61 / 434
第3章 【記憶の結晶】
第3章27 【再起の物語】
しおりを挟む
優しき王が治める国。
それだけを聞くと、どんな国なのか想像もつかないが、実際に足を運んでると、どんな国なのかがよく分かる。
これといって発展しているわけではないが、街中は平和そのものだった。
街のどこを見渡しても、騎士らしき人は見当たらないし、町民はほとんどずっと笑顔の状態だし、グランアークとは大違いだ。
私達はクロムの意向でイーリアスに来ている。
クロムは大事な会議があると言い、ヴァルは珍しく調べものがあると言いどこかへ行った。ネイがついて行こうとしたが、ヴァルに上手いこと宥められて私と一緒にいる。
他の面々もどこかへと行き、私達だけが何もすることがない状態である。
まあ、ここ最近働き詰めだったし、たまにはのんびりするのも悪くはない。ただ......
「あの......セリカさん......私だけお城の中に引き籠ってちゃダメなんですか?」
いくら平和な国と言えど、龍人に対する差別がないわけではない。
フードを外して歩いてたネイは結構な人から睨まれ、居心地が悪かっただろう。
「戻っても何もないし、そもそも今は戻れないと思うけど......」
「うぅ......やっぱり、そうですか......」
「別のコートとか持ってないの?」
「認識を阻害できるのはあのコート1枚だけだったんです......」
前回、前々回での邪龍教との戦いでネイのコートはボロボロになってしまった。一応、修復は可能なのだが、認識を阻害させるところをどうするかが問題になっている。認識阻害の効果がないと、周りから見たら龍人だとバレバレになっている。本当に不思議なコートだ。
「とりあえず、人のいなさそうな郊外の公園にでも行ってみる?」
「そう......しましょうか......」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「よう、ツクヨミ」
「まぁたお主か......」
「なんだ?歓迎してくれねえのか?」
「本来、妾がお主ら過去の者達と接触するのは良くないんじゃよ」
「そうなのか?まあいいや」
「......それで、今日はどんな用事じゃ?」
ツクヨミが読んでいた本を閉じてそう言う。
「いや、ただ報告に来ただけだ」
「なんじゃ?あのものは邪龍にでもなったか?」
「なるわけねえだろ。お前の未来を取ったさ」
「そう、なら良かったのう」
「いや、問題はそこからなんだ。邪龍を倒せる方法ってねえのか?」
「邪龍......過去の妾自身が自殺することじゃな」
「ああ......すぐにそれが出てくるんだな」
「1回、取りかけた選択じゃからな」
「つーことは......今のネイは確実にお前になる未来に進んでんだよな?」
「分からんが、そうじゃろうな。この肩から腰にかけてある妾の傷跡が過去の妾にあるのならば、確実にその道を歩んでおるな。なにせ、あの邪龍になった妾にこの傷はない」
ツクヨミがその傷をなぞるようにしてそう言う。
「ただ、どこで何が狂うか分からん。まだ邪龍になる可能性もあるにはある。それに、結末だけはお主であっても教えれんからのう」
「結末か......んなもん、全員生き残ってハーピーエンドだろ?」
「そうなると......良いな」
「ん?なんだその言い方」
「いや、なんでもない。せいぜい頑張れよ」
「ああ、精一杯頑張るさ。それはそうと、最後になるかもしれねえ質問が1つあるんだが、良いか?」
「最後の回答になるかもしれのは妾も同じじゃな」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「うう......やっぱ寒い」
公園に来て、ベンチに座ったセリカがそう言う。
「それだけ厚着してるのに何言ってんですか......」
「寒いものは寒いんのよ!というか、なんでネイりんはそんな薄着で平気なのよ!」
「分かりません。多分、生まれつきなので......」
「......ネイりんにくっついても冷たいだけだな......」
「ちょ、ちょっと何やってんですか!」
突然、セリカが抱き締めてきた。
「こうしたら、少しは暖かいかなって思ったんだけど......」
「私、体温低いから意味ないですよ」
「だよねぇ......夏なら快適だったのかなぁ......」
「暑苦しいのでやめてください......」
冬だと言うのに、セリカがくっついて来るだけで暑い。早く、離れて......
「おぉ......」
ふと、誰かの視線を感じた。
辺りを見渡すと、すぐ正面に小さな3人の子供達がいた。
「あっ......」
まずい。よく分からないけど、なぜかまずいような気がした。
「どうしたの?君達」
セリカが、まるで当たり前といった感じで子供達に近づく。
「......姉ちゃんかっけぇ......頭に角が生えてる......かっけえよ......」
子供のうちの一人、ワンパクそうな子がそう言う。
「え......?」
この反応は予想外だった。恐れを抱かれるのではなく、『カッコイイ』と憧れの目線を向けられるのが......
「お姉ちゃん、その角どうなってんの?触らせて」
もう1人の男の子が勝手に私の角を触ってくる。
「あ、ちょ、痛い痛い......」
「本当に生えてる......」
「そんな奴らと遊んでないで、私と遊ぼ?お姉さん」
女の子が私の手を引っ張ってどこかへと連れて行こうとする。
「あ、ずりぃぞ。俺達だって遊ぼうと思ってたんだからよー」
「あんたらだとお姉さんが困るでしょ?無茶ばっかするんだから。ね?お姉さん」
「え、いや......私はどっちでも良いかな?」
「ほら見ろ。俺らとだって遊んでくれるってよ」
「はあ?なんで、あんたらなんかと遊ぶってよ!」
元気そうな子供達だ。邪龍が復活したというのに、この国は平和そのものだ。
(少しだけ、何もかも忘れてていいのかな)
そう思って子供達の方について行った。
(そういや、セリカさん......)
ふと、ベンチの方を見ると、無視されたままのセリカが呆然と立ち尽くしていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「......最後の質問だ。お前は邪龍なのか?」
「違う......とは言えんな。妾の中にはまだ邪龍の血が強く残っておる。多分じゃが、その気になれば邪龍になることもできる」
「そうか......やっぱり、あいつが邪龍じゃなくなる、なんてことは無理なんだな」
「そんなことを考えてくれて嬉しいがな。じゃが、お主の言うように妾は邪龍ではなくなるなんてことはない。もし、妾が邪龍じゃなくなれば、死んでしまうからな」
「......どういうことだ?」
「妾の心臓は邪龍の心臓。邪龍じゃなくなるためにはそれを潰さねばならない」
「しかし、人としての心臓は無いから、それを潰せば自分は死ぬ、ということか......」
「その通りじゃな。ただ、妾が邪龍かどうかなんてお主らしか知らんし、普通に生きとる上では何の問題もないとは思うがな」
「お前はそれで良かったのか?」
「......昔は不満を持っておったな。でも、今はお主らが共にいてくれる。それだけで十分になった。それが、未来の姿である妾」
「......未来は今と変わらず龍人差別の残ったままなんだよな?」
「相変わらずじゃ。何も学習せん人間共の住む世界じゃからな。じゃが、妾はお主ら、いや、お主がいてくれるから大丈夫じゃ。本当なら、さっさと未来のお主のところに帰りたいのじゃが......」
「仕事......があるんだっけ」
「仕事と言っても、ただ、その時代におって歴史を正しい方向に持っていくだけの仕事じゃがな」
「すまない。壮大すぎてよく分かんなかった」
「一応、これでも未来のお主と壮大な別れをして来たんじゃがな」
「その未来を俺は作れるかどうかってところなんだが......」
「大丈夫じゃよ。お主ならやれる。ーーさて、妾とお主の会話も今日限りになるのかのう」
「さっきの話しといて何だが、歴史の修正が終わったのか?」
「昔から勘のええ男じゃな。その通り、歴史の修正が終わった。妾はやっと未来のお主らのところへと帰ることが出来る。実を言うと、未来のお主らが助けを求めておるから早くに行かねばならんのじゃが......」
「まさかとは思うが、最後に俺と話をしておきたかったとか言うなよ。そのせいで未来の俺達が死んだら意味無くなるだろ」
「ふっ、それもそうじゃの。でも、お主にはちゃんと別れを言っておきたかった」
「......」
突然、さっきまで明るい調子だったツクヨミの表情が暗くなる。
「お主には話しておくのじゃが、妾はこの仕事の都合上、1000年間お主らと会えんかった」
「1000年!?」
「そう、1000年間じゃ。1000年間ほとんど1人で歴史を見守る作業をしてきた。寂しかった。でも、そんな時、過去の姿ではあるが、お主が、いや、あなたが現れてくれた」
ツクヨミの目から、少しずつ涙が流れ始めている。
「あなたが現れてくれなかったら、私はもしかしたらまた邪龍になってたかもしれない。私は自分の感情を上手くコントロールすることが出来ないの。感情のままに行動するんじゃない。寂しいと思った時にはもう何もかもが無くなってる。怒った時には周りに死体が散らばっている。感情が後になってからやって来る。だから、私は暴走する。自分が嫌になって、そして......」
「分かったよ。つまり、お前は俺にめちゃくちゃ感謝してる。そして、今のネイを優しく支えてあげろってんだろ?」
俺は、ツクヨミの体を優しく抱き締めて、そっと頭を撫でる。
「1000年間なんて、俺にはよく分かんねえけど、よく耐えた。後は未来の俺達がどうにかしてあげれる。だから、こっちの時代のお前は任せておけ」
「うん。やっぱり、あなたは今も昔も優しい人。でも、その優しさが自分の弱さであることを覚えていてください」
「そんなの昔からよく言われたさ。敵は生かすよりも殺す方が楽。でも、生かせておける道があるなら、頑張ってそっちを取りたい。ネイだってそうじゃねえか」
「今の私は、そんなのじゃありませんよ。あなたが殺せと言えば誰が相手だろうが殺す。あなたが生かしておけと言うのなら、その通りにする。未来の私はあなたの操り人形なのですよ?」
「なんでそんな話したのか分からねえが、お前は自分の意思を持っている。そして、俺の言うことを聞くのは、多分、俺しか信用できる奴がいなくなっちまったからだろ。ゴメンな」
「謝らなくたっていいです。私はあなたの傍にいれれば十分ですから」
そう言って、ツクヨミは俺の傍から離れる。
「もう行っちまうんだな」
「うん。未来のあなたが助けを求めているから。未来のあなたが私にとっての本当のヒーローだから」
「お前がいなくなったら、この書庫はどうなっちまうんだ?」
「多分、無くなりはしませんよ。主がいなくなっても、この書庫は変わらず今の歴史を刻み続ける。そのメモリを持っていれば、あなたなら自由に入れると思います」
「......このメモリは俺が持ってていいのか?」
「この書庫に戻しててもいいのですけど、あなたが持っていれば、近い将来役に立つかもしれませんから」
「分かった。じゃあ、未来の俺によろしく言っといてくれ」
「うん。じゃあ......」
どうやって未来に帰ったのかは知らないが、ツクヨミが瞬きの間にその場からいなくなった。
「ーー俺は俺で、この時間のお前を守ってやるさ。お前の助けは十分に借りれたしな。後は俺達がどうにかする問題だ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「じゃあねー!」
「また遊ぼーぜー!」
「バイバイ、お姉さん」
3人の子供達がそれぞれ手を振りながら公園を去って行く。
「随分と、元気な子達でしたねぇ......」
私は隣に立つセリカに向かってそう言う。
「ねえ、私がどれだけ話しても無視されてたのって何だったの......」
「あ......」
セリカはしつこい程に子供達に付きまとろうとしたのだが、見事なまでに無視され続けた。本当に見事だと言っていい。
「でも、まだあんな子達がいたんだね......」
セリカの言うように、あの子達は私が龍人であることなど気にしなかった。むしろ、憧れの目で見てくれていた。
ほんの一時の間であっても、今までにあったことを全部忘れることができた。
「セリカさん......。あの邪龍は聖龍の墓場に向かっています」
「うん、分かってるよ。だから、止めないと......」
「その道程にはこの国のこの場所も含まれている」
「............」
「私は、私を恐れた目で見なかったあの子達を守りたい」
「うん。とっても良いと思うよ」
「でも、やっぱり死にたくない。私は、まだ死ぬには早すぎることに気づきました。例え、みんなが私のことを恐れや怒りといった眼差しで見てきても、あの子達のように、私を私として見てくれる人がいるのなら......」
そこで、私はセリカの顔を見て一息ついた。
「私は、まだこの世界を生きたい」
強く、ハッキリとした声でそう言った。
「......それでいいと思うよ。みんなで邪龍を封印でもいいから倒して、そして、笑って明日を迎えよう」
セリカもまた、私の信頼できる人だった。
それだけを聞くと、どんな国なのか想像もつかないが、実際に足を運んでると、どんな国なのかがよく分かる。
これといって発展しているわけではないが、街中は平和そのものだった。
街のどこを見渡しても、騎士らしき人は見当たらないし、町民はほとんどずっと笑顔の状態だし、グランアークとは大違いだ。
私達はクロムの意向でイーリアスに来ている。
クロムは大事な会議があると言い、ヴァルは珍しく調べものがあると言いどこかへ行った。ネイがついて行こうとしたが、ヴァルに上手いこと宥められて私と一緒にいる。
他の面々もどこかへと行き、私達だけが何もすることがない状態である。
まあ、ここ最近働き詰めだったし、たまにはのんびりするのも悪くはない。ただ......
「あの......セリカさん......私だけお城の中に引き籠ってちゃダメなんですか?」
いくら平和な国と言えど、龍人に対する差別がないわけではない。
フードを外して歩いてたネイは結構な人から睨まれ、居心地が悪かっただろう。
「戻っても何もないし、そもそも今は戻れないと思うけど......」
「うぅ......やっぱり、そうですか......」
「別のコートとか持ってないの?」
「認識を阻害できるのはあのコート1枚だけだったんです......」
前回、前々回での邪龍教との戦いでネイのコートはボロボロになってしまった。一応、修復は可能なのだが、認識を阻害させるところをどうするかが問題になっている。認識阻害の効果がないと、周りから見たら龍人だとバレバレになっている。本当に不思議なコートだ。
「とりあえず、人のいなさそうな郊外の公園にでも行ってみる?」
「そう......しましょうか......」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「よう、ツクヨミ」
「まぁたお主か......」
「なんだ?歓迎してくれねえのか?」
「本来、妾がお主ら過去の者達と接触するのは良くないんじゃよ」
「そうなのか?まあいいや」
「......それで、今日はどんな用事じゃ?」
ツクヨミが読んでいた本を閉じてそう言う。
「いや、ただ報告に来ただけだ」
「なんじゃ?あのものは邪龍にでもなったか?」
「なるわけねえだろ。お前の未来を取ったさ」
「そう、なら良かったのう」
「いや、問題はそこからなんだ。邪龍を倒せる方法ってねえのか?」
「邪龍......過去の妾自身が自殺することじゃな」
「ああ......すぐにそれが出てくるんだな」
「1回、取りかけた選択じゃからな」
「つーことは......今のネイは確実にお前になる未来に進んでんだよな?」
「分からんが、そうじゃろうな。この肩から腰にかけてある妾の傷跡が過去の妾にあるのならば、確実にその道を歩んでおるな。なにせ、あの邪龍になった妾にこの傷はない」
ツクヨミがその傷をなぞるようにしてそう言う。
「ただ、どこで何が狂うか分からん。まだ邪龍になる可能性もあるにはある。それに、結末だけはお主であっても教えれんからのう」
「結末か......んなもん、全員生き残ってハーピーエンドだろ?」
「そうなると......良いな」
「ん?なんだその言い方」
「いや、なんでもない。せいぜい頑張れよ」
「ああ、精一杯頑張るさ。それはそうと、最後になるかもしれねえ質問が1つあるんだが、良いか?」
「最後の回答になるかもしれのは妾も同じじゃな」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「うう......やっぱ寒い」
公園に来て、ベンチに座ったセリカがそう言う。
「それだけ厚着してるのに何言ってんですか......」
「寒いものは寒いんのよ!というか、なんでネイりんはそんな薄着で平気なのよ!」
「分かりません。多分、生まれつきなので......」
「......ネイりんにくっついても冷たいだけだな......」
「ちょ、ちょっと何やってんですか!」
突然、セリカが抱き締めてきた。
「こうしたら、少しは暖かいかなって思ったんだけど......」
「私、体温低いから意味ないですよ」
「だよねぇ......夏なら快適だったのかなぁ......」
「暑苦しいのでやめてください......」
冬だと言うのに、セリカがくっついて来るだけで暑い。早く、離れて......
「おぉ......」
ふと、誰かの視線を感じた。
辺りを見渡すと、すぐ正面に小さな3人の子供達がいた。
「あっ......」
まずい。よく分からないけど、なぜかまずいような気がした。
「どうしたの?君達」
セリカが、まるで当たり前といった感じで子供達に近づく。
「......姉ちゃんかっけぇ......頭に角が生えてる......かっけえよ......」
子供のうちの一人、ワンパクそうな子がそう言う。
「え......?」
この反応は予想外だった。恐れを抱かれるのではなく、『カッコイイ』と憧れの目線を向けられるのが......
「お姉ちゃん、その角どうなってんの?触らせて」
もう1人の男の子が勝手に私の角を触ってくる。
「あ、ちょ、痛い痛い......」
「本当に生えてる......」
「そんな奴らと遊んでないで、私と遊ぼ?お姉さん」
女の子が私の手を引っ張ってどこかへと連れて行こうとする。
「あ、ずりぃぞ。俺達だって遊ぼうと思ってたんだからよー」
「あんたらだとお姉さんが困るでしょ?無茶ばっかするんだから。ね?お姉さん」
「え、いや......私はどっちでも良いかな?」
「ほら見ろ。俺らとだって遊んでくれるってよ」
「はあ?なんで、あんたらなんかと遊ぶってよ!」
元気そうな子供達だ。邪龍が復活したというのに、この国は平和そのものだ。
(少しだけ、何もかも忘れてていいのかな)
そう思って子供達の方について行った。
(そういや、セリカさん......)
ふと、ベンチの方を見ると、無視されたままのセリカが呆然と立ち尽くしていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「......最後の質問だ。お前は邪龍なのか?」
「違う......とは言えんな。妾の中にはまだ邪龍の血が強く残っておる。多分じゃが、その気になれば邪龍になることもできる」
「そうか......やっぱり、あいつが邪龍じゃなくなる、なんてことは無理なんだな」
「そんなことを考えてくれて嬉しいがな。じゃが、お主の言うように妾は邪龍ではなくなるなんてことはない。もし、妾が邪龍じゃなくなれば、死んでしまうからな」
「......どういうことだ?」
「妾の心臓は邪龍の心臓。邪龍じゃなくなるためにはそれを潰さねばならない」
「しかし、人としての心臓は無いから、それを潰せば自分は死ぬ、ということか......」
「その通りじゃな。ただ、妾が邪龍かどうかなんてお主らしか知らんし、普通に生きとる上では何の問題もないとは思うがな」
「お前はそれで良かったのか?」
「......昔は不満を持っておったな。でも、今はお主らが共にいてくれる。それだけで十分になった。それが、未来の姿である妾」
「......未来は今と変わらず龍人差別の残ったままなんだよな?」
「相変わらずじゃ。何も学習せん人間共の住む世界じゃからな。じゃが、妾はお主ら、いや、お主がいてくれるから大丈夫じゃ。本当なら、さっさと未来のお主のところに帰りたいのじゃが......」
「仕事......があるんだっけ」
「仕事と言っても、ただ、その時代におって歴史を正しい方向に持っていくだけの仕事じゃがな」
「すまない。壮大すぎてよく分かんなかった」
「一応、これでも未来のお主と壮大な別れをして来たんじゃがな」
「その未来を俺は作れるかどうかってところなんだが......」
「大丈夫じゃよ。お主ならやれる。ーーさて、妾とお主の会話も今日限りになるのかのう」
「さっきの話しといて何だが、歴史の修正が終わったのか?」
「昔から勘のええ男じゃな。その通り、歴史の修正が終わった。妾はやっと未来のお主らのところへと帰ることが出来る。実を言うと、未来のお主らが助けを求めておるから早くに行かねばならんのじゃが......」
「まさかとは思うが、最後に俺と話をしておきたかったとか言うなよ。そのせいで未来の俺達が死んだら意味無くなるだろ」
「ふっ、それもそうじゃの。でも、お主にはちゃんと別れを言っておきたかった」
「......」
突然、さっきまで明るい調子だったツクヨミの表情が暗くなる。
「お主には話しておくのじゃが、妾はこの仕事の都合上、1000年間お主らと会えんかった」
「1000年!?」
「そう、1000年間じゃ。1000年間ほとんど1人で歴史を見守る作業をしてきた。寂しかった。でも、そんな時、過去の姿ではあるが、お主が、いや、あなたが現れてくれた」
ツクヨミの目から、少しずつ涙が流れ始めている。
「あなたが現れてくれなかったら、私はもしかしたらまた邪龍になってたかもしれない。私は自分の感情を上手くコントロールすることが出来ないの。感情のままに行動するんじゃない。寂しいと思った時にはもう何もかもが無くなってる。怒った時には周りに死体が散らばっている。感情が後になってからやって来る。だから、私は暴走する。自分が嫌になって、そして......」
「分かったよ。つまり、お前は俺にめちゃくちゃ感謝してる。そして、今のネイを優しく支えてあげろってんだろ?」
俺は、ツクヨミの体を優しく抱き締めて、そっと頭を撫でる。
「1000年間なんて、俺にはよく分かんねえけど、よく耐えた。後は未来の俺達がどうにかしてあげれる。だから、こっちの時代のお前は任せておけ」
「うん。やっぱり、あなたは今も昔も優しい人。でも、その優しさが自分の弱さであることを覚えていてください」
「そんなの昔からよく言われたさ。敵は生かすよりも殺す方が楽。でも、生かせておける道があるなら、頑張ってそっちを取りたい。ネイだってそうじゃねえか」
「今の私は、そんなのじゃありませんよ。あなたが殺せと言えば誰が相手だろうが殺す。あなたが生かしておけと言うのなら、その通りにする。未来の私はあなたの操り人形なのですよ?」
「なんでそんな話したのか分からねえが、お前は自分の意思を持っている。そして、俺の言うことを聞くのは、多分、俺しか信用できる奴がいなくなっちまったからだろ。ゴメンな」
「謝らなくたっていいです。私はあなたの傍にいれれば十分ですから」
そう言って、ツクヨミは俺の傍から離れる。
「もう行っちまうんだな」
「うん。未来のあなたが助けを求めているから。未来のあなたが私にとっての本当のヒーローだから」
「お前がいなくなったら、この書庫はどうなっちまうんだ?」
「多分、無くなりはしませんよ。主がいなくなっても、この書庫は変わらず今の歴史を刻み続ける。そのメモリを持っていれば、あなたなら自由に入れると思います」
「......このメモリは俺が持ってていいのか?」
「この書庫に戻しててもいいのですけど、あなたが持っていれば、近い将来役に立つかもしれませんから」
「分かった。じゃあ、未来の俺によろしく言っといてくれ」
「うん。じゃあ......」
どうやって未来に帰ったのかは知らないが、ツクヨミが瞬きの間にその場からいなくなった。
「ーー俺は俺で、この時間のお前を守ってやるさ。お前の助けは十分に借りれたしな。後は俺達がどうにかする問題だ」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「じゃあねー!」
「また遊ぼーぜー!」
「バイバイ、お姉さん」
3人の子供達がそれぞれ手を振りながら公園を去って行く。
「随分と、元気な子達でしたねぇ......」
私は隣に立つセリカに向かってそう言う。
「ねえ、私がどれだけ話しても無視されてたのって何だったの......」
「あ......」
セリカはしつこい程に子供達に付きまとろうとしたのだが、見事なまでに無視され続けた。本当に見事だと言っていい。
「でも、まだあんな子達がいたんだね......」
セリカの言うように、あの子達は私が龍人であることなど気にしなかった。むしろ、憧れの目で見てくれていた。
ほんの一時の間であっても、今までにあったことを全部忘れることができた。
「セリカさん......。あの邪龍は聖龍の墓場に向かっています」
「うん、分かってるよ。だから、止めないと......」
「その道程にはこの国のこの場所も含まれている」
「............」
「私は、私を恐れた目で見なかったあの子達を守りたい」
「うん。とっても良いと思うよ」
「でも、やっぱり死にたくない。私は、まだ死ぬには早すぎることに気づきました。例え、みんなが私のことを恐れや怒りといった眼差しで見てきても、あの子達のように、私を私として見てくれる人がいるのなら......」
そこで、私はセリカの顔を見て一息ついた。
「私は、まだこの世界を生きたい」
強く、ハッキリとした声でそう言った。
「......それでいいと思うよ。みんなで邪龍を封印でもいいから倒して、そして、笑って明日を迎えよう」
セリカもまた、私の信頼できる人だった。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
[完結]7回も人生やってたら無双になるって
紅月
恋愛
「またですか」
アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。
驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。
だけど今回は違う。
強力な仲間が居る。
アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
2度死んだ王子は今度こそ生き残りたい
緑緑緑
ファンタジー
王太子ロイは、かつて二度の革命によって祖国を崩壊させてしまった過去を持つ。命を落とすたび、彼はある時点へと巻き戻される。そして今、三度目の人生が静かに幕を開けようとしていた。
――自分は民を理解しているつもりだった。
だが実際には、その表面しか見えていなかったのだ。
その痛烈な自覚から、物語は動き始める。
革命を回避するために必要なのは、制度でも権力でもない。「人を知る」ことこそが鍵だと、ロイは気付く。
彼はエコール学園での生活を通じ、身分も立場も異なる様々な人間と深く関わっていく。
そこで出会う一人ひとりの想いと現実が、やがて国の未来を大きく左右していくことになるとは、この時のロイはまだ知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる