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第4章 【時の歯車】
第4章17 【反省の時】
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この世を生きていく上で、絶対に「いや、それはアカン」と思うことがある。
「ちょ、セリカそれはダメだってー!」
ミラが涙声になっていた理由がよく分かった。
「セリカ、それなんだ?」
「え?ただの調味料だけど」
セリカが「それがどうかしたんですか?」と言っているような感じでそう言う。
ちなみに、セリカが言っている調味料はなんか、緑色をしていて、パッと見ですごく暗い。なんか、魔女が調合で使いそうな薬品みたいだ。
「セリカ、そんな怪しいのを入れるのはやめとけ。原因不明の集団食中毒になっても困るから」
俺は、セリカが持っていた調味料?を取り上げる。
「えぇ......、それ入れたら絶対に美味しくなるって」
どう見ても薬品なやつを入れて美味しくなるもんか。ネイも尋常じゃないくらい震えてるし......いや、そんなにヤバいものなのか。
「もうセリカは食器とか配膳してて。後は......ネイにやってもらうから」
「え!私?」
突然話を振られたネイが驚いて声を上げる。
「えぇ。もうセリカにはなんだか任せられないから」
すごく正直に言うな。まあ、ミラなら問題ないか。
「ねぇミラ。それどういうこと?私に任せられないって何よ?」
セリカが聞き捨てならないといった感じに問い詰める。
「セリカさんレシピ通りにやっても上手くできないので別のことをやってもらおうってことですよ。適材適所」
「私だって料理できるもん!」
「「「 ...... 」」」
全員、どう返すべきか悩み、口を閉じた。
「な、なんで黙るのよ!」
別に、意図して全員一斉に黙ったわけではない。ただ、全員どうすべきか悩んで答えがすぐに出なかったために黙ってしまった。
「分かったわよ。私がこの場から離れればいいんでしょ」
まあ、そうっちゃそうなのだが。いや、自分の料理下手くらい認めてくれ。そして、全員のためにただ愛想振る舞うだけにしてくれ。
セリカが頬を膨らませて部屋から出ていった。
「ネイが倒れるよりかは......マシだよね?」
アルテミスがそう呟く。
「倒れるほど不味い料理って何なんだ?」
俺はセリカから奪い取った調味料ーーと呼んでいいのかが怪しいものーーを見つめてそう言う。
「多分、その調味料もそうですが、彼女は料理自体できない体質なんじゃ......」
料理ができない体質ってなんだ。上手い下手とかじゃなく、元からできない体なのか。
「世の中には私のように天才と呼ばれる人がいるでしょう?」
そこで自分を例に挙げるのはどうかと思ったが黙って話を聞いた。
「人は生まれながらに何かしらの向き不向きが決まってると思うのですよね。それで、セリカの場合、精霊魔導士になれる才能はあったけど、代わりに料理がものすごく残念なことになってるのでは、と」
それはなんともまあ、可哀想な話だ。女の子なら料理の一つや二つくらいできていてほしい。そして、セリカもそう思っていたのだろう。でも、生まれた時からその才能はないって......
「まあ、考えても仕方ないのでさっさと作っちゃいましょう」
「ああそうだな」
正直、才能とかそこら辺の話は考えても分かるわけない。
「そういや、俺達が買ってきた食材ってどこにあるんだ?」
目の前にあるのは、セリカが失敗したであろう物たち。他のはどこへ?
そう思ってミラの方を見た。
「......ごめんねぇ。今回こそはできるかもってセリカにやらせてみたんだけど......」
ああ、なんとなくオチが読めた。
どうせ、試してみたのはいいが、失敗に失敗を重ね、食材を全て無駄にしてしまった......
「待て、ミラ。まさかとは思うが、食材全部なくなっとか言うなよ」
「その通りなのよねぇ......止めても止めてもセリカったら止まらなくって......」
そりゃ、強引なセリカとどちらかと言えば引き気味のミラが攻めと守りの立場を入れ替えてしまえばそうなるだろう。
「ごめんけど、もう1回買いに出てくれる?」
流石に、断る気にはなれなかったが、代わりにため息が出た。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「......」
「......」
「......」
「......」
何も会話することもなく、歩き続ける。
「......」
「......」
「......」
「......あの、本当に喋っちゃいけないんですか?」
沈黙をネイの方から破ってきた。
(バカお前。喋ったらバレるかもしれねえだろ!その変装でもチラチラ見てくるやつがいるんだしさ)
できるだけ小さな声でそう言う。
(もう、この角が怪しすぎるんですよ。それの、羽を畳んでても若干飛び出た感じになりますし、無理があるんですよ。あと、尻尾は若干見えてるから変装自体意味がないんですよ)
ネイの方も声を小さくしてそう言う。
(お前が薄着してるのも原因の一つなんだよ。もうちょっと厚着をしてできるだけ隠せ!そして尻尾はできるだけ見えねえよう上に上げろ!)
(無茶言いますね。これでも精一杯頑張ってるんですよ)
龍人の体がどうなってるのかは知らないが、確かに頑張ってる感はある。ネイの今の状態を例えると、体幹をしながら歩いている状態だろうか。力を抜いてはいけない。でも、入れすぎてもいけない。
角は即席のフードで隠しているが、これで怪しむ奴がどれだけいることか......
龍人が差別される現代社会において、こういうフードの飾りーーネイの場合は本物が収まってるがーーでさえ許さない人がいる。めんどくさい社会だ。
(人間って愚かですね)
(だから、それ言うのはやめろ)
ことあるごとにネイは「人間って愚かですね」と言う。ネイの毒舌直しをするためには、その口癖もやめさせなければならないのに、こればっかりは意識せずに口に出してしまうらしい。もう癖になっているのだろう。どんだけ言ってきたんだ......
このまま何事もなく帰れたら良いのだが......
不思議なことに、この世はそんな簡単にはいかない。帰る途中で迷子の子を見つけ、親を探していたり、ひったくりの現場に遭遇したり......年末なんだからみんな家に閉じこもってろよ!
そういや、八百屋のおっちゃんが「最近、常連だったネイちゃんがやって来ないんだよねぇ。何かあったのかな?」と言っていた。
それを聞いた時、ネイが若干ピクっと耳を動かしていたが、黙っていた。まあ、顔見せたら龍人だってバレるしな。
(お前、そんな薄着で寒くねえのか)
(黙ってろって言う割には自分から話しかけてくるんですね)
(いや、なんとなく気になったからさ)
(1回、話したと思うんですけど、私の体って寒さを受けつけないんですよね)
(だからってそんな薄着じゃ寒いだろ)
(いえ、全然寒くないです。というか、これからどんどん春が近づいてきますよね?)
(ああそうだな)
(そうなったら暑さで倒れるかもしれないんで、その時はしっかりとキャッチしてください)
(春に暑さで倒れるってどういうことだよ......。暖かくて過ごしやすいはずだろ)
(それが不思議なことに私にとっては猛暑なんですよ)
(......お前、俺達と出会うまで、どうやって過ごしてきたの?普通に考えて8月9月は1人でいるはずなんだけど......)
(ああ、あれは地獄でしたね。あの時はできるだけ北国経由で移動してたんですよ。ね、ジーク)
((ああそうだな。お嬢が倒れるって分かった日からすぐに北国に移動したな。でも、移動途中で倒れやがって......危うく捕まるところだったじゃねえか))
ジークも苦労してたのか......。今は俺がお守りやってるけど、その前はジークだったはずだもんな。ネイといる苦労がよく分かるようになったぜ。
(龍人差別社会ってのは本当に生きづらい世の中です。せめて、龍人じゃなく、獣人くらいだったらここまでじゃなかったのに......)
獣人か......。確か、北国に密集している種族。会ったことはないな。
(獣人の方達はとっても良い方達でしたよ。差別の意識なんてないし、私が龍人だと分かっても、歓迎してくれたし......いつか、感謝しに行きたいのですよね)
((あいつらには俺もお嬢も世話になったからな。集落を襲ってきたアホな賊どもを討伐してやっただけですげぇ感謝してきた。あれぞ、人間のあるべき姿なんじゃねえかってあの時は思った))
((興味深い話だねぇ......。僕も、その獣人とやらは見たことがない。1回、その生態を深くまで観察してみたいよ))
ラナが言うとなんか危なそうに聞こえるのは気のせいだろうか?
(獣人......懐カシイ者達ダ。我モ龍王デアッタ時ニ彼ラハカナリノ性善者デアッタコトハ覚エテイル)
なんか、そこまで言われると俺達普通の人間が酷く虚しいように聞こえてくる。本当に、ネイの言う通り"愚か"だと思う。
(ここまで思い出話をさせたのですから、ヴァルも何か話してくださいよ。私、ヒカリさんの話が気になります)
(あいつのことか......)
話そうと思えば、いくらでも話すことができる。どれだけ、俺達がバカでアホだったのか。思えば、あの子もネイと同じような悲しみを抱いていたはずなのに、無視してしまっていた。気づくことがなかった。
(あいつはな、一言で言うと、お前と似たような奴だった)
(私と?)
(ああ。お前と同じように、悲しみ、苦しみを背負っているのに、誰にも話さねえ。俺達の真の仲間になったあとも、なんやかんやあって聞くことができなかった)
(なんで、悲しみを背負っているって分かったんですか?)
(雰囲気だよ。お前と同じように暗そうな顔してたんだよ。書庫にいた時に、鏡で自分の顔見なかったか?)
(いえ、そんなこと考えることもなかったので)
(すげぇ暗い顔してたぞ。今にも泣き出しそうなくらい)
(そ、そんなにですか!?)
(本当だよ。それで、ヒカリも同じような顔してたんだ。でも、俺は聞くことはなかったんだ)
(私にはずがずがと聞いてきたのにですか?)
(だって、ヒカリの時はそんな深く聞いちゃいけねえと思ってたからさ。そういうのって、話したがらねえ奴の方が多いだろ?お前の場合はその反省を踏まえて聞きに行ったんだ)
(結局、私に何回も追い出される羽目になりましたよね)
(何もやらねえで後悔するより、やるだけやって後悔した方が良いさ。ヒカリの時は何もしなかったから後悔したんだしよ)
(まあ、今はその行動に感謝してますけどね。ヴァルが毎日のように来てなかったら、私はあなたのことをまだ信用してなかったかもしれませんし)
(......本当に、あいつも、俺達もバカだったよ。ヒカリはそんなことしても俺達が勝てれるわけじゃねえのに身投げして、俺達はそこまで追い詰められていることに気づかなかった)
(本当にバカですね。私が自殺を選んだのは世界を救うためですけど、ヒカリさんの場合は死んだところで、逆に戦意が下がってしまうかもしれないのに)
(本当だよ。全く......。なんで自殺なんてしようと思うんだ。自殺しても、なんの得にもならねえのに)
(自殺しようと思う人の気持ちは、私には痛いほど分かりますよ)
まあ、自殺しようとした奴だしな。分からねえって言ってきたらぶん殴るところだった。危ない危ない。いや、ネイだから殴りはしないか......うん、しないよな。
(まあでも、ヒカリさんがそこまで追い詰められてることに気づけなかったヴァル達もどうかと思いますけど)
(うるせえな。むしろ、ヒカリがあんなことになってしまったからお前を救い出せたんだ)
(間違いをしたのは否定できませんよ)
確かにその通りなのだが......ヒカリのような失敗をしないためにも今回は頑張った。本当に褒めて欲しいくらいだ。でも、その前に間違いをして、どうすれば良かったのか知っているから、「できて当たり前」と思われるかもしれない。
(個人的な推測なんですけど、ヒカリさん......多分、生きてますよ)
「は?マジで言ってんのか?」
(声が大きいですよ)
しまった。ついデカい声を出してしまった。いや、そんなことよりも......
「ヒカリが生きてるかもしれないってどういうことだ」
(だから声が大きいですって。こんな静かなそこそこ人通りのある場所だと目立ってしまうでしょ)
(悪ぃ。それで、ヒカリが生きてるって?)
(あくまで、推測ですよ。しかも、外れてる可能性の方が高いです)
(なんでもいい。聞かせてくれ)
(......ヒカリさんの遺体はまだ見つかっていない。どこを探しても見つからない。それは、アルテミスさんの調査で分かっていることですよね)
(ああそうだ)
(そして、ここから先は絶対に誰も知りえないことなのですが......。あの書庫、死んだ人の記憶も収集されるのです)
そんなものがあったのか......。世界の記憶ばっかしか見てないから気づかなかった。
(私は死者の書って呼んでます。それで、その死者の書には毎日そこそこの数が更新されるのですが、ヒカリなんて本は無いわけです)
(たまたま見つけられないとかじゃなくてか?)
(死んだ歳とかで分けることができますし、14で死ぬ人なんて少ない方ですからね。更新されたらすぐに見に行きますよ。ヴァル達がずっと探してる情報みたいですし)
なるほど。1週間の引き籠もり生活の間に、なぜか調べててくれたのか。
(死者の書にないってことは生きてるってことなんだよな?)
(あくまで可能性です。あの書庫は、若い人ほど早めに生まれ変わらせることがあるので、ヒカリさんも、生まれ変わった可能性の方がずっとずっと高いのです)
(......結局、分からずじまいか)
新たな情報が手に入ると思って期待した分、何もないと分かったショックは大きくなる。
(まあ、仮に生きてたとしても、もう出会わない方が良いと思いますよ。彼女の性格を考えると、出会わない方が彼女にとっては都合がいいと思いますし......)
(それもそうか......)
なんか、上がったり下がったりが激しいな。それだけ、ヒカリのことを大切に思っていたのか......救えなかったことが一生の後悔になっている。
(あ、ギルドが見えてきましたよ)
ネイの言う通り、冬の陽射しに照らされたギルドが見えてくる。
「セリカが暴走してないといいな」
「ちょ、セリカそれはダメだってー!」
ミラが涙声になっていた理由がよく分かった。
「セリカ、それなんだ?」
「え?ただの調味料だけど」
セリカが「それがどうかしたんですか?」と言っているような感じでそう言う。
ちなみに、セリカが言っている調味料はなんか、緑色をしていて、パッと見ですごく暗い。なんか、魔女が調合で使いそうな薬品みたいだ。
「セリカ、そんな怪しいのを入れるのはやめとけ。原因不明の集団食中毒になっても困るから」
俺は、セリカが持っていた調味料?を取り上げる。
「えぇ......、それ入れたら絶対に美味しくなるって」
どう見ても薬品なやつを入れて美味しくなるもんか。ネイも尋常じゃないくらい震えてるし......いや、そんなにヤバいものなのか。
「もうセリカは食器とか配膳してて。後は......ネイにやってもらうから」
「え!私?」
突然話を振られたネイが驚いて声を上げる。
「えぇ。もうセリカにはなんだか任せられないから」
すごく正直に言うな。まあ、ミラなら問題ないか。
「ねぇミラ。それどういうこと?私に任せられないって何よ?」
セリカが聞き捨てならないといった感じに問い詰める。
「セリカさんレシピ通りにやっても上手くできないので別のことをやってもらおうってことですよ。適材適所」
「私だって料理できるもん!」
「「「 ...... 」」」
全員、どう返すべきか悩み、口を閉じた。
「な、なんで黙るのよ!」
別に、意図して全員一斉に黙ったわけではない。ただ、全員どうすべきか悩んで答えがすぐに出なかったために黙ってしまった。
「分かったわよ。私がこの場から離れればいいんでしょ」
まあ、そうっちゃそうなのだが。いや、自分の料理下手くらい認めてくれ。そして、全員のためにただ愛想振る舞うだけにしてくれ。
セリカが頬を膨らませて部屋から出ていった。
「ネイが倒れるよりかは......マシだよね?」
アルテミスがそう呟く。
「倒れるほど不味い料理って何なんだ?」
俺はセリカから奪い取った調味料ーーと呼んでいいのかが怪しいものーーを見つめてそう言う。
「多分、その調味料もそうですが、彼女は料理自体できない体質なんじゃ......」
料理ができない体質ってなんだ。上手い下手とかじゃなく、元からできない体なのか。
「世の中には私のように天才と呼ばれる人がいるでしょう?」
そこで自分を例に挙げるのはどうかと思ったが黙って話を聞いた。
「人は生まれながらに何かしらの向き不向きが決まってると思うのですよね。それで、セリカの場合、精霊魔導士になれる才能はあったけど、代わりに料理がものすごく残念なことになってるのでは、と」
それはなんともまあ、可哀想な話だ。女の子なら料理の一つや二つくらいできていてほしい。そして、セリカもそう思っていたのだろう。でも、生まれた時からその才能はないって......
「まあ、考えても仕方ないのでさっさと作っちゃいましょう」
「ああそうだな」
正直、才能とかそこら辺の話は考えても分かるわけない。
「そういや、俺達が買ってきた食材ってどこにあるんだ?」
目の前にあるのは、セリカが失敗したであろう物たち。他のはどこへ?
そう思ってミラの方を見た。
「......ごめんねぇ。今回こそはできるかもってセリカにやらせてみたんだけど......」
ああ、なんとなくオチが読めた。
どうせ、試してみたのはいいが、失敗に失敗を重ね、食材を全て無駄にしてしまった......
「待て、ミラ。まさかとは思うが、食材全部なくなっとか言うなよ」
「その通りなのよねぇ......止めても止めてもセリカったら止まらなくって......」
そりゃ、強引なセリカとどちらかと言えば引き気味のミラが攻めと守りの立場を入れ替えてしまえばそうなるだろう。
「ごめんけど、もう1回買いに出てくれる?」
流石に、断る気にはなれなかったが、代わりにため息が出た。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「......」
「......」
「......」
「......」
何も会話することもなく、歩き続ける。
「......」
「......」
「......」
「......あの、本当に喋っちゃいけないんですか?」
沈黙をネイの方から破ってきた。
(バカお前。喋ったらバレるかもしれねえだろ!その変装でもチラチラ見てくるやつがいるんだしさ)
できるだけ小さな声でそう言う。
(もう、この角が怪しすぎるんですよ。それの、羽を畳んでても若干飛び出た感じになりますし、無理があるんですよ。あと、尻尾は若干見えてるから変装自体意味がないんですよ)
ネイの方も声を小さくしてそう言う。
(お前が薄着してるのも原因の一つなんだよ。もうちょっと厚着をしてできるだけ隠せ!そして尻尾はできるだけ見えねえよう上に上げろ!)
(無茶言いますね。これでも精一杯頑張ってるんですよ)
龍人の体がどうなってるのかは知らないが、確かに頑張ってる感はある。ネイの今の状態を例えると、体幹をしながら歩いている状態だろうか。力を抜いてはいけない。でも、入れすぎてもいけない。
角は即席のフードで隠しているが、これで怪しむ奴がどれだけいることか......
龍人が差別される現代社会において、こういうフードの飾りーーネイの場合は本物が収まってるがーーでさえ許さない人がいる。めんどくさい社会だ。
(人間って愚かですね)
(だから、それ言うのはやめろ)
ことあるごとにネイは「人間って愚かですね」と言う。ネイの毒舌直しをするためには、その口癖もやめさせなければならないのに、こればっかりは意識せずに口に出してしまうらしい。もう癖になっているのだろう。どんだけ言ってきたんだ......
このまま何事もなく帰れたら良いのだが......
不思議なことに、この世はそんな簡単にはいかない。帰る途中で迷子の子を見つけ、親を探していたり、ひったくりの現場に遭遇したり......年末なんだからみんな家に閉じこもってろよ!
そういや、八百屋のおっちゃんが「最近、常連だったネイちゃんがやって来ないんだよねぇ。何かあったのかな?」と言っていた。
それを聞いた時、ネイが若干ピクっと耳を動かしていたが、黙っていた。まあ、顔見せたら龍人だってバレるしな。
(お前、そんな薄着で寒くねえのか)
(黙ってろって言う割には自分から話しかけてくるんですね)
(いや、なんとなく気になったからさ)
(1回、話したと思うんですけど、私の体って寒さを受けつけないんですよね)
(だからってそんな薄着じゃ寒いだろ)
(いえ、全然寒くないです。というか、これからどんどん春が近づいてきますよね?)
(ああそうだな)
(そうなったら暑さで倒れるかもしれないんで、その時はしっかりとキャッチしてください)
(春に暑さで倒れるってどういうことだよ......。暖かくて過ごしやすいはずだろ)
(それが不思議なことに私にとっては猛暑なんですよ)
(......お前、俺達と出会うまで、どうやって過ごしてきたの?普通に考えて8月9月は1人でいるはずなんだけど......)
(ああ、あれは地獄でしたね。あの時はできるだけ北国経由で移動してたんですよ。ね、ジーク)
((ああそうだな。お嬢が倒れるって分かった日からすぐに北国に移動したな。でも、移動途中で倒れやがって......危うく捕まるところだったじゃねえか))
ジークも苦労してたのか......。今は俺がお守りやってるけど、その前はジークだったはずだもんな。ネイといる苦労がよく分かるようになったぜ。
(龍人差別社会ってのは本当に生きづらい世の中です。せめて、龍人じゃなく、獣人くらいだったらここまでじゃなかったのに......)
獣人か......。確か、北国に密集している種族。会ったことはないな。
(獣人の方達はとっても良い方達でしたよ。差別の意識なんてないし、私が龍人だと分かっても、歓迎してくれたし......いつか、感謝しに行きたいのですよね)
((あいつらには俺もお嬢も世話になったからな。集落を襲ってきたアホな賊どもを討伐してやっただけですげぇ感謝してきた。あれぞ、人間のあるべき姿なんじゃねえかってあの時は思った))
((興味深い話だねぇ......。僕も、その獣人とやらは見たことがない。1回、その生態を深くまで観察してみたいよ))
ラナが言うとなんか危なそうに聞こえるのは気のせいだろうか?
(獣人......懐カシイ者達ダ。我モ龍王デアッタ時ニ彼ラハカナリノ性善者デアッタコトハ覚エテイル)
なんか、そこまで言われると俺達普通の人間が酷く虚しいように聞こえてくる。本当に、ネイの言う通り"愚か"だと思う。
(ここまで思い出話をさせたのですから、ヴァルも何か話してくださいよ。私、ヒカリさんの話が気になります)
(あいつのことか......)
話そうと思えば、いくらでも話すことができる。どれだけ、俺達がバカでアホだったのか。思えば、あの子もネイと同じような悲しみを抱いていたはずなのに、無視してしまっていた。気づくことがなかった。
(あいつはな、一言で言うと、お前と似たような奴だった)
(私と?)
(ああ。お前と同じように、悲しみ、苦しみを背負っているのに、誰にも話さねえ。俺達の真の仲間になったあとも、なんやかんやあって聞くことができなかった)
(なんで、悲しみを背負っているって分かったんですか?)
(雰囲気だよ。お前と同じように暗そうな顔してたんだよ。書庫にいた時に、鏡で自分の顔見なかったか?)
(いえ、そんなこと考えることもなかったので)
(すげぇ暗い顔してたぞ。今にも泣き出しそうなくらい)
(そ、そんなにですか!?)
(本当だよ。それで、ヒカリも同じような顔してたんだ。でも、俺は聞くことはなかったんだ)
(私にはずがずがと聞いてきたのにですか?)
(だって、ヒカリの時はそんな深く聞いちゃいけねえと思ってたからさ。そういうのって、話したがらねえ奴の方が多いだろ?お前の場合はその反省を踏まえて聞きに行ったんだ)
(結局、私に何回も追い出される羽目になりましたよね)
(何もやらねえで後悔するより、やるだけやって後悔した方が良いさ。ヒカリの時は何もしなかったから後悔したんだしよ)
(まあ、今はその行動に感謝してますけどね。ヴァルが毎日のように来てなかったら、私はあなたのことをまだ信用してなかったかもしれませんし)
(......本当に、あいつも、俺達もバカだったよ。ヒカリはそんなことしても俺達が勝てれるわけじゃねえのに身投げして、俺達はそこまで追い詰められていることに気づかなかった)
(本当にバカですね。私が自殺を選んだのは世界を救うためですけど、ヒカリさんの場合は死んだところで、逆に戦意が下がってしまうかもしれないのに)
(本当だよ。全く......。なんで自殺なんてしようと思うんだ。自殺しても、なんの得にもならねえのに)
(自殺しようと思う人の気持ちは、私には痛いほど分かりますよ)
まあ、自殺しようとした奴だしな。分からねえって言ってきたらぶん殴るところだった。危ない危ない。いや、ネイだから殴りはしないか......うん、しないよな。
(まあでも、ヒカリさんがそこまで追い詰められてることに気づけなかったヴァル達もどうかと思いますけど)
(うるせえな。むしろ、ヒカリがあんなことになってしまったからお前を救い出せたんだ)
(間違いをしたのは否定できませんよ)
確かにその通りなのだが......ヒカリのような失敗をしないためにも今回は頑張った。本当に褒めて欲しいくらいだ。でも、その前に間違いをして、どうすれば良かったのか知っているから、「できて当たり前」と思われるかもしれない。
(個人的な推測なんですけど、ヒカリさん......多分、生きてますよ)
「は?マジで言ってんのか?」
(声が大きいですよ)
しまった。ついデカい声を出してしまった。いや、そんなことよりも......
「ヒカリが生きてるかもしれないってどういうことだ」
(だから声が大きいですって。こんな静かなそこそこ人通りのある場所だと目立ってしまうでしょ)
(悪ぃ。それで、ヒカリが生きてるって?)
(あくまで、推測ですよ。しかも、外れてる可能性の方が高いです)
(なんでもいい。聞かせてくれ)
(......ヒカリさんの遺体はまだ見つかっていない。どこを探しても見つからない。それは、アルテミスさんの調査で分かっていることですよね)
(ああそうだ)
(そして、ここから先は絶対に誰も知りえないことなのですが......。あの書庫、死んだ人の記憶も収集されるのです)
そんなものがあったのか......。世界の記憶ばっかしか見てないから気づかなかった。
(私は死者の書って呼んでます。それで、その死者の書には毎日そこそこの数が更新されるのですが、ヒカリなんて本は無いわけです)
(たまたま見つけられないとかじゃなくてか?)
(死んだ歳とかで分けることができますし、14で死ぬ人なんて少ない方ですからね。更新されたらすぐに見に行きますよ。ヴァル達がずっと探してる情報みたいですし)
なるほど。1週間の引き籠もり生活の間に、なぜか調べててくれたのか。
(死者の書にないってことは生きてるってことなんだよな?)
(あくまで可能性です。あの書庫は、若い人ほど早めに生まれ変わらせることがあるので、ヒカリさんも、生まれ変わった可能性の方がずっとずっと高いのです)
(......結局、分からずじまいか)
新たな情報が手に入ると思って期待した分、何もないと分かったショックは大きくなる。
(まあ、仮に生きてたとしても、もう出会わない方が良いと思いますよ。彼女の性格を考えると、出会わない方が彼女にとっては都合がいいと思いますし......)
(それもそうか......)
なんか、上がったり下がったりが激しいな。それだけ、ヒカリのことを大切に思っていたのか......救えなかったことが一生の後悔になっている。
(あ、ギルドが見えてきましたよ)
ネイの言う通り、冬の陽射しに照らされたギルドが見えてくる。
「セリカが暴走してないといいな」
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“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
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