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第3章 【記憶の結晶】
第3章25 【俺が助けてやる】
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ひたすらに走った。
誰もいないところを目指して走った。
もう、何もかもが信じられなくなった。
この右目が映す"心"が全てを教えてくれた。
ーー誰も、私を信じてくれなかったーー
邪龍になることが分かった。だから、なっていない過去の私を殺す。至極当然の話だ。
「死にたくない......」
例え、私が世界を闇に包む者だとしても、死にたくなかった。
あのギルドの人達なら、例え私を快く思っていなくても、殺すことまではしないだろうとは思っていた。信じていた。あの、優しいギルドを......
「もう、何も信じれない......」
邪龍になりたくない。死にたくない。このまま、誰にも見つからない場所でひっそりと暮らせば、あいつは消えるのではないかと思った。だから逃げ出した。
逃げて逃げて逃げて、そして、誰にも見られることのないまま死んで行く。それで、良い。だって、私は......
「邪龍の子だから......」
少しずつ、フェノンの記憶が蘇ってくる。自分が何者なのか、その答えはもう出てる。
私は、フェノンの生まれ変わりだった。封印されたフェノンが記憶を消して人生をやり直してたのが私だった。
このまま、フェノンの人格さえもが蘇ってしまう前に......
「お待ちなさい。邪龍様」
目の前にいつかに見た教徒達が現れる。
「邪龍様から過去の邪龍様を捕まえて来いと言われました。抵抗しなければ痛い思いはさせません。ですが、抵抗するのなら......」
教徒達が一斉に武器を構える。
「お前らに......捕まるものか......」
剣は捨てて来た。でも、今の私ならここを突破することくらい容易にできる。
フェノンの記憶が良い感じに働いている。
「アルテマ!」
教徒達を全て無に返す。
「残念、私達は未来のあなたから力を授けられている。そんなので死にはしませんよ」
全員、無傷でその場に佇んでいた。
「多少の暴力は許してください。邪龍様」
教徒のうちの1人によって、肩から腰に向かって斜めにざっくりと斬られる。
「あ"......」
血が水溜まりのように広がっていく。
「さて、後は邪龍様のところに運ぶだけですね」
嫌だ。死にたくない。邪龍になんかなりたくない。
「オラァ!」
私を掴もうとした教徒を誰かが殴り飛ばした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「連獄!」
炎の渦が教徒達を包み込み、その場から動けないようにする。
連獄は本来、敵をまとめて倒す時に使う技だが、使いようによっては敵を動けないようにさせることが出来る。
どうせ、あいつらは死なないのだからこうした方が良い。雨が降ってて消えないかが心配だが......
「ネイ、逃げるぞ」
俺は、血溜まりの中にいるネイを抱えて走り出す。
怪我なんてもんじゃない。肩からざっくりとやられていて、早く止血しなければならない。ヨミの力でここまですぐに来れたが、帰りは自分の足で行くしかない。ギルドはそこそこ離れている。俺の力でも10分はかかる。
「なんで......助けに......来たの......」
腕の中にいるネイがそう言う。
「俺がお前を見捨てるわけねえだろ」
「......怖かったんじゃ......ないの......」
「お前、本当に心が見えてんのか?俺はそんな感情一切抱いてねえよ。今はお前を助ける。ただそれだけを思ってる」
ネイの顔を見ずにそう言う。今は少しでも早くにギルドに戻らなければならない。見える範囲内だけでありったけの近道を探す。
「......ごめんな......さい......」
突然、ネイがそんなことを言い出す。
「本当は、分かってた......。あなただけは......そんなことを......思って......ないって......」
ふとネイの顔を見る。ネイの目のあたりが濡れているのは、雨のせいだけではないだろう。
「セリカも......そうだった......。なのに......私は......感情のままに......当たり散らして......」
ネイが涙声でそう言う。
「お前は、一体どうしたかったんだ?」
俺はネイに1つの疑問を投げかける。
「死にたく......ない......」
俺は黙ってネイの言葉を聞く。
「みんなと......一緒に......心の底から......笑っていたかった......龍人とか......そんなの気にせずに......記憶なんて......もういらない......私は......私でいたい......」
「なら、今からそうなるように頑張ろうぜ」
「でも......私には......そんなことが......許されない......」
「許すとか許さねえとか、そんなの知らねえよ。他の奴らはともかく、お前は俺と、セリカと一緒にいて楽しかっただろ?例えば、ほら聖魔の神殿とかさ」
「それは、楽しかったよ......でも、私には......」
「別に、自分を許せないのならそれで良いし、他の奴らが信じれないのならそれでも良い。ただ、お前はどうなりたいか答えは出てんだ。後は、時間が解決してくれるさ。だから、その時が来るまで俺でもいい、セリカでもいい。誰か信頼出来る奴と一緒にいればいい。お前が不安で1日中涙を流すのなら、俺が傍にいてやる。お前が楽しくないって思うのなら、俺がどこかにその手引っ張って連れてってやる。お前が今、未来を描けないってんなら俺が描いてやる。邪龍になんてならねえ、笑ってられる未来をさ」
俺は早口にそう言い切った。半分告白みたいな言葉になってしまったが、今はそれで良いだろう。
「ごめんな......さい。ごめんなさ......い。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
遂に、ネイが大声で泣き出した。
「怖い......凄く怖い......私が......私じゃなくなってしまう......大好きだったあなたのことも......殺してしまうかもしれない......それが、凄く怖かった。みんなを殺してしまう......みんなの笑顔を奪ってしまう......みんなの幸せを潰してしまう......そんなの嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ、嫌だ!」
「大丈夫だ。お前はそうならない」
「生きて......生き延びて......私は......あなた達と......」
「それ以上言わなくても良い。全部分かってるからさ。大丈夫だ。お前は。俺達が守ってやる。お前が心の底から笑ってられるその日まで......」
俺はネイに思いっきりの笑顔を向けてそう言う。
「......どうして......そんなに優しくしてくれるの......?私は......邪龍になってしまうかもしれない......それに、フェノンの記憶が少しずつ、戻ってきてるのに......」
「お前は邪龍になんてならねえ。フェノンの記憶が戻りきったとしても、お前がなりたくねえって言ってる限りならねえ。あの邪龍になったネイはただの別世界だ。お前は、邪龍にはならねえよ!」
だって、そうだろ。"ツクヨミ"という、邪龍にならなかった未来があるのだから。あいつが"俺達の選択次第"というのなら、俺はツクヨミの未来を取る。ネイは殺さなくていい。そうだろ?ツクヨミ。
「......ありがとう。私なんかのために、来てくれて......」
最後に、ネイがそう言っていた。
金を失うのは小さく名誉を失うのは大きい。しかし、勇気を失うことは全てを失う。
ネイが勇気を失ったというのなら、俺が与える。そもそも、ツクヨミがああして元気でいるのだから、ネイも立ち直らせることが出来る。
今は、ゆっくりと時間をかけて、ネイを守っているだけで良い。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「おーい、セリカー!」
ネイを探しに遠くに出ていたヴァルが帰ってきた。
ちゃんと、腕にネイを抱えた状態で帰ってきた。
こんな真っ暗な中で、更に雨も降ってたんじゃ見つからないだろうと思っていたのだが、流石はヴァルだった。
「悪ぃ、遅くなっちまった。でも、しっかりとネイを見つけてこれたぜ」
「ネイは大丈夫なの?」
ネイの体には血がべっとりとしており、聞いておいてなんだが、大丈夫ではないと思った。
「分からねえ。早く治療しねえと......」
そう言って、ヴァルはギルドの扉を足で押し開けた。
「ヴァル!」
真っ先にその名を呼んだのはミラだった。ミラはネイが飛び出し、ヴァルが追いかけてからずっとウロウロしていた。心配なのだが、自分にはどうするべきか分からないといった感じだった。
私も、探し回っていたのだが、どこにもおらず、一旦ギルドに戻ったらヴァルが帰ってきた。
他のみんなは、探しに出ようともしなかった。クロムとアランに関しては、何か別のことをしているようだったが......
「ミラ、急いで救急箱を......」
「分かったけど、どうしたの?その血......」
「俺のじゃねえ。全部ネイのだ」
改めて思うが、ヴァルの服もネイの服もかなり赤く染っている。あれが本当にネイだけの血だとしたら、ネイは失血死していてもおかしくないのでは、と思う。
「お姉ちゃん、箱持ってきたよー」
レラが救急箱を片手にやって来た。
「とりあえず、傷口を塞ぐから救護室に連れて行って」
「分かった」
「それと、エフィも手伝って」
「あ、はい」
エフィが立ち上がってこちらにやって来る。それにしても、他のみんなはネイがこんなになっても微動だにしない。そんなにネイのことが......
「セリカ、良いんだよ。私はヴァルとあなただけで良いから」
それは、つまり信じれる人という意味だろうか?
「それに、ミラも治療しなくて大丈夫」
「え、でも、こんなに血が出てるのに......」
「もう、全部止まってる。多分、固まった血を剥がしてみたら傷跡は見えても血は出ていないと思う」
そう言われてミラが恐る恐る血を拭き取る。
「ほら、言った通りでしょ......」
確かに、もう出血していなかった。
「全部、邪龍の力。昔の聖王と聖龍が倒せれなかった理由は、この無限の再生力」
なるほど。確かに、これなら聖王と聖龍が倒さずに封印した理由が分かる。しかし、それが分かると同時にもう1つ分かることがある。
「つまり、邪龍は私達じゃどれだけ頑張っても......」
「殺せないよ。それに、今の私を殺そうとしても、この再生力ですぐに生き返れる。私が逃げ出さなければとかじゃない。本当なら、あの祭壇で未来の私が力を解き放つ前に今の私を殺しておかなければならなかった。もう、何もかもが手遅れだった......」
ネイを殺しても意味が無い。それは、他のみんなを落ち着かせるには良い言葉だと思うが、今は帝国にいるであろう邪龍も倒せれないとなると......
「そんなガッカリした顔をするな。封印程度なら俺たちでもできる」
突然、クロムが横から現れ、そう言う。
「俺が聖王になり、邪龍を封印する。倒すことは出来なくとも、今のネイが邪龍にならないよう俺達が守ってやれば封印したアイツも自然と消滅するはずだ」
確かにその通りだ。相手が未来人なのだから、過去の私達がその歴史を変えればーー
「残念だが、それは無理だ」
ヴァルがそう言った。
「どういうことだ?」
「例え、そうやって歴史を変えれたとしても、あの邪龍がこの時間から消えることは無い。あのネイがいた時間がパラレルワールドになって、別世界となるだけだ」
ヴァルは近くにあった椅子を横に並べて、そこにネイを横たわらせてからそう言う。
何を言っているのかが分からない。
「要するにヒカリと同じだ。あのネイは異世界人になるってことだよ」
なるほど......ってそれじゃあ......
「封印はできるけど、この先の未来でまた復活することになるかもしれないってことだよね?ヴァル」
「ああ、そうだ」
「お前は一体いつ、どこでそんなことを学んで来るんだ。折角こっちはネイを殺さなくても邪龍を倒せる方法を考えたというのに......」
「悪いな。でも、邪龍を封印しとくのは良いと思うぜ。復活するならその度にまた封印すれば良い。未来の奴らに負担をかけちまうかもしれねえけど、俺は今のネイに生きててほしい」
それは同感だ。ネイと一緒にこの先も生きていたい。他のみんながそう思ってなくても、私はそう思う。
「とりあえず、聖王継承の儀式はやらないといけないのだな」
「そういうことになるな」
「......よし、なら出発は明日の朝、日の出と共にだ。幸い、邪龍・フェノンはまだ動き出していない。恐らく、力を溜めているのだろうな。その間に聖王を継承して、この剣に真の力を取り戻す」
クロムが腰にある聖剣・エクセリアを、鞘
ごと持ち上げてそう言う。
「継承の儀が終わったら、その足で邪龍のところに行くんだろ?」
「もちろんそうだ......と言いたいのだが、一旦イーリアスに帰る」
「なんでだ?」
「今の俺達は、確かに精鋭揃いだが、兵力はイマイチ足りない。各地に派遣した自警団の仲間をイーリアスに戻るように指示してあるから、そこで合流するつもりだ」
「相手は邪龍、何をしてきてもおかしくありません。それに、歴史を見ると、邪龍・フェノンは意志を持たない兵を無限に作り出すという記実があります。我々が邪龍と戦っている間、その周りで戦う兵は多ければ多い方が良いでしょう」
アランが邪龍・フェノンに関する資料を机に並べながらそう言った。
「そういうことだ。騎士団の連中も兵を出すと言ってくれている......。邪龍を倒すことは不可能だと知れば絶望するだろうが......」
「俺もネイも悪くねえぞ」
「分かっている!どうせ封印も殺すも大差ないから大丈夫だろう」
凄い暴論を吐いてきたな。
「もう一度言っておくが、明日の朝、日の出と共にだ。余程の怪我をしていない限り、休みは許さん。休んだ奴はアレだからな。アレだからな!」
一体、何をするつもりなんだ......
誰もいないところを目指して走った。
もう、何もかもが信じられなくなった。
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ーー誰も、私を信じてくれなかったーー
邪龍になることが分かった。だから、なっていない過去の私を殺す。至極当然の話だ。
「死にたくない......」
例え、私が世界を闇に包む者だとしても、死にたくなかった。
あのギルドの人達なら、例え私を快く思っていなくても、殺すことまではしないだろうとは思っていた。信じていた。あの、優しいギルドを......
「もう、何も信じれない......」
邪龍になりたくない。死にたくない。このまま、誰にも見つからない場所でひっそりと暮らせば、あいつは消えるのではないかと思った。だから逃げ出した。
逃げて逃げて逃げて、そして、誰にも見られることのないまま死んで行く。それで、良い。だって、私は......
「邪龍の子だから......」
少しずつ、フェノンの記憶が蘇ってくる。自分が何者なのか、その答えはもう出てる。
私は、フェノンの生まれ変わりだった。封印されたフェノンが記憶を消して人生をやり直してたのが私だった。
このまま、フェノンの人格さえもが蘇ってしまう前に......
「お待ちなさい。邪龍様」
目の前にいつかに見た教徒達が現れる。
「邪龍様から過去の邪龍様を捕まえて来いと言われました。抵抗しなければ痛い思いはさせません。ですが、抵抗するのなら......」
教徒達が一斉に武器を構える。
「お前らに......捕まるものか......」
剣は捨てて来た。でも、今の私ならここを突破することくらい容易にできる。
フェノンの記憶が良い感じに働いている。
「アルテマ!」
教徒達を全て無に返す。
「残念、私達は未来のあなたから力を授けられている。そんなので死にはしませんよ」
全員、無傷でその場に佇んでいた。
「多少の暴力は許してください。邪龍様」
教徒のうちの1人によって、肩から腰に向かって斜めにざっくりと斬られる。
「あ"......」
血が水溜まりのように広がっていく。
「さて、後は邪龍様のところに運ぶだけですね」
嫌だ。死にたくない。邪龍になんかなりたくない。
「オラァ!」
私を掴もうとした教徒を誰かが殴り飛ばした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「連獄!」
炎の渦が教徒達を包み込み、その場から動けないようにする。
連獄は本来、敵をまとめて倒す時に使う技だが、使いようによっては敵を動けないようにさせることが出来る。
どうせ、あいつらは死なないのだからこうした方が良い。雨が降ってて消えないかが心配だが......
「ネイ、逃げるぞ」
俺は、血溜まりの中にいるネイを抱えて走り出す。
怪我なんてもんじゃない。肩からざっくりとやられていて、早く止血しなければならない。ヨミの力でここまですぐに来れたが、帰りは自分の足で行くしかない。ギルドはそこそこ離れている。俺の力でも10分はかかる。
「なんで......助けに......来たの......」
腕の中にいるネイがそう言う。
「俺がお前を見捨てるわけねえだろ」
「......怖かったんじゃ......ないの......」
「お前、本当に心が見えてんのか?俺はそんな感情一切抱いてねえよ。今はお前を助ける。ただそれだけを思ってる」
ネイの顔を見ずにそう言う。今は少しでも早くにギルドに戻らなければならない。見える範囲内だけでありったけの近道を探す。
「......ごめんな......さい......」
突然、ネイがそんなことを言い出す。
「本当は、分かってた......。あなただけは......そんなことを......思って......ないって......」
ふとネイの顔を見る。ネイの目のあたりが濡れているのは、雨のせいだけではないだろう。
「セリカも......そうだった......。なのに......私は......感情のままに......当たり散らして......」
ネイが涙声でそう言う。
「お前は、一体どうしたかったんだ?」
俺はネイに1つの疑問を投げかける。
「死にたく......ない......」
俺は黙ってネイの言葉を聞く。
「みんなと......一緒に......心の底から......笑っていたかった......龍人とか......そんなの気にせずに......記憶なんて......もういらない......私は......私でいたい......」
「なら、今からそうなるように頑張ろうぜ」
「でも......私には......そんなことが......許されない......」
「許すとか許さねえとか、そんなの知らねえよ。他の奴らはともかく、お前は俺と、セリカと一緒にいて楽しかっただろ?例えば、ほら聖魔の神殿とかさ」
「それは、楽しかったよ......でも、私には......」
「別に、自分を許せないのならそれで良いし、他の奴らが信じれないのならそれでも良い。ただ、お前はどうなりたいか答えは出てんだ。後は、時間が解決してくれるさ。だから、その時が来るまで俺でもいい、セリカでもいい。誰か信頼出来る奴と一緒にいればいい。お前が不安で1日中涙を流すのなら、俺が傍にいてやる。お前が楽しくないって思うのなら、俺がどこかにその手引っ張って連れてってやる。お前が今、未来を描けないってんなら俺が描いてやる。邪龍になんてならねえ、笑ってられる未来をさ」
俺は早口にそう言い切った。半分告白みたいな言葉になってしまったが、今はそれで良いだろう。
「ごめんな......さい。ごめんなさ......い。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
遂に、ネイが大声で泣き出した。
「怖い......凄く怖い......私が......私じゃなくなってしまう......大好きだったあなたのことも......殺してしまうかもしれない......それが、凄く怖かった。みんなを殺してしまう......みんなの笑顔を奪ってしまう......みんなの幸せを潰してしまう......そんなの嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ、嫌だ!」
「大丈夫だ。お前はそうならない」
「生きて......生き延びて......私は......あなた達と......」
「それ以上言わなくても良い。全部分かってるからさ。大丈夫だ。お前は。俺達が守ってやる。お前が心の底から笑ってられるその日まで......」
俺はネイに思いっきりの笑顔を向けてそう言う。
「......どうして......そんなに優しくしてくれるの......?私は......邪龍になってしまうかもしれない......それに、フェノンの記憶が少しずつ、戻ってきてるのに......」
「お前は邪龍になんてならねえ。フェノンの記憶が戻りきったとしても、お前がなりたくねえって言ってる限りならねえ。あの邪龍になったネイはただの別世界だ。お前は、邪龍にはならねえよ!」
だって、そうだろ。"ツクヨミ"という、邪龍にならなかった未来があるのだから。あいつが"俺達の選択次第"というのなら、俺はツクヨミの未来を取る。ネイは殺さなくていい。そうだろ?ツクヨミ。
「......ありがとう。私なんかのために、来てくれて......」
最後に、ネイがそう言っていた。
金を失うのは小さく名誉を失うのは大きい。しかし、勇気を失うことは全てを失う。
ネイが勇気を失ったというのなら、俺が与える。そもそも、ツクヨミがああして元気でいるのだから、ネイも立ち直らせることが出来る。
今は、ゆっくりと時間をかけて、ネイを守っているだけで良い。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「おーい、セリカー!」
ネイを探しに遠くに出ていたヴァルが帰ってきた。
ちゃんと、腕にネイを抱えた状態で帰ってきた。
こんな真っ暗な中で、更に雨も降ってたんじゃ見つからないだろうと思っていたのだが、流石はヴァルだった。
「悪ぃ、遅くなっちまった。でも、しっかりとネイを見つけてこれたぜ」
「ネイは大丈夫なの?」
ネイの体には血がべっとりとしており、聞いておいてなんだが、大丈夫ではないと思った。
「分からねえ。早く治療しねえと......」
そう言って、ヴァルはギルドの扉を足で押し開けた。
「ヴァル!」
真っ先にその名を呼んだのはミラだった。ミラはネイが飛び出し、ヴァルが追いかけてからずっとウロウロしていた。心配なのだが、自分にはどうするべきか分からないといった感じだった。
私も、探し回っていたのだが、どこにもおらず、一旦ギルドに戻ったらヴァルが帰ってきた。
他のみんなは、探しに出ようともしなかった。クロムとアランに関しては、何か別のことをしているようだったが......
「ミラ、急いで救急箱を......」
「分かったけど、どうしたの?その血......」
「俺のじゃねえ。全部ネイのだ」
改めて思うが、ヴァルの服もネイの服もかなり赤く染っている。あれが本当にネイだけの血だとしたら、ネイは失血死していてもおかしくないのでは、と思う。
「お姉ちゃん、箱持ってきたよー」
レラが救急箱を片手にやって来た。
「とりあえず、傷口を塞ぐから救護室に連れて行って」
「分かった」
「それと、エフィも手伝って」
「あ、はい」
エフィが立ち上がってこちらにやって来る。それにしても、他のみんなはネイがこんなになっても微動だにしない。そんなにネイのことが......
「セリカ、良いんだよ。私はヴァルとあなただけで良いから」
それは、つまり信じれる人という意味だろうか?
「それに、ミラも治療しなくて大丈夫」
「え、でも、こんなに血が出てるのに......」
「もう、全部止まってる。多分、固まった血を剥がしてみたら傷跡は見えても血は出ていないと思う」
そう言われてミラが恐る恐る血を拭き取る。
「ほら、言った通りでしょ......」
確かに、もう出血していなかった。
「全部、邪龍の力。昔の聖王と聖龍が倒せれなかった理由は、この無限の再生力」
なるほど。確かに、これなら聖王と聖龍が倒さずに封印した理由が分かる。しかし、それが分かると同時にもう1つ分かることがある。
「つまり、邪龍は私達じゃどれだけ頑張っても......」
「殺せないよ。それに、今の私を殺そうとしても、この再生力ですぐに生き返れる。私が逃げ出さなければとかじゃない。本当なら、あの祭壇で未来の私が力を解き放つ前に今の私を殺しておかなければならなかった。もう、何もかもが手遅れだった......」
ネイを殺しても意味が無い。それは、他のみんなを落ち着かせるには良い言葉だと思うが、今は帝国にいるであろう邪龍も倒せれないとなると......
「そんなガッカリした顔をするな。封印程度なら俺たちでもできる」
突然、クロムが横から現れ、そう言う。
「俺が聖王になり、邪龍を封印する。倒すことは出来なくとも、今のネイが邪龍にならないよう俺達が守ってやれば封印したアイツも自然と消滅するはずだ」
確かにその通りだ。相手が未来人なのだから、過去の私達がその歴史を変えればーー
「残念だが、それは無理だ」
ヴァルがそう言った。
「どういうことだ?」
「例え、そうやって歴史を変えれたとしても、あの邪龍がこの時間から消えることは無い。あのネイがいた時間がパラレルワールドになって、別世界となるだけだ」
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「要するにヒカリと同じだ。あのネイは異世界人になるってことだよ」
なるほど......ってそれじゃあ......
「封印はできるけど、この先の未来でまた復活することになるかもしれないってことだよね?ヴァル」
「ああ、そうだ」
「お前は一体いつ、どこでそんなことを学んで来るんだ。折角こっちはネイを殺さなくても邪龍を倒せる方法を考えたというのに......」
「悪いな。でも、邪龍を封印しとくのは良いと思うぜ。復活するならその度にまた封印すれば良い。未来の奴らに負担をかけちまうかもしれねえけど、俺は今のネイに生きててほしい」
それは同感だ。ネイと一緒にこの先も生きていたい。他のみんながそう思ってなくても、私はそう思う。
「とりあえず、聖王継承の儀式はやらないといけないのだな」
「そういうことになるな」
「......よし、なら出発は明日の朝、日の出と共にだ。幸い、邪龍・フェノンはまだ動き出していない。恐らく、力を溜めているのだろうな。その間に聖王を継承して、この剣に真の力を取り戻す」
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ごと持ち上げてそう言う。
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加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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