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第2章 【異世界からの侵略者】
第2章11 【起点の物語】
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「あぁ!ラクったらこんなに散らかして......」
私ーーアテナーーはラクシュミーの部屋をのぞき込むや否、そう呟く。
「全く、何をどうやったらここまで散らかるのかしらね」
そう言いながらも床に散らばっている本を棚に戻していく。すると、ふと、何かが目に映った。
ーー錬成陣。
恐らくはラクシュミーが書いたのであろう。ただ、あんな10歳にも満たない子供がここまで立派な錬成陣を描けるとは......。私は感心しつつもその錬成陣を消した。
「書くなら紙に書きなさいよ……。それにしても、あの子ったらいつからこんなに勉強するようになったのかしらね」
本を棚に戻す。目に映る本のタイトルは全て、魔法や錬金術といった類のものだらけだ。
「ちょっとくらいは子供らしく絵本とか読んでくれないかな」
溜息をつく。ラクシュミーの子供らしくない姿が目に浮かぶ。
「ただいまー」
ーーと、少しぼーっとしていると、ラクが部屋に入ってきた。
「おかえり」
私は片付けろと説教でもしようかと思ったがただそう言っただけだった。元々言ったところで意味は無い。それに、説教をしたらしたでラクシュミーがただ傷つくだけだ。
「今日は随分と早かったねー」
時間はまだお昼前、学校が終わるには早すぎる。
ラクシュミー「あのバカ共と一緒にいたくなかっただけ」
また虐められたのだろうか。ラクが早く帰ってくる時は大体そういう時である。
「また虐められたの?」
私は分かっていながらも聞く。本当はズカズカと踏み込んじゃいけないんだろうけど、放っとくのはもっとやっちゃいけないこと。
ラクシュミー「姉ちゃんには関係ない話」
ラクはそう言うと、本棚から分厚い本を抜き出す。
「あのね。ラクにとっては関係ないかもしれないけど、私は心配してるの」
ラクシュミー「姉ちゃんが心配して何になるの?」
「ーーラクは今のままで良いと思ってるの?」
いつもなら、ここで『悩んでることがあるなら話してみなさい』と言うのだが、答えはもう見えているので別の問いをする。
「……」
珍しくラクは何も答えない。
「はぁ、私明日は仕事だからね」
私はそう言って部屋を出た。どうにかならないものだろうかーー
ラクのこの性格はずーっと昔からだ。ラクが笑ってるのを見たことがない。どうにかしたい、と願いつつも自分にはどうすればいいか分からない。そのせいで、ラクを苦しみから解放させることが出来ないでいる。
いっその事、転校でもさせた方が早いかーー
私はそう考えたが、近くに別の学校がないことを思い出してその案を捨てた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「じゃあ、行ってくるからねー」
お姉ちゃんがそう言い、謎に白衣に身を染めて出かける。私はパジャマ姿のまま見送る。
今日は学校に行く気分ではない。大人しく家で錬金術とかの勉強をしてる方がいい。というわけで、私は今日一日、完全引きこもり体制だ。
《チリリリリン》
部屋に戻ろうとした矢先、電話が鳴り響く。多分、教師からだろう。それが分かっているので、電話を無視して部屋に戻る。
あの教師のことだ。どうせ、遅刻だどうとか言うのだろう。虐めの1つを解決どころか止めようともしないクソ教師だ。放っておいてもなんの問題もない。
「みんな死んじゃえばいいのに......」
無意識に思ったことを口にする。
そもそも、錬金術や魔法を勉強してるのだって、いつかは仕返しをするためと言っても嘘にはならない。ただ、独学では限界がある。理屈を理解していても、どうも上手く発動させられない。
何かが足りない。何かがーー。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「んーーー」
体に疲れが溜まり、少し動くかと、思いっきり伸びをする。時計を見ると、丁度12時を指していた。
(そろそろお昼か)
キッキンに向かい、冷蔵庫の中を見る。ーー冷蔵庫の中は特に何も入っていなかった。
「仕方ない。お弁当屋さんにでも買いに行くか」
部屋に戻り、コートを来て家を出る。お姉ちゃんのだからちょっと大きく感じるけど、着れないサイズじゃないので問題無し。
今の時間帯は学校のバカ共と鉢合わせするかもしれない。でも、しっかりと着込んでいけば誰にもバレることはないだろう。
「うぅ、寒っ」
北風が吹き、厚着をしているにも関わらず、寒さが身にしみる。
(さっさと買ってさっさと帰ろ)
そう思い、私は冷たい道を歩き出した。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「これ美味そうじゃね?」
「いや、こっちの方が美味そうに見えるよ!」
「おぉ、確かにこっちの方が良さそう。おばちゃん、これ頂戴!」
「はい、唐揚げ弁当480セロね」
お弁当屋さんに着いた時には、既に学校のバカ共がいた。大方予想していたことではあったが。
仕方ない。バレないように弁当を物色するしかない。
「これにしよ」
長居する方が危険なので、私は適当に目に付いたのを取る。
「はい、360セロね」
カウンターに弁当を差し出し、財布を漁る。えーっと、360セロ……
「うおぉ、危ない!」
弁当屋の前でバカ騒ぎしていたあいつらの1人が、勢い余ってこちらに突っ込んでくる。勿論、避けることができずに、私は横腹に頭突きされる形でぶつかった。
「痛た......」
横腹を押さえながら呻く。財布の中身が散らばり、小銭があちこちに転がっていく。とんだ災難だ。もうちょっと我慢してから来れば良かった。
「あー!ラクシュミーじゃん!」
突っ込んできた奴が私の顔を見て言う。よく見ると、フードが外れて顔が晒し状態になっていた。
ーー最悪の気分だ。
「お前、今日は学校に来なかったな?なんでだ?」
唐揚げ弁当を買っていた小太りの奴が問いかけてくる。
「……」
私はその問いに答えようとせず、床に散らばった小銭を拾い集める。
「なにか答えろよ!」
小太りの奴は私を蹴り飛ばす。よくも人前でそんなことができるもんだ。普通ならここで大人達が止めに入るのだろうが、私の場合、誰も止めに入ってくれない。
「おらよ!」
他の奴らも私の体を蹴る。私には反撃することが出来ない。ただ、終わるまでじっとしているだけだ。
本当に、この世界は狂ってるーー
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「くうっ くっくっ ううっ うっうっ......」
私は神社の境内で泣いていた。結局、弁当を買うことが出来ず、ただただ暴力を受けに行っただけという結果になってしまった。
「どうなされました?こんな所で泣いて」
後ろの方から穏和な声が聞こえた。
「事情を話してごらんなさい。話を聞くだけならタダですよ」
そう言いながら、男が隣に座ってきた。
「うるさい、お前なんかに言ったところで分かるもんか」
私は八つ当たりのような口調で言う。
「なるほど。よく分かりましたよ」
「お前なんかに分かるもんか!」
適当に返されたことに腹が立ち、使えもしない魔法を男に向かって撃つ。
「魔法はそんなことをするために使うのではありませんよ。ラクシュミーさん」
男は私の手を握り、そっと膝の上に乗せる。
「なんで、私の名前を......」
知っているのかと、私は言いかけたが、すぐに理解した。
「どうせ、お前も私を苦しめる存在なんだろ」
私は手を男から振りほどく。
「いえ、私はあなたのことを何も知りませんよ。名前を知ったのは『魔法』の力です」
男はチッチッチッチッと指を口の前で振る。
「魔法でそんなことができるわけないだろ」
「あなたは知らないだけですよ。魔法も錬金術も無数の可能性を秘めている。自分で構築していけば、オリジナルの魔法を作ることだって可能ですよ」
「ーーお前、名前は?」
私は男の方を向いて問いかける。
「ヒカリ・ラグナロク。それが私の名前ですよ」
男ーーヒカリーーは私に向けて笑みを見せ、そう言った。
「ヒカリ......か」
私はそこで一旦言葉を区切った。
「ヒカリ、お前は私が怖くないのか?」
私は不安に思いっきって聞いてみる。
ヒカリ「怖い?どういうことですか?」
「ーー私は、周りから『悪魔の子』って呼ばれてる」
ヒカリ「ほう、悪魔の子とは、また物騒な名前をつけられましたね」
ヒカリはおちょくるように言う。
「望んで付けられたわけじゃない。それで、お前は私のことが怖くないのか?」
私はもう一度問いかける。
ヒカリ「怖い、怖くないなんて、愚かな人間が付けただけの表現です。ですが......」
思わず息を呑む。彼の表情が少し強ばった。
ヒカリ「ですが、私はあなたのことを好意的に見ておりますよ。こんな小さな子供なのに、不完全とはいえ、魔法が使える。十分に才能を感じます」
ヒカリはそこで、一旦一呼吸しーー、
ヒカリ「どうですか?私と共に魔法を学びたいと思いませんか?」
ヒカリの言葉は、完全に予想外の言葉だった。
「ーーどういうことだ?」
ヒカリ「ーー私はあなたのような子に、私の持てる限りの知識を与えたいと思っているのですよ。そこで、塾を作ったは良いのですが......」
ヒカリは言い難そうにしている。
「何か問題でもあったのか?」
ヒカリ「いえね。子供達が1人も集まらないのですよ」
ヒカリは頭をポリポリと掻きながら言う。
「人がいないのだったら好都合。私が通ってやる」
私は立ち上がり、そう言う。
ヒカリ「そうですか。場所はここの神社です。いつでも来なさい。待ってますから」
そう言ってヒカリも立ち上がった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ヒカリ「ーーそれで、ここの法則とこの理論を結びつけることにより......」
翌日、私は言われた通り、ヒカリの授業を受けに来た。ここに来れば、魔法が完璧に使えるようになるかもしれない、そう思ってきたのだが......
ヒカリ「コラ、ラクシュミーさん。寝てはいけませんよ」
私はうとうとと居眠りをしてしまった。
「だって、その話なら全部知ってるんだもん」
これは言い訳ではない。事実、ヒカリの授業は全部知っていることをただただ聞いているだけなのだ。
ヒカリ「全く。知識をさずけようとしたら、何もかも知っているとは......」
ヒカリが落胆したように肩を落とす。
「私は実践の方がやりたいんだけどなぁ」
諦めてしまったかのようなヒカリを見て、私は試しにそう言ってみる。
ヒカリ「実践......ですか......」
ヒカリが顎に手を当て悩んでいる。
「先生だって、このまま意味の無い授業をするよりも、ちゃんと意味のある授業をしたいと思ってるでしょ?」
私はヒカリの傍らに駆け寄りそう言った。
ヒカリ「少しばかり早いと思っていましたが......ここまで出来るのならば問題はないでしょう。よし、森にでも行きましょうか」
ヒカリは私に笑みを見せる。
「はい、先生」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「それでは、まず基本的な魔法からやってみましょうか。私の動きをよく見ておいてください」
そう言い、私は掌に力を込め、木に向かって魔法弾を放つ。撃った魔法は『フィア』火属性の初級魔法だ。木に当てても、燃えるどころか火傷の跡すら付かない。
ラクシュミー「おぉ」
ラクシュミーが感嘆の声を上げる。子供は純粋で良い。学者にこんなもの見せても何にもならない。しかし、子供なら関心の目で見てくれる。
「どうですか?出来そうですか?」
私はそう問いかける。
ラクシュミー「それくらいだったら......」
そう言い、ラクシュミーは私の真似をする。魔力が集まっているようではあるが、それを上手く放つことが出来ていない。
「どうやら、魔力を集めても放つのが出来ないようですね」
そう言い、私はラクシュミーの腕を持ち上げる。
「いいですか?魔法を使う際は、しっかりと『イメージ』をするのです。理屈だけ理解して、それをそのままやったとしても、上手く発動させることは出来ませんよ。まずは、私が先程行ったことを自分に置き換えて『イメージ』してご覧なさい」
そう言うと、ラクシュミーが瞼を閉じた。ラクシュミーの掌に魔力が集まっていくのが分かる。
「そのまま、集まった魔力を一気に放出してみてください。そして、詠唱してください」
ラクシュミー「すぅ、フィア!」
私の言葉に答えるよにラクシュミーが魔力を放った。微弱ではあるが、しっかりとした『魔法』を放っていた。
ラクシュミー「やった!やったよ先生!」
ラクシュミーが興奮してこちらにやって来る。
「よく出来ました」
私はラクシュミーの頭を撫でる。ラクシュミーは嬉しそうに笑みを浮かべている。
「それでは、続き......」
「いやぁぁぁ!」
続きをしようとした矢先、森の奥の方から悲鳴が聞こえてきた。
ラクシュミー「先生、今のって......」
ラクシュミーが問いかけてくる。
「ーーここらには時折、魔獣が現れると聞きますが、まさかその類か......何にせよ様子を見に行かねば」
私は悲鳴の聞こえた方に向かう。
ラクシュミー「あ、先生待ってー」
ラクシュミーが後を追いかけてきたが、そんなものは無視しておいた。山賊とかに襲われたとかじゃなきゃいいですけどーー
私ーーアテナーーはラクシュミーの部屋をのぞき込むや否、そう呟く。
「全く、何をどうやったらここまで散らかるのかしらね」
そう言いながらも床に散らばっている本を棚に戻していく。すると、ふと、何かが目に映った。
ーー錬成陣。
恐らくはラクシュミーが書いたのであろう。ただ、あんな10歳にも満たない子供がここまで立派な錬成陣を描けるとは......。私は感心しつつもその錬成陣を消した。
「書くなら紙に書きなさいよ……。それにしても、あの子ったらいつからこんなに勉強するようになったのかしらね」
本を棚に戻す。目に映る本のタイトルは全て、魔法や錬金術といった類のものだらけだ。
「ちょっとくらいは子供らしく絵本とか読んでくれないかな」
溜息をつく。ラクシュミーの子供らしくない姿が目に浮かぶ。
「ただいまー」
ーーと、少しぼーっとしていると、ラクが部屋に入ってきた。
「おかえり」
私は片付けろと説教でもしようかと思ったがただそう言っただけだった。元々言ったところで意味は無い。それに、説教をしたらしたでラクシュミーがただ傷つくだけだ。
「今日は随分と早かったねー」
時間はまだお昼前、学校が終わるには早すぎる。
ラクシュミー「あのバカ共と一緒にいたくなかっただけ」
また虐められたのだろうか。ラクが早く帰ってくる時は大体そういう時である。
「また虐められたの?」
私は分かっていながらも聞く。本当はズカズカと踏み込んじゃいけないんだろうけど、放っとくのはもっとやっちゃいけないこと。
ラクシュミー「姉ちゃんには関係ない話」
ラクはそう言うと、本棚から分厚い本を抜き出す。
「あのね。ラクにとっては関係ないかもしれないけど、私は心配してるの」
ラクシュミー「姉ちゃんが心配して何になるの?」
「ーーラクは今のままで良いと思ってるの?」
いつもなら、ここで『悩んでることがあるなら話してみなさい』と言うのだが、答えはもう見えているので別の問いをする。
「……」
珍しくラクは何も答えない。
「はぁ、私明日は仕事だからね」
私はそう言って部屋を出た。どうにかならないものだろうかーー
ラクのこの性格はずーっと昔からだ。ラクが笑ってるのを見たことがない。どうにかしたい、と願いつつも自分にはどうすればいいか分からない。そのせいで、ラクを苦しみから解放させることが出来ないでいる。
いっその事、転校でもさせた方が早いかーー
私はそう考えたが、近くに別の学校がないことを思い出してその案を捨てた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「じゃあ、行ってくるからねー」
お姉ちゃんがそう言い、謎に白衣に身を染めて出かける。私はパジャマ姿のまま見送る。
今日は学校に行く気分ではない。大人しく家で錬金術とかの勉強をしてる方がいい。というわけで、私は今日一日、完全引きこもり体制だ。
《チリリリリン》
部屋に戻ろうとした矢先、電話が鳴り響く。多分、教師からだろう。それが分かっているので、電話を無視して部屋に戻る。
あの教師のことだ。どうせ、遅刻だどうとか言うのだろう。虐めの1つを解決どころか止めようともしないクソ教師だ。放っておいてもなんの問題もない。
「みんな死んじゃえばいいのに......」
無意識に思ったことを口にする。
そもそも、錬金術や魔法を勉強してるのだって、いつかは仕返しをするためと言っても嘘にはならない。ただ、独学では限界がある。理屈を理解していても、どうも上手く発動させられない。
何かが足りない。何かがーー。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「んーーー」
体に疲れが溜まり、少し動くかと、思いっきり伸びをする。時計を見ると、丁度12時を指していた。
(そろそろお昼か)
キッキンに向かい、冷蔵庫の中を見る。ーー冷蔵庫の中は特に何も入っていなかった。
「仕方ない。お弁当屋さんにでも買いに行くか」
部屋に戻り、コートを来て家を出る。お姉ちゃんのだからちょっと大きく感じるけど、着れないサイズじゃないので問題無し。
今の時間帯は学校のバカ共と鉢合わせするかもしれない。でも、しっかりと着込んでいけば誰にもバレることはないだろう。
「うぅ、寒っ」
北風が吹き、厚着をしているにも関わらず、寒さが身にしみる。
(さっさと買ってさっさと帰ろ)
そう思い、私は冷たい道を歩き出した。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「これ美味そうじゃね?」
「いや、こっちの方が美味そうに見えるよ!」
「おぉ、確かにこっちの方が良さそう。おばちゃん、これ頂戴!」
「はい、唐揚げ弁当480セロね」
お弁当屋さんに着いた時には、既に学校のバカ共がいた。大方予想していたことではあったが。
仕方ない。バレないように弁当を物色するしかない。
「これにしよ」
長居する方が危険なので、私は適当に目に付いたのを取る。
「はい、360セロね」
カウンターに弁当を差し出し、財布を漁る。えーっと、360セロ……
「うおぉ、危ない!」
弁当屋の前でバカ騒ぎしていたあいつらの1人が、勢い余ってこちらに突っ込んでくる。勿論、避けることができずに、私は横腹に頭突きされる形でぶつかった。
「痛た......」
横腹を押さえながら呻く。財布の中身が散らばり、小銭があちこちに転がっていく。とんだ災難だ。もうちょっと我慢してから来れば良かった。
「あー!ラクシュミーじゃん!」
突っ込んできた奴が私の顔を見て言う。よく見ると、フードが外れて顔が晒し状態になっていた。
ーー最悪の気分だ。
「お前、今日は学校に来なかったな?なんでだ?」
唐揚げ弁当を買っていた小太りの奴が問いかけてくる。
「……」
私はその問いに答えようとせず、床に散らばった小銭を拾い集める。
「なにか答えろよ!」
小太りの奴は私を蹴り飛ばす。よくも人前でそんなことができるもんだ。普通ならここで大人達が止めに入るのだろうが、私の場合、誰も止めに入ってくれない。
「おらよ!」
他の奴らも私の体を蹴る。私には反撃することが出来ない。ただ、終わるまでじっとしているだけだ。
本当に、この世界は狂ってるーー
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「くうっ くっくっ ううっ うっうっ......」
私は神社の境内で泣いていた。結局、弁当を買うことが出来ず、ただただ暴力を受けに行っただけという結果になってしまった。
「どうなされました?こんな所で泣いて」
後ろの方から穏和な声が聞こえた。
「事情を話してごらんなさい。話を聞くだけならタダですよ」
そう言いながら、男が隣に座ってきた。
「うるさい、お前なんかに言ったところで分かるもんか」
私は八つ当たりのような口調で言う。
「なるほど。よく分かりましたよ」
「お前なんかに分かるもんか!」
適当に返されたことに腹が立ち、使えもしない魔法を男に向かって撃つ。
「魔法はそんなことをするために使うのではありませんよ。ラクシュミーさん」
男は私の手を握り、そっと膝の上に乗せる。
「なんで、私の名前を......」
知っているのかと、私は言いかけたが、すぐに理解した。
「どうせ、お前も私を苦しめる存在なんだろ」
私は手を男から振りほどく。
「いえ、私はあなたのことを何も知りませんよ。名前を知ったのは『魔法』の力です」
男はチッチッチッチッと指を口の前で振る。
「魔法でそんなことができるわけないだろ」
「あなたは知らないだけですよ。魔法も錬金術も無数の可能性を秘めている。自分で構築していけば、オリジナルの魔法を作ることだって可能ですよ」
「ーーお前、名前は?」
私は男の方を向いて問いかける。
「ヒカリ・ラグナロク。それが私の名前ですよ」
男ーーヒカリーーは私に向けて笑みを見せ、そう言った。
「ヒカリ......か」
私はそこで一旦言葉を区切った。
「ヒカリ、お前は私が怖くないのか?」
私は不安に思いっきって聞いてみる。
ヒカリ「怖い?どういうことですか?」
「ーー私は、周りから『悪魔の子』って呼ばれてる」
ヒカリ「ほう、悪魔の子とは、また物騒な名前をつけられましたね」
ヒカリはおちょくるように言う。
「望んで付けられたわけじゃない。それで、お前は私のことが怖くないのか?」
私はもう一度問いかける。
ヒカリ「怖い、怖くないなんて、愚かな人間が付けただけの表現です。ですが......」
思わず息を呑む。彼の表情が少し強ばった。
ヒカリ「ですが、私はあなたのことを好意的に見ておりますよ。こんな小さな子供なのに、不完全とはいえ、魔法が使える。十分に才能を感じます」
ヒカリはそこで、一旦一呼吸しーー、
ヒカリ「どうですか?私と共に魔法を学びたいと思いませんか?」
ヒカリの言葉は、完全に予想外の言葉だった。
「ーーどういうことだ?」
ヒカリ「ーー私はあなたのような子に、私の持てる限りの知識を与えたいと思っているのですよ。そこで、塾を作ったは良いのですが......」
ヒカリは言い難そうにしている。
「何か問題でもあったのか?」
ヒカリ「いえね。子供達が1人も集まらないのですよ」
ヒカリは頭をポリポリと掻きながら言う。
「人がいないのだったら好都合。私が通ってやる」
私は立ち上がり、そう言う。
ヒカリ「そうですか。場所はここの神社です。いつでも来なさい。待ってますから」
そう言ってヒカリも立ち上がった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ヒカリ「ーーそれで、ここの法則とこの理論を結びつけることにより......」
翌日、私は言われた通り、ヒカリの授業を受けに来た。ここに来れば、魔法が完璧に使えるようになるかもしれない、そう思ってきたのだが......
ヒカリ「コラ、ラクシュミーさん。寝てはいけませんよ」
私はうとうとと居眠りをしてしまった。
「だって、その話なら全部知ってるんだもん」
これは言い訳ではない。事実、ヒカリの授業は全部知っていることをただただ聞いているだけなのだ。
ヒカリ「全く。知識をさずけようとしたら、何もかも知っているとは......」
ヒカリが落胆したように肩を落とす。
「私は実践の方がやりたいんだけどなぁ」
諦めてしまったかのようなヒカリを見て、私は試しにそう言ってみる。
ヒカリ「実践......ですか......」
ヒカリが顎に手を当て悩んでいる。
「先生だって、このまま意味の無い授業をするよりも、ちゃんと意味のある授業をしたいと思ってるでしょ?」
私はヒカリの傍らに駆け寄りそう言った。
ヒカリ「少しばかり早いと思っていましたが......ここまで出来るのならば問題はないでしょう。よし、森にでも行きましょうか」
ヒカリは私に笑みを見せる。
「はい、先生」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「それでは、まず基本的な魔法からやってみましょうか。私の動きをよく見ておいてください」
そう言い、私は掌に力を込め、木に向かって魔法弾を放つ。撃った魔法は『フィア』火属性の初級魔法だ。木に当てても、燃えるどころか火傷の跡すら付かない。
ラクシュミー「おぉ」
ラクシュミーが感嘆の声を上げる。子供は純粋で良い。学者にこんなもの見せても何にもならない。しかし、子供なら関心の目で見てくれる。
「どうですか?出来そうですか?」
私はそう問いかける。
ラクシュミー「それくらいだったら......」
そう言い、ラクシュミーは私の真似をする。魔力が集まっているようではあるが、それを上手く放つことが出来ていない。
「どうやら、魔力を集めても放つのが出来ないようですね」
そう言い、私はラクシュミーの腕を持ち上げる。
「いいですか?魔法を使う際は、しっかりと『イメージ』をするのです。理屈だけ理解して、それをそのままやったとしても、上手く発動させることは出来ませんよ。まずは、私が先程行ったことを自分に置き換えて『イメージ』してご覧なさい」
そう言うと、ラクシュミーが瞼を閉じた。ラクシュミーの掌に魔力が集まっていくのが分かる。
「そのまま、集まった魔力を一気に放出してみてください。そして、詠唱してください」
ラクシュミー「すぅ、フィア!」
私の言葉に答えるよにラクシュミーが魔力を放った。微弱ではあるが、しっかりとした『魔法』を放っていた。
ラクシュミー「やった!やったよ先生!」
ラクシュミーが興奮してこちらにやって来る。
「よく出来ました」
私はラクシュミーの頭を撫でる。ラクシュミーは嬉しそうに笑みを浮かべている。
「それでは、続き......」
「いやぁぁぁ!」
続きをしようとした矢先、森の奥の方から悲鳴が聞こえてきた。
ラクシュミー「先生、今のって......」
ラクシュミーが問いかけてくる。
「ーーここらには時折、魔獣が現れると聞きますが、まさかその類か......何にせよ様子を見に行かねば」
私は悲鳴の聞こえた方に向かう。
ラクシュミー「あ、先生待ってー」
ラクシュミーが後を追いかけてきたが、そんなものは無視しておいた。山賊とかに襲われたとかじゃなきゃいいですけどーー
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それとも――自由か。
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