グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

文字の大きさ
100 / 434
外伝 【白と黒の英雄】

外伝18 【黒・鬼の姉妹】

しおりを挟む
「それじゃぁ、行ってくるわね」

「バレないように、と言ったはずだが、飛龍に乗っていくんだな」

「お父様には偵察って言っておけばどうにかなるわ」

「あの人の勘は鋭い。くれぐれも隠密に頼むぞ」

「分かってるわよ」

 ベルディアが飛龍に跨り、白陽の方へと発つ。

 念には念を入れて剣の1本を持たせたが、今更ながらにベルディアは剣を振れないことに気づいた。まあ、魔法が使えるからどうにかなるだろう。それに、向こうにはデルシアがいるはずだ。早々戦いにはならないはず。

 さて、ベルディアの出発を見届けたので、ミューエ達の処遇を考える必要がある。
 城で匿うにしても、ギリスの目を掻い潜らなければならない。自由行動は無理。しかし、あの部屋に食事でも運べば、それだけで勘づかれる可能性がある。

 いっその事、どこか、城の近くの隠れ家にでも住まわせるか。宛を探してはみるが、多分ない。

「......あの人を殺せば、それで万事解決......」

 するかもしれない。この世界で俺を縛っているのは奴だけだ。奴さえいなくなれば、心置き無くデルシア達に協力することができる。

 そんなことを考えてたからか、俺の足は自然と大広間の方へと向かっていた。

「アルフレア様」

 大広間に足を踏み入れる前に、シータが目の前に現れた。

「どうかしたか?」

「いえ、あまり、お顔が優れないようだったので」

「そうか?」

「はい。普段より、苦虫を噛み潰したような顔がもっと酷くなっております」

 それは、考え事がありすぎたからだろう。頭を惜しみなく使って、今の状況を把握する。確かに、いつも以上に頭が疲れている気がする。

「ギリス様のところへ行くのであれば、今は控えた方がいいかと思われます」

「父上の姿を見たのか?」

「ええ先程。見てもらえれば分かると思うのですが、なんだか様子がおかしいようです」

 様子がおかしい......。

 俺は気になって、角から少しだけ身を乗り出してギリスの様子を見る。

「殺......せ......白陽......を......潰......せ......黒月......も......潰......せ......」

「なっ......」

 聞き間違いじゃなければ、今、ギリスの口から出た言葉には、「黒月も潰せ」と入っていた。

「アルフレア様。私は、飽くまであなた様を信じます」

 シータが変わらない真っ直ぐな瞳でこちらを見つめてくる。

「......奇兵隊と暗殺隊をいつでも動かせるようにしてろ。ベルディアの帰還次第、行動に移る」

「はっ」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 ベルディアが発った頃とほぼ同時刻。
 黒月の城でもう1つの作戦が密かに、1人の少女の手によって動いていたーー


「......」

 辺りを見渡す。
 周囲には見張りがいなければ、あのウザったらしい王子もいない。

 足音を立てず、隠密に、そして、最短ルートで目的の場所を目指す。この城の内部構造は、この城で暗殺隊に入ってから調べ尽くした。失敗はしない。

 本当なら、ベルディア様がいてくれたはずなのだが、急用だとかで牢の鍵だけ渡された。急用がなんなのかは気になるが、今は1秒でも早くセルカを助け出さなければならない。

 元々捨て子だった私達姉妹。そんな私達を、あの集落の人達は優しく育ててくれた。この命、捨てるわけにはいかない。

「......こっちだ」

 曲がり角にぶち当たる度に、周囲を確認する。見張りの1人にでも見つかれば大変なことになる。流石のベルディアでも、そこまで根は回していないだろう。

「そこの青鬼の方、こんなところを彷徨いて、どこへ行こうと言うのですか」

「っ......」

 不意に聞こえた男の声に、持っていたナイフを構えた状態で振り返る。

「どうやら、警戒されているようですね」

「......」

 その男は、武器を何も持っていないのに、余裕の表情でいる。ナイフ持ちに格闘技だけで勝てれるというのか。

「......ベルディア様からお話は聞いておりますよ」

「......え」

「安心してください。私はあなたの協力者です。つい先程、ベルディア様から約目を仰せつかったのでね」

 そういうことなら、もっと早くに言ってほしい。というか、そんなことならわざわざ侵入者を見つけた強者のような感じで喋らないで。

「驚かせてしまってすみません。ですが、後ろ姿だけではアイリス様かどうか分からなかったので」

 髪色でだいたい分かると思うが......。それに、私のことを『青鬼』と言っていたんだし、絶対嘘だろ。

「ベルディア様は白陽へと行きました」

「白陽?なぜ敵国のところに?」

 私はそう質問するが、ゼータは答えもせずに、スタスタと歩いていく。

「1秒でも早くセルカ様をお助けするのでしょう?立ち話は無用です」

 そういえばそうだった。話なら歩きながらでもできる。彼、意外と気遣いができるようだ。

「もしかしなくてもアイリス様は知っているでしょうな」

「......?何を、ですか?」

「デルシア様ですよ。彼女、色々とやらかしたみたいです」

「や、やらかしたって」

 確かに、あのちょっと抜けてる感じの子なら有り得る。しかし、デルシアが何かやった事とベルディア様にどんな関係が?

「簡単な話、アルフレア様に仲間を使って刃を向け、どこかへ姿を眩ませたのですよ」

「なんだ。そういう、ってええ!?」

 いくら抜けてるとは言えど、あの人がそんなヘマをするわけがない。ヘマというよりも、かなり思い切った行動だが。

「ーーというのは、簡単に説明しすぎましたな」

 ゼータが「今のは冗談です」みたいな口振りでそう言う。

「ーー私達が知らない間に、何か、大きなことが進んでいるようですよ。その筆頭にいるのがデルシア様です」

「そっか......」

 直接現場にいたわけではないから、詳しいことは知らないが、デルシア達はこの無意味な戦争をやめさせるために動いている。そう考えれば、何か、大きなことが進んでいておかしくない。

「異界からの敵。我々黒月と白陽に害を成す者達。今や、デルシア様達が相手にしているのは、我々でも白陽でもなくなりました」

「異界?」

 それは初耳だ。ベルディア様はそんなこと一言も話さなかったし、デルシアとはあまり話をしていない。ただ、こちらが一方的に協力すると言っただけだ。

「昨夜、ギリエア大橋で大きな戦いがありました。これはベルディア様から聞いておられるでしょう?」

「はい。デルシアと一緒に聞きましたが......」

「その戦い。本来なら黒月と白陽の大決戦になるかもしれなかったところを、先程の異界からの敵による襲撃で、両軍......いえ、暗殺隊の方は被害を抑えられましたな」

「もしかして、その理由って......」

「お察しの通り、デルシア様がその存在を知っており、デルシア様が先に交渉を始めたのがアルフレア様達、黒月軍だったからですよ。お陰様で貴重な兵をあまり減らさずに済みました。白陽がどうなったかは知りませんがね」

「なるほど......」

「その過程で、デルシア様は白陽の方も救おうと、単独で白陽側に突っ込みました。なんともまあ、デルシア様らしいっちゃらしいのでしょうが、それから帰ってくることはありませんでした」

「帰ってこなかった?」

「ええ。別に、死んだわけではないと思いますが。何か、事情ができて白陽に渡ったか、大怪我でもして、白陽に拾われたか......。そこまでは私共も知りかねません。ですが、どちらにせよ、白陽にいる可能性の方が高い。更に、白陽と休戦協定を結ばなければならない。ということでベルディア様が単独で向かいました」

 答えに辿り着くまでが長すぎだが、よく理解できた。つまりは、とんでもないことが起きようとしているということだ。うん。やっぱ分からん。

「さて、この曲がり角を曲がった先が目的地ですが......」

 ゼータが身を乗り出して先の様子を伺う。私も、同じようにして目的の方角を見る。

「ーー人生、そう上手くは行きませんな」

 牢の前には、しっかりと見張りが立っていた。しかも2人。強行突破を測ろうとすれば、両方抑える前に片方に逃げられる可能性があるーーさせはしないがーーさて、どうする?

 できることなら、極力面倒事は避けていきたい。ただの見張りの兵......とは思うが、もしもこいつらが見張りに扮した暗殺兵だったら......。有り得そうで怖い。

「殺......せ......殺......せ......」

 私はゼータと目を合わせる。

「......どうやら、殺してしまっても問題ないようです」

「殺すって、面倒事になりそうなんですが......」

「あれは、敵の息がかかった者。詳しくは、また後で話しますが、殺しても問題ないですし、騒ぎにもなりません。もちろん、隠密に殺ればの話ですが」

 よくは分からないが、殺してしまっても大丈夫らしい。それに、隠密に殺すのは得意だ。

「私は左の方を殺ります。アイリス様は右の方を」

 そう言うと、ゼータが天井へと張り付く。蜘蛛みたいだ。

 ゼータが天井から行くのだから、私は床の上から。距離はそこまで離れていない。飛んでいけば気づかれぬ間に殺すことが出来る。

(行きますよ。2......1......0)

 私とゼータが同時に敵2名にまとわりつく。

(殺......)

 息付く間もなく敵の首を切り落とす。

(これで無力化......)

「油断してはいけません。今すぐ四股を切り落としてください」

「え?」

 言われるがままに手足を全部切り落とす。

「これで、完全に動けなくなりましたな」

 ゼータが頬に着いた血を拭い、敵の死体を蹴り飛ばす。

「あいつら、多分ですが、首を切り落とされただけじゃ、体だけで動きますよ」

 ゼータの言う通り、殺したはずの敵の腕が、今もピクピクと動き続けている。

「気持ち悪っ!」

 あまりにもだったので、動いていた腕を踏み潰してしまった。

「ーー残酷ですね」

 お前が言うか。

 ゼータの方が余っ程残酷な人だとは思うのだが、もうこの際だ。無視しておこう。今はセルカだ。

「ーー寝ているようですね。起こすのも忍びないですし、こっそり城外に連れて行きますか。アイリス様、鍵を」

「はい」

 私はゼータに向かって、錆びかけた鍵を投げ渡す。

「......」

 セルカが無事そうでなによりだ。衰弱している様子は微塵もないし、外傷もなさそう。残忍な扱いはされてないようだ。

「さて、感傷に浸ってるのかは知りませんが、セルカ様を運び出しましょう。外に出たら、しばらくは送っていきますが、途中からはアイリス様御1人でお願い致します」

「分かっています」

 ゼータに支えられ、セルカを背負う。

「素晴らしい」

 甲高い音が、集中の切れかかった脳に響く。

「ーーこの城に、お前の居場所は無いはずですが」

 ゼータが怒りと悲しみの篭った声でそう言う。

「久しぶりねぇ。ゼータちゃん。あなたの大事な大事なご主人様を置いて、何をしているのかしら?」

「お前に話すことは何も無い」

 ゼータが右手で私を後ろに下げる。

 ゼータのさっきまでとは真逆の態度。この女に、何があるというのだ。

「へぇ、鬼族の娘ねぇ......。鬼族はまだ斬ったことがないから、今初体験しちゃおうかしら」

「ーーエルドラ。お前がなぜここにいるのかを問うことはやめましょう」

「......堪忍したかしら?」

「お前には、ここで死んでもらう。我が妻の仇だ!」

 ゼータがどこに隠し持っていたのかと思うくらいの量のナイフを、エルドラと呼ばれた人物に向かって投げつける。

「あら、まだあの女のことを根に持っていたの?執念深いわねぇ」

「黙れ!お前には、今日限りをもって死んでもらう!」

 ゼータの猛攻がエルドラを襲うが、エルドラは全て見えているぞと言わんばかりの軽い動作で避けきる。

「知っていたのよ。あなたがベルディアに就いた時に、なんのためにあの女を選んだのか。ベルディアも知っていたんでしょうねぇ。でもまあ、あれは終わったことの話でしょ?今はベルディア様にご執心じゃなくて?」

「黙れ黙れ黙れ!」

 ナイフが避けられるのなら、直に攻撃、という考えで近接戦へともつれこませる。

「ナイフの切っ先が迷いまくってるわ。いや、怒りから焦点を合わせられないのかしら?」

「お前に、お前如きに!我が妻がァ!」

 ゼータがナイフを1本投げつけた後に、もう片手に持っていたナイフで勝負をつけに行く。

 ダメだ。今やりにいっても、返り討ちにあうだけ。冷静さを欠けたゼータなら、簡単に殺されてしまう。

「そこまでご執心なら、あなたもあの女と同じ道を辿ってもらいましょうか?」

 ゼータの投げたナイフをキャッチし、そのまま反撃する構えだ。死にはしなくとも、かなりの傷を負ってしまう。それこそ、致命傷になりうるくらいのものが。

「死になさい」

 ゼータのナイフよりも、エルドラのナイフの方が早い。阻止しないといけないのに、なぜか体が動かない。

「っ......」

「ゼータぁ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

[完結]7回も人生やってたら無双になるって

紅月
恋愛
「またですか」 アリッサは望まないのに7回目の人生の巻き戻りにため息を吐いた。 驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。 だけど今回は違う。 強力な仲間が居る。 アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

2度死んだ王子は今度こそ生き残りたい

緑緑緑
ファンタジー
王太子ロイは、かつて二度の革命によって祖国を崩壊させてしまった過去を持つ。命を落とすたび、彼はある時点へと巻き戻される。そして今、三度目の人生が静かに幕を開けようとしていた。 ――自分は民を理解しているつもりだった。 だが実際には、その表面しか見えていなかったのだ。 その痛烈な自覚から、物語は動き始める。 革命を回避するために必要なのは、制度でも権力でもない。「人を知る」ことこそが鍵だと、ロイは気付く。 彼はエコール学園での生活を通じ、身分も立場も異なる様々な人間と深く関わっていく。 そこで出会う一人ひとりの想いと現実が、やがて国の未来を大きく左右していくことになるとは、この時のロイはまだ知らない。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...