...