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第2章 【異世界からの侵略者】
第2章12 【裏切り者の決意】
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暗い夜道だった。10m先すら見渡せない程、真っ暗な道。街灯が所々にあるが、どれも明かりを灯していない。
ーー当たり前か。
全て、私達のせいだった。たったの2日間でここまで制圧できた。私の策に抜けはなかった。
ーーなのに。
「どうして、あんな奴らに負けちゃったんだろ」
その答えだけが未だに出せずにいた。力の差は明らかだった。どう立ち回っても簡単に勝てたはずの戦い。読みが足りなかったのだろうか。否、全て計算し尽くした。狂いなど起きるはずはなかった。
「やっぱり、あの男か......」
クロム・ウェル・イーリアス。そして、ヴァル・ゼグラニル。あれが唯一の規格外であった。もし、奴らがいなければ負けることはなかった。
あれは、どう考えてもーー
「お前、そんな所で何やってる?」
後ろから銃を突き付けられる音がした。ーー不覚にも背後を取られた。
「誰だ」
私は振り向こうとせず、両手を挙げ問う。
「ーーその声、ヒカリか?」
さっきまでの威圧感のある声が一変、若干明るい声に変わる。
「もしかして、お兄ちゃん?」
私は恐る恐る問いかけてみる。男、否、兄ちゃんは答えようとしない。だが、それに代わるようにしてーー
「こんな夜道で何やってたんだお前」
兄は銃を下げそう言った。
「もう、ビックリしたじゃない」
私は両手を下げ、振り返る。目の前にいた男は、間違いなく兄の『シヴァ』だった。
シヴァ「いやぁ、悪ぃ悪ぃ。こんなに暗いからよく見えなかったんだよ」
シヴァは頭をポリポリと掻きながら言い訳をしている。
「妹に銃口を突きつけるとかバカなんじゃないの?」
私は少し尖った口調でそう言う。
シヴァ「悪かったって。わざとじゃないんだ」
シヴァは両の手を目の前で合わせ、すまなそうにしている。
「分かってるわよ。わざとじゃないってことくらい」
私はフッと息を漏らしそう言った。ーーいけないいけない。ちょっとでも気を抜いちゃったら全部喋ってしまいそうだ。気を付けないと。
シヴァ「ふぅ……、それで、今日は夜分遅くにこんな所を歩き回って何してたんだ?」
一息ついたシヴァが問いかけてくる。その質問には答えにくい。どう答えるべきか......
「ーーあいつらに、宣戦布告しに行ってた」
悩んだ挙句、私はそう説明した。
シヴァ「今更、宣戦布告か......ま、いいんじゃねえの」
シヴァは疑う様子もなく、さっさと歩き始めた。
シヴァ「何ぼさっと突っ立ってんだ。行くぞ」
「ーーあ、待ってー」
完全にボーッとしていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ヴァル「あいつ、大丈夫かな?」
頬杖をついていたヴァルが、天井を見ながらそう呟いた。
「ヒカリんだったら、きっと大丈夫だよ。今頃、あの『解放軍』の基地に着いてるんじゃない?」
私はそう答える。
ヴェルド「俺は心配でならねえな」
ヴェルドが疑心に満ちた顔でそう言った。
「ヒカリんなら十分強いしーー」
ヴェルド「いや、そういう事じゃねえ」
私の言葉に被せてヴェルドが言う。
「どういうこと?」
私にはイマイチ何が言いたいのかが分からない。
ライオス「簡単な話だ。あいつがそのまま裏切らないかって話だ」
ヴェルドの代わりにライオスがそう答えた。
「大丈夫だって。ヒカリん十分に反省してるし、ね?アルテミス」
私はアルテミスに向けてそえ問いかける。
アルテミス「え?あぁ、うん。大丈夫だと思うよ」
アルテミスは、どこかぎこちない感じで答える。
「......やっぱり、心配なの?」
ヒカリの理解者であるアルテミスがああなのだ。私も不安になってくる。
アルテミス「やっぱりね、裏切ることはないって言っちゃったけど、でも、あの子のことだから断言することはできないのよね」
アルテミスは不安気な声でそう言う。
「アルテミスは、ヒカリんと出会う前のヒカリんを知ってるの?」
空気があまりにも暗いので、私は話題を変えてみる。といってもヒカリの話題なのだが......
アルテミス「ううん、知らない。ラクは昔のことを話したがらないから。ただ......」
アルテミスはそこで口を閉じる。
「ただ?」
私は続きを促す。
アルテミス「ただ、ラクは心に相当な闇を負っている」
「闇?」
アルテミスの『闇』という言葉が引っかかった。ーーいや、気になって当たり前か。心の闇なんてそうそう聞くもんでもないし。
アルテミス「そう。私、こう見えても『人の心の色』を見ることが出来るの。それで」
「それで、ヒカリんの心は真っ暗だったってこと?」
私は言葉を繋ぐ。
アルテミス「そう。人の心って、その時その時で若干の変動があるし、暗くても輝きが少し隠れてる程度なの。でも、ラクは灯りが見えない真っ暗な心。昔のラクに何があったのかは分からないけど、ラクに相当な『何か』があったことは確かなの」
そう話を続けるアルテミスの顔は、どこか悲しげに見えた。
「もしかして、ヒカリんが笑顔を見せてくれないのって......」
アルテミス「多分、そういうことだと思う」
なんとなく、ヒカリに何があったのかは分かった。彼女は、普通の人とは違う『真っ暗な道』を歩き続けてきた。そのせいで、『感情』を表現するのが苦手なのかもしれない。
ヴァル「なあ、あいつが笑顔を見せないってどういうことだ?普通に笑ってる時ぐらいあっただろ?」
何も分かっていない人間が若干1名、否、他の面々もどうやら分かっていなさそうだ。
「ヒカリんが見せる笑顔って全部作り笑いだったでしょ?」
そう言えば分かるだろうと思ったが、アルテミス以外の全員がキョトンとしている。
フウロ「もうちょっと分かりやすく頼む」
フウロが言う。
「だから、1週間前、私達の仲間になった時のヒカリんが見せる笑顔って私から見たら全部作り笑いに見えたの。それに、ずっと怖い目付きしてるし......」
元々、私は説明が得意な方ではない。今の説明では、何が何だか分からないだろう。しかし、大体はみんなに伝わったようだ。みんながヒカリの顔を思い出そうとしている。
ヴァル「とりあえず、あいつの話はもうここまでにしないか?何だかいなくなった奴の話をしているみたいな気分になってきたし」
真っ先に考えることを放棄したヴァルが言った。
アルテミス「それもそうね」
アルテミスが賛同した。
ーーこれが終わったら、ヒカリんは笑ってくれるかな?
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
暗い、真っ暗な道。灯りはどこにもなく、どこまでも深い『闇』が広がっている。
シヴァ「それで、今日は1人で出かけてたらしいが、何してたんだ?」
隣を歩くお兄ちゃんが問いかけてくる。その質問にはさっき答えたはずだが......
「だから、あいつらに宣戦布告しに行ってたって言ったでしょ」
シヴァ「それは聞いたが、それだけじゃないだろ。それだけなんだったら、こんな夜遅くに帰ってくることなんてないだろ」
なんと答えるべきか......。今の状況なら、何を言っても嘘だとバレる。そんな気がした。
シヴァ「まあ、いい。どうせお前のことだから道に迷ってたんだろ」
シヴァが茶化すようにそう言った。
「そこまで、私方向音痴じゃないわよ」
シヴァ「それはどうだか。だってお前が歩いてた方向って、基地とは真逆の方向だったしな」
シヴァが鼻で笑う。こうなるともう言い返せない。なにせ事実なのだから。それだけに悔しい。
私はせめてもの反抗で顔を背ける。
シヴァ「まあ、そんなに拗ねんなって。俺がいたからこうやって道に迷わず帰れるじゃないか」
シヴァが私の背中を軽く叩いてくる。
「ーーところで兄ちゃん。あいつらの様子はどう?」
シヴァ「ーーハッキリ言ってもうめちゃくちゃだな。制御が効かん」
真面目な話に切り替え、私の質問にお兄ちゃんは声のトーンを下げ答える。
「そう。今はどんな感じ?」
シヴァ「このままグランメモリで侵略を続ける派と邪龍を復活させて一気に制圧する派で別れてるよ。昔みたいに全員の意思が統一されてなんて無理だな」
「兄ちゃんは、どう思うの?」
シヴァ「俺か?......俺は......どうなんだろうな。正直、自分でもよく分かんねー。ただ、邪龍復活とかはなんか目的から逸れてる気がするのは確かだなぁ」
「そう。ーーもし、私が......」
ーー死んだら、悲しんでくれる?
そう聞こうとしたら、なぜか口が開かなくなった。
シヴァ「どうした?」
「ううん、なんでもない」
もし、私が死んだらどうなるのだろうか。それを聞くのは、とても怖い気がした。なぜ、今こんなことを唐突に考え出したのか。
なぜだろう。私は死を恐れていないはずだったのに。否、こんなことを考えたことは今まで無かったのに、なぜ今更ーー
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
シヴァ「はぁーやっと着いたー。まったく、誰だよこんな所を拠点にしようとか言ったやつ」
基地に着いた時には、もう既に夜の1時。途中で道に迷ったから仕方ないか。この基地に入るまでには、入り組んだ路地を抜けてそこから更に歩かないといけない。普通の人でも道に迷うだろう。
ただーー
「それ、私だけど」
ここを拠点にしようと言い出したのは、他でもない私だった。敵が簡単に攻め入ることができず、街を見渡すことが出来る。拠点にするにはうってつけの場所だ。
「おや、誰かと思えば御二方でしたか」
肉付きのいい巨漢の男が出てきた。ーーゴードだ。
シヴァ「わざわざ出迎えか、ゴード」
シヴァが若干睨みつけるようにしてそう言った。
ゴード「いえ、あなた達を探しに行こうと思ったのですが、その必要は無かったようですね」
ゴードは私達2人の目を見てからそう言った。
シヴァ「探してたってどういうことだ?」
ゴード「緊急の招集がかかりまして。お二人がいなかったもんで、私が探しに行くことになったんですよ。ーーおっと長話が過ぎました。早くお二人も来てください」
ゴードがチラと腕時計を確認して言う。
「緊急の招集って、何があったの?」
私はゴードに問いかける。
ゴード「いえ、私にもよくは分かりません。何せ、『緊急』なのですから」
「そう」
ーー招集か。今までこんなこと無かったのにな。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ゴード「ここです」
一番奥の部屋の前まで来たところで、ゴードが扉を開ける。お兄ちゃんが先に部屋に入る。私は後ろをついてく形で部屋に入った。
シヴァ「ボス!?なんでこんなところに!?」
部屋に入るやいな、お兄ちゃんが大声を出す。部屋の奥。そこだけ、かなりの威圧感で満ち溢れていた。
ーー解放軍の指導者。『ラース』がいた。
シヴァ「なんで、あんたがこんな前線に出てきてんだよ!?」
お兄ちゃんの声が若干裏返る。
ラース「相変わらずの口の利き方だな。まあ、よい。緊急の招集と言ったが詳しいことはこいつから聞いてくれ。私はヒカリに用があって来たんだ」
「私に?」
ラース「そうだ。ちょっとこっちへ来い」
ラースは手招きし、隣の部屋へと行く。私は疑いの目を向けつつもその後について行く。
ラース「では頼んだぞ『ミラー』」
ミラー「はい、了解致しました。それでは、シヴァさん、ゴードさん、そこに座ってください」
ミラーが話をしているが、それ以上は聞き取れなかった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ここ......」
ラースに連れられてやってきた場所、それは私が『グランメモリ』を作っていた場所だった。
ラース「お前のおかげで、我々の計画はとんでもないスピードで進んでいった」
ラースは、どこか懐かしげな感じで言う。
ラース「『グランメモリ』。それができてから、我々に負けはなかった」
ラースが目の前の水晶体に触れる。この水晶体は、記憶を元に人工的なグランメモリを作り出す装置であった。ラースはこんな所に連れ出して何をしようというのだ。
ラース「君は、我々にとって無くてはならない存在となってしまった。なのに......」
ラースが私の方に振り返る。その瞳は、とても悲しそうな目をしていた。
「なのに......?」
私はラースの言葉の最後の部分が突っかかり、問う。
ラース「なのに、なんで、君は我々を裏切るんだ?」
ラースが冷たく言い放った言葉に、私は身震いした。そしてーー
「あっ......」
咄嗟に逃げ出そうとしたが、体が思うように動かない。
ラース「君は私の力を知っているはずだ。それなのに、ここまで無計画に戻ってくるとはね」
ラースが私の体に触れる。その瞬間、体に力が入らなくなり、私はその場に座り込んだ。
ラース「そんな顔をしなくてもよい。今すぐにでも食って殺そうとかしないさ。ただーー」
そう言い、ラースは私のコートの中をゴソゴソと漁る。そして、ラースはそこから私の持っていた6本のグランメモリを出す。
「何を......するつもり......」
やっとの思いで、その言葉だけが出せた。
ラース「グランメモリは君が最後に作った『屍』でもう十分だ。よって、君には裏切りの罰として『被験者』になってもらおう」
そう言い、ラースは6本のグランメモリを私の体に同時に突き挿した。
「あ"ぁ"......」
体にとてつもない痛みが走る。叫びたいのに、声が出せない。脳が焼かれるような感覚、手足が消えてしまったかのような感覚、視界が潰されたような感覚、そして、『記憶』が消される感覚。
ありとあらゆる苦しみが『私』を襲う。
「兄......ちゃん......」
ラース「安心したまえ。君の兄には黙っといてあげるさ」
全てが消えていく。光が、音が、臭いが、触覚が、『記憶』が。
最早、何も感じられなくなった。
私は、『死ぬ』のかーー
ーー当たり前か。
全て、私達のせいだった。たったの2日間でここまで制圧できた。私の策に抜けはなかった。
ーーなのに。
「どうして、あんな奴らに負けちゃったんだろ」
その答えだけが未だに出せずにいた。力の差は明らかだった。どう立ち回っても簡単に勝てたはずの戦い。読みが足りなかったのだろうか。否、全て計算し尽くした。狂いなど起きるはずはなかった。
「やっぱり、あの男か......」
クロム・ウェル・イーリアス。そして、ヴァル・ゼグラニル。あれが唯一の規格外であった。もし、奴らがいなければ負けることはなかった。
あれは、どう考えてもーー
「お前、そんな所で何やってる?」
後ろから銃を突き付けられる音がした。ーー不覚にも背後を取られた。
「誰だ」
私は振り向こうとせず、両手を挙げ問う。
「ーーその声、ヒカリか?」
さっきまでの威圧感のある声が一変、若干明るい声に変わる。
「もしかして、お兄ちゃん?」
私は恐る恐る問いかけてみる。男、否、兄ちゃんは答えようとしない。だが、それに代わるようにしてーー
「こんな夜道で何やってたんだお前」
兄は銃を下げそう言った。
「もう、ビックリしたじゃない」
私は両手を下げ、振り返る。目の前にいた男は、間違いなく兄の『シヴァ』だった。
シヴァ「いやぁ、悪ぃ悪ぃ。こんなに暗いからよく見えなかったんだよ」
シヴァは頭をポリポリと掻きながら言い訳をしている。
「妹に銃口を突きつけるとかバカなんじゃないの?」
私は少し尖った口調でそう言う。
シヴァ「悪かったって。わざとじゃないんだ」
シヴァは両の手を目の前で合わせ、すまなそうにしている。
「分かってるわよ。わざとじゃないってことくらい」
私はフッと息を漏らしそう言った。ーーいけないいけない。ちょっとでも気を抜いちゃったら全部喋ってしまいそうだ。気を付けないと。
シヴァ「ふぅ……、それで、今日は夜分遅くにこんな所を歩き回って何してたんだ?」
一息ついたシヴァが問いかけてくる。その質問には答えにくい。どう答えるべきか......
「ーーあいつらに、宣戦布告しに行ってた」
悩んだ挙句、私はそう説明した。
シヴァ「今更、宣戦布告か......ま、いいんじゃねえの」
シヴァは疑う様子もなく、さっさと歩き始めた。
シヴァ「何ぼさっと突っ立ってんだ。行くぞ」
「ーーあ、待ってー」
完全にボーッとしていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ヴァル「あいつ、大丈夫かな?」
頬杖をついていたヴァルが、天井を見ながらそう呟いた。
「ヒカリんだったら、きっと大丈夫だよ。今頃、あの『解放軍』の基地に着いてるんじゃない?」
私はそう答える。
ヴェルド「俺は心配でならねえな」
ヴェルドが疑心に満ちた顔でそう言った。
「ヒカリんなら十分強いしーー」
ヴェルド「いや、そういう事じゃねえ」
私の言葉に被せてヴェルドが言う。
「どういうこと?」
私にはイマイチ何が言いたいのかが分からない。
ライオス「簡単な話だ。あいつがそのまま裏切らないかって話だ」
ヴェルドの代わりにライオスがそう答えた。
「大丈夫だって。ヒカリん十分に反省してるし、ね?アルテミス」
私はアルテミスに向けてそえ問いかける。
アルテミス「え?あぁ、うん。大丈夫だと思うよ」
アルテミスは、どこかぎこちない感じで答える。
「......やっぱり、心配なの?」
ヒカリの理解者であるアルテミスがああなのだ。私も不安になってくる。
アルテミス「やっぱりね、裏切ることはないって言っちゃったけど、でも、あの子のことだから断言することはできないのよね」
アルテミスは不安気な声でそう言う。
「アルテミスは、ヒカリんと出会う前のヒカリんを知ってるの?」
空気があまりにも暗いので、私は話題を変えてみる。といってもヒカリの話題なのだが......
アルテミス「ううん、知らない。ラクは昔のことを話したがらないから。ただ......」
アルテミスはそこで口を閉じる。
「ただ?」
私は続きを促す。
アルテミス「ただ、ラクは心に相当な闇を負っている」
「闇?」
アルテミスの『闇』という言葉が引っかかった。ーーいや、気になって当たり前か。心の闇なんてそうそう聞くもんでもないし。
アルテミス「そう。私、こう見えても『人の心の色』を見ることが出来るの。それで」
「それで、ヒカリんの心は真っ暗だったってこと?」
私は言葉を繋ぐ。
アルテミス「そう。人の心って、その時その時で若干の変動があるし、暗くても輝きが少し隠れてる程度なの。でも、ラクは灯りが見えない真っ暗な心。昔のラクに何があったのかは分からないけど、ラクに相当な『何か』があったことは確かなの」
そう話を続けるアルテミスの顔は、どこか悲しげに見えた。
「もしかして、ヒカリんが笑顔を見せてくれないのって......」
アルテミス「多分、そういうことだと思う」
なんとなく、ヒカリに何があったのかは分かった。彼女は、普通の人とは違う『真っ暗な道』を歩き続けてきた。そのせいで、『感情』を表現するのが苦手なのかもしれない。
ヴァル「なあ、あいつが笑顔を見せないってどういうことだ?普通に笑ってる時ぐらいあっただろ?」
何も分かっていない人間が若干1名、否、他の面々もどうやら分かっていなさそうだ。
「ヒカリんが見せる笑顔って全部作り笑いだったでしょ?」
そう言えば分かるだろうと思ったが、アルテミス以外の全員がキョトンとしている。
フウロ「もうちょっと分かりやすく頼む」
フウロが言う。
「だから、1週間前、私達の仲間になった時のヒカリんが見せる笑顔って私から見たら全部作り笑いに見えたの。それに、ずっと怖い目付きしてるし......」
元々、私は説明が得意な方ではない。今の説明では、何が何だか分からないだろう。しかし、大体はみんなに伝わったようだ。みんながヒカリの顔を思い出そうとしている。
ヴァル「とりあえず、あいつの話はもうここまでにしないか?何だかいなくなった奴の話をしているみたいな気分になってきたし」
真っ先に考えることを放棄したヴァルが言った。
アルテミス「それもそうね」
アルテミスが賛同した。
ーーこれが終わったら、ヒカリんは笑ってくれるかな?
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
暗い、真っ暗な道。灯りはどこにもなく、どこまでも深い『闇』が広がっている。
シヴァ「それで、今日は1人で出かけてたらしいが、何してたんだ?」
隣を歩くお兄ちゃんが問いかけてくる。その質問にはさっき答えたはずだが......
「だから、あいつらに宣戦布告しに行ってたって言ったでしょ」
シヴァ「それは聞いたが、それだけじゃないだろ。それだけなんだったら、こんな夜遅くに帰ってくることなんてないだろ」
なんと答えるべきか......。今の状況なら、何を言っても嘘だとバレる。そんな気がした。
シヴァ「まあ、いい。どうせお前のことだから道に迷ってたんだろ」
シヴァが茶化すようにそう言った。
「そこまで、私方向音痴じゃないわよ」
シヴァ「それはどうだか。だってお前が歩いてた方向って、基地とは真逆の方向だったしな」
シヴァが鼻で笑う。こうなるともう言い返せない。なにせ事実なのだから。それだけに悔しい。
私はせめてもの反抗で顔を背ける。
シヴァ「まあ、そんなに拗ねんなって。俺がいたからこうやって道に迷わず帰れるじゃないか」
シヴァが私の背中を軽く叩いてくる。
「ーーところで兄ちゃん。あいつらの様子はどう?」
シヴァ「ーーハッキリ言ってもうめちゃくちゃだな。制御が効かん」
真面目な話に切り替え、私の質問にお兄ちゃんは声のトーンを下げ答える。
「そう。今はどんな感じ?」
シヴァ「このままグランメモリで侵略を続ける派と邪龍を復活させて一気に制圧する派で別れてるよ。昔みたいに全員の意思が統一されてなんて無理だな」
「兄ちゃんは、どう思うの?」
シヴァ「俺か?......俺は......どうなんだろうな。正直、自分でもよく分かんねー。ただ、邪龍復活とかはなんか目的から逸れてる気がするのは確かだなぁ」
「そう。ーーもし、私が......」
ーー死んだら、悲しんでくれる?
そう聞こうとしたら、なぜか口が開かなくなった。
シヴァ「どうした?」
「ううん、なんでもない」
もし、私が死んだらどうなるのだろうか。それを聞くのは、とても怖い気がした。なぜ、今こんなことを唐突に考え出したのか。
なぜだろう。私は死を恐れていないはずだったのに。否、こんなことを考えたことは今まで無かったのに、なぜ今更ーー
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
シヴァ「はぁーやっと着いたー。まったく、誰だよこんな所を拠点にしようとか言ったやつ」
基地に着いた時には、もう既に夜の1時。途中で道に迷ったから仕方ないか。この基地に入るまでには、入り組んだ路地を抜けてそこから更に歩かないといけない。普通の人でも道に迷うだろう。
ただーー
「それ、私だけど」
ここを拠点にしようと言い出したのは、他でもない私だった。敵が簡単に攻め入ることができず、街を見渡すことが出来る。拠点にするにはうってつけの場所だ。
「おや、誰かと思えば御二方でしたか」
肉付きのいい巨漢の男が出てきた。ーーゴードだ。
シヴァ「わざわざ出迎えか、ゴード」
シヴァが若干睨みつけるようにしてそう言った。
ゴード「いえ、あなた達を探しに行こうと思ったのですが、その必要は無かったようですね」
ゴードは私達2人の目を見てからそう言った。
シヴァ「探してたってどういうことだ?」
ゴード「緊急の招集がかかりまして。お二人がいなかったもんで、私が探しに行くことになったんですよ。ーーおっと長話が過ぎました。早くお二人も来てください」
ゴードがチラと腕時計を確認して言う。
「緊急の招集って、何があったの?」
私はゴードに問いかける。
ゴード「いえ、私にもよくは分かりません。何せ、『緊急』なのですから」
「そう」
ーー招集か。今までこんなこと無かったのにな。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ゴード「ここです」
一番奥の部屋の前まで来たところで、ゴードが扉を開ける。お兄ちゃんが先に部屋に入る。私は後ろをついてく形で部屋に入った。
シヴァ「ボス!?なんでこんなところに!?」
部屋に入るやいな、お兄ちゃんが大声を出す。部屋の奥。そこだけ、かなりの威圧感で満ち溢れていた。
ーー解放軍の指導者。『ラース』がいた。
シヴァ「なんで、あんたがこんな前線に出てきてんだよ!?」
お兄ちゃんの声が若干裏返る。
ラース「相変わらずの口の利き方だな。まあ、よい。緊急の招集と言ったが詳しいことはこいつから聞いてくれ。私はヒカリに用があって来たんだ」
「私に?」
ラース「そうだ。ちょっとこっちへ来い」
ラースは手招きし、隣の部屋へと行く。私は疑いの目を向けつつもその後について行く。
ラース「では頼んだぞ『ミラー』」
ミラー「はい、了解致しました。それでは、シヴァさん、ゴードさん、そこに座ってください」
ミラーが話をしているが、それ以上は聞き取れなかった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ここ......」
ラースに連れられてやってきた場所、それは私が『グランメモリ』を作っていた場所だった。
ラース「お前のおかげで、我々の計画はとんでもないスピードで進んでいった」
ラースは、どこか懐かしげな感じで言う。
ラース「『グランメモリ』。それができてから、我々に負けはなかった」
ラースが目の前の水晶体に触れる。この水晶体は、記憶を元に人工的なグランメモリを作り出す装置であった。ラースはこんな所に連れ出して何をしようというのだ。
ラース「君は、我々にとって無くてはならない存在となってしまった。なのに......」
ラースが私の方に振り返る。その瞳は、とても悲しそうな目をしていた。
「なのに......?」
私はラースの言葉の最後の部分が突っかかり、問う。
ラース「なのに、なんで、君は我々を裏切るんだ?」
ラースが冷たく言い放った言葉に、私は身震いした。そしてーー
「あっ......」
咄嗟に逃げ出そうとしたが、体が思うように動かない。
ラース「君は私の力を知っているはずだ。それなのに、ここまで無計画に戻ってくるとはね」
ラースが私の体に触れる。その瞬間、体に力が入らなくなり、私はその場に座り込んだ。
ラース「そんな顔をしなくてもよい。今すぐにでも食って殺そうとかしないさ。ただーー」
そう言い、ラースは私のコートの中をゴソゴソと漁る。そして、ラースはそこから私の持っていた6本のグランメモリを出す。
「何を......するつもり......」
やっとの思いで、その言葉だけが出せた。
ラース「グランメモリは君が最後に作った『屍』でもう十分だ。よって、君には裏切りの罰として『被験者』になってもらおう」
そう言い、ラースは6本のグランメモリを私の体に同時に突き挿した。
「あ"ぁ"......」
体にとてつもない痛みが走る。叫びたいのに、声が出せない。脳が焼かれるような感覚、手足が消えてしまったかのような感覚、視界が潰されたような感覚、そして、『記憶』が消される感覚。
ありとあらゆる苦しみが『私』を襲う。
「兄......ちゃん......」
ラース「安心したまえ。君の兄には黙っといてあげるさ」
全てが消えていく。光が、音が、臭いが、触覚が、『記憶』が。
最早、何も感じられなくなった。
私は、『死ぬ』のかーー
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“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
2度死んだ王子は今度こそ生き残りたい
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王太子ロイは、かつて二度の革命によって祖国を崩壊させてしまった過去を持つ。命を落とすたび、彼はある時点へと巻き戻される。そして今、三度目の人生が静かに幕を開けようとしていた。
――自分は民を理解しているつもりだった。
だが実際には、その表面しか見えていなかったのだ。
その痛烈な自覚から、物語は動き始める。
革命を回避するために必要なのは、制度でも権力でもない。「人を知る」ことこそが鍵だと、ロイは気付く。
彼はエコール学園での生活を通じ、身分も立場も異なる様々な人間と深く関わっていく。
そこで出会う一人ひとりの想いと現実が、やがて国の未来を大きく左右していくことになるとは、この時のロイはまだ知らない。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
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加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
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しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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