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第3章 【記憶の結晶】
第3章1 【消失の物語】
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夏が終わり、秋に差し掛かったかと思えばもう冬がやってくる。
今日は11月14日。ヒカリが死んでから早5ヶ月が経った。
「ただいまー」
セリカは呑気な声を出しつつ、ギルドの中に入る。
「お帰りなさい。セリカ」
セリカを出迎えてくれたのはミラだった。
セリカはこの頃、1人で仕事に行くことが多い。あの戦い以来、あまりうちのギルドに大掛かりな仕事が舞い込んでこないためである。
「はぁ......」
普段は面を付き合わせればガミガミ言い合うヴァルとヴェルドがため息をつく。
こんな状態を見れば、誰だって大掛かりな仕事をここに依頼しようとは考えないだろう。
「あれ、アルテミスは?」
セリカは部屋を見渡し、アルテミスが居ないことに気づくと、ミラに問う。
「あの子ならまた聖龍の墓場近くの依頼を見つけて行ってるわよ」
「そっか......」
アルテミスはここ最近、聖龍の墓場近くの依頼を見つけては行っている。理由はヒカリを見つけ出すためであろう。わざわざ依頼を口実に行かなくたって誰も、何も文句は言わないのにである。
「なんか、私、今日も帰るね」
セリカはミラに精一杯の笑顔を作り、言う。
「お疲れ様。気を付けてね」
ミラはそう言って手を振る。
思えば、表面上ではミラだけが明るく振舞っている。他のメンバーはやたらしんみりした表情なのだが。
とか、そんなどうでもいいことを考えつつ、セリカはギルドを後にする。
セリカのここ最近の帰り道はずっと路地裏を通っている。
そこを通っていれば、いつかあの日みたいにひょっこりとヒカリが現れるかもしれない、と思っているからだ。
そんなことをいつも思っているのだが、ヒカリは愚か、今まで、セリカの帰る時間にここで人を見かけたことは一切無い。
今日もそうだと思っていた。
今日は珍しく、セリカとすれ違う人がいた。
あまり、注意して見ていなかったため、すぐには気づかなかったが、よく見ると、ヒカリと同じようなコートを着ている。
まさか......
「ヒカリん!」
セリカは咄嗟に振り向き、叫ぶ。
「ッ......」
そのまま過ぎ去っていこうとした人物の足が止まる。
「ねえ、ヒカリん。そうなんでしょ?」
セリカはヒカリと思われる人物の前に小走りで進む。
「ヒカリ......それが私の名前ですか?」
目の前の少女はセリカに向かってそう問いかける。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「で、お前は道端で記憶喪失者と遭遇したらここに連れてくるのか」
セリカの説明を一通り聞いたヴェルドの第一声はそれだった。
「だってさぁ、ほっとけないじゃん。ヴェルドだって困ってる人はほっとけないでしょ?」
セリカはそう反論する。
「あのなぁ、俺はーー」
「ヴェルド様は何時だって私のことを心配してくださいますよね」
ヴェルドが応えようとしたところにシアラがタイミング良く横槍を入れる。
「いや、俺は困ってる人を見つけたらほっとけないなぁ、ハハ」
ヴェルドは何かを察したのかやけに明るい口調でそう言う。
「お前ら、夫婦漫才はそのくらいにしとけ。この子が困ってる」
ライオスが呆れた口調で言う。
「うるせぇ!俺だってやりたくてやってるんじゃ......」
「じゃあ、ヴェルド様。私達は要らないようですので、このまま2人でお外にでも行きましょうか」
シアラがヴェルドの腕に自分の胸を当てて言う。
正直、この光景には慣れた。
ヴェルドとヴァルが喧嘩するよりも、最近はこのやり取りの方が多い気がする。
「話が大分ズレちゃったけど、あなた名前はなんていうの?」
セリカは一通りのやり取りを見た後、拾ってきた子に向き直り、問いかける。
「って、記憶が無いんだから名前分かるはずないか」
セリカは自分で言った質問に自分で答えてしまった。
「ネイ、と言います。家名はありません。というより、この名前も本当かどうか分かりません」
目の前の子、『ネイ』が耳を澄ませないと聞こえないほどの小さな声で言う。
「ネイ......か。珍しい名前ね」
後ろで聞いていたミラがそう感想を漏らす。
「その名前は覚えていたの?」
「いえ。この剣に刻んであったんです」
ネイはそう言いながら、鞘から剣を抜き、机の上に置く。
確かに、そこには『To Ney』と刃の付け根あたりに小さく刻み込まれていた。
「この剣......かなり良質な金属で出来てるな。こんな金属、早々見かけないぞ」
フウロがネイの剣を持ち上げ、その質を肌で確かめている。
「この剣はどこで手に入れたんだ?」
フウロはネイにそう質問をする。
「さっきの話聞いてたら大体分かると思うんだけど......」
「それもそうだったな。ネイの話しぶりからすると、記憶が無くなった時には既に持っていたということか......」
フウロはそう言い、ネイに剣を返す。
「ところで、記憶をなくしてから、今日までどのくらいさまよってたんだ?」
突然、ヴァルがセリカの後ろから顔を出し、ネイに問いかける。
「それ聞いてどうなるの?」
「お前がヒカリかもしれないと思って連れてきたんだろ?なら、記憶が無いって分かった日が何時かが分かれば手掛かりになるかもしれないだろ?」
珍しくヴァルがまともなことを言う。
「で、実際どうなんだ?」
ヴァルがネイの目を見据えて問う。
「5ヶ月......くらいだったと思います...」
ネイは暫し、考えるような仕草をした後、そう答えた。
「5ヶ月か......時期的にはピッタリと重なるな......」
確かに、ヒカリが死んだ(と思われる)日から今日で5ヶ月程経っている。
ただ、顔を見る限り、ヒカリではないと思う。
「とりあえず、街の人に聞いてみるか......」
「聞くって何を?」
「もしかしたらこいつを知ってるやつが1人くらいいるかもしれねえだろ?」
「それはそうとして、どこで聞き込みをするの?」
「とりあえず、商業街かな。あそこは人通りが多いからな。というわけで、ヴェルド、お前も手伝え」
ヴァルはヴェルドに指差し、指名する。
「は?何で俺が」
「いいじゃないですかぁ。丁度私達も外に出るところだったんだしぃ」
シアラがやたら小文字を使った話し方でヴェルドにまとわりつく。
「だから、お前は俺にくっ付くな!」
ヴェルドがシアラを引き離しながら言う。
「いいではないかヴェルド。お前はここ最近運動してないんだからな」
「俺は犬かなんかか!」
「フッ」
ヴェルドの返しに対し、フウロが鼻で笑う。
そのやり取りに対し、ネイはひたすら困惑しているようだが...
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
セリカ達は商業街まで5分とかからない道をネイに合わせて10分も歩いていた。
なんでも、ネイは相当の体力不足のようで、歩いているだけなのに、数分としないうちに息を上げていた。
「すみません。私なんかのために」
商業街につき、一息ついてからネイが言った。
「いいって。それより、大丈夫?」
ネイは未だに息を荒らげていた。ゼェゼェハァハァという感じの音が聞こえてきそうだ。
「それで、着いたはいいが、誰から聞き込みをしていくんだ?」
ヴェルドが体にまとわりつくシアラを無視してヴァルに問いかける。
「そうだな。あれなんか丁度いいんじゃね?」
しばらく全体を見渡した後、ヴァルが一点を指さし言う。その方向にはグランアーク騎士団がいた。
ーー確かに、あれなら丁度良さそうかもーー
騎士団ともあれば、剣士や魔道士の顔なら大体覚えている。丁度ネイは剣を持っていることだし、もしかしたら剣士として誰かが覚えているかもしれない。
そう考えて動き出そうとしたセリカだったが、先にヴァルがこちらに騎士団の内の1人を連れてきた。
なんか今日のヴァルはやたらと冴えている気がする。
「ほう、記憶を失った少女とな。それで、なぜ我々に問い質してきたのだ?」
ヴァルとの距離が数歩まで近づいたところで、何やら会話をしているのが聞こえた。
「いや、こいつ剣を持ってるからもしかしたら剣士なんじゃないかと思ってな、それで、お前ら騎士団なら何か知ってるんじゃねえかと思ったんだよ」
相変わらず、誰に対しても口の利き方があれだが、大体の要領は伝わっただろう。
「顔がよく見えんな」
ネイの前に屈み込んだ騎士の第一声がそれだった。
まあ、フードを被っていることだし、顔がよく見えないのも仕方ない。
「ちょっと外させてもらうぞ」
騎士は一礼してネイのフードを外そうとする。
「あ......ダメ......」
なんか、ネイがそれを拒もうとしたが、あっさりとフードは外されてしまった。
「............」
ネイの素顔を見て、その場の誰もが口を閉じた。
ネイの頭には、2本の『角』が生えていた。
「龍......人......」
騎士の人がそう呟く。
まさしく、ネイはこの世界では数少ない、というか殆ど居ない龍人であった。
「お前ら!龍人だ!」
真っ先に我を取り戻した騎士の人が仲間に向かって叫ぶ。
それを聞いたネイがフードを被ろうとするが、もう遅い。辺りには一瞬にして物珍しい目、または恐れを抱く目で見る人で溢れ返っていた。
「ちょっと嬢ちゃん。悪いが私達と一緒に来てくれるかね?」
騎士の人はやけに優しそうな声でネイの肩に触れる。
「誰がてめぇなんかと行くかってんだ」
突然、ネイの口調が変わったかと思うと、次の瞬間
「おわっ......」
騎士の人の手を振り払い、立ち上がりざまに蹴りを入れる。
「かかって来いよ。まとめて相手してやっからよ」
そう言い、ネイは鞘から剣を抜き出し構える。
「1つ、いいこと思いついたんだ。ずっと悩んでた必殺技の名前なんだがな......」
ネイは先程蹴りを入れた騎士の人に向かって突進していく。
「ひっ......」
騎士の人がなんとも情けない声を上げる。
「試しに喰らってもらうぜ......」
ネイはそのまま剣撃でも入れるのかと思ったが、寸前で攻撃をやめる。
「チッ......何やってんだよ。こいつらはてめぇを捕まえようとしたヤツらだろうが!」
ネイは誰に向かってでもなく、謎の言葉を発している。
そして、しばらくした後ネイは肩の力を抜いたのか、剣を持っていた手をだらしなく垂らす。
「か、確保ー!」
その様子を見て、騎士の人が再び仲間にそう指示する。
「ヒィィィ、ご、ごめんなさーい!」
ネイは騎士団が追いかけるよりも早く、その場を退散した。
もちろん、私達が放っておくはずもなく、追いかける。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ハァハァハァハァ」
ネイは息を荒らげ、路地裏に隠れ込む。
こんなに走ったのはいつぶりだろうか?いつもは『アイツ』が勝手に走ってるが、この体はまるで成長することを知らない。
どれだけ走ろうが、体力は一向につかないのである。
(おい、いつまで逃げるつもりだ)
胸の内から『アイツ』が話しかけてくる。
「あなたの、せいです」
ネイはその場に座り込む。
「全くよォ、なんで止めんだよ。あのままやってたら勝てただろうが」
『アイツ』が具現化して私の目の前に姿を現す。
見た目は厳つい紅蓮の髪色をした巨漢の男。悲しいものだ。こんなやつを胸の内に飼っているとは。
「あのまま続けてたら、この街にはもう居られなくなるでしょ。ただでさえ移動するだけでかなりの困難をくぐり抜けないといけないのに」
ネイは息を整えながら目の前の男に向かって言う。
「どの道、もうこの街には居られねえだろ」
それもそうである。龍人だとバレた時点でもうおしまいだと分かってはいた。
「それにしても、やり過ぎだって。いい加減、手加減ってのを覚えてよ。『ジーク』」
「うるせぇな。お嬢を護るのが俺の仕事であり、契約なんだよ」
『ジーク』はため息をつきながら、そう言う。
ため息をつきたいのはこっちだ。
散々、私の体で好き勝手して、挙句の果てには騎士団相手にも喧嘩を売ろうとする。
ハッキリ言って
「もう、疲れた」
ついつい、そう言ってしまう。
「疲れるのはお嬢の勝手だが、『あれ』はどうするつもりだ?」
ジークが路地裏の私が入ってきた場所を指さし言う。
「あ!こんな所にいた!」
金髪の少女、『セリカ』がこちらの存在に気づきやってくる。
「ジーク、行くよ」
ネイは立ち上がり、その場から離れようとする。
「あ、待ってー!」
セリカが追いかけてくる。あんな走り方では普通の人なら追いつかれることはないだろう。そう、『普通の人』なら。
ついさっき全力で走ったネイには、もう走る気力が残ってはいなかった。
それでも、逃げようと体が苦しいのを堪え、走り出す。
「待てって言ってんだろ!」
赤髪の少年、『ヴァル』が家の壁を伝ってあっという間にネイの前に立ちはだかる。
もうおしまいかーー
短い人生だった。まだ、親の顔すら思い出してないのにもう死ぬのか。
ネイは諦めて、その場で立ち止まる。ただ、何もせずに死ぬのは純粋に嫌である。せめて、少しくらいは抵抗してやる。
ネイは鞘から剣を抜き出し、ヴァルに向かって突きつける。と言っても、剣は使えないのだが。
「待てよ。何も今すぐ取って食おうなんて思ってねえよ」
ヴァルが両手を手の前に出して振り、戦う意思がないことをアピールする。
当然、そんなものは信用ならない。そんなことを言って、結局は捕まえて騎士団の連中に渡すに決まっている。
ネイは息を呑み、ヴァルが隙を見せるのをじっと待つ。
「頼むから、その剣をその場に置けって。話し合おうじゃねえか」
ヴァルはそう言い、両手を頭の後ろに置く。
ーー今だーー
今のタイミングでなら、ジークでなくとも切り抜けることが出来るであろう。
そう思い、ネイはヴァルに向かって剣を前に出し、突進しようとする。
「剣を置けと言っているだろ!」
突然、後ろの方から物凄い気迫がした。
咄嗟に後ろに向けて剣を振り回すが、それを鮮やかな剣技で打ち返される。そして、その勢いで相手はネイの首元に剣を当てる。
「くっ......」
ネイは負けを認め、その場に剣を落とした。
「最初からそう素直だと分かり易かったんだがな」
女は鞘に剣を戻しながらそう言う。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
セリカはネイとヴァル、フウロの間で交わされたやり取りを黙って見ていた。
ヴァルがネイの注意を引き、フウロが後ろからネイを押さえつける。
あれを見たあとだから難しそうに思えたが、案外すんなりと上手く決まった。
「おーい、セリカー!終わったかー?」
遠くで待機していたヴェルドが問いかけてくる。
「うん、終わったよー!」
セリカは短くそう答える。
「さてと、なんで逃げ出したりなんかしたんだ?」
ヴァルがネイの前に屈み込み、問いかける。
「............」
ネイは黙ったまま何も答えない。
「答える気がないならいい。ギルドに連れて帰るだけだ」
そう言い、ヴァルがネイを抱えようとした時だった。
「触らないでください!」
ヴァルの手を弾き飛ばし、ネイが大声でそう言う。
「どうせ、あなた達も私を殺そうとするんでしょ!」
ネイは何かに怯えるようにこの場を離れていこうとする。
「あ、待て」
フウロが慌てて後を追いかけようとする。
「逃げるつもりか、てめぇ」
偶然にも、ネイが逃げようとした方向にヴェルドが現れた。
ネイは鞘から剣を抜き出そうと、手を当てる。が、先程フウロに取り上げられたため、そこには無い。
「やる気か?なら相手になってやる、ぜ!」
先程、ネイの進行方向にヴェルドが現れたのはナイスタイミングだと思った。しかし、今の状況を見ると、最悪のタイミングだったと思う。
なぜなら、ヴェルドが逃げようとしたネイを思いっきり殴り飛ばしたからである。
「何やってんだヴェルド!」
これには、この場にいたネイ以外の誰もが驚いた。
ネイは苦しそうに、腹を抱えている。
「何してんだ?ヴェルド!」
ヴァルがヴェルドの胸ぐらを掴み、問いかける。
「うるせぇよ。俺はそいつら龍人を倒さなきゃ気がすまねえんだよ」
ヴェルドが今までとは明らかに違う、『殺意』を抱いてネイを睨んでいる。
「ネイ、大丈夫?」
セリカはネイに駆け寄り、治癒魔法を操る精霊『アルラウネ』を呼び出し、治療してもらう。
「さ、触らない......で」
この期に及んでもまだネイは逃げ出そうとする。まあ、そうする気持ちは十分に分かるが......
「おい、やめろヴェルド」
ヴァルが必死にヴェルドを宥める。
この時、シアラは何をしていたのかと言うと、ただただ、有り得ないという目でヴェルドを見つめていた。
「俺の家族はな!みんな龍人に殺られたんだよ!家族だけじゃねぇ!俺の故郷の村に住んでた全員が龍人に殺られた!俺はそいつを殴り倒さねえと気がすまねえ!」
「それとこれとは関係ねえだろ!あいつは確かに龍人だが、お前の故郷を襲った張本人じゃねえだろ!あれは10年も前の話のはずだったよな!?」
ヴァルが必死にヴェルドを抑える。
ネイは恐怖のあまりか、その場で気絶してしまった。
「ヴェルド。あまり、個人の感情を表に出すな。ネイはあれでも記憶をなくして今日までずっとさまよっていたんだ。それに、今日みたいに龍人であることが原因で色々と辛い思いをしていたかもしれないだろう?あまり、感情的になって人を傷つけるな」
フウロが静かに、ヴェルドに説教をする。その効果は絶大で、ヴェルドは一瞬にして黙り込んだ。
まさに鶴の一声である。
そんなことはどうでも良くて、今はネイの体が心配だ。
「どう?アルラウネ」
「特に問題はありません。しばらく安静にしていれば大丈夫だと思いますっ」
そう言うと、アルラウネはビシッとその場で敬礼して消えていった。
今日は11月14日。ヒカリが死んでから早5ヶ月が経った。
「ただいまー」
セリカは呑気な声を出しつつ、ギルドの中に入る。
「お帰りなさい。セリカ」
セリカを出迎えてくれたのはミラだった。
セリカはこの頃、1人で仕事に行くことが多い。あの戦い以来、あまりうちのギルドに大掛かりな仕事が舞い込んでこないためである。
「はぁ......」
普段は面を付き合わせればガミガミ言い合うヴァルとヴェルドがため息をつく。
こんな状態を見れば、誰だって大掛かりな仕事をここに依頼しようとは考えないだろう。
「あれ、アルテミスは?」
セリカは部屋を見渡し、アルテミスが居ないことに気づくと、ミラに問う。
「あの子ならまた聖龍の墓場近くの依頼を見つけて行ってるわよ」
「そっか......」
アルテミスはここ最近、聖龍の墓場近くの依頼を見つけては行っている。理由はヒカリを見つけ出すためであろう。わざわざ依頼を口実に行かなくたって誰も、何も文句は言わないのにである。
「なんか、私、今日も帰るね」
セリカはミラに精一杯の笑顔を作り、言う。
「お疲れ様。気を付けてね」
ミラはそう言って手を振る。
思えば、表面上ではミラだけが明るく振舞っている。他のメンバーはやたらしんみりした表情なのだが。
とか、そんなどうでもいいことを考えつつ、セリカはギルドを後にする。
セリカのここ最近の帰り道はずっと路地裏を通っている。
そこを通っていれば、いつかあの日みたいにひょっこりとヒカリが現れるかもしれない、と思っているからだ。
そんなことをいつも思っているのだが、ヒカリは愚か、今まで、セリカの帰る時間にここで人を見かけたことは一切無い。
今日もそうだと思っていた。
今日は珍しく、セリカとすれ違う人がいた。
あまり、注意して見ていなかったため、すぐには気づかなかったが、よく見ると、ヒカリと同じようなコートを着ている。
まさか......
「ヒカリん!」
セリカは咄嗟に振り向き、叫ぶ。
「ッ......」
そのまま過ぎ去っていこうとした人物の足が止まる。
「ねえ、ヒカリん。そうなんでしょ?」
セリカはヒカリと思われる人物の前に小走りで進む。
「ヒカリ......それが私の名前ですか?」
目の前の少女はセリカに向かってそう問いかける。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「で、お前は道端で記憶喪失者と遭遇したらここに連れてくるのか」
セリカの説明を一通り聞いたヴェルドの第一声はそれだった。
「だってさぁ、ほっとけないじゃん。ヴェルドだって困ってる人はほっとけないでしょ?」
セリカはそう反論する。
「あのなぁ、俺はーー」
「ヴェルド様は何時だって私のことを心配してくださいますよね」
ヴェルドが応えようとしたところにシアラがタイミング良く横槍を入れる。
「いや、俺は困ってる人を見つけたらほっとけないなぁ、ハハ」
ヴェルドは何かを察したのかやけに明るい口調でそう言う。
「お前ら、夫婦漫才はそのくらいにしとけ。この子が困ってる」
ライオスが呆れた口調で言う。
「うるせぇ!俺だってやりたくてやってるんじゃ......」
「じゃあ、ヴェルド様。私達は要らないようですので、このまま2人でお外にでも行きましょうか」
シアラがヴェルドの腕に自分の胸を当てて言う。
正直、この光景には慣れた。
ヴェルドとヴァルが喧嘩するよりも、最近はこのやり取りの方が多い気がする。
「話が大分ズレちゃったけど、あなた名前はなんていうの?」
セリカは一通りのやり取りを見た後、拾ってきた子に向き直り、問いかける。
「って、記憶が無いんだから名前分かるはずないか」
セリカは自分で言った質問に自分で答えてしまった。
「ネイ、と言います。家名はありません。というより、この名前も本当かどうか分かりません」
目の前の子、『ネイ』が耳を澄ませないと聞こえないほどの小さな声で言う。
「ネイ......か。珍しい名前ね」
後ろで聞いていたミラがそう感想を漏らす。
「その名前は覚えていたの?」
「いえ。この剣に刻んであったんです」
ネイはそう言いながら、鞘から剣を抜き、机の上に置く。
確かに、そこには『To Ney』と刃の付け根あたりに小さく刻み込まれていた。
「この剣......かなり良質な金属で出来てるな。こんな金属、早々見かけないぞ」
フウロがネイの剣を持ち上げ、その質を肌で確かめている。
「この剣はどこで手に入れたんだ?」
フウロはネイにそう質問をする。
「さっきの話聞いてたら大体分かると思うんだけど......」
「それもそうだったな。ネイの話しぶりからすると、記憶が無くなった時には既に持っていたということか......」
フウロはそう言い、ネイに剣を返す。
「ところで、記憶をなくしてから、今日までどのくらいさまよってたんだ?」
突然、ヴァルがセリカの後ろから顔を出し、ネイに問いかける。
「それ聞いてどうなるの?」
「お前がヒカリかもしれないと思って連れてきたんだろ?なら、記憶が無いって分かった日が何時かが分かれば手掛かりになるかもしれないだろ?」
珍しくヴァルがまともなことを言う。
「で、実際どうなんだ?」
ヴァルがネイの目を見据えて問う。
「5ヶ月......くらいだったと思います...」
ネイは暫し、考えるような仕草をした後、そう答えた。
「5ヶ月か......時期的にはピッタリと重なるな......」
確かに、ヒカリが死んだ(と思われる)日から今日で5ヶ月程経っている。
ただ、顔を見る限り、ヒカリではないと思う。
「とりあえず、街の人に聞いてみるか......」
「聞くって何を?」
「もしかしたらこいつを知ってるやつが1人くらいいるかもしれねえだろ?」
「それはそうとして、どこで聞き込みをするの?」
「とりあえず、商業街かな。あそこは人通りが多いからな。というわけで、ヴェルド、お前も手伝え」
ヴァルはヴェルドに指差し、指名する。
「は?何で俺が」
「いいじゃないですかぁ。丁度私達も外に出るところだったんだしぃ」
シアラがやたら小文字を使った話し方でヴェルドにまとわりつく。
「だから、お前は俺にくっ付くな!」
ヴェルドがシアラを引き離しながら言う。
「いいではないかヴェルド。お前はここ最近運動してないんだからな」
「俺は犬かなんかか!」
「フッ」
ヴェルドの返しに対し、フウロが鼻で笑う。
そのやり取りに対し、ネイはひたすら困惑しているようだが...
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
セリカ達は商業街まで5分とかからない道をネイに合わせて10分も歩いていた。
なんでも、ネイは相当の体力不足のようで、歩いているだけなのに、数分としないうちに息を上げていた。
「すみません。私なんかのために」
商業街につき、一息ついてからネイが言った。
「いいって。それより、大丈夫?」
ネイは未だに息を荒らげていた。ゼェゼェハァハァという感じの音が聞こえてきそうだ。
「それで、着いたはいいが、誰から聞き込みをしていくんだ?」
ヴェルドが体にまとわりつくシアラを無視してヴァルに問いかける。
「そうだな。あれなんか丁度いいんじゃね?」
しばらく全体を見渡した後、ヴァルが一点を指さし言う。その方向にはグランアーク騎士団がいた。
ーー確かに、あれなら丁度良さそうかもーー
騎士団ともあれば、剣士や魔道士の顔なら大体覚えている。丁度ネイは剣を持っていることだし、もしかしたら剣士として誰かが覚えているかもしれない。
そう考えて動き出そうとしたセリカだったが、先にヴァルがこちらに騎士団の内の1人を連れてきた。
なんか今日のヴァルはやたらと冴えている気がする。
「ほう、記憶を失った少女とな。それで、なぜ我々に問い質してきたのだ?」
ヴァルとの距離が数歩まで近づいたところで、何やら会話をしているのが聞こえた。
「いや、こいつ剣を持ってるからもしかしたら剣士なんじゃないかと思ってな、それで、お前ら騎士団なら何か知ってるんじゃねえかと思ったんだよ」
相変わらず、誰に対しても口の利き方があれだが、大体の要領は伝わっただろう。
「顔がよく見えんな」
ネイの前に屈み込んだ騎士の第一声がそれだった。
まあ、フードを被っていることだし、顔がよく見えないのも仕方ない。
「ちょっと外させてもらうぞ」
騎士は一礼してネイのフードを外そうとする。
「あ......ダメ......」
なんか、ネイがそれを拒もうとしたが、あっさりとフードは外されてしまった。
「............」
ネイの素顔を見て、その場の誰もが口を閉じた。
ネイの頭には、2本の『角』が生えていた。
「龍......人......」
騎士の人がそう呟く。
まさしく、ネイはこの世界では数少ない、というか殆ど居ない龍人であった。
「お前ら!龍人だ!」
真っ先に我を取り戻した騎士の人が仲間に向かって叫ぶ。
それを聞いたネイがフードを被ろうとするが、もう遅い。辺りには一瞬にして物珍しい目、または恐れを抱く目で見る人で溢れ返っていた。
「ちょっと嬢ちゃん。悪いが私達と一緒に来てくれるかね?」
騎士の人はやけに優しそうな声でネイの肩に触れる。
「誰がてめぇなんかと行くかってんだ」
突然、ネイの口調が変わったかと思うと、次の瞬間
「おわっ......」
騎士の人の手を振り払い、立ち上がりざまに蹴りを入れる。
「かかって来いよ。まとめて相手してやっからよ」
そう言い、ネイは鞘から剣を抜き出し構える。
「1つ、いいこと思いついたんだ。ずっと悩んでた必殺技の名前なんだがな......」
ネイは先程蹴りを入れた騎士の人に向かって突進していく。
「ひっ......」
騎士の人がなんとも情けない声を上げる。
「試しに喰らってもらうぜ......」
ネイはそのまま剣撃でも入れるのかと思ったが、寸前で攻撃をやめる。
「チッ......何やってんだよ。こいつらはてめぇを捕まえようとしたヤツらだろうが!」
ネイは誰に向かってでもなく、謎の言葉を発している。
そして、しばらくした後ネイは肩の力を抜いたのか、剣を持っていた手をだらしなく垂らす。
「か、確保ー!」
その様子を見て、騎士の人が再び仲間にそう指示する。
「ヒィィィ、ご、ごめんなさーい!」
ネイは騎士団が追いかけるよりも早く、その場を退散した。
もちろん、私達が放っておくはずもなく、追いかける。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ハァハァハァハァ」
ネイは息を荒らげ、路地裏に隠れ込む。
こんなに走ったのはいつぶりだろうか?いつもは『アイツ』が勝手に走ってるが、この体はまるで成長することを知らない。
どれだけ走ろうが、体力は一向につかないのである。
(おい、いつまで逃げるつもりだ)
胸の内から『アイツ』が話しかけてくる。
「あなたの、せいです」
ネイはその場に座り込む。
「全くよォ、なんで止めんだよ。あのままやってたら勝てただろうが」
『アイツ』が具現化して私の目の前に姿を現す。
見た目は厳つい紅蓮の髪色をした巨漢の男。悲しいものだ。こんなやつを胸の内に飼っているとは。
「あのまま続けてたら、この街にはもう居られなくなるでしょ。ただでさえ移動するだけでかなりの困難をくぐり抜けないといけないのに」
ネイは息を整えながら目の前の男に向かって言う。
「どの道、もうこの街には居られねえだろ」
それもそうである。龍人だとバレた時点でもうおしまいだと分かってはいた。
「それにしても、やり過ぎだって。いい加減、手加減ってのを覚えてよ。『ジーク』」
「うるせぇな。お嬢を護るのが俺の仕事であり、契約なんだよ」
『ジーク』はため息をつきながら、そう言う。
ため息をつきたいのはこっちだ。
散々、私の体で好き勝手して、挙句の果てには騎士団相手にも喧嘩を売ろうとする。
ハッキリ言って
「もう、疲れた」
ついつい、そう言ってしまう。
「疲れるのはお嬢の勝手だが、『あれ』はどうするつもりだ?」
ジークが路地裏の私が入ってきた場所を指さし言う。
「あ!こんな所にいた!」
金髪の少女、『セリカ』がこちらの存在に気づきやってくる。
「ジーク、行くよ」
ネイは立ち上がり、その場から離れようとする。
「あ、待ってー!」
セリカが追いかけてくる。あんな走り方では普通の人なら追いつかれることはないだろう。そう、『普通の人』なら。
ついさっき全力で走ったネイには、もう走る気力が残ってはいなかった。
それでも、逃げようと体が苦しいのを堪え、走り出す。
「待てって言ってんだろ!」
赤髪の少年、『ヴァル』が家の壁を伝ってあっという間にネイの前に立ちはだかる。
もうおしまいかーー
短い人生だった。まだ、親の顔すら思い出してないのにもう死ぬのか。
ネイは諦めて、その場で立ち止まる。ただ、何もせずに死ぬのは純粋に嫌である。せめて、少しくらいは抵抗してやる。
ネイは鞘から剣を抜き出し、ヴァルに向かって突きつける。と言っても、剣は使えないのだが。
「待てよ。何も今すぐ取って食おうなんて思ってねえよ」
ヴァルが両手を手の前に出して振り、戦う意思がないことをアピールする。
当然、そんなものは信用ならない。そんなことを言って、結局は捕まえて騎士団の連中に渡すに決まっている。
ネイは息を呑み、ヴァルが隙を見せるのをじっと待つ。
「頼むから、その剣をその場に置けって。話し合おうじゃねえか」
ヴァルはそう言い、両手を頭の後ろに置く。
ーー今だーー
今のタイミングでなら、ジークでなくとも切り抜けることが出来るであろう。
そう思い、ネイはヴァルに向かって剣を前に出し、突進しようとする。
「剣を置けと言っているだろ!」
突然、後ろの方から物凄い気迫がした。
咄嗟に後ろに向けて剣を振り回すが、それを鮮やかな剣技で打ち返される。そして、その勢いで相手はネイの首元に剣を当てる。
「くっ......」
ネイは負けを認め、その場に剣を落とした。
「最初からそう素直だと分かり易かったんだがな」
女は鞘に剣を戻しながらそう言う。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
セリカはネイとヴァル、フウロの間で交わされたやり取りを黙って見ていた。
ヴァルがネイの注意を引き、フウロが後ろからネイを押さえつける。
あれを見たあとだから難しそうに思えたが、案外すんなりと上手く決まった。
「おーい、セリカー!終わったかー?」
遠くで待機していたヴェルドが問いかけてくる。
「うん、終わったよー!」
セリカは短くそう答える。
「さてと、なんで逃げ出したりなんかしたんだ?」
ヴァルがネイの前に屈み込み、問いかける。
「............」
ネイは黙ったまま何も答えない。
「答える気がないならいい。ギルドに連れて帰るだけだ」
そう言い、ヴァルがネイを抱えようとした時だった。
「触らないでください!」
ヴァルの手を弾き飛ばし、ネイが大声でそう言う。
「どうせ、あなた達も私を殺そうとするんでしょ!」
ネイは何かに怯えるようにこの場を離れていこうとする。
「あ、待て」
フウロが慌てて後を追いかけようとする。
「逃げるつもりか、てめぇ」
偶然にも、ネイが逃げようとした方向にヴェルドが現れた。
ネイは鞘から剣を抜き出そうと、手を当てる。が、先程フウロに取り上げられたため、そこには無い。
「やる気か?なら相手になってやる、ぜ!」
先程、ネイの進行方向にヴェルドが現れたのはナイスタイミングだと思った。しかし、今の状況を見ると、最悪のタイミングだったと思う。
なぜなら、ヴェルドが逃げようとしたネイを思いっきり殴り飛ばしたからである。
「何やってんだヴェルド!」
これには、この場にいたネイ以外の誰もが驚いた。
ネイは苦しそうに、腹を抱えている。
「何してんだ?ヴェルド!」
ヴァルがヴェルドの胸ぐらを掴み、問いかける。
「うるせぇよ。俺はそいつら龍人を倒さなきゃ気がすまねえんだよ」
ヴェルドが今までとは明らかに違う、『殺意』を抱いてネイを睨んでいる。
「ネイ、大丈夫?」
セリカはネイに駆け寄り、治癒魔法を操る精霊『アルラウネ』を呼び出し、治療してもらう。
「さ、触らない......で」
この期に及んでもまだネイは逃げ出そうとする。まあ、そうする気持ちは十分に分かるが......
「おい、やめろヴェルド」
ヴァルが必死にヴェルドを宥める。
この時、シアラは何をしていたのかと言うと、ただただ、有り得ないという目でヴェルドを見つめていた。
「俺の家族はな!みんな龍人に殺られたんだよ!家族だけじゃねぇ!俺の故郷の村に住んでた全員が龍人に殺られた!俺はそいつを殴り倒さねえと気がすまねえ!」
「それとこれとは関係ねえだろ!あいつは確かに龍人だが、お前の故郷を襲った張本人じゃねえだろ!あれは10年も前の話のはずだったよな!?」
ヴァルが必死にヴェルドを抑える。
ネイは恐怖のあまりか、その場で気絶してしまった。
「ヴェルド。あまり、個人の感情を表に出すな。ネイはあれでも記憶をなくして今日までずっとさまよっていたんだ。それに、今日みたいに龍人であることが原因で色々と辛い思いをしていたかもしれないだろう?あまり、感情的になって人を傷つけるな」
フウロが静かに、ヴェルドに説教をする。その効果は絶大で、ヴェルドは一瞬にして黙り込んだ。
まさに鶴の一声である。
そんなことはどうでも良くて、今はネイの体が心配だ。
「どう?アルラウネ」
「特に問題はありません。しばらく安静にしていれば大丈夫だと思いますっ」
そう言うと、アルラウネはビシッとその場で敬礼して消えていった。
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