グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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第3章 【記憶の結晶】

第3章13 【幻想の夢《イリュージョン・ドリーム》】

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「......イ、しっ............え!」

 どこかから私を呼ぶ声がする。

「ネイ!しっかりしたまえ!」

「ラナ?」

 目を開けると、すぐそばに慌てた顔をしたラナがいた。

「全く、心配をかけさせないでくれ」

「あ、ごめん」

 あれ、なんでラナなんかに謝ってるんだろう。

「私、どうなったんだっけ?」

「覚えていないのか?」

「うん。てか、あれ何?」

 横目にさっきからチラチラと見えるジーク、アマツと黒い龍の戦闘について尋ねる。

「あれが、恐らくラヴェリアと呼ばれる龍王。そして、君は今絶賛あの龍に取り憑かれているところだな」

「そう......なんだ......じゃあ、なんであの龍はあんなにも苦しんでいるの?」

「質問が減らない子だな。まあいい。ついさっき、現実から君の体に滅龍の魔法をかけた者がいる。それのせいでラヴェリアはあんなにも苦しんでいる」

「お嬢、あいつは大分弱まった。話ができるとしたら今だけだと思うぜ」

 いつの間にか、龍人姿に戻ったジークがこっちにやって来てそう言う。

「うん、分かってる」

 ラヴェリアを助けれるとしたら、今の弱っている状態だけ。この機を逃せば、もう倒すしかなくなるかもしれない。

「一応、現実の皆には僕が攻撃をやめるように言ってきた。やるなら早くしたまえ」

「うん。ありがとう」

 ラナの心遣いに今日は素直に感謝する。
 いつもは迷惑な龍だけど、肝心な時は役に立ってくれる。いや、他の龍王もそうなのかもしれない。普段はやかましい奴らでも、肝心な時は私を手助けしてくれる。ジークは元より、他の龍王も1ヶ月一緒に過ごせばそれが分かるようになっていた。だから強く文句を言えないのかもしれない。

 だから、今は......

「ラヴェリア!私の話を聞いて!」

 ラヴェリアの瞳を真っ直ぐに見据え、そう言う。

「う"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!」

 ラヴェリアの叫びが心身に伝わってくる。

「あなたは好きだった人間達に殺されて凄く憎んでいるかもしれない......」

 ラヴェリアにゆっくり、ゆっくりと近づく。

「自分が信じていたものを突然壊されて怒り狂っているかもしれない......」

 もうちょっとでラヴェリアの元へ辿り着く。それを見たアマツがその場を離れて行く。

「でも......」

「あ"ぁ"ぁ"ぁ"!」

「お嬢!」

 ラヴェリアが大きな口を開け、思いっきり噛み付いてきた。

 咄嗟に腕で受け止めるが、精神世界の筈なのに物凄く痛みを感じる。

「もういいお嬢。それ以上やったら現実のお嬢の体に支障が出る」

 ジークが龍王体になる。

「待て、ジーク君。もう少しなんだ」

「何言ってんだラナ!こうなった以上もう説得なんか出来ねえよ!」

「落ち着けジーク君。ネイはまだやるつもりみたいなのが見えないのか?」

 そうだ。ラナの言う通り、私はここで諦めるつもりは無い。

「大丈夫。私達はあなたの味方だから」

 ラヴェリアの頭を泣いてる子供を慰めるかのように優しく撫でる。

「ソウ......だ......わた......し......は......」

 ラヴェリアの体がゆっくりと消え、代わりに、1人の女性がその場に残る。

「わた......し......は......」

「ねえ、あなたの名前を教えて」

「わた......し......の名......は......ラヴェ......リア。幻想の......零龍王」

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「ネイ!おいしっかりしろ!ネイ!」

 誰か、この1ヶ月間でよく聞いたやかましい声がする。

「おい、エフィ。腕の傷はどうなった?」

「はい、もう大丈夫だと思います。ただ、応急処置程度なので、早くちゃんとしたところで治療しないと......」

「クソ、早くこいつらを片付けねえといけねえのに......クロム!そっちはどうなってる?」

「非常にまずい状況だ。こんな小さな建物のどこに隠れ場所があるんだってくらい敵が湧いてくる」

 早く、私も加勢しないといけない。なのに、体が思うように動かない。

(私に任せろ。そなたの敵は私が全て討ち取る)

 そう......なら任せた。

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 ネイが倒れてから戦況は常に悪い方に傾いている。
 倒しても倒しても湧いてくる敵の数。更に、どこから現れたのかが分からない魔獣の群れ。しかも、その魔獣は帝国兵達を襲わないように仕上がっている。

 私も魔力が尽きかけ、これ以上は、とエキドナを戻したため、戦力は更に低下している。

 外で戦っているであろう騎士団達が駆けつけて来ないところまで考えると、外の戦況も悪くなっていると思われる。

「そう不安な顔をするな小娘達よ。私が今から全てを無に変えてやる」

 え?
 隣を見ると、いつの間にかネイがいた。

「え!?ネイりん、も、もう大丈夫なの!?」

 あまりのことに、飛び退いて壁にぶつかってしまう。

「ネイではない、ラヴェリアだ。覚えておけ」

「う、うん」

 なるほど、あの邪龍を仲間にできたのか......

「全てを無に変えてやる。『幻想・終わりの夢』」

 一瞬、私達も巻き込むつもりか?と思う光が辺りに満ちる。

 視界が開けた時、辺りにいた帝国兵や教徒達はどこにもいなくなっていた。

「やった......の?」

 死体などが辺りに無いため、敵を倒したのかどうかが分からない。

「心配せずとも、全員外にいる奴らも含めて倒した。文句はないだろう?」

 ネイ、いや、ラヴェリアがこちらを振り向き、そう言う。

「い、やったー!」

 私は思わずネイに抱きつく。

「ちょ、離れろ!おい、ネイ!こいつをどうにかしろ!」

 ラヴェリアがすごく慌てた様子で私を引き剥がそうとする。
 剥がれてやるもんか。たまにはネイ(中身は違うけど)に思いっきり抱きついてやるんだ。

「はあ?もう少しそのままでいろだと?ふざけるな!そしてお前は剥がれ、うおっ!」

 何故か、エフィも抱きついてきて、オマケにヴァルがネイの首元に手を回してサムズアップしてる。
 口に出さなくても分かる。今日はいつも以上に疲れた。それに、さっきネイから心理の魔法で「ラヴェリアをいじめてやれ」と言われた。疲れは全部ラヴェリアに取り付くことで癒すことにする。

「は、離れろー!」

 龍王なのに、やけに人間っぽいというかなんというか...
 まあ、何はともあれ一件落着......

(何が一件落着ですか......)

 え?

 突然の声に、皆の笑顔が消え失せる。

(敵の親玉には逃げられてるんですよ?ラナに聞きました。私がラヴェリアと契約を結べたから死なない雑魚兵を倒せれたはいいですけれど、普通に考えてかなりの大失態ですよ)

 うわ、いきなり現実に引き戻された。

「じゃあ、ラヴェリアをいじめろってのは......」

(さあ?何のことでしょうか)

 都合のいい頭だ。

「そろそろ退いてもらえると嬉しいのだが......」

 輪の中心になっているラヴェリアがそう言う。

「ああ、ごめん」

 みんな、さっきまでのことがなんなのか理解出来ずにその場を離れた。

「クロム様!ご無事ですか!」

 アラン達、騎士団と騎士隊が駆けつけてくる。

 あれ?なんであんなにも浮ついた気持ちになってたんだろう?

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「では、改めて私の名はラヴェリア。幻想の零龍王だ」

 帰りの馬車でラヴェリアが丁寧に自己紹介する。とても、邪龍とは思えない仕草である。
 ちなみに、それをヴァルが聞いていないのは日常である。

「う、うん。よろしく」

 なぜか、結構曖昧な感じで返事をしてしまった。

「どうした?考え事か?」

 ラヴェリアがそう問いかけてくる。
 よく見ると、フウロもエフィもヴェルドもグリード、要するにあの場にいた全員が浮ついた顔になっている。尚、ヴァルを除く。

「なんで、あの時、あんなにも浮ついた気持ちになってたんだろうなって今ずっと考えてる。戦いが終わったからにしては浮つきすぎだし......」

「ああ、それはラヴェリアの力ですね」

 いつの間にか切り替わったネイがそう言う。

「どういうこと?」

「ラヴェリアには簡単に言うと相手に夢を見させる力があるのです。それで、セリカさん達はその力でラヴェリアの夢を見せられて現実にしてしまったということでしょうか」

「すまない、何を言っているのか全然分からない」

 フウロが片手を上げてそう言う。

「要はラヴェリアがああいう展開になるんじゃないかと思って、それが実現したということです」

「何でそんな展開になるって思ったの?」

「ラヴェリアはしばらくの間、人間と関われなかったのでどういう状態なのかってのがイマイチ分からないのでしょう。ん?どうしたんですか?ラヴェリア。え?違う?いや、そんなわけないでしょう。ジークはともかく、あなたとずっと一緒にいたアマツまでそう言ってるんですよ。そんなに頑張って否定したところで、赤い顔してるのが丸分かりですよ」

 この頃、ネイの中で何が行われているのか、真剣に覗きたいと思うことがある。

 まあ、何はともあれ、邪龍の復活は阻止......ラヴェリアが邪龍なのか......なら、邪龍を仲間に出来たし、戦いに無事勝てたので全て解決......そう思えたら良かったのだが......

「まだ、ラストとかいう奴が残っているな」

 私と同じことを思っていたのか、フウロがそう言う。そうだ、まだラストと名乗った帝国軍大将の男。

「一体、何者だったのでしょうか......軍の中で一番偉い位置にある人がこんな所に来るなんて......」

 エフィの言う通りだ。帝国軍の中でも1番上の人物がこんな所に来るというのは......

「何か、私達の知らないところで何かが起きている......ということですかね」

 私の考えを読んだのか、ネイがそう言う。

 もう、何も起きなければ良い、なんて思えなくなってきた。何かが起きる。漠然とではあるが、それが分かった。
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