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第2章 【異世界からの侵略者】
第2章1 【行き倒れの軍師】
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ヴァル「待てゴルァ!!」
炎の息吹が裏路地を伝い、全てを溶かしてしまいそうな勢いで、ある男を狙っている。
今回の依頼は、最近巷を騒がせている大泥棒『ガイル』の捕獲。何でも、最近私達が住む街シグルアに頻出しているらしい。なので、地元のギルドである私達グランメモリーズが、王国騎士団に代わって捕まえるということだ。
なんでわざわざ私達がやらなきゃいけないのかと言うと、簡単な話、相手が魔導士だからだ。そら、魔法部隊じゃない騎士団じゃ捕まえられないよね。仕方ない仕方ない。
ヴェルド「アイスグラウンド!」
ガイル「ヒョイっと!」
ヴェルドが足元を凍らせるが、ガイルは高く飛んで回避し、そのまま壁を伝って逃げ出す。
盗賊らしく、身体能力の強化に長けた魔法だ。逃げるだけなら、これくらいの魔法で十分すぎるだろう。まあ、是が非でも捕まえてやるけど。
ヴェルド「クソっ!アイスウォール!」
避けられるのならば正面を押さえるだけと、ヴェルドは壁を高く築くが、ガイルはその壁を垂直に登って行ってしまった。
ヴェルド「マジかよ!?」
ガイル「へんっ、ギルドの魔導士ってのも大したことねぇな!あ、ギルドはギルドでも、最弱だったかー!悪ぃ悪ぃ」
そう言い残し、ガイルはヒョイっと飛び降りて走り去って行った。
ヴァル「言うだけ言ってくれんな」
ヴェルド「ああ、ちょっと痛い目見せてやんねぇとな」
「うん。絶対に捕まえてやろう」
エフィ「み、みなさんオーラが変わりましたね……」
ーーこのギルドに入ってから2ヶ月。私の心には、すっかりと愛国心ならぬ愛ギルド心というものが芽生えていた。最初の頃は自分でもバカにしていたのに、気づけばグランメモリーズが最弱と呼ばれることに関して物凄く過剰に反応するようになった。
ヴァル「一方から追いかけるだけじゃダメだな。やっぱ、挟み撃ちしてぶん殴るか!」
ヴァルが拳と拳を打ち合わせて火花を散らす。拳の打ち合わせだけで火花を散らせる人初めて見た。
ーーヴァルの言う通り、挟み撃ちを仕掛けた方がいいな、これは。となると……、作戦は固まった。
「私が精霊を使って正面から追い込む。ヴェルドとエフィは氷と錬金術で左右に壁を作って」
ヴェルド「壁か。でも、登られるだろ?」
「うん。だから、次は番を付けたらいいと思う。ほら、ヘビが多い地域の食料庫なんか、ヘビが登ってこないようにするために付けてるでしょ?」
エフィ「なるほど、それは良い案ですね」
「で、正面と左右を抑えたら、後ろからヴァルが奇襲。出来るだけ一撃で倒して」
ヴァル「任せとけ!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ガイル「おっ、あいつら諦めたか」
「そんなわけないでしょ!お願い!ホウライ!」
小枝型の鍵を取り出し、大樹の精霊『ホウライ』を呼び出す。
ホウライは、鍵の見た目そのままに木のような姿をしていて、かなり年季を感じさせる皺がある。そして、普段から言葉を発さないが、私の指示には首を縦に振って答えてくれる。
使える魔法は念力系の魔法。範囲は限られてるし、私のマナ消費も激しいけど、その分拘束力は絶大だ。
「ホウライ、あのクソ男を縛り付けちゃって!」
ガイル「あぁん?っと、おいおいおい!何だこりゃ!」
ホウライの念力が男の体を持ち上げ、空中でガッチリと固定する。
ガイル「ちっ、だが、俺様の魔法はこんなのにも屈しねぇぜ?」
ヴェルド「じゃあ、屈するまでボコボコにしてやるよ!アイスウォール!」
エフィ「錬成します!」
ヴェルドの氷の壁と、エフィが地形を操って作り出した土壁が、ガイルの逃げ場を失わせる。仮に念力から逃れたとしても、逃げ場は私がいる方か後ろの方かのどちらかしかない。
こんな状況で、精霊のいる私の方に逃げるバカなんていないだろう。最も、後ろから迫ってくるもっとヤバい奴に気づかなければの話だけどね。
ガイル「ちっ……。フンっ、こんなので俺様がやられるかよっ!」
ガイルがホウライの念力を突破し、左右にある壁を伝って上から逃げ出そうとした。
うわぁ、凄い跳躍力。でも、返しがあるせいで下の方にまで落ちちゃった。それくらいちゃんと見とこうよ……まあ、私達としては助かっちゃうんだけど。
ガイル「ちっ、めんどくせぇことしやがって……」
ガイルがサッと身を翻して後ろに逃げようとした。しかし、そこには炎の壁が出来上がっていて、その壁がガイルを包み込むようにして炎の陣を作り上げた。
ヴァル「よう、泥棒さんよぉ、降参するってなら、俺はこれ以上何もしねぇが、どうする?」
ヴァルが炎を拳にまとわりつかせ、ガイルの前に現れた。
ガイル「なぁにが、炎だ。こんなもんーー」
ヴァル「オラァっ!」
ガイル「ブハッ……!」
ガイルが何かを言い終える前に、ヴァルの怒りが込められた拳が、ガイルの左頬を抉るように殴り飛ばした。
ヴァル「悪ぃ、なんかムカついた」
「「「 …… 」」」
ーーまあ、これで依頼完了なわけだし、これでいっか。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「よくやってくれた。グランメモリーズの魔導師よ。少ないかもしれないが、これは報酬だ」
そう言うと兵士の人は金貨が入った皮袋を差し出す。
エフィ「かなりの額ですね」
私達は揃って皮袋の中を見て、全員が全員目を丸くする。それ程までに報酬が多かった。
盗賊を捕まえただけ。ただそれだけの事なのに、こんなにくれるとは、余程騎士団の人も困っていたんだろうな。
「奴はいろんな所を盗みに回り、被害総額はざっと見積っただけで5000万ゼルは行くからな」
「ご、5000万!?」
兵士が話す被害総額に、私はまたしても目を丸くする。
「それくらいの手練ってことだ。まあ、何はともあれ助かったぞ。ありがとう」
ヴァル「また、なんか困ったことがあったらうちを訪ねてきたな。いつでも相談に乗ってやるぜ」
ヴァルはそう言うと詰所を出ていこうとする。私達も、それについて行くようにして詰所を出た。
ヴェルド「5000万かぁ……」
詰所を出たところで、ヴェルドがどことなく上の空みたいな感じでそう呟く。
ヴァル「そんだけありゃ、さぞ自由に暮らせるだろうな。バカな奴だ。俺らを怒らせたばっかりに」
いや、私達を怒らせなくとも、元々あの人捕まえる予定だったじゃん。
ヴェルド「んま、あんな仕事で魔獣騒ぎよりも稼ぎいいんだから、世の中何が大事なのか本当分かんねぇよな」
それは分かる。世の中、頑張っている人ほど損してるってのはよく聞く。だから、なるべく自堕落に生きて、楽していくのが賢い生き方……もしや、このギルドってそれを体現してるようなところだから弱いのでは?
私は1つの真理に辿り着いてしまったかもしれない。気づかなければ良かったものを……いや、気づかなくても、どうせ変わんないんでしょ。このギルドが弱いってことに。
ヴァル「どうしたセリカ?そんなヒールにゴキブリでも入ってたかのような顔して」
「私そんな酷い顔してる?」
ヴァル「少なくとも、凄い眉間にシワよってるな」
そんなに酷い顔してたんだ……何でだろ。よく分かんないや。
ヴァル「そうそう、俺らこのままギルド帰るけど、セリカどうすんだ?今日はもう仕事しねぇぞ」
T字路に差し掛かったところで、ヴァルが振り向きそう言ってきた。
ヴェルド「それいつもだろ」
ヴァル「ハハッ、そうかもしんねぇ」
「私は今日の夕飯の食材買いたいし、このまま商店街に行く」
ヴァル「そうか、んじゃ、ここで一旦お別れだな。エフィはどうする?」
エフィ「私はこのままギルドに戻ります」
ヴァル「分かった。じゃあな、セリカ」
「うん、またね」
たわいもない雑談をして、私とヴァル達はそれぞれ別の方向へと足を進めた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「あーあ、ちょっと買いすぎちゃったかな?」
私は左肩にぶら下げた鞄の中身を見て、そう呟く。
そんなガッツリと自炊するわけでもないのに、何やってんだろ。まあ、日持ちするようなものを選んでるし、しばらく買い物に出なくても良くなるって考えればいいか。
「でもちょっと重いかも……近道しよ」
昼間だというのに薄暗い路地を発見し、私はここが家までの近道であることを思い出した。
狭いし、薄暗いからちょっと不気味なんだけど、お化けなんて出る訳ないし、ましてやこんな街で痴漢を働こうなんて人もいないだろうから、この道を使おう。ーーそう言えば、エフィがお化けの動物さんに力を貸してもらったとか言ってた気がする……。まあいいか。
「うーん、やっぱり狭い」
ギリギリ人が2人すれ違えるくらいの狭さ。それ程苦労する道でもないけど、さっきすれ違ったローブを着た人は、妙に苦しそうにしていた。もしかして、鞄で変に圧迫しちゃったかな?
《バタン》
ーーと、そう思っていた時、後ろで何かが倒れる音がした。
「ーーえ?」
私は振り返り、倒れたものの正体を見る。すると、そこにはさっきすれ違ったローブの人が倒れていた。
え、嘘。まさか本当に圧迫しちゃった?
なんて、ありもしない不安を抱きつつ、私はそっとローブの人に駆け寄り、頭にかけてあるパーカーを外す。
「あの、大丈夫ですか?」
透き通るように青みがかかった納戸色の髪。フードを外した時の髪の立ち方から、かなりサラッとした綺麗な髪であると思われる。あと、顔立ちからして女性の人だ。フウロ以上に美人かもしれない。
「お……った……」
「はい?何ですか?」
今、この女の人が呻くように言葉を発した。
「お腹……減った……」
ーーなんだ、ただの行き倒れか。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ごちそうさまぁ」
お腹が空いたと言うからギルドに連れて帰ってミラさん達に事情を説明し、なにか食べさせたが、余程空腹だったのだろう。出されたカレーを一瞬で平らげてしまった。
ヴァル「で、セリカ。こいつは誰なんだ?」
ここぞとばかりにヴァルが問いかけてくる。
「なんか、道端で倒れてて、心配だったから連れてきちゃった」
ヴァル「無茶苦茶元気じゃねえか」
「アハハ。多分空腹が解消されたからだよ」
私は作り笑いでもしてみる。
「あなた、よければお名前を教えてくれると助かるのだけれど」
ミラさんが皿を取りに来て尋ねる。
「名前......ですか。そう言えば食べるのに必死で言ってませんでしたね」
そう言うとその少女はナプキンで口元を拭ってからこう告げた。
「私の名前はヒカリ・スターフィリアといいます。今はどこの軍にも属さない軍師をやっています」
そう言うとその少女改めヒカリは礼儀正しくお辞儀をするのであった。
ヴァル「ヒカリか......それはそうとなんでお前、道端で倒れてここに運ばれるようなことになったんだ?」
「それはその......」
ヒカリが何かを言っているのだが声が小さくてよく聞こえない。
ライオス「もっとはっきり言ってくれ」
ライオスがヒカリに詰め寄ってそう言う。
ヒカリ「あ、はい。その、私どこの軍にも属さない軍師と言いましたが、仕事が無くてそれで......」
ヴェルド「何も食べるものが得られなくて倒れたってわけか......」
ヴェルドがその先の言葉を言った。
ヒカリ「まあ、そういうことです」
ミラ「仕事が無い......ねぇ」
ヴェルド「仕方ねえよな。今の世の中じゃ軍師とか魔導士ってのはどこかのギルドに入るなり、軍隊にでも属さない限り仕事なんて見つからねえよなぁ」
そうよね。私だって、このギルドに来る前は別のところで働いてたわけだし、魔導士って働ける場所が多いように見えて少ないもん。
ミラ「ねぇ、うちのギルドに入れるってのはどうかしら?」
ヴァル「確かにそれがいいかもしれねえな。また倒れてここに来られるようじゃ困るし」
そう何度も行き倒れる事なんて無いと思うけど、ギルドに入れるってのは私も賛成だ。
ヴァル「おい、お前。良かったらうちのギルドに入らねえか?」
ヴァルがヒカリに問いかける。
ヒカリ「え?でも、私なんかじゃ......」
ヴァル「大丈夫大丈夫。うちのギルドはみんな優しいし、賑やかで楽しいぞ」
ヒカリ「でも、私弱いですよ?皆さんの役に立てません」
ーー大丈夫大丈夫。うちのギルド自体弱いから。
ヴァル「心配するな。うちのギルドは強い弱い関係なくどんな奴でも大歓迎だ」
ヒカリ「そうですか......」
そして、ヒカリは何かを考えるようにした後、こう言った。
ヒカリ「分かりました。ではここのギルドに入らせてもらいます」
ヴァル「うおっしゃ!」
ヴァルがそう叫ぶ。
ライオス「おい、おめえら!酒を持ってこい!」
ライオスが『ギーグ』、『レイ』、『デン』に指示をする。ちなみに、この3人はライオス護衛隊という名の三馬鹿。ライオスへの忠誠心は何者にも勝るが、それ故に馬鹿を繰り返す。まあ、シアラ同様悪い人達ではない。
ーーところで、なんで、酒が必要なの?
ヒカリ「ふふ、賑やかですね」
そう言ってヒカリは微笑んだ。
ヴァル「そういや、お前。なんの魔法が使えるんだ?」
ヴァルが問いかける。
それは私も気になっていたことだ。
ヒカリ「使えませんよ」
ヴァル「は?今なんて?」
ヴァルは聞き返した。
ヒカリ「だから、魔法は使えませんって」
ヒカリはちょっと厳しめの口調で言う。
ヴァル「魔法が使えないってどういうことだ?」
ヒカリ「私、昔、ちょっとしたことをやらかして魔法が使えない体になってしまったんです」
ーー魔法が使えない事と今の発言。恐らくは私と似たようにマナの出し入れが出来ない体なのだろう。昔、やらかしたってのが気になるところだけど。
ヴァル「それじゃ、お前、戦えないのか?」
ヒカリ「戦えなくはないです。魔法がなくても知恵がありますし、銃を扱うことだって出来ますし」
ヴァル「そ......うなのか......」
ヴァルは何かを悟ったらしく声のトーンを下げた。
ヒカリ「気にしなくても良いですよ。私は気にしてませんから」
私には、この時のヒカリが無理矢理笑顔を作っているように見えたーー
ヴァル「そう言えばセリカ、お前買い物に出かけたはずだろ?荷物どうした?」
ヴァルが尋ねてくる。
「あぁ!そう言えば」
ヒカリを運ぶ時にしれっとあの場所に置いてきちゃった!
ヴェルド「今なら間に合うんじゃねぇか?」
「うん、ちょっと行ってくる!」
色々気になることはあるけど、私は買い物袋を回収するためだけに全力ダッシュでギルドを飛び出した。
炎の息吹が裏路地を伝い、全てを溶かしてしまいそうな勢いで、ある男を狙っている。
今回の依頼は、最近巷を騒がせている大泥棒『ガイル』の捕獲。何でも、最近私達が住む街シグルアに頻出しているらしい。なので、地元のギルドである私達グランメモリーズが、王国騎士団に代わって捕まえるということだ。
なんでわざわざ私達がやらなきゃいけないのかと言うと、簡単な話、相手が魔導士だからだ。そら、魔法部隊じゃない騎士団じゃ捕まえられないよね。仕方ない仕方ない。
ヴェルド「アイスグラウンド!」
ガイル「ヒョイっと!」
ヴェルドが足元を凍らせるが、ガイルは高く飛んで回避し、そのまま壁を伝って逃げ出す。
盗賊らしく、身体能力の強化に長けた魔法だ。逃げるだけなら、これくらいの魔法で十分すぎるだろう。まあ、是が非でも捕まえてやるけど。
ヴェルド「クソっ!アイスウォール!」
避けられるのならば正面を押さえるだけと、ヴェルドは壁を高く築くが、ガイルはその壁を垂直に登って行ってしまった。
ヴェルド「マジかよ!?」
ガイル「へんっ、ギルドの魔導士ってのも大したことねぇな!あ、ギルドはギルドでも、最弱だったかー!悪ぃ悪ぃ」
そう言い残し、ガイルはヒョイっと飛び降りて走り去って行った。
ヴァル「言うだけ言ってくれんな」
ヴェルド「ああ、ちょっと痛い目見せてやんねぇとな」
「うん。絶対に捕まえてやろう」
エフィ「み、みなさんオーラが変わりましたね……」
ーーこのギルドに入ってから2ヶ月。私の心には、すっかりと愛国心ならぬ愛ギルド心というものが芽生えていた。最初の頃は自分でもバカにしていたのに、気づけばグランメモリーズが最弱と呼ばれることに関して物凄く過剰に反応するようになった。
ヴァル「一方から追いかけるだけじゃダメだな。やっぱ、挟み撃ちしてぶん殴るか!」
ヴァルが拳と拳を打ち合わせて火花を散らす。拳の打ち合わせだけで火花を散らせる人初めて見た。
ーーヴァルの言う通り、挟み撃ちを仕掛けた方がいいな、これは。となると……、作戦は固まった。
「私が精霊を使って正面から追い込む。ヴェルドとエフィは氷と錬金術で左右に壁を作って」
ヴェルド「壁か。でも、登られるだろ?」
「うん。だから、次は番を付けたらいいと思う。ほら、ヘビが多い地域の食料庫なんか、ヘビが登ってこないようにするために付けてるでしょ?」
エフィ「なるほど、それは良い案ですね」
「で、正面と左右を抑えたら、後ろからヴァルが奇襲。出来るだけ一撃で倒して」
ヴァル「任せとけ!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ガイル「おっ、あいつら諦めたか」
「そんなわけないでしょ!お願い!ホウライ!」
小枝型の鍵を取り出し、大樹の精霊『ホウライ』を呼び出す。
ホウライは、鍵の見た目そのままに木のような姿をしていて、かなり年季を感じさせる皺がある。そして、普段から言葉を発さないが、私の指示には首を縦に振って答えてくれる。
使える魔法は念力系の魔法。範囲は限られてるし、私のマナ消費も激しいけど、その分拘束力は絶大だ。
「ホウライ、あのクソ男を縛り付けちゃって!」
ガイル「あぁん?っと、おいおいおい!何だこりゃ!」
ホウライの念力が男の体を持ち上げ、空中でガッチリと固定する。
ガイル「ちっ、だが、俺様の魔法はこんなのにも屈しねぇぜ?」
ヴェルド「じゃあ、屈するまでボコボコにしてやるよ!アイスウォール!」
エフィ「錬成します!」
ヴェルドの氷の壁と、エフィが地形を操って作り出した土壁が、ガイルの逃げ場を失わせる。仮に念力から逃れたとしても、逃げ場は私がいる方か後ろの方かのどちらかしかない。
こんな状況で、精霊のいる私の方に逃げるバカなんていないだろう。最も、後ろから迫ってくるもっとヤバい奴に気づかなければの話だけどね。
ガイル「ちっ……。フンっ、こんなので俺様がやられるかよっ!」
ガイルがホウライの念力を突破し、左右にある壁を伝って上から逃げ出そうとした。
うわぁ、凄い跳躍力。でも、返しがあるせいで下の方にまで落ちちゃった。それくらいちゃんと見とこうよ……まあ、私達としては助かっちゃうんだけど。
ガイル「ちっ、めんどくせぇことしやがって……」
ガイルがサッと身を翻して後ろに逃げようとした。しかし、そこには炎の壁が出来上がっていて、その壁がガイルを包み込むようにして炎の陣を作り上げた。
ヴァル「よう、泥棒さんよぉ、降参するってなら、俺はこれ以上何もしねぇが、どうする?」
ヴァルが炎を拳にまとわりつかせ、ガイルの前に現れた。
ガイル「なぁにが、炎だ。こんなもんーー」
ヴァル「オラァっ!」
ガイル「ブハッ……!」
ガイルが何かを言い終える前に、ヴァルの怒りが込められた拳が、ガイルの左頬を抉るように殴り飛ばした。
ヴァル「悪ぃ、なんかムカついた」
「「「 …… 」」」
ーーまあ、これで依頼完了なわけだし、これでいっか。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「よくやってくれた。グランメモリーズの魔導師よ。少ないかもしれないが、これは報酬だ」
そう言うと兵士の人は金貨が入った皮袋を差し出す。
エフィ「かなりの額ですね」
私達は揃って皮袋の中を見て、全員が全員目を丸くする。それ程までに報酬が多かった。
盗賊を捕まえただけ。ただそれだけの事なのに、こんなにくれるとは、余程騎士団の人も困っていたんだろうな。
「奴はいろんな所を盗みに回り、被害総額はざっと見積っただけで5000万ゼルは行くからな」
「ご、5000万!?」
兵士が話す被害総額に、私はまたしても目を丸くする。
「それくらいの手練ってことだ。まあ、何はともあれ助かったぞ。ありがとう」
ヴァル「また、なんか困ったことがあったらうちを訪ねてきたな。いつでも相談に乗ってやるぜ」
ヴァルはそう言うと詰所を出ていこうとする。私達も、それについて行くようにして詰所を出た。
ヴェルド「5000万かぁ……」
詰所を出たところで、ヴェルドがどことなく上の空みたいな感じでそう呟く。
ヴァル「そんだけありゃ、さぞ自由に暮らせるだろうな。バカな奴だ。俺らを怒らせたばっかりに」
いや、私達を怒らせなくとも、元々あの人捕まえる予定だったじゃん。
ヴェルド「んま、あんな仕事で魔獣騒ぎよりも稼ぎいいんだから、世の中何が大事なのか本当分かんねぇよな」
それは分かる。世の中、頑張っている人ほど損してるってのはよく聞く。だから、なるべく自堕落に生きて、楽していくのが賢い生き方……もしや、このギルドってそれを体現してるようなところだから弱いのでは?
私は1つの真理に辿り着いてしまったかもしれない。気づかなければ良かったものを……いや、気づかなくても、どうせ変わんないんでしょ。このギルドが弱いってことに。
ヴァル「どうしたセリカ?そんなヒールにゴキブリでも入ってたかのような顔して」
「私そんな酷い顔してる?」
ヴァル「少なくとも、凄い眉間にシワよってるな」
そんなに酷い顔してたんだ……何でだろ。よく分かんないや。
ヴァル「そうそう、俺らこのままギルド帰るけど、セリカどうすんだ?今日はもう仕事しねぇぞ」
T字路に差し掛かったところで、ヴァルが振り向きそう言ってきた。
ヴェルド「それいつもだろ」
ヴァル「ハハッ、そうかもしんねぇ」
「私は今日の夕飯の食材買いたいし、このまま商店街に行く」
ヴァル「そうか、んじゃ、ここで一旦お別れだな。エフィはどうする?」
エフィ「私はこのままギルドに戻ります」
ヴァル「分かった。じゃあな、セリカ」
「うん、またね」
たわいもない雑談をして、私とヴァル達はそれぞれ別の方向へと足を進めた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「あーあ、ちょっと買いすぎちゃったかな?」
私は左肩にぶら下げた鞄の中身を見て、そう呟く。
そんなガッツリと自炊するわけでもないのに、何やってんだろ。まあ、日持ちするようなものを選んでるし、しばらく買い物に出なくても良くなるって考えればいいか。
「でもちょっと重いかも……近道しよ」
昼間だというのに薄暗い路地を発見し、私はここが家までの近道であることを思い出した。
狭いし、薄暗いからちょっと不気味なんだけど、お化けなんて出る訳ないし、ましてやこんな街で痴漢を働こうなんて人もいないだろうから、この道を使おう。ーーそう言えば、エフィがお化けの動物さんに力を貸してもらったとか言ってた気がする……。まあいいか。
「うーん、やっぱり狭い」
ギリギリ人が2人すれ違えるくらいの狭さ。それ程苦労する道でもないけど、さっきすれ違ったローブを着た人は、妙に苦しそうにしていた。もしかして、鞄で変に圧迫しちゃったかな?
《バタン》
ーーと、そう思っていた時、後ろで何かが倒れる音がした。
「ーーえ?」
私は振り返り、倒れたものの正体を見る。すると、そこにはさっきすれ違ったローブの人が倒れていた。
え、嘘。まさか本当に圧迫しちゃった?
なんて、ありもしない不安を抱きつつ、私はそっとローブの人に駆け寄り、頭にかけてあるパーカーを外す。
「あの、大丈夫ですか?」
透き通るように青みがかかった納戸色の髪。フードを外した時の髪の立ち方から、かなりサラッとした綺麗な髪であると思われる。あと、顔立ちからして女性の人だ。フウロ以上に美人かもしれない。
「お……った……」
「はい?何ですか?」
今、この女の人が呻くように言葉を発した。
「お腹……減った……」
ーーなんだ、ただの行き倒れか。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ごちそうさまぁ」
お腹が空いたと言うからギルドに連れて帰ってミラさん達に事情を説明し、なにか食べさせたが、余程空腹だったのだろう。出されたカレーを一瞬で平らげてしまった。
ヴァル「で、セリカ。こいつは誰なんだ?」
ここぞとばかりにヴァルが問いかけてくる。
「なんか、道端で倒れてて、心配だったから連れてきちゃった」
ヴァル「無茶苦茶元気じゃねえか」
「アハハ。多分空腹が解消されたからだよ」
私は作り笑いでもしてみる。
「あなた、よければお名前を教えてくれると助かるのだけれど」
ミラさんが皿を取りに来て尋ねる。
「名前......ですか。そう言えば食べるのに必死で言ってませんでしたね」
そう言うとその少女はナプキンで口元を拭ってからこう告げた。
「私の名前はヒカリ・スターフィリアといいます。今はどこの軍にも属さない軍師をやっています」
そう言うとその少女改めヒカリは礼儀正しくお辞儀をするのであった。
ヴァル「ヒカリか......それはそうとなんでお前、道端で倒れてここに運ばれるようなことになったんだ?」
「それはその......」
ヒカリが何かを言っているのだが声が小さくてよく聞こえない。
ライオス「もっとはっきり言ってくれ」
ライオスがヒカリに詰め寄ってそう言う。
ヒカリ「あ、はい。その、私どこの軍にも属さない軍師と言いましたが、仕事が無くてそれで......」
ヴェルド「何も食べるものが得られなくて倒れたってわけか......」
ヴェルドがその先の言葉を言った。
ヒカリ「まあ、そういうことです」
ミラ「仕事が無い......ねぇ」
ヴェルド「仕方ねえよな。今の世の中じゃ軍師とか魔導士ってのはどこかのギルドに入るなり、軍隊にでも属さない限り仕事なんて見つからねえよなぁ」
そうよね。私だって、このギルドに来る前は別のところで働いてたわけだし、魔導士って働ける場所が多いように見えて少ないもん。
ミラ「ねぇ、うちのギルドに入れるってのはどうかしら?」
ヴァル「確かにそれがいいかもしれねえな。また倒れてここに来られるようじゃ困るし」
そう何度も行き倒れる事なんて無いと思うけど、ギルドに入れるってのは私も賛成だ。
ヴァル「おい、お前。良かったらうちのギルドに入らねえか?」
ヴァルがヒカリに問いかける。
ヒカリ「え?でも、私なんかじゃ......」
ヴァル「大丈夫大丈夫。うちのギルドはみんな優しいし、賑やかで楽しいぞ」
ヒカリ「でも、私弱いですよ?皆さんの役に立てません」
ーー大丈夫大丈夫。うちのギルド自体弱いから。
ヴァル「心配するな。うちのギルドは強い弱い関係なくどんな奴でも大歓迎だ」
ヒカリ「そうですか......」
そして、ヒカリは何かを考えるようにした後、こう言った。
ヒカリ「分かりました。ではここのギルドに入らせてもらいます」
ヴァル「うおっしゃ!」
ヴァルがそう叫ぶ。
ライオス「おい、おめえら!酒を持ってこい!」
ライオスが『ギーグ』、『レイ』、『デン』に指示をする。ちなみに、この3人はライオス護衛隊という名の三馬鹿。ライオスへの忠誠心は何者にも勝るが、それ故に馬鹿を繰り返す。まあ、シアラ同様悪い人達ではない。
ーーところで、なんで、酒が必要なの?
ヒカリ「ふふ、賑やかですね」
そう言ってヒカリは微笑んだ。
ヴァル「そういや、お前。なんの魔法が使えるんだ?」
ヴァルが問いかける。
それは私も気になっていたことだ。
ヒカリ「使えませんよ」
ヴァル「は?今なんて?」
ヴァルは聞き返した。
ヒカリ「だから、魔法は使えませんって」
ヒカリはちょっと厳しめの口調で言う。
ヴァル「魔法が使えないってどういうことだ?」
ヒカリ「私、昔、ちょっとしたことをやらかして魔法が使えない体になってしまったんです」
ーー魔法が使えない事と今の発言。恐らくは私と似たようにマナの出し入れが出来ない体なのだろう。昔、やらかしたってのが気になるところだけど。
ヴァル「それじゃ、お前、戦えないのか?」
ヒカリ「戦えなくはないです。魔法がなくても知恵がありますし、銃を扱うことだって出来ますし」
ヴァル「そ......うなのか......」
ヴァルは何かを悟ったらしく声のトーンを下げた。
ヒカリ「気にしなくても良いですよ。私は気にしてませんから」
私には、この時のヒカリが無理矢理笑顔を作っているように見えたーー
ヴァル「そう言えばセリカ、お前買い物に出かけたはずだろ?荷物どうした?」
ヴァルが尋ねてくる。
「あぁ!そう言えば」
ヒカリを運ぶ時にしれっとあの場所に置いてきちゃった!
ヴェルド「今なら間に合うんじゃねぇか?」
「うん、ちょっと行ってくる!」
色々気になることはあるけど、私は買い物袋を回収するためだけに全力ダッシュでギルドを飛び出した。
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