グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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第4章 【時の歯車】

第4章11 【最初の1ページ】

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「炎龍の鉄砕!」
「カラードライブ・紅蓮」

 ネイがヴァルに強化魔法をかけ、ヴァルが教徒達を一掃する。

 ネイも、時折よく分からないが、『時間』を止めて攻撃している。

 ヴァルがネイを連れてきてから、状況はかなり良くなっている。今まで、辛うじて前線を抑えていたのに、この2人だけで敵を全滅しかねない勢いだ。

 それを見てか、負傷した人を治療する余裕が出てきた。なんとか、犠牲は出さずに済みそうだ。

「あのガキ共にだけ任せておけねぇ!雷剣・鳳雷の陣!」

 戦っているのは、何もあの二人だけになったわけではない。

 いくら、ネイが人知を超えた業を使おうとも、足りないところが出てくる。

 それを、まだまだ戦える人達で補う。といっても、倒せないことに変わりはない。
 教徒達を倒すためには、やはりネイの力が必要不可欠だった。ヴァルが、状況が悪くなることを分かっていながらもネイを連れて来たのは正解だったと思う。

 私達だけじゃ、絶対に突破できなかった。

「すげぇな、ネイ。お前が魔法をかけてくれると、こいつらが簡単に溶けていくぜ」

「そ、そうですか?私はただ、支援魔法をかけているだけなのですが......」

「その支援魔法のレベルが尋常じゃねえよ。今なら誰にも負ける気がしねえ」

「フラグになるんでやめてください」

 見てて思うのだが、ヴァルもネイも、この戦いを楽しんでいるように見える。

 どこに楽しさがあるのかは分からない。でも、なんとなく、"2人でいること"が楽しさの要因なのではないかと思う。

 2人はどんどん敵陣に突っ込んで行く。いや、ヴァルが調子に乗って行くのをネイが追いかけてるように見えるのだが......

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 嬉しい。

 2人でいれることが嬉しい。

 私が、望まれていたことが嬉しい。

 ヴァルが傍にいてくれることが嬉しい。

 こんな思いをするのは、何年ぶりだろうか。

 ずっと忘れていた。記憶をなくしていた頃も、色々とあってこんな思いをすることはなかった。

「何笑ってんだ?ネイ」

 ヴァルがそう言う。

 いけない。ここは戦場。笑ってはいけない場所。なのに、嬉しさで笑顔が滲み出る。

「なんでもない。ヴァルこそ余所見しない方がいいですよ」

「大丈夫大丈夫。別に鉄柱とかに当たったりしねーー」

《ガンッ!!!》

 言わんこっちゃない。前を見て走らないと、こうなることは最早分かりきっていたことであろうに。

「痛ってぇ......」

 ヴァルが額のあたりを抑える。

「バカなんですか?」

 そう言いながらも、治療魔法をかける。

「悪ぃ。マジで言い訳ができねえ......」

「それはいいのですが、ここ敵陣のド真ん中ですよ?」

「分かってる。どうせ、奴らの鈍い攻撃じゃぁ、お前の剣で1発だろ」

「そうなのですが......」

「?何か問題でもあったか?」

「いえ。こいつらの数を数えたところ、2000程度でした」

「案外少ないな」

 ヴァルが近くに迫っていた教徒に火炎玉を投げつける。

「ええ。ですが、私とヴァルで倒した数は、5000を超えてるんですよ」

「バカな俺でも分かるぞ。数が増えてねえか?」

 今度は、私が近くに迫ってきた教徒を斬り殺す。

「奴らは不死だけが力じゃない。まだ、何かがあるということか?」

「はい。で、その原因も分かりました」

「仕事が早えな」

「嫌な知らせになるんですけど、聞きます?」

「なんで嫌な知らせになるんだよ......」

「仕方ないですよ。こいつらは、死なない、死なない、復活するの3点張りですから」

「復活する?」

「倒した教徒達の体は、跡形もなく消え去ります」

「ああ。なんか知らねえけど、そうなってたな」

「それで、その粒子みたいなのが、セリカさん達に憑依してるのです」

「つまり、憑依した後に、力を吸い取って復活するということか。俺達が殺せば殺すほど、みんなの力が無くなってくる。おい」

「はい。多分、向こうにいる皆さんには、立ち上がる力がギリギリ残っているくらいでしょう」

「何悠長に構えてんだ!こいつら殺しても意味ねえし、余計にこっちに被害が広がるだけじゃねえか!」

「はい。ですので」

 私は、ヴァルの手を握る。やっぱり、この人の手は暖かい。

「おい、何するつもりだ?」

「この教徒達は、恐らく生み出された存在。親玉がいるはずです。そいつのところまで飛ばしますよ!」

「う、うわぁぁぁぁぁ、おえぇぇ」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「グッ......」

 瘴気団のところに来てから数十分。教徒達の数は一向に減らない。

 50回殺せば死ぬ。その通りに、地道だが、殺しまくった。

 でも、全然減らない。

 こちらの魔力は、いつもより早いペースで減っている。特に、教徒達を倒した時に......

「西門に、教徒共を次々に倒していく化け物が現れました!」

 騎士団の1人がやって来て、そう言う。

「化け物?」

「あ、いえ。体がそうというわけではなく、力がそれくらいという意味です」

「化け物級の強さを持つやつが現れた......まさか、ヴァルが......。おい、その化け物はどんなやつだった?」

「見た者の話によると、龍人のような背格好をしており、赤髪の少年と共にいたとのことです」

 そうか。ヴァルが、連れ出すことに成功したのか。

 なら、勝利は目前。そう思いたかったのだが......

「多分、あの察しの良い子なら気づくだろうな」

 自分達が殺せば殺すほど、みんなの力が無くなってくるということに......

 どういう原理なのかは分からない。しかし、こいつらは死んだ後、私達から力を吸い取って復活していると思う。

 ただ、そのことでハッキリと分かったことがある。

 こいつらは、生者ではない。ましてや死者でもない。

 誰かが作り出した"人形"だ。

 動きがハッキリしていないのは考える力がないから。
 目の焦点が合っていないのは、殺すこと以外に力を込めないから。

 奴らは、"教徒"という名の、ただの兵だ。いや、"屍"と言った方が良いか?

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

 口に耳を当てても分からないような小さな声で、教徒達が『殺す』と連呼している。

 本当に、殺すことだけが生きている意味らしい。いや、生きていないのか......

「自警団の到着はまだか!クロム達は何をしているのだ!」

 震える手で、剣を杖にして立ち上がる。

「クロム様達は、どうやらこちらに来る途中で教徒の襲撃があったらしいです。幸い、まだ死人は出ていないそうですが、足止めを喰らっているとのことです」

 ネイが戻ってきても、これだけの戦力差があれば、ネイ1人で手が回るはずがない。

 魔獣、教徒、死なない、死なない、復活。状況は、あまり良くなってはいない。むしろ、奴らの力に気づけば気づくほど、悪くなっているように感じる。

(足りない。力が足りない。兵力も足りない。足りないことが多すぎる......)

 体に、力が入りづらくなってきている。魔力だけではない、生命力も吸われていっているというのか......

 目の前に、魔獣と教徒がいる。

「お前らに、殺されてたまるかー!」

 精一杯の力を振り絞って、1回だけ斬る。

 魔獣は消滅し、教徒は何事も無かったかのように復活する。

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

 教徒がナイフを振り上げる。

 こんなところで終われない。まだ、やりたいことはたくさんある。死ねない。死にたくない。なのに......

「動......け......」

 体が、思うように動かなくなってきている。周りの騎士団も、段々と動きが鈍くなっている。

「誰......か......」

 瞼も上がらなくなる。目の端に、他の教徒が迫ってきているのが見えた。

「聖龍・ルイン!」

 眩い光が、教徒達を消滅させる。
 ダメだ。そんなことをしても、教徒達は私達からありとあらゆる力を吸い取って復活するだけ。

「聖龍・邪心のオーラ!」

 何をしたのかは分からない。でも、力が、少しだけ回復したような気がした。

「クロム自警団40分遅れで参上!これより、教徒達の殲滅を開始する!」

 遅れすぎだ、バカ王子。いや、聖王か......

「すまないな。この方法に気づくのに、20分もかかってしまった......」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「10分で来る約束じゃ......なかったのか......」

 フウロが、震える足で立ちながらそう言う。

「すまない。こちらの状況は聞いていたと思うが、屍が厄介すぎた」

 こちらに来る途中で、奴らに襲われたのは誤算だった。

 ルートを考えれば、教徒達はやって来ないはずのルート。しかし、敵に1つ上を行かれた。

「ネイが生きてたらしいな」

「生きてたのは......信じてたさ......。ただ、連れ出せれるとは......思わなかった......」

 崩れそうになるフウロの体を、リーシアが支える。

「朗報と悲報がある。どっちから聞きたいか選べ」

「じゃあ、朗報から聞こう......」

「朗報は、この魔獣と瘴気団、それと教徒共を作り出してる輩の正体が掴めた」

「そうか。なら、そいつらを倒せば、魔獣は消えるな......」

「それで、悲報なんだが......」

 本当に、これは言うべきなのだろうか?言わない方がいいような気がするが、まあ、いずれ知ることだし言っておくか。

「悲報は、教徒の親玉の存在だ」

「親玉......。そうだよな。この教徒を作り出してる奴がいるはずだよな......」

「その親玉。かつて、この世界にいた七代魔女のうちの一人。レイジ・スカイローズだ」

「......今、なんと言った?」

「レイジ・スカイローズ。それが、親玉の名前だ。グリモワを、影から動かしていた存在。そして、お前の祖先にあたる人物だな」

「なんで......そんな奴が......」

 フウロが、再び剣を杖代わりにして立ち上がる。

「奴らの出自なんて、どれだけ調べても分かりやしなかった。ただ、親玉の名前だけは調べがついた」

「まさか、私達の出自を調べていたら行き当たった、なんてことはないだろうな」

「期待通りの答えだ。その通り、ダメ元でお前らの出自から祖先まで、何もかもを調べていたら、偶然お前のところで引っかかった」

「七代魔女のうちの一人。それが、まさか私の祖先だったとは......」

「魔女の子孫は数が少ない。その中で、『憤怒』に当たれたのは、奇跡だな。お前の魔力が人より高いのは、そういうところから来ている」

「なぜか、私の努力が全て無駄にされたような気がするのだが......」

「努力次第では、お前が新たな魔女になれるぞ」

「冗談はよせ。私は魔女なんてものになる気はない」

「女魔導師な時点で魔女だと思うのだがな」

「魔法を知らない奴はみんなそう言う。ーーもっとゆっくり話していたいところだが、どうやら自由時間は終了らしい」

 復活するのを阻止することはできたが、やはり、元の数がそこそこ多い。それに、奴らは本能で動いているからなのか、自分達の命を脅かす存在から消したいようだな。

「厄介な奴らだ」

「ネイが来た意味はあるのか......」

「少なくとも、あいつらも気づいているだろ。それで、親玉のところに向かってくれてると俺は信じてる」

「......今は、あいつらを信じるか」

 まるで、フウロのその言葉が合図だったかのように、教徒達が一斉に襲いかかってくる。しかも、俺だけを目掛けて。

「まあ、クロム様。人気者ですわね。これも、聖王の特権なのでしょうか」

「冗談はよせリーシア。あれは、どう見てもヤバい奴を見た時の目だ」

「クロム様は私がお守りします」

 フウロとアランが隣に立ち、迎撃の姿勢に入る。リーシアは、後ろから支援魔法をかけてくる。

「そういや、祝杯上げるの忘れてたな」

「後でギルドでやるか?どうせ、ネイも来るだろうし......」

「「 全員、生きて帰る予定だし 」」
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