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第3章 【記憶の結晶】
第3章19 【喪失の物語《ロス・ストーリー》】
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「あなた達は......誰ですか?」
その問いかけをした瞬間、みなの表情が固まる。
(何言ってんだ?お嬢)
「ひっ......」
突然、目の前の男でも隣に座る女の人が発しているわけでもない声が聞こえてくる。
(何をそんなにビビってんだよお嬢。まるで、お嬢が目覚めた日に俺と出会った時のようだな)
(ジーク君、残念だが、今の状況は正しくその状況だろうね)
(は?どういうことだ?)
(言わなくても分かるんじゃないのか?ネイが2度目の記憶喪失を起こしたことを)
(なんだと!?)
(相変ワラズ鈍感ダナ)
胸の内で何やら、得体の知れないもの達が話をしている。
「あ、あの、なんですか?これ。なんか、胸の内側から変な声が聞こえるんですけど......」
「............」
その問いかけには誰も答えてれない。胸の内側にいる奇妙なもの達は黙ることを知らず、目の前にいる男達は一言も発そうとしない。
「ネイりん......」
ようやく、隣に座る女の人が話しかけてきた。
「本当に......忘れちゃったの?」
忘れた?忘れたとはどういうことだろうか。そういえば、胸の内側にいるもの達もそんなことを言っている。
「記憶喪失か......また厄介なことになったな......」
目の前に座る青髪の青年がそう言う。
「記憶探してた奴がまた記憶を失うとかどうなってんだ......」
赤髪の青年がそう言う。
どういうこと?
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「うーん......頭に何かぶつけたとかないようですし......記憶喪失はショックか何かじゃないかと思いますわ、クロム様」
ネイの頭部を観察し終えたリーシアがそう言う。
「そうか......」
ショックか......となると、原因は邪龍教徒だな。それだけは間違いないだろう。
「本当に、何も覚えてねえのか?」
ヴァルがネイの顔を覗き込んで問いかける。
やめとけ、お前みたいな奴がそんなことをすると......
「ひぃぃぃ」
ほら見ろ、ネイが頭を抱えて縮こまってしまった。
「あ、悪ぃ。別に危害を加えようとかそんなことは全然ないから」
そんなこと言っても意味がない。ネイの臆病な性格じゃ......臆病だったのかこいつ。
まあ、そんなことは置いといて、お前みたいな奴が危害を加えないなどと言っても信用ならないだろう。
「それにしても、記憶喪失者がまた記憶を失うなんて、不思議な話よねぇ......」
別に、不思議という程でもないだろう。ネイが元から記憶喪失者であったことは初耳だったが......
それはさておき、問題はネイの記憶をどうやって戻させるかだ。記憶なんて戻し方の分からないものを戻せるのかどうかすら分からないが......
「とりあえず、街を見て回らない?ここで考えてたって何も変わらないんだし」
何もせずに考えているよりかは、セリカの言うように行動を起こした方がいいな。よし、そうしよう。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
街を見て回った。あの日とは違い、ネイを知っている人を探すのではなく、ネイが知っていそうなものを探した。
結果としては何も変わらなかった。
やはりというか、なんというか、記憶なんてそう簡単に戻るものではなかった。
「すみません、私なんかのために......」
また、あの日と同じようなことを言う。あの日と唯一違う点と言えば、ヴェルド、シアラ、フウロがおらず、代わりにクロムがいることくらいだ。
「龍王?達も必死に私の記憶を戻そうと、色々話してくれるのですが、何も思い出せなくて......」
龍王達も色々してくれてるのか......通りでたまにネイが私達の話を無視してる時があったのか......
「しかし、本当に困ったなぁ」
ヴァルの言うように本当に困ったものだ。ただ、今回の場合は私達がネイを知っているだけまだマシな方だろう。
もし、私達がいなければネイはまた不幸な目に遭う。龍人であることが原因で蔑まれ、邪龍教に狙われ、ろくな人生が来なかっただろう。
ネイはもしかしたら、何も思い出さなくて良いのかもしれない。今言った様々な不幸だって今のネイの記憶にはない。忘れているから楽なことだってある。でも、私達のことを思い出して欲しい。そんな2つの気持ちに葛藤している。
「クロム様!」
突然、アランがクロムの名を呼びながらこちらにやってくる。
「どうした?アラン」
「セレナ様より、急ぎの用事です」
そう言うと、アランがクロムに手紙?を渡した。
「......すまない。少しばかり用が出来てしまった」
そう言い残して、クロムはアランと共に去っていった。
「クロムの顔......見たか?」
ヴァルが突然意味の分からないーーいや、言葉の意味自体は分かるのだが、何を言い出したのかが分からないーーことを言い出す。
「手紙を読んでるあいつの顔......物凄く険しい顔をしていた」
「急ぎの用事って言ってたし......何かあるんでしょ?」
「いや、あの顔......ネイを運んできた時と同じような顔をしていた」
それは......どういうことだ?あの時の顔といえば、物凄く怒りに満ちた......
「あいつ、なんか怒ってるような顔してた」
ネイの記憶探しも大変だが、こちらも中々に大変な仕事になりそうだ......ただの仕事だと良いのだが......
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
数時間後ーー
ここ最近は不安定な天気が続き、雨が降り出したため街の散策は終了となり、今はギルドにいる。
ネイは終始「すみません」と言っていたが、ネイが謝ることではない。謝るべきは邪龍教。「次にあったら地獄の業火で焼き払ってやる!」とヴァルは言っていたし、私もできるのならそうしたいくらいだ。
そして、そんな大雨の中で肩からぐっしょりと濡れた大男がギルドの扉を勢いよく開けて入ってくる。
「はぁ......今回はどうしたんだ?」
こんな状態にすっかり慣れた様子のヴァルがそう言う。
「もう、ちょっとやそっとのことじゃ驚かねえし、協力しないなんてこともねえぞ」
「力を......貸してほしい......」
これまでに見たことがない様なか弱い声でクロムがそう言う。
「言ってみろ。何度も言うが、ちょっとやそっとのことじゃーー」
「ラグナロクが......挙兵した......」
挙兵......つまりは、戦争を始めたってこと!?
「イーリアス南東部、そこにアストルフォと呼ばれる村がある。そこが制圧された......」
「挙兵から何時間後のことだ?」
「その挙兵が村の制圧だ。奴らはどこに隠れていたのかは知らないが、一瞬にして村を制圧しやがった......」
これは、邪龍教と絡みついている。絶対とは言い切れないが、確信があった。
「急ぎだから馬車も策も何も用意できないし、生きて帰れるなんて保証もない。俺達の問題だが、今は自警団を集めることが出来ないんだ......だから......」
「それ以上言わなくてもいい。俺はお前について行くぜ」
ヴァルがクロムの肩に手を置いてそう言う。
「お前にはネイを泉に連れていくための準備をしてもらった。恩はちゃんと恩で返さねえとな」
「そうだね。その理屈なら僕も協力せざるを得ない。僕も行かせてもらおうか」
ネイーーいや、多分ラナーーもクロムのもう反対の肩に手を置いてそう言う。
「ヴァルはともかく、お前はーー」
「分かっているさ。危なくなったら逃げる。僕はそうさせてもらうよ」
「......ありがとう」
クロムが深く深くお辞儀をした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「あーあーあーあー!村の奴らはといつもこいつも骨のねえ奴らだったな。退屈させやがって......」
「ラスト様。敵兵です!」
「あぁ?敵ぃ?誰だこんな村に突撃してきやがった能無しは......」
「姿を目撃できた兵士によると肩に紋章がある者と炎を撒き散らしながら戦う者が中心にあちらこちらで戦っている模様です」
肩に紋章と炎ねぇ......待てよ、そいつらって......
「イーリアスの王子様とこの間俺を虚仮にしてきやがった奴らじゃねえか」
となると、あいつらは繋がっていたということか。皇帝が聞いたらなんて言うことやら......
「おし、俺様が出る。てめえらは下がってろ」
「はっ!」
兵が綺麗に敬礼して去っていく。
(別に、俺様相手にそんなかしこまらなくたっていいんだがな)
心の内でそんなことを思う。
「さて、どんな方法でいたぶってやろうか......」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「おりゃァ!」
「ふん!」
ヴァルとクロムが村に潜伏している敵兵を次々に倒していく。
「森羅・風見の剣」
ヴァルとクロムを後ろから狙う奴をラナが倒す。
兵は多い方が良いということでついてきたが、正直この3人でどうにかなるのではないかと思う。
ただ、それでも私達には仕事がある。
帝国兵は全てヴァル達が倒していくが、邪龍教徒は倒しても倒しても『復活』している。私達の仕事はそいつらが復活しても動けないように文字通りの『釘を刺す』ことだ。
直接釘を刺すわけではないが、要は地面から離れられないようにしておくだけだ。
私は無数の小刀を出せれるカグヤに任せている。
「雷剣・天雷の陣」
剣を掲げたラストがヴァル達に向かって雷を打つ。
「当たるわけないだろうが!」
クロムとヴァルは華麗にその攻撃を避け、ラストに同時に攻撃する。
「残念だが、俺様が狙ったのはお前じゃない。この雷は地面に当たっても、散らずに一点を狙い続ける。そして、俺様が狙ったのはお前らが大事にしているであろう飛龍の子だ!」
まずい、ネイが......
「大丈夫だ。子猫ちゃん。こんな攻撃痛くも痒くもーー」
「本当にそうか?俺様にはかなり効いているように見えるぞ」
「ふん、一発くらいなんともーー」
「残念だが、この攻撃は一発で終わらねえ。俺様が剣にマナを送り続ける限り、無限に降り注ぐぞ?」
「う"ぅ"!」
言葉通り、ネイには何度も雷が降り注いでいる。
これではネイの体が持たない。
「やめろ!ラスト!」
「やめるわけねえだろ?王子様。これは戦争なんだ。相手に慈悲をかけるやつがいるかってんだ。ギャハハハハハ」
助けに行こうと思ったが、目の前に大きな邪魔があった。
「小娘、我らの悲願のために、少し横になっていてはくれないだろうか?」
黒い服に身を包んだ男が突然目の前に現れ、私の口に何かを当ててくる。
「対人間用の睡眠薬だ。市販されているやつよりも効力が高い。しばらくその場で寝ていたまえ」
眠りに落ちる寸前、倒れたネイを教徒が囲っているのが見えた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「う"、う"ぅ"......」
何度も雷に当たった影響で体が動かない。
周りにはジーク達の言っていた邪龍教なるもの達がいる。
(お嬢!俺と変われ!そうすりゃ、逃げることくらいはできる!)
「ラナみたいに......勝手に変われるんじゃ......ないの?」
(前にお嬢に言われた影響で俺はお嬢が許可を出さねえと変われねえんだよ!ただ一言「変わって」って言えば変われるんだ!)
「分かった......変わって......」
「任せておけ......」
ジークは痺れの残る体をなんとか動かし、状況の打破を狙う。
数は10人、普段の体なら突破は簡単......
「オラァ!どけぇ!」
体を必死に動かして、邪龍教の奴らに剣撃を浴びせようとする。
しかし、その攻撃は指1本で弾かれ、剣を後ろ側に落としてしまう。
「この剣があなたと邪魔な異分子共を繋げているわけですね」
後ろからやって来た他の奴らとは明らかに違うやつが剣を持ち上げる。
「こんなもの、壊してしまった方が早いな」
そう言うと、男は手に持っていた剣を握りしめただけで粉々にしてしまった。
「あ"......」
壊れないはずの龍石も壊れ、繋がりが断たれようとする。
「これで、あなた方龍王には何もすることは出来ませんよ」
不気味な笑いでこちらを見てくる。
「お嬢......すまねえ......俺はあんたを守ることは出来なかったようだ......」
ネイを守るため、あの手この手で今まで生きてきた。その終わりがこんな形で終わることになろうとは。
「なあ、お嬢。俺と過ごした日々を覚えているか......?俺だけじゃない。他の龍王と過ごした日々を......覚えているか?」
その答えは返ってくるはずがない。もう既にネイとの繋がりは切れたのだから。
(覚えてるよ。ジーク。いや、正しくは思い出したって形だけど......)
そうか。なら、良か......
なぜ、ネイとの繋がりが切れていないのだ?
その問いかけをした瞬間、みなの表情が固まる。
(何言ってんだ?お嬢)
「ひっ......」
突然、目の前の男でも隣に座る女の人が発しているわけでもない声が聞こえてくる。
(何をそんなにビビってんだよお嬢。まるで、お嬢が目覚めた日に俺と出会った時のようだな)
(ジーク君、残念だが、今の状況は正しくその状況だろうね)
(は?どういうことだ?)
(言わなくても分かるんじゃないのか?ネイが2度目の記憶喪失を起こしたことを)
(なんだと!?)
(相変ワラズ鈍感ダナ)
胸の内で何やら、得体の知れないもの達が話をしている。
「あ、あの、なんですか?これ。なんか、胸の内側から変な声が聞こえるんですけど......」
「............」
その問いかけには誰も答えてれない。胸の内側にいる奇妙なもの達は黙ることを知らず、目の前にいる男達は一言も発そうとしない。
「ネイりん......」
ようやく、隣に座る女の人が話しかけてきた。
「本当に......忘れちゃったの?」
忘れた?忘れたとはどういうことだろうか。そういえば、胸の内側にいるもの達もそんなことを言っている。
「記憶喪失か......また厄介なことになったな......」
目の前に座る青髪の青年がそう言う。
「記憶探してた奴がまた記憶を失うとかどうなってんだ......」
赤髪の青年がそう言う。
どういうこと?
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「うーん......頭に何かぶつけたとかないようですし......記憶喪失はショックか何かじゃないかと思いますわ、クロム様」
ネイの頭部を観察し終えたリーシアがそう言う。
「そうか......」
ショックか......となると、原因は邪龍教徒だな。それだけは間違いないだろう。
「本当に、何も覚えてねえのか?」
ヴァルがネイの顔を覗き込んで問いかける。
やめとけ、お前みたいな奴がそんなことをすると......
「ひぃぃぃ」
ほら見ろ、ネイが頭を抱えて縮こまってしまった。
「あ、悪ぃ。別に危害を加えようとかそんなことは全然ないから」
そんなこと言っても意味がない。ネイの臆病な性格じゃ......臆病だったのかこいつ。
まあ、そんなことは置いといて、お前みたいな奴が危害を加えないなどと言っても信用ならないだろう。
「それにしても、記憶喪失者がまた記憶を失うなんて、不思議な話よねぇ......」
別に、不思議という程でもないだろう。ネイが元から記憶喪失者であったことは初耳だったが......
それはさておき、問題はネイの記憶をどうやって戻させるかだ。記憶なんて戻し方の分からないものを戻せるのかどうかすら分からないが......
「とりあえず、街を見て回らない?ここで考えてたって何も変わらないんだし」
何もせずに考えているよりかは、セリカの言うように行動を起こした方がいいな。よし、そうしよう。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
街を見て回った。あの日とは違い、ネイを知っている人を探すのではなく、ネイが知っていそうなものを探した。
結果としては何も変わらなかった。
やはりというか、なんというか、記憶なんてそう簡単に戻るものではなかった。
「すみません、私なんかのために......」
また、あの日と同じようなことを言う。あの日と唯一違う点と言えば、ヴェルド、シアラ、フウロがおらず、代わりにクロムがいることくらいだ。
「龍王?達も必死に私の記憶を戻そうと、色々話してくれるのですが、何も思い出せなくて......」
龍王達も色々してくれてるのか......通りでたまにネイが私達の話を無視してる時があったのか......
「しかし、本当に困ったなぁ」
ヴァルの言うように本当に困ったものだ。ただ、今回の場合は私達がネイを知っているだけまだマシな方だろう。
もし、私達がいなければネイはまた不幸な目に遭う。龍人であることが原因で蔑まれ、邪龍教に狙われ、ろくな人生が来なかっただろう。
ネイはもしかしたら、何も思い出さなくて良いのかもしれない。今言った様々な不幸だって今のネイの記憶にはない。忘れているから楽なことだってある。でも、私達のことを思い出して欲しい。そんな2つの気持ちに葛藤している。
「クロム様!」
突然、アランがクロムの名を呼びながらこちらにやってくる。
「どうした?アラン」
「セレナ様より、急ぎの用事です」
そう言うと、アランがクロムに手紙?を渡した。
「......すまない。少しばかり用が出来てしまった」
そう言い残して、クロムはアランと共に去っていった。
「クロムの顔......見たか?」
ヴァルが突然意味の分からないーーいや、言葉の意味自体は分かるのだが、何を言い出したのかが分からないーーことを言い出す。
「手紙を読んでるあいつの顔......物凄く険しい顔をしていた」
「急ぎの用事って言ってたし......何かあるんでしょ?」
「いや、あの顔......ネイを運んできた時と同じような顔をしていた」
それは......どういうことだ?あの時の顔といえば、物凄く怒りに満ちた......
「あいつ、なんか怒ってるような顔してた」
ネイの記憶探しも大変だが、こちらも中々に大変な仕事になりそうだ......ただの仕事だと良いのだが......
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
数時間後ーー
ここ最近は不安定な天気が続き、雨が降り出したため街の散策は終了となり、今はギルドにいる。
ネイは終始「すみません」と言っていたが、ネイが謝ることではない。謝るべきは邪龍教。「次にあったら地獄の業火で焼き払ってやる!」とヴァルは言っていたし、私もできるのならそうしたいくらいだ。
そして、そんな大雨の中で肩からぐっしょりと濡れた大男がギルドの扉を勢いよく開けて入ってくる。
「はぁ......今回はどうしたんだ?」
こんな状態にすっかり慣れた様子のヴァルがそう言う。
「もう、ちょっとやそっとのことじゃ驚かねえし、協力しないなんてこともねえぞ」
「力を......貸してほしい......」
これまでに見たことがない様なか弱い声でクロムがそう言う。
「言ってみろ。何度も言うが、ちょっとやそっとのことじゃーー」
「ラグナロクが......挙兵した......」
挙兵......つまりは、戦争を始めたってこと!?
「イーリアス南東部、そこにアストルフォと呼ばれる村がある。そこが制圧された......」
「挙兵から何時間後のことだ?」
「その挙兵が村の制圧だ。奴らはどこに隠れていたのかは知らないが、一瞬にして村を制圧しやがった......」
これは、邪龍教と絡みついている。絶対とは言い切れないが、確信があった。
「急ぎだから馬車も策も何も用意できないし、生きて帰れるなんて保証もない。俺達の問題だが、今は自警団を集めることが出来ないんだ......だから......」
「それ以上言わなくてもいい。俺はお前について行くぜ」
ヴァルがクロムの肩に手を置いてそう言う。
「お前にはネイを泉に連れていくための準備をしてもらった。恩はちゃんと恩で返さねえとな」
「そうだね。その理屈なら僕も協力せざるを得ない。僕も行かせてもらおうか」
ネイーーいや、多分ラナーーもクロムのもう反対の肩に手を置いてそう言う。
「ヴァルはともかく、お前はーー」
「分かっているさ。危なくなったら逃げる。僕はそうさせてもらうよ」
「......ありがとう」
クロムが深く深くお辞儀をした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「あーあーあーあー!村の奴らはといつもこいつも骨のねえ奴らだったな。退屈させやがって......」
「ラスト様。敵兵です!」
「あぁ?敵ぃ?誰だこんな村に突撃してきやがった能無しは......」
「姿を目撃できた兵士によると肩に紋章がある者と炎を撒き散らしながら戦う者が中心にあちらこちらで戦っている模様です」
肩に紋章と炎ねぇ......待てよ、そいつらって......
「イーリアスの王子様とこの間俺を虚仮にしてきやがった奴らじゃねえか」
となると、あいつらは繋がっていたということか。皇帝が聞いたらなんて言うことやら......
「おし、俺様が出る。てめえらは下がってろ」
「はっ!」
兵が綺麗に敬礼して去っていく。
(別に、俺様相手にそんなかしこまらなくたっていいんだがな)
心の内でそんなことを思う。
「さて、どんな方法でいたぶってやろうか......」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「おりゃァ!」
「ふん!」
ヴァルとクロムが村に潜伏している敵兵を次々に倒していく。
「森羅・風見の剣」
ヴァルとクロムを後ろから狙う奴をラナが倒す。
兵は多い方が良いということでついてきたが、正直この3人でどうにかなるのではないかと思う。
ただ、それでも私達には仕事がある。
帝国兵は全てヴァル達が倒していくが、邪龍教徒は倒しても倒しても『復活』している。私達の仕事はそいつらが復活しても動けないように文字通りの『釘を刺す』ことだ。
直接釘を刺すわけではないが、要は地面から離れられないようにしておくだけだ。
私は無数の小刀を出せれるカグヤに任せている。
「雷剣・天雷の陣」
剣を掲げたラストがヴァル達に向かって雷を打つ。
「当たるわけないだろうが!」
クロムとヴァルは華麗にその攻撃を避け、ラストに同時に攻撃する。
「残念だが、俺様が狙ったのはお前じゃない。この雷は地面に当たっても、散らずに一点を狙い続ける。そして、俺様が狙ったのはお前らが大事にしているであろう飛龍の子だ!」
まずい、ネイが......
「大丈夫だ。子猫ちゃん。こんな攻撃痛くも痒くもーー」
「本当にそうか?俺様にはかなり効いているように見えるぞ」
「ふん、一発くらいなんともーー」
「残念だが、この攻撃は一発で終わらねえ。俺様が剣にマナを送り続ける限り、無限に降り注ぐぞ?」
「う"ぅ"!」
言葉通り、ネイには何度も雷が降り注いでいる。
これではネイの体が持たない。
「やめろ!ラスト!」
「やめるわけねえだろ?王子様。これは戦争なんだ。相手に慈悲をかけるやつがいるかってんだ。ギャハハハハハ」
助けに行こうと思ったが、目の前に大きな邪魔があった。
「小娘、我らの悲願のために、少し横になっていてはくれないだろうか?」
黒い服に身を包んだ男が突然目の前に現れ、私の口に何かを当ててくる。
「対人間用の睡眠薬だ。市販されているやつよりも効力が高い。しばらくその場で寝ていたまえ」
眠りに落ちる寸前、倒れたネイを教徒が囲っているのが見えた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「う"、う"ぅ"......」
何度も雷に当たった影響で体が動かない。
周りにはジーク達の言っていた邪龍教なるもの達がいる。
(お嬢!俺と変われ!そうすりゃ、逃げることくらいはできる!)
「ラナみたいに......勝手に変われるんじゃ......ないの?」
(前にお嬢に言われた影響で俺はお嬢が許可を出さねえと変われねえんだよ!ただ一言「変わって」って言えば変われるんだ!)
「分かった......変わって......」
「任せておけ......」
ジークは痺れの残る体をなんとか動かし、状況の打破を狙う。
数は10人、普段の体なら突破は簡単......
「オラァ!どけぇ!」
体を必死に動かして、邪龍教の奴らに剣撃を浴びせようとする。
しかし、その攻撃は指1本で弾かれ、剣を後ろ側に落としてしまう。
「この剣があなたと邪魔な異分子共を繋げているわけですね」
後ろからやって来た他の奴らとは明らかに違うやつが剣を持ち上げる。
「こんなもの、壊してしまった方が早いな」
そう言うと、男は手に持っていた剣を握りしめただけで粉々にしてしまった。
「あ"......」
壊れないはずの龍石も壊れ、繋がりが断たれようとする。
「これで、あなた方龍王には何もすることは出来ませんよ」
不気味な笑いでこちらを見てくる。
「お嬢......すまねえ......俺はあんたを守ることは出来なかったようだ......」
ネイを守るため、あの手この手で今まで生きてきた。その終わりがこんな形で終わることになろうとは。
「なあ、お嬢。俺と過ごした日々を覚えているか......?俺だけじゃない。他の龍王と過ごした日々を......覚えているか?」
その答えは返ってくるはずがない。もう既にネイとの繋がりは切れたのだから。
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