グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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第3章 【記憶の結晶】

第3章4 【導きの氷海龍王】

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「う、うぇ"~」

 ネイは気持ち悪そうに手に口を当て不快な声を出す。

 場所は船の上。しかも、若干波が荒れている状態。

「大丈夫?ネイ」

 アルテミスが背中をさすりながらそう声をかけてくる。

「大丈夫じゃ、あびばぜん」

 あまりの気持ち悪さに、言葉がおかしくなる。

「まさか、こんなに船酔いするとはね」

 全くもってその通り、というか、なぜこの状況で私以外の乗客は誰一人として船酔いしていないのか。

(お嬢の体が弱いだけだろ。事実体力も無けりゃ筋力も無い。あるのは......知力だけか......)

「なんで最後のどごろだげはっぎりと言わながったんですが......」

(いや、お嬢が普段頭良さそうにしてないもんでな。今思い出した)

「そ、ぞうでずが」

 呆れ以前に気持ち悪さで何も言う気になれない。

ーー早く、港に着きたいーー

 そう思ったが、波が荒れている関係上、普段とは別ルートで行くためいつもより遅くなるという。最悪の気分だ。

「横になった方が......いいんじゃないの?」

 アルテミスがそう提案する。
 もちろん、その方法は試したが逆効果となったので今、こうして潮風に煽られている。

「それがダメなら......ジークに交代する......とか?」

 それも試した。結果はジークも船酔いを起こし、意味が無いということになった。

 この船酔いは私の体が全ての原因であることが分かったのだが......

「酔い止めの魔法とか......使えないの?」

「酔い止めの魔法ば酔っていない"人がづがわない"と効果がな"いんでず」

 アルテミスの方に向き直り、そう言う。

「そ、そうなんだ......」

 余程酷い顔をしていたのか、アルテミスが若干引き気味で言う。

(龍とか、出てこねえといいがな)

 突然、ジークが訳の分からないことを言い出す。

「龍?どういうこと?」

 アルテミスがそう問い掛ける。

「なんで、ぎこえでるんですが」

「え?だって......ってあれ?なんで聞こえてたんだろ......」

 本人にも分かっていないらしい。

(もしかして、お嬢の体に触れてたからじゃねえか?試しにもう1回触れさせてみろ)

「うん。アルデミスさん。もう一度私の体に触れでくだざい」

「え?うん」

 アルテミスが私の体にもう一度触れる。

(聞こえるか?)

「あ、聞こえる」

(やっぱりか。どうやらお嬢の体に触れてさえいれば俺様の声も聞こえるらしいな)

「それはぞうど、ざっきの龍が来るってどういうごど?」

(ああ、そうだったそうだった。俺様がいた時代?には人間の船を襲う悪い龍がいてだな。あっちの世界にはもう龍がいなかったが、こっちの世界はそうじゃないらしい)

「なんで、そう言えれるの?」

(こっちの世界には龍の匂いがプンプンしやがる。そこそこ龍がいると思うぜ。そしてだが、さっきお嬢と入れ替わってた時に感じたんだが......)

「まざがとは思うけど、龍の存在を近くに感じだどが言わないでよね」

(残念だが、そのまさかだ)

 どうやら、この船旅安全に行けれる可能性の方が低そうだ。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「で、結局ジークの懸念は何だったんですか」

(おかしいな?確かに龍の気配を感じてたんだがな?獲物を見定めて今にも飛びかかってきそうな感じのするやつが......)

「ジークの勘は当てになりませんね」

(まあ、あんな状態で襲われなかったんだから良いだろ)

 それもそうか。あんな船酔いした状態で龍が襲ってきた......なんてことになれば......間違いなく死ぬ。

 そう思うと、ジークの勘が外れてよかったと思う。

「それで、アルテミスさん。どこに行けば良いか分かりました?」

 ジークとひとしきり会話を終えてから、観光センターなるものから帰ってきたアルテミスに問いかける。

「大体分かったよー。思った以上に近かった」

「へぇー、参考までに聞いときますけどどのくらいの距離ですか?」

「オジサンが言うには馬車で小一時間だって」

ーーメチャメチャ遠いではないかーー

 何が近い距離だ。馬車で小一時間も移動してる時点で10キロは余裕で超える。しかも、さっきの船旅での疲れから開放されたと思ったら、また乗り物か。なんで行こうと思ったんだろうか。そう考えても後の祭りなのだが......

「あぁ、そんなに心配する必要ないよ?なんか、よく分からないけど今回乗る馬車は物凄く快適らしいから」

 と、アルテミスが言ってもネイの不安(主に乗り物酔いに対しての)が省かれる訳ではなかったのである。

 そんなこんなで、小一時間馬車に揺られて快適がどーのこーの言って結局乗り物酔いを起こし、一緒に乗っていた人達と馬主を困らせたのはあえて書く必要も無い話である。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 馬車に揺られ、辿り着いた先でネイ達を待っていたのは、南国......という訳ではなく、ただただ、暑いだけの村だった。

 シーズン中は観光客で溢れてるらしいが、生憎、今はシーズン外。ネイ達以外にこの場所に降りようとする者は誰一人としていない。

「船酔いから開放されたと思ったら、次は馬車で......そして辿り着いた先はただただ暑い土地。一体、いつになったら休めるんですか」

 ネイの口からついついそんな愚痴が溢れ出る。

「まあまあ、師匠の家に着いたら少しくらい休めると思うから、ネイは」

 自分は休めれないというわけか。益々アルテミスの師匠がどういう人なのか想像したくなくなる。多分、それを想像すればここに来たことを後悔すると思うからだ。

「へい!そこの嬢ちゃん達!」

 突然、後ろから凄くチャラそうな男の声が聞こえた。その声の矛先が自分達に向いていると瞬時に悟って、凄く嫌な気分に襲われた。

(ネイ、記憶に無いならあれだけど、ああいうヤツらには関わらない方が良いの。だから、ここは無視して行くよ)

 アルテミスが耳打ちしてくる。
 記憶の有無に関わらず、ああいうのには関わらない方が良いというのは本能で分かる。だから、ネイはアルテミスに合わせて先を急いだ。

「ねえねえ、無視しないでさぁ、俺達と遊ばない?なんでも奢ってやるからさぁ」

 無視して歩くネイ達の前に男2人が回り込み、行く手を阻む。

「どいてください。私達、急いでるんです」

「まあまあ、そんなツンツンしてないで俺達と一緒に遊ぼうぜ?」

 しつこい男だ。さて、どうやって振り払うべきか......ジークに任せるのはなんか嫌な予感がするのでやめておこう。

「ちょっとやめてください!」

 アルテミスが悲痛な叫び声をあげる。
 よく見ると、男のうち片方が方に手をまわそうとしており、いわゆる...セクハラ的なものになっている。

 本格的にヤバい。本能でそれが分かる。否、本能じゃなくても分かるか......

「あんたら、ここのもんか?」

「へ?」

 不意に低い声がし、全員声のした方向を向く。

「もう一度聞くが、あんたらはここのもんか?」

「いや、俺達はシーズン外の観光客だが......」

 強面の男の質問にアルテミスにくっついていた男が答える。

「じゃあ、そこの娘はあんたの彼女かなんかかい?」

「違います!」

 その質問にはアルテミスが即答する。

「ふんっ!」

 その答えを聞いた直後、強面の人がナンパ組をぶん殴り、気絶させる。

「悪いな嬢ちゃんら。観光客の中にはこういう迷惑なやつがいるもんでな。まあ、ここを嫌いにならんでくれ」

 強面の人はそう言いながら男二人をその辺に投げ捨てる。

「あの......」

 それを見届けてからアルテミスが強面の人に近づく。

「もしかして、『シグルド』さんじゃありませんか?」

「ん?なぜ俺の名前を知っている?」

「その答え方をするってことは...」

「ああ、そうだ。俺がシグルドだ。それよりも、なんで俺の名前を知っている?」

「やっぱり、シグルドさん。覚えてませんか?」

 アルテミスが自分の顔を指しながら問いかける。

「んー......その黄緑色の髪......どこかで見た覚えが......ああ、そうか。嬢ちゃんアルテミスだろ?」

「そうですそうです!」

 アルテミスも強面の人ならぬシグルドも両方興奮気味に言う。

「いやぁ、でかくなったなぁ。5年ぶりくらいか......」

「お久しぶりです」

「ホンマに久しぶりやなぁ。あれ?もう1人のラクちゃんは一緒じゃねえのか?って後ろの子は誰だ?」

「ああ、この子はネイって言って師匠に用事があるんです。会えます?」

 アルテミスがネイを隣に立たせそう言う。

「あー、多分今日は大丈夫だ」

「前より酷くなってませんよね?」

「むしろ、最近は良い方に行ってるから無理しなきゃ大丈夫だろ。まあ、ここで立ち話もなんだ。家に来い。そこの嬢ちゃんも」

 そう言って、シグルドは付いてこいと言わんばかりに手を振って先を行く。アルテミスがそれについて行く。

 完全に置いてけぼり状態である。

「ネイー、そんなところでボーッとしてないで行くよー」

 アルテミスが遠くでこちらを呼ぶ。
 慌ててネイはその後を追う。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「おーい、お前ー、今日は珍しい客が来たぞー」

 シグルドが玄関(というよりは勝手口?)を開け、外から大きな声で言う。

「客?私にかい?」

「そうだ。見たらきっと驚くと思うぞ」

「そうかい。なら、今から行くから待っててくれ」

 そんな会話を聞いた後、上から誰かが降りてくる音がする。

(案外、普通な家だったな)

 待ってる間でジークが話しかけてくる。

「錬金術師がみんなして実験場とか持ってるわけじゃありませんからね」

(でも、記憶を蘇らせるって話だろ?なら、それなりの施設があってもいいはずだが......地下にも空洞があるようには感じねえしな)

「そうなんですか?」

(あぁ、ビックリするくらいここは普通の家だよ......ん?)

「どうかしました?」

(いや、なんか龍の気配がするなって思ってだな)

「また勘違いかなんかでしょ」

(いや、間違いねえ。上?いや、正面辺りから感じるぞ)

 唐突にジークが興奮気味になって言う。

「え?でも、ここには......」

「さっきから何をブツブツと喋ってるんだ?君は」

「え?」

 突然、声をかけられ、思わず1歩引いてしまう。
 正面を見ると、そこに女の人がいた。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「済まなかったな。さっきは驚かせるような真似をしてしまって」

 アルテミスの師匠、ミルが料理を挟んで謝辞を述べる。

「いえ、私こそ話を聞いてなかったものですから」

 なぜ今こうなってるのか。全てはネイがジークと話をしていた間にアルテミスとミルが話をしていて、それでネイを紹介した時にどこか上の空だったらしい、ということでなんやかんやあって簡単に言うと今、料理を挟んで談笑している状態だ。故にネイはずっと置いてけぼり状態である。

「師匠、なんだかご機嫌が良いですね」

「そりゃあ、久し振りの客でしかも、相手がお前だからな。闘病で憔悴しきった私には良い薬だよ。それにしても、また大きくなったんじゃないか?見た目も少し大人っぽくなってるし」

「師匠の方こそ、大分調子が良くなりましたね」

「良い医者が見つかったからな。それ以来体調がみるみる良くなってるのが分かる」

 そうやってミルとアルテミスが談笑しているのを早く本題に入らないかと願いつつ見ている。

 話についていけないことほど退屈なことは無いのでは? と思う始末である。

(ねえ、ジーク、本当にこの人から龍の気配を感じるの?)

 暇だったのでネイは小声でジークに問いかける。

(間違いねえ。姿形が見えねえから恐らくは俺様と同じように契約龍の一種だ)

(なんでそんなのが分かるの?)

(なんとなくで分かるんだよ。そいつの善悪までは分からねえけど)

(ふーん)

「ネイー行くよー」

 ボーッとしていたネイにアルテミスが声をかけてくる。

「え、あ、はい。行く?どこに?」

 またしても話を聞いていなかったせいで先が見えない。

「どこにって、師匠に私の成長を見せるの。そのために表に出てって話をしてたじゃない」

 呆れたようにアルテミスがそう言う。

「すみません」

 反射的に謝る。

「何を無駄話している?行くぞ」

 ミルがそう言い、アルテミスが慌てて外に出る。

 ネイは非常にゆったりとした足つきで外に出る。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「じゃあ、いきます」

 アルテミスが練習用の弓を構え、的を見る。
 距離は30m、練習用の弓ではとてもではないが当たる距離ではない。

「ウィンド・オブ・アロー」

 それを魔法を使って威力をカバーする。魔法使いとしては基本中の基本の行いである。

 ただ、見る感じかなり高度な魔法であることが分かる。なぜかは分からないが、魔法に関してはかなりの知識がある。

「ほう、腕を上げたなアルテミス」

 ミルが軽く手を叩き、拍手をする。

「もっと高度なものができますけど、的のサイズを考えてあれで止めときました」

「わざわざ手加減するとは......ネイ、君も良ければ魔法を見せてくれないか?」

 よっぽど退屈そうな顔をしていたのか、ミルがそう提案してくる。

「え?」

「君からは多大な魔力を感じるからな。ちょっと見ておきたいと思って」

 ミルが本音を隠してそう言う。

 仕方ないので、ネイはさっきまでアルテミスがいた位置に行く。

(大丈夫か?お嬢。魔法なんて使ったことねえだろ?)

(そりゃあ、そうですけど......)

 事実、戦闘は全てジークに任せてきたので、魔法が扱えるかどうかは分からない。

「威力はどのくらいにしておきますか?ミルさん」

「威力?できれば最上位が見たいが、中くらいでいい」

「そうですか」

 そう呟き、ネイは1度深呼吸をする。
 片手を前に出し、精神を統一する。周りに土煙が起きているのが見える。

「ニルヴァーナ」

 力が集まったのを感じ、詠唱する。

 自分的には中くらいのつもりだったのだが、かなりの威力だったようで、的を突き抜け、壁を壊してしまった。

(あれ?これが中くらいなのかな?)

 どうも魔法に関しての記憶がこれは中くらいだと言っているせいで、こんなことになってしまった。

 ミル達が口を開けて壊れた壁の方を見ている。

「え、えっと~」

 流石にやり過ぎたか......

「なんだありゃ?あんなの見たことねえぞ」

 唯一シグルドだけが、状況が分からないのか呑気にそんなことを言う。

「今ので......中......?」

(流石にお嬢、ありゃ中なんて威力じゃねえよ。どう捉えても最上位を超える魔法だ)

「っと、言われましても......私の記憶じゃあれが中段の魔法になってるんですが......」

(お嬢の前世何もんだよ)

「さぁ?」

「誰と話してるんだ?」

「ひっ」

 いつの間にかミルが目前にやって来ていて、ネイにそう問いかける。

「やっぱリ君、中で何か飼ってるだろ?」

 流石に独り言が多すぎたが、なぜ、何かを飼ってるなんて発想に辿り着けるのか......

「そう心配しなくてもいい。ほら、出てこい」

「我を呼ぶとは何事だ?」

「え?」

 ミルの呼びかけに、目の前に白髪の男が現れる。

「どうせ、中で全部聞いてた癖によくそんなことが言えるな」

「もしかしたら、要件がそれじゃないことだってあるだろう?」

「昔から変わらないな、お前は」

 どういう状況だ?まさか、ジークと同じ契約龍......

(あ、龍の匂いこいつからだ)

 ジークが喉につっかえていたものがやっと取れたという感じでそう言う。

「龍?ってことはこの人」

「久しいなジーク。お前がそんな小娘と契約するとは一体何があったというのだ?」

 ネイが言い終える前に目の前の契約龍?がそう言う。

「そりゃ、こっちのセリフだァ。おめぇこそ小娘とは行かなくてもひょろひょろの姉ちゃんと契約してんじゃねぇか」

 ジークはネイの許可を得ずに意識を切り替える。

「相変わらず、輝きの炎雷龍王様は誰に対しても言葉使いが荒い。本体で現れてたらこのお方にぶっ飛ばされてるところだったな」

 契約龍ーー確か名前は『アルベルド』だったかーーが苦笑しながらそう言う。

「うるせえな。こちとら肉体はとうの昔に無くなってんだよ」

「おやおや、それは奇遇だな。我もとうの昔に肉体を失った。その時の記憶は無いがな」

「へんっ、ざまぁねえな」

「お互い様、だろ?それより、龍王様は幻覚で出れないのか?」

「あー、それに関しちゃ......あんまりそれやったらお嬢に負担かけるしな......んなわけで出来ねえんだ」

「そうかそうか。まあ、私も人のことは言えないがね。意識が取れる分、龍王様は凄い方だ」

「アル、旧友だがなんだか知らんが、そろそろ戻れ。私はこの子と話がしたいんだ」

 ミルがネイの体を引き寄せそう言う。

「そなたが呼び出したのではないか......」

 アルベルドは残念そうに戻っていく。

(ジーク、そろそろ変わって)

 ネイが内側からそう呼びかける。

「どうせならもっと話してたかったんだがなー」

 そうは言ってもアルベルドがいなくなったのでは何も話すことがない。素直に戻ることにしよう。

「ふぅ、戻ったー」

 勝手に切り替わらない、と約束したのに、ジークの約束破りは相変わらずだな、と思いはしたが、旧友を目の前にしてそうなる気持ちは分からないわけでは......ないのかな?まあ、大目に見ることにしておこう。

「やっぱり、君も龍契士だったか......」

 ミルがこちらに近づいてきて、そう言う。

「えっとー......」

「それに龍人だろ?」

 思わず息を呑んでしまった。顔は見られていない筈なのに......

「そんなに怖がらなくても大丈夫だ」

 そう言い、ミルは胸元のボタンを開ける。すると、今まで装飾品だとばかりに思っていた部分が広がり、羽のような形になる。

「私も龍人だ。まあ、人間との混血ではあるが......」

「へ、へぇー」

 これが混血なのだとしたら、私は純血か......ミルの羽と尾は私のより圧倒的に小さく、角は無い。
 これなら、日常生活でバレる心配など無いか......

「ちょっとコートを脱いでくれないか?」

 ミルが何を思ったのかは知らないが、そう言われたので素直にそうする。

「ふむ、見たところ『飛龍族』か......」

「飛龍族?」

 アルテミスが聞き返す。

「龍人にはいくつかの種族があってだな。私の父は泳龍族だった。そんなわけで私は泳ぎに優れている」

 ミルが詳しい解説を入れる。

「ということは飛龍族は名前からして空を飛ぶことに長けた龍人?」

「そうだ。まあ、飛んでるやつなどほとんど見た事はないが」

「ネイは飛べるの?」

 アルテミスがそう問いかけてくる。

「いえ、飛ぶなんて高度なことできません」

 当たり前のことだがそう答える。

「飛龍族は今生き残ってる龍人の中でも特に珍しい種族だ。その手のやつが見つければ、最悪コレクター商品......なんてことも有り得るな」

「何それ......」

 アルテミスがドン引きしながら言う。
 ネイも同様のことを思った。

「そんな顔せんでも、そういう悪趣味なことをするやつはいないから安心しろ」

「えぇ......」

「そうだ。すっかり忘れてたが、今日はどうしてここに来た?ここは遊びに来るにはお前の家から大分遠いはずだろ?」

 ミルがふと思い出したように本題に切り替える。

「ああ、そうそう。実は......」

 それに対してアルテミスがここまで来た経緯とミルの力が借りたい旨を明かす。

「記憶か......残念だが、私には記憶を蘇らせるなんてことは出来ないぞ」

 話を全部聞き終えたミルはそう言う。

「え?でも、師匠は昔、記憶喪失の人の記憶を直したって......」

「あの時のやつの記憶喪失なんて、そんな大袈裟な話じゃないからな。1発ぶん殴ってそれで終わりだ」

「そ、そんな~」

 ミルが記憶を直せれるということを当てに来たのに、無駄足になるとは......

「......1つだけ、もしかしたらの可能性がある」

「可能性?」

「導きの氷海龍王だ。あいつの力を借りれれば......」

 龍王。ジークと同じ存在だろうか?ただ、この世界に龍の意思はあれど、姿形はどこにもない。一体どこにいる......というか、なぜ龍王が?

(導きの氷海龍王かぁ......)

「何か知ってるの?」

(ありゃ、確かにすげえ奴だった。あいつと契約すれば自分が望んだものが手に入る。金とかみたいな欲望から夢なんて非現実的なものまで全てを手に入れるための道を示してくれるやつだ)

「......会ったことが......あるの?」

(ほんの数回だけだ。あいつとは気が合わねぇ。面を突合せても取っ組み合いの喧嘩になるだけだ)

「それってジークが龍であった時代だよね?」

(あぁ、そうだな。ご察しの通り俺達が喧嘩したら世界が大変なことになってて人間どもがしっちゃかめっちゃかしてたよ。懐かしいもんだ)

 そんなことを言うということは、その龍王はかなりの手練だと思われる。

 ジークには悪いが、これも記憶を取り戻すため、その導きの氷海龍王とやらに会いに行くか......

「で、師匠、その導きの氷海龍王はどこにいるんですか?」

 アルテミスがまさに気になっていたことを問う。

「氷幻山の山頂にいるらしい......」

「らしい?」

「かつて、龍王と契約したやつの話では気がついたら山頂にいたということだ。というか、あの山は何故か山頂まで上がれなくなってるんでな」

「ど、どんな山なのそれ......」

「いわゆる......『我は真に力を欲するもののみに力を与える』的なことを言っているのだろう」

「えぇ......」

 それが本当ならば会えるかどうかも怪しいではないか。

(だから言ったろ。あいつはめんどくさいやつだって)

 確かに、ジークの性格を考えればその龍王と気が合わないのは確かかもしれない。

「ちなみに、その氷幻山はどこなんですか?」

「あぁ、それならあの山だ」

 アルテミスの質問にミルは目前の山を指さしてそう言う。

「えぇ!?あれが!?」

「うむ、あの山は一年中山頂付近に霧がかかって山頂付近が見えないようになっている。なんなら、今からでも連れて行ってやろうか?」

 そんな徒歩で行ける距離だとは......

(お嬢、言っとくが俺はあまりオススメしねえぞ)

「それは、ジークが嫌いだからなだけでしょ」

 そう言い返すとジークは黙り込んでしまった。図星か......

「どうせ、誰も山頂にまで行けれんだろ。あいつはかなり厳しいらしいからな。記憶が欲しいなんて言ったところで無視されるに決まってる」

 ダメ元で行くなら充分ではあるな。

「よし、行ってみるか。アルテミスも付いてこい」

「え!?私も!?」

「お前がこの子を連れてきたんだろうが」

「そ、そうだけど......」

「それに行ったところで私とお前はまず山頂にまで案内されん。暇潰し感覚で行けばいいだろう」

ーー私の大事な問題を暇潰し扱いしないでくれーー

 そう思いはしたが、口にはしなかった。
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