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二章 前島稔はαである
90 実は悩みがあったんです
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「前島クンはいつもなら、気にせずとっとと忘れるだろうに。フェロモン事故になりかけたの、そんなにショックだったか?」
従兄さんがそう聞いてきたけれど。まあね、フェロモンについては僕にはお悩み案件でもあるもので。
「僕はフェロモンをずっと抑えて生活してきたし、フェロモン関連の話をするのも苦手なんです。香坂が近くにいると自然とフェロモンが漏れるのだって、やっと慣れたところなんですよ」
僕は黙秘していても仕方ないと思って、これまで誰にも話したことのない事情を話すと、従兄さんが「それでか」と相槌を打つ。
「確かに、前島クンってフェロモンのコントロールがやたら上手いとは思った。怜がいなかったらβ並みに無臭だし、余程勘が良くなけりゃ気付かねぇよ」
「常に抑える癖がついているもので」
そう言って苦笑いする僕を、不思議そうに見るのが裕也さんだ。
「フェロモンをダダ漏れなのもどうかと思うが、無臭にするなんて、なんでそんな面倒なことをするんだ?」
意味不明だと言いたげな裕也さんだけれど、従兄さんはピンときたみたいだ。
「そうか、前島クンは家族みんなβか。近い身内にもαやΩはいなかったのか?」
従兄さんに言われて、僕は黙って頷く。
母方の祖父の兄弟に早くに亡くなったαがいたみたいだから、僕がαなのはそっちからの遺伝だろうって言われたっけな。そんなβ家系だったから余計に、僕がバース性検査でαだったのが周りとトラブったんだ。それにβばかりに囲まれていると、αとして色々差し障りが出てくるわけで。
「それだと、フェロモンの話はし辛いか」
従兄さんが言う通り、問題の一番大きなものがまさにソレである。
「これまで友人付き合いがあったのもみんなβだし。産婦人科兼Ω医の叔父がいたのは、教科書代わりになって助かりはしましたけれど。それでもねぇ……」
僕はそう言いながらため息を吐く。
βは自らフェロモンを出すことはないし、αやΩのフェロモンにも鈍く、相当濃く香ってから気付くくらいだ。そんなβにフェロモンの話なんてしても現実味がない。それどころか、ドラマや漫画で見るようなエロネタの一種に思う輩もいる。
「あ~、高校生だとエロネタにされがちだよねぇ」
「ガキだしな」
僕の身の上話に、従兄さんも裕也さんも似たような経験があるみたいで、そこは少しホッとした。
もちろん家族は昔からフェロモンのことを茶化したことがないし、真面目に考えてくれるけれど、本当の感覚はわからないわけで。おまけに僕はαであることをずっと拗らせていたから、父さんも会社の知り合いのαを相談相手にと紹介するのを躊躇ったみたい。
そんな拗らせαだった僕にとって唯一の例外が、あの城崎先輩だった。あの人はβであってもお姉さんの伝手でαに詳しかったし、こっちの気持ちなんてお構いなしでグイグイくるから。それで色々な実地での知識を貰えたかな。大学に入ってαの先輩と知り合ってからも、ちょっと自分の視野が広まった。
そうやって僕がαとしてぼちぼちやれるようになったところで再会したのが、香坂だった。
「香坂が僕のフェロモンテロのせいで苦労をした話は、まさに青天の霹靂っていうか」
「フェロモンテロってなんだ?」
事情を知らない裕也さんに、従兄さんがざっくりと説明してくれているけれど。香坂とは高校でずっと同じクラスだったにもかかわらず、Ωだって気付かなかったっていうのも落ち込み案件だった。僕自身がバース性で嫌な目に遭っていたのに、香坂に似たようなことをしていたってことじゃん? その反省もあって、香坂にはせめて僕から優しい世界をあげたかった。
それを酒が台無しにしてくれたんだ。
「酒のせいとはいえ二度目をやらかした上に、覚えていない内に傷付けたのがすごくショックで……」
ヤバい、言っててまた落ち込んできた僕だけれど、煙草をふかす裕也さんが聞いた。
「オイ、前島は香坂を初めて見た時、フェロモンに異変がなかったのか?」
この裕也さんの問いになんと答えるかと迷う僕に、従兄さんが口出ししてくる。
「前島クン、相談するなら今よ? この裕也は『運命』レベルの相性のオメガがいる、いわば前島クンの先輩だから」
「そうなんですか!?」
これには僕もビックリで、「運命」レベルの相性ってそうそうないって聞くけれど、まさかの先輩が身近にいたとか。しかもこの裕也さんのお相手って、あのΩ警官の高瀬さんじゃなかったっけ? 言ってはなんだがちょっと怖めでヤクザ味のある裕也さんと、あの真面目そうな高瀬さんが恋人っていうのも「え!?」って聞き直したくなるのに。すごい人たちに「運命」が舞い降りたんだね?
従兄さんがそう聞いてきたけれど。まあね、フェロモンについては僕にはお悩み案件でもあるもので。
「僕はフェロモンをずっと抑えて生活してきたし、フェロモン関連の話をするのも苦手なんです。香坂が近くにいると自然とフェロモンが漏れるのだって、やっと慣れたところなんですよ」
僕は黙秘していても仕方ないと思って、これまで誰にも話したことのない事情を話すと、従兄さんが「それでか」と相槌を打つ。
「確かに、前島クンってフェロモンのコントロールがやたら上手いとは思った。怜がいなかったらβ並みに無臭だし、余程勘が良くなけりゃ気付かねぇよ」
「常に抑える癖がついているもので」
そう言って苦笑いする僕を、不思議そうに見るのが裕也さんだ。
「フェロモンをダダ漏れなのもどうかと思うが、無臭にするなんて、なんでそんな面倒なことをするんだ?」
意味不明だと言いたげな裕也さんだけれど、従兄さんはピンときたみたいだ。
「そうか、前島クンは家族みんなβか。近い身内にもαやΩはいなかったのか?」
従兄さんに言われて、僕は黙って頷く。
母方の祖父の兄弟に早くに亡くなったαがいたみたいだから、僕がαなのはそっちからの遺伝だろうって言われたっけな。そんなβ家系だったから余計に、僕がバース性検査でαだったのが周りとトラブったんだ。それにβばかりに囲まれていると、αとして色々差し障りが出てくるわけで。
「それだと、フェロモンの話はし辛いか」
従兄さんが言う通り、問題の一番大きなものがまさにソレである。
「これまで友人付き合いがあったのもみんなβだし。産婦人科兼Ω医の叔父がいたのは、教科書代わりになって助かりはしましたけれど。それでもねぇ……」
僕はそう言いながらため息を吐く。
βは自らフェロモンを出すことはないし、αやΩのフェロモンにも鈍く、相当濃く香ってから気付くくらいだ。そんなβにフェロモンの話なんてしても現実味がない。それどころか、ドラマや漫画で見るようなエロネタの一種に思う輩もいる。
「あ~、高校生だとエロネタにされがちだよねぇ」
「ガキだしな」
僕の身の上話に、従兄さんも裕也さんも似たような経験があるみたいで、そこは少しホッとした。
もちろん家族は昔からフェロモンのことを茶化したことがないし、真面目に考えてくれるけれど、本当の感覚はわからないわけで。おまけに僕はαであることをずっと拗らせていたから、父さんも会社の知り合いのαを相談相手にと紹介するのを躊躇ったみたい。
そんな拗らせαだった僕にとって唯一の例外が、あの城崎先輩だった。あの人はβであってもお姉さんの伝手でαに詳しかったし、こっちの気持ちなんてお構いなしでグイグイくるから。それで色々な実地での知識を貰えたかな。大学に入ってαの先輩と知り合ってからも、ちょっと自分の視野が広まった。
そうやって僕がαとしてぼちぼちやれるようになったところで再会したのが、香坂だった。
「香坂が僕のフェロモンテロのせいで苦労をした話は、まさに青天の霹靂っていうか」
「フェロモンテロってなんだ?」
事情を知らない裕也さんに、従兄さんがざっくりと説明してくれているけれど。香坂とは高校でずっと同じクラスだったにもかかわらず、Ωだって気付かなかったっていうのも落ち込み案件だった。僕自身がバース性で嫌な目に遭っていたのに、香坂に似たようなことをしていたってことじゃん? その反省もあって、香坂にはせめて僕から優しい世界をあげたかった。
それを酒が台無しにしてくれたんだ。
「酒のせいとはいえ二度目をやらかした上に、覚えていない内に傷付けたのがすごくショックで……」
ヤバい、言っててまた落ち込んできた僕だけれど、煙草をふかす裕也さんが聞いた。
「オイ、前島は香坂を初めて見た時、フェロモンに異変がなかったのか?」
この裕也さんの問いになんと答えるかと迷う僕に、従兄さんが口出ししてくる。
「前島クン、相談するなら今よ? この裕也は『運命』レベルの相性のオメガがいる、いわば前島クンの先輩だから」
「そうなんですか!?」
これには僕もビックリで、「運命」レベルの相性ってそうそうないって聞くけれど、まさかの先輩が身近にいたとか。しかもこの裕也さんのお相手って、あのΩ警官の高瀬さんじゃなかったっけ? 言ってはなんだがちょっと怖めでヤクザ味のある裕也さんと、あの真面目そうな高瀬さんが恋人っていうのも「え!?」って聞き直したくなるのに。すごい人たちに「運命」が舞い降りたんだね?
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