グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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第3章 【記憶の結晶】

第3章26 【聖王継承】

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 この馬車に乗るのも、もう何回目になるだろうか......

 ここ最近は、ずっと自警団(主にクロム)の仕事に連れ回されてこの馬車にもようやく慣れてきた。

「「 おぇぇぇぇぇ...... 」」

 この光景も日常。

 昨日は大泣きしていたネイとそれを宥めていたヴァルがいつも通りのことをしている。あんたらの精神状態どうなってんの?

「ネイりん、本当について来て大丈夫なの?」

 昨日の今日を考えると、ネイはついて来ない方が良かったとは思う。もう少し、落ち着いてからと考えていたからである。

「わ、私だっで、いづまでぼ逃げでる訳にばいぎませんがら」

 今聞いた私がバカだった。ネイが酔いを起こしたまま話すせいで、イマイチ真面目なのかどうかが分からなくなる(いや、真面目な話だとは思うけど)

「お前らはもっと体を鍛えろ。特に三半規管を。そんなのだから乗り物酔いを起こすのだ」

 フウロがそう言うが、三半規管ってどうやって鍛えるの?

「確か、マット運動とかトランポリンとかで鍛えられるって聞いたことがありますけど......」

 エフィがそう言う。

「ただ、ヴァルさん達の場合、それをしても余計に酔うだけで訓練にはならないと思いますが......」

 エフィから意味無い宣告が出てしまった......つまり、この2人はどんなに頑張っても、もう......

「乗り物酔いは克服できないってこと......」

「そうですね。私の酔い止めの魔法が効かなくなってる時点で、望みはもう無いですね」

 うわぁ......酷く悲しい現実だ。

「まあ、でも、お2人とも仲がいいようですし、それで良いんじゃないですか?」

 それで良いのか。

 今思い返せば、今朝からネイはずっとヴァルにくっ付いてたな。昨日の夜もなんか一緒に帰ってたし......まさか......いや、考え過ぎか......

「お前ら無駄口はそこまでにしてろ。もうすぐ聖龍の神殿に着く」

 前に座り、手綱を握るクロムがそう言う。

「そろそろか。なら、俺達も気合を入れねえとな」

 ヴァルが自分の頬を叩いてそう言う。ネイもなんか、正面を向いて平気な顔に戻っている。

「......あんたらの乗り物酔いって、気合1つで治んの?」

「「 え? 」」

 2人が驚いた顔でこちらを見てきた。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 聖龍の神殿は忌まわしい記憶しかない聖龍の墓場近くにそびえ立っている。

 しかし、それは偽の姿であり、地下に本当の聖龍の神殿がある。

「聖龍の神殿は遥か大昔に邪龍を封印したエクセリアを称えるために作られたと聞いている。聖龍の墓場が近くにあるのは、この場所で聖王継承の儀を行うためだな」

「その聖王継承の儀ってどうやってやるんだ?」

 ヴァルが問いかける。

「昔、姉さんがやった時は聖龍の幻影?なのかな。まあ、そんな奴が現れて姉さんに剣を授けた。今は俺が持っている剣だ」

「なんで継承者じゃないお前が持ってるんだよ」

「姉さんは争いが好きじゃない。自分の身を守ってくれる信用ある奴に任せた。それが、弟であった俺なのだが、この剣は正しき主じゃないと1%も力を出してくれなくてな」

「剣が意志を持ってんのかよ......」

「一応、エクセリアだからな。あの聖龍の意思がこの剣にいる。姉さんなら話をすることができたらしいが、聖王じゃない俺には出来ん」

「それって......ネイりんの契約龍と......」

「似てるな。というか、俺がネイの挙動を不思議に思わないのもそのせいだな。姉さんだってたまに独り言を呟いてる時が多々あったし......」

 エクセリアもジークやアマツと同じ存在なのか......だとしたら、ジーク達は知っているのかな?

「知らない、とジーク達は言っていますよ。そもそも、聖龍の存在自体知らなかったって......」

 ネイが金色の瞳をこちらに向けながらそう言う。

「それは、恐らくその龍王と聖龍が生きていた時代が違うからだろう。そもそも、俺達はお前ら龍王の存在自体知らなかったからな」

 お互い様......だね。龍王達が1000年前に存在していて、聖龍は大体800年前......200年も時間が違っていれば分かるはずがない。龍王達の存在が知られていないのも、1000年前の歴史がハッキリと分からないからだろう。

「クロム殿、お待ちしておりました」

 階段を降り終えた先に老婆がいた。

「あ、あのおばあちゃん......」

「久し振りじゃな。セリカ。それに、あの時の飛龍の子もおるではないか......」

 間違いなく、天命の泉で知り合ったあの龍人の人だった。

「どういうこと?クロム」

「聖王継承の儀は代々龍人が執り行うようになっている。なんせ、聖龍と契約するわけだからな。それを見守る龍人が必要だろう」

 理屈は全然分からないけど、とりあえず見てる人が必要ってのは分かった。

「急ぎで済まなかったが、準備は整ってるか?」

「安心なされ。5時間前に終わらせておる。後はクロム殿が儀式を行うだけじゃ」

「分かった。じゃあ、お前らはそこら辺で見てろ。くれぐれもこの神殿を壊すなよ。殺されるからな。特にそこのお前」

 クロムがヴァルを指してそう言った。

「なんで、俺に言ったんだ!?」

「いや、なんとなくだ。暇すぎてその辺のものに当たるんじゃねえかなぁって思ってだな。ネイ、しっかりとくっ付いてろよ」

「はい、分かりました」

 そう言って、ネイがヴァルの腕を抱き締める。

「そんなに俺って信用ならないかね?」

「少なくとも、私は信頼していますよ。ヴァルは私の救世主ですから」

 ヴェルドとシアラの関係とは違って、こっちはヴァルが普通に受け入れてる。

 この光景にも慣れていかないといけないのか......元はと言えば私達がいけないのだが......

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 聖王継承の儀。

 見たことも聞いたこともないので、どんなものか分からないが、聖龍と契約すると言っているのでネイの契約龍と同じだろうと思っていた。

 ネイの契約がーーどうなっているのかは分からないがーー楽に言葉一つで出来ているのだから大丈夫だろうと思っていた。

 しかし、実際はクロムが血反吐を吐くことになった。

 マジでエクセリアの幻影が現れてクロムに自身の血を浴びせた。そこから10分程、ようやく収まってきたといった感じだ。

(ねえ、ネイりん。契約ってあんなに大変なの?)

(逆に聞きますけど、精霊とどうやって契約してきたんですか?)

(普通に言葉一つで契約してきたけど......)

(私も、大体は同じですよ。これが儀式って呼ばれる理由がよく分かりました)

 確かに、私もネイもここまで大事な契約は行っていない。相手が聖龍だから儀式と呼ばれるんじゃなくて、その聖龍の契約者に相応しいかどうかを判断する、契約の前準備が儀式だった。

「はぁ、はぁ、はぁ......どうだエクセリア。耐えきってみせたぞ......」

 クロムが剣を杖の代わりにして体勢を整える。

「ほう、我が力をその器に収めきれるとは......よろしい、新たなる我が契約者としてそなたを迎え入れましょう......」

 どうやら、儀式は終わったみたいだ。

「契約は完了致しましたが、そなたには何点か聞きたいことがあります」

「聞きたいこと?」

「はい。まず、あなたの姉はどうなりましたか?死んだのは私にも伝わって来ました。ですが、その最期を私は知ることが出来ない。どうなったのかが知りたいのです」

「......姉さんは、邪龍の復活を望む者達によって殺された......」

 まだ最近の記憶ではあるが、クロムにとって思い出すのは辛い記憶だろう。クロムの唇がわなわなと震えていた。

「そうですか......邪龍ですか......」

 エクセリアが悲しげな表情で俯いた。

「では次に。邪龍が復活したのを感知しました。今、奴はどこにいますか?」

「ラグナロク帝国、滅界の祭壇辺りだ。丁度800年程前にフェノンが誕生した場所だ」

「やはり、そうですか......。奴は力を溜めた後、ここにやって来るでしょう。憎き相手である私を殺すために......」

「全部俺達が止める。そのために、俺はここに来た」

「そうでしょう。期待していますよ。ーーでは、最後に。なぜ、そこに邪龍の子がいるのですか?」

 エクセリアがネイを睨んで言う。

 睨まれたネイは、ヴァルの背後に隠れる。

「安心しろ。あいつは邪龍かもしれないが、邪龍にはならない。それだけは確かだ」

「そうだとしても、邪龍になってしまったあいつはあなたと私でも倒すことはできません。ですが、今邪龍になっていない過去のあいつを倒せばーー」

「それは無理だ。例え、今のネイを殺したとしても、未来のあいつはこの時間に残り続ける。あいつがいる世界がパラレルワールドになって、俺達の未来から来た奴じゃなくなるからだ」

「......よく分かりませんが、彼女は殺しても意味が無い、ということですね?」

「そういうことだ。結局のところ、奴は殺すことが出来ないらしい......」

「「「 ............ 」」」

 分かりきってはいることなのだが、改めて認識させられると辛い現実だ。

「絶対に無理な方法でも構わないから、何か、殺せる方法とかないのか?」

「無理な方法ですか......一応、あるにはあります」

「どんな方法だ?」

「奴は無限の再生力を持っている。ですが、痛みは引くことがない。戦い続け、疲労させれば封印ができます。これは、かつての私が最初の聖王と行ったことです。そして、その無限の再生力にはとある秘密があります」

「「「 秘密? 」」」

「奴の体は、敵味方関係なく、攻撃を受ければ勝手に再生されますが、自分の攻撃は再生するかどうかを決めれるらしいのです」

「自分で付けた傷は治すかどうかを自分で決めれるのか......ってことは......」

「絶対に無理ではありますが、奴が自殺をすれば殺すことができます」

 なるほど、絶対に無理な方法だ。

「あの邪龍が自らの命を自分で絶つなんて絶対にないぞ」

「ええ。ですから、無理だと仰っているのです」

 無理を可能にするのがうちのギルドだが、流石にこればかりはどうしようもない。

「あの......」

 ネイが怯えながらもエクセリアの前に出た。

「どうかされました?邪龍・フェノン」

「......自殺を......すれば......殺せれるのですよね......?」

 ネイが全身を震えさせながらそう言う。

「ええ、そうです。しかし、あなたが自殺したところで、あれは別世界のあなたとなり、意味が無いのでしょう?」

「それは......分かっています......。ですが......、奴が私を吸収できるように......私が奴を吸収して......自殺すれば......」

「確かに、それならば奴を殺すことが出来るでしょう。しかし、良いのですか?あなたが死んでしまうのですよ?」

「ダメだ。お前は昨日、俺に言ったはずだ。『死にたくない』って」

 ヴァルがネイの肩に手を置いてそう言う。

「......でも、それでみんなが救われるというのなら......」

「その『みんな』の中にお前も入ってんだ。お前が救われてねえからダメだ」

「......」

「どうするかは、あなた達の勝手です。ですが、私はあの邪龍を止める。それだけは確実に行わなければならない」

「ああ、分かっている。ネイをどうするか、については後1日くらいこいつらに考えさせてやるさ」

 クロムがエクセリアに向けてそう言った。

「分かりました。最後に邪龍のあなたに1つ言っておきたいことがあります」

 立ち去ろうとしたネイの肩がビクッと震えた。

「不幸になりたくないと言うのなら、その右眼は潰してしまった方が良い。あっても役には立ちません。あなたが邪龍にならない道を行きたいというのなら、私はいつでも協力して差し上げます」

 そう言うエクセリアの顔は、まるで我が子を見守る母親のように、優しい顔をしていた。
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