グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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第3章 【記憶の結晶】

第3章27 【再起の物語】

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 優しき王が治める国。

 それだけを聞くと、どんな国なのか想像もつかないが、実際に足を運んでると、どんな国なのかがよく分かる。

 これといって発展しているわけではないが、街中は平和そのものだった。

 街のどこを見渡しても、騎士らしき人は見当たらないし、町民はほとんどずっと笑顔の状態だし、グランアークとは大違いだ。


 私達はクロムの意向でイーリアスに来ている。

 クロムは大事な会議があると言い、ヴァルは珍しく調べものがあると言いどこかへ行った。ネイがついて行こうとしたが、ヴァルに上手いこと宥められて私と一緒にいる。

 他の面々もどこかへと行き、私達だけが何もすることがない状態である。
 まあ、ここ最近働き詰めだったし、たまにはのんびりするのも悪くはない。ただ......

「あの......セリカさん......私だけお城の中に引き籠ってちゃダメなんですか?」

 いくら平和な国と言えど、龍人に対する差別がないわけではない。
 フードを外して歩いてたネイは結構な人から睨まれ、居心地が悪かっただろう。

「戻っても何もないし、そもそも今は戻れないと思うけど......」

「うぅ......やっぱり、そうですか......」

「別のコートとか持ってないの?」

「認識を阻害できるのはあのコート1枚だけだったんです......」

 前回、前々回での邪龍教との戦いでネイのコートはボロボロになってしまった。一応、修復は可能なのだが、認識を阻害させるところをどうするかが問題になっている。認識阻害の効果がないと、周りから見たら龍人だとバレバレになっている。本当に不思議なコートだ。

「とりあえず、人のいなさそうな郊外の公園にでも行ってみる?」

「そう......しましょうか......」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「よう、ツクヨミ」

「まぁたお主か......」

「なんだ?歓迎してくれねえのか?」

「本来、妾がお主ら過去の者達と接触するのは良くないんじゃよ」

「そうなのか?まあいいや」

「......それで、今日はどんな用事じゃ?」

 ツクヨミが読んでいた本を閉じてそう言う。

「いや、ただ報告に来ただけだ」

「なんじゃ?あのものは邪龍にでもなったか?」

「なるわけねえだろ。お前の未来を取ったさ」

「そう、なら良かったのう」

「いや、問題はそこからなんだ。邪龍を倒せる方法ってねえのか?」

「邪龍......過去の妾自身が自殺することじゃな」

「ああ......すぐにそれが出てくるんだな」

「1回、取りかけた選択じゃからな」

「つーことは......今のネイは確実にお前になる未来に進んでんだよな?」

「分からんが、そうじゃろうな。この肩から腰にかけてある妾の傷跡が過去の妾にあるのならば、確実にその道を歩んでおるな。なにせ、あの邪龍になった妾にこの傷はない」

 ツクヨミがその傷をなぞるようにしてそう言う。

「ただ、どこで何が狂うか分からん。まだ邪龍になる可能性もあるにはある。それに、結末だけはお主であっても教えれんからのう」

「結末か......んなもん、全員生き残ってハーピーエンドだろ?」

「そうなると......良いな」

「ん?なんだその言い方」

「いや、なんでもない。せいぜい頑張れよ」

「ああ、精一杯頑張るさ。それはそうと、最後になるかもしれねえ質問が1つあるんだが、良いか?」

「最後の回答になるかもしれのは妾も同じじゃな」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「うう......やっぱ寒い」

 公園に来て、ベンチに座ったセリカがそう言う。

「それだけ厚着してるのに何言ってんですか......」

「寒いものは寒いんのよ!というか、なんでネイりんはそんな薄着で平気なのよ!」

「分かりません。多分、生まれつきなので......」

「......ネイりんにくっついても冷たいだけだな......」

「ちょ、ちょっと何やってんですか!」

 突然、セリカが抱き締めてきた。

「こうしたら、少しは暖かいかなって思ったんだけど......」

「私、体温低いから意味ないですよ」

「だよねぇ......夏なら快適だったのかなぁ......」

「暑苦しいのでやめてください......」

 冬だと言うのに、セリカがくっついて来るだけで暑い。早く、離れて......

「おぉ......」

 ふと、誰かの視線を感じた。

 辺りを見渡すと、すぐ正面に小さな3人の子供達がいた。

「あっ......」

 まずい。よく分からないけど、なぜかまずいような気がした。

「どうしたの?君達」

 セリカが、まるで当たり前といった感じで子供達に近づく。

「......姉ちゃんかっけぇ......頭に角が生えてる......かっけえよ......」

 子供のうちの一人、ワンパクそうな子がそう言う。

「え......?」

 この反応は予想外だった。恐れを抱かれるのではなく、『カッコイイ』と憧れの目線を向けられるのが......

「お姉ちゃん、その角どうなってんの?触らせて」

 もう1人の男の子が勝手に私の角を触ってくる。

「あ、ちょ、痛い痛い......」

「本当に生えてる......」

「そんな奴らと遊んでないで、私と遊ぼ?お姉さん」

 女の子が私の手を引っ張ってどこかへと連れて行こうとする。

「あ、ずりぃぞ。俺達だって遊ぼうと思ってたんだからよー」

「あんたらだとお姉さんが困るでしょ?無茶ばっかするんだから。ね?お姉さん」

「え、いや......私はどっちでも良いかな?」

「ほら見ろ。俺らとだって遊んでくれるってよ」

「はあ?なんで、あんたらなんかと遊ぶってよ!」

 元気そうな子供達だ。邪龍が復活したというのに、この国は平和そのものだ。

(少しだけ、何もかも忘れてていいのかな)

 そう思って子供達の方について行った。

(そういや、セリカさん......)

 ふと、ベンチの方を見ると、無視されたままのセリカが呆然と立ち尽くしていた。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「......最後の質問だ。お前は邪龍なのか?」

「違う......とは言えんな。妾の中にはまだ邪龍の血が強く残っておる。多分じゃが、その気になれば邪龍になることもできる」

「そうか......やっぱり、あいつが邪龍じゃなくなる、なんてことは無理なんだな」

「そんなことを考えてくれて嬉しいがな。じゃが、お主の言うように妾は邪龍ではなくなるなんてことはない。もし、妾が邪龍じゃなくなれば、死んでしまうからな」

「......どういうことだ?」

「妾の心臓は邪龍の心臓。邪龍じゃなくなるためにはそれを潰さねばならない」

「しかし、人としての心臓は無いから、それを潰せば自分は死ぬ、ということか......」

「その通りじゃな。ただ、妾が邪龍かどうかなんてお主らしか知らんし、普通に生きとる上では何の問題もないとは思うがな」

「お前はそれで良かったのか?」

「......昔は不満を持っておったな。でも、今はお主らが共にいてくれる。それだけで十分になった。それが、未来の姿である妾」

「......未来は今と変わらず龍人差別の残ったままなんだよな?」

「相変わらずじゃ。何も学習せん人間共の住む世界じゃからな。じゃが、妾はお主ら、いや、お主がいてくれるから大丈夫じゃ。本当なら、さっさと未来のお主のところに帰りたいのじゃが......」

「仕事......があるんだっけ」

「仕事と言っても、ただ、その時代におって歴史を正しい方向に持っていくだけの仕事じゃがな」

「すまない。壮大すぎてよく分かんなかった」

「一応、これでも未来のお主と壮大な別れをして来たんじゃがな」

「その未来を俺は作れるかどうかってところなんだが......」

「大丈夫じゃよ。お主ならやれる。ーーさて、妾とお主の会話も今日限りになるのかのう」

「さっきの話しといて何だが、歴史の修正が終わったのか?」

「昔から勘のええ男じゃな。その通り、歴史の修正が終わった。妾はやっと未来のお主らのところへと帰ることが出来る。実を言うと、未来のお主らが助けを求めておるから早くに行かねばならんのじゃが......」

「まさかとは思うが、最後に俺と話をしておきたかったとか言うなよ。そのせいで未来の俺達が死んだら意味無くなるだろ」

「ふっ、それもそうじゃの。でも、お主にはちゃんと別れを言っておきたかった」

「......」

 突然、さっきまで明るい調子だったツクヨミの表情が暗くなる。

「お主には話しておくのじゃが、妾はこの仕事の都合上、1000年間お主らと会えんかった」

「1000年!?」

「そう、1000年間じゃ。1000年間ほとんど1人で歴史を見守る作業をしてきた。寂しかった。でも、そんな時、過去の姿ではあるが、お主が、いや、あなたが現れてくれた」

 ツクヨミの目から、少しずつ涙が流れ始めている。

「あなたが現れてくれなかったら、私はもしかしたらまた邪龍になってたかもしれない。私は自分の感情を上手くコントロールすることが出来ないの。感情のままに行動するんじゃない。寂しいと思った時にはもう何もかもが無くなってる。怒った時には周りに死体が散らばっている。感情が後になってからやって来る。だから、私は暴走する。自分が嫌になって、そして......」

「分かったよ。つまり、お前は俺にめちゃくちゃ感謝してる。そして、今のネイを優しく支えてあげろってんだろ?」

 俺は、ツクヨミの体を優しく抱き締めて、そっと頭を撫でる。

「1000年間なんて、俺にはよく分かんねえけど、よく耐えた。後は未来の俺達がどうにかしてあげれる。だから、こっちの時代のお前は任せておけ」

「うん。やっぱり、あなたは今も昔も優しい人。でも、その優しさが自分の弱さであることを覚えていてください」

「そんなの昔からよく言われたさ。敵は生かすよりも殺す方が楽。でも、生かせておける道があるなら、頑張ってそっちを取りたい。ネイだってそうじゃねえか」

「今の私は、そんなのじゃありませんよ。あなたが殺せと言えば誰が相手だろうが殺す。あなたが生かしておけと言うのなら、その通りにする。未来の私はあなたの操り人形なのですよ?」

「なんでそんな話したのか分からねえが、お前は自分の意思を持っている。そして、俺の言うことを聞くのは、多分、俺しか信用できる奴がいなくなっちまったからだろ。ゴメンな」

「謝らなくたっていいです。私はあなたの傍にいれれば十分ですから」

 そう言って、ツクヨミは俺の傍から離れる。

「もう行っちまうんだな」

「うん。未来のあなたが助けを求めているから。未来のあなたが私にとっての本当のヒーローだから」

「お前がいなくなったら、この書庫はどうなっちまうんだ?」

「多分、無くなりはしませんよ。主がいなくなっても、この書庫は変わらず今の歴史を刻み続ける。そのメモリを持っていれば、あなたなら自由に入れると思います」

「......このメモリは俺が持ってていいのか?」

「この書庫に戻しててもいいのですけど、あなたが持っていれば、近い将来役に立つかもしれませんから」

「分かった。じゃあ、未来の俺によろしく言っといてくれ」

「うん。じゃあ......」

 どうやって未来に帰ったのかは知らないが、ツクヨミが瞬きの間にその場からいなくなった。

「ーー俺は俺で、この時間のお前を守ってやるさ。お前の助けは十分に借りれたしな。後は俺達がどうにかする問題だ」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「じゃあねー!」
「また遊ぼーぜー!」
「バイバイ、お姉さん」

 3人の子供達がそれぞれ手を振りながら公園を去って行く。

「随分と、元気な子達でしたねぇ......」

 私は隣に立つセリカに向かってそう言う。

「ねえ、私がどれだけ話しても無視されてたのって何だったの......」

「あ......」

 セリカはしつこい程に子供達に付きまとろうとしたのだが、見事なまでに無視され続けた。本当に見事だと言っていい。

「でも、まだあんな子達がいたんだね......」

 セリカの言うように、あの子達は私が龍人であることなど気にしなかった。むしろ、憧れの目で見てくれていた。

 ほんの一時の間であっても、今までにあったことを全部忘れることができた。

「セリカさん......。あの邪龍は聖龍の墓場に向かっています」

「うん、分かってるよ。だから、止めないと......」

「その道程にはこの国のこの場所も含まれている」

「............」

「私は、私を恐れた目で見なかったあの子達を守りたい」

「うん。とっても良いと思うよ」

「でも、やっぱり死にたくない。私は、まだ死ぬには早すぎることに気づきました。例え、みんなが私のことを恐れや怒りといった眼差しで見てきても、あの子達のように、私を私として見てくれる人がいるのなら......」

 そこで、私はセリカの顔を見て一息ついた。

「私は、まだこの世界を生きたい」

 強く、ハッキリとした声でそう言った。

「......それでいいと思うよ。みんなで邪龍を封印でもいいから倒して、そして、笑って明日を迎えよう」

 セリカもまた、私の信頼できる人だった。
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