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外伝 【白と黒の英雄】
外伝20 【黒・仲間】
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「ゼータぁ!」
エルドラが持つナイフが、ゼータの腹部目掛けて真っ直ぐに突き出される。
目の前に広がる血の海。そして、殺される私達。そのビジョンが脳裏を過った。
「......?あら、仕留め損なったかしら?」
しかし、神だか悪魔だかが救いの手を差し伸べてくれたのか、奇跡的にゼータに攻撃は当たらなかった。ただ、それだけで危機を逃れられるほど現実は甘くない。
「っ......」
変な避け方をしたせいで、ゼータのバランスが崩れた。次はもうない。
「これで終わりよ」
再び、エルドラの持つナイフが、ゼータの胸部目掛けて突き出される。
「......」
「......」
終わりだ。そう思ったのに、また神か悪魔かが救いの手を差し伸べてくる。まるで、「負けるな」と言っているかのように。
ゼータとエルドラの間に、2つの『影』が現れた。
「......」
「......」
2つの影は、何も言わずにエルドラに攻撃を始める。ゼータよりも圧倒的に早く、息の合った攻め。エルドラが追い詰められるのは、最早時間の問題だった。
「オメガ......なぜ、ここに来たのですか......」
オメガ......。確か、暗殺隊の総指揮長だったような......。ということは、もう1つの影は奇兵隊総指揮長のロウラか?
確かに、あの2人ならここまでの動きを見せることに納得出来る。
「ふんっ、これじゃあ、私の分が悪いだけね。一旦引き上げさせてもらうわ」
「させるかエルドラ!」
ゼータが立ち上がるが、すぐにその場に倒れてしまう。
見ると、ゼータの体のあちこちに切り傷ができている。流血によって、血液が足りなくなってきているのだろう。腹部を刺されていたら、致命傷ではなく死んでいた。早く、止血しなければ。
「......」
「......」
オメガとロウラが目を合わせ、エルドラの両隣に立つ。これで、奴の逃げ道はなくなった。
「ゼータ、今は休んでてください。後は、私達で奴を仕留めます」
ゼータは、口をパクパクとさせ、何かを伝えようとしていたが、何も伝わってこないまま、気を失ってしまった。
「そんなので逃げられなくなると思った?」
エルドラが自身の足元に魔方陣を生成する。
「また会える日を楽しみにしているわ」
何かに気づいたオメガとロウラが取り抑えようとするが、その一歩手前で、エルドラは姿を消した。どこにも逃げ道はなかったのに、まるで雷のように暴れ、跡形もなくいなくなってしまった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
時はギリエア大橋での戦いから、5日を跨いだ日のことである。
「ーー以上が作戦だ」
全てを話し終え、ほっと一息。
全員、ここに連れてきた時よりも顔が良くなっている。デルシアの無事を確認でき、目的が達成されそうにあるからだろう。
「さっきも話したが、デルシアは無事だ。かなりの大怪我を負ったらしいが、向こうの治癒術師のお陰で一命は取り留めた。手放しでは喜べないだろうが、近いうちに会うことも出来る」
「それが、今週末の密談でしょう?」
密談とは、また物騒な。ただの話し合いだ。
そうは思ったが、形的には密談で正しい。むしろ、そうしないと俺とベルディアの命が危うい。
「ギリスの様子だが、ここ最近は変なことを連呼するだけで、特に問題はない」
「質問よろしいでしょうか」
イグシロナが手を挙げそう言う。
「言ってみろ」
「変なこと、とは、何を連呼されているのでしょうか?」
言うべきか否か。いや、言うべきだろうな。
「白陽を殺せ、黒月も潰せ。全てを無に返せ。そう連呼している。気味が悪いな」
「白陽と黒月、それに、その言い方だと、世界丸ごとを支配するつもりでしょうか」
ガンマが顎に手を当てて唸っている。
「多分、あいつに支配するつもりは無い。この世界を破壊する。それが奴、いや、奴らの望みだろう」
「世界全てねー。規模がよく分からにゃいよ」
一切口出しをしてこなかったカイナが、やっと口を開いたかと思えばただの感想だった。しかし、言っていたことには共感が持てる。
「異界の敵の規模がどれくらいか分からない以上、こちらは最低限の防衛軍を残して、向こう側に渡る。崖を飛び降りろというのがよく分からんが、経験者が4人もいるし、嘘はないだろう」
「そこは未だに分からにゃいな」
「私もね。まあ、デルシアが言うんだから間違いはないのでしょうけれど、正直不安は残るわね」
「そこは心配しないで。向こうに着いたら気を失ってる程度で済むから」
何を心配しないでいいのやら。その間に殺られたらどうなるんだ。俺だけでも意識を保っておかなければならないな。
「最後に、質問はないか?」
「はい」
ミューエが真っ直ぐに手を挙げる。
「1つ気になっていたのだけれど、アイリスはどうなったの?」
「アイリス?」
あの鬼の娘に何かあったのだろうか?
「ああ、あれは上手くやったらしいわよ。途中でエルドラが出てきたらしいけどね」
「......今、なんと......?」
ガンマが怒りに満ちた声でそう言う。
「......そうね。ガンマにとっては因縁の相手だったもんね」
「奴が、この城に姿を現したと言うのですか......」
「ゼータ達に聞いた話だとね。セルカの脱獄を手伝ってた時に現れたらしいわよ」
「あの娘を逃がしたというのか」
話が勝手に進んでいるが、聞き捨てならないことがある。というか、俺の知らないところで大掛かりなことを進めるな。
その念を込めてベルディアに視線を送る。
「これも策の内よ。アイリスだって貴重な戦力なんだから、取り入れられる要素があるなら、そこを突いてあげるの」
「......またお前は俺になんの話もしないで」
「仕方ないでしょ。この話をしたのは、あの橋での戦いよりも前なんだから。それで、エルドラに関してなのだけれど」
ベルディアが話を切りかえてしまった。もう話すことはない、ということか。まあ、あの娘1人逃げられたところで俺には何もない。今は大人しく話を聞いておくか。
「エルドラはゼータとアイリスを殺そうとしたんだけど、間一髪のところでオメガとロウラちゃんが出現。ゼータの傷は酷かったけど、なんとか死人は出なかったわ」
「......奴が、また殺しを......」
「逃げ道を塞いだらしいのだけれど、よく分からない魔法で逃げられたらしいわ。すまないってゼータも言ってたわ」
「彼が謝ることはありません。むしろ、この城で起きていたことなのに、気づくことが出来なかった自分に腹が立ちます」
エルドラに関して、俺が知ることは少ないが、ゼータとガンマに相当な恨みがあるのは知っている。知っていても、俺には何も出来ない。
ただ、この城に勝手に侵入したというのには違和感がある。裏口を使ったとしても、あそこには常に鍵をかけているし、昨日見に行った時にも壊されてはいなかった。
隙を見計らって侵入したという考えもあるが、それならもっと早くに姿を現しているはずだ。それとも、ベルディアがいなくなるタイミングでも待っていたのだろうか?なんのために......。
「......ねぇ、1つ思いついたことがあるのだけれど」
ミューエが怪訝な顔つきでそう言う。嫌なことを思いついたのか。
「もしかしたらの話なんだけれど」
多分、俺もこいつと同じことを考えている。
「エルドラも、向こうの世界の住人なんじゃないの?」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「はぁ......はぁ......はぁ......」
走る。後ろを見ずに、ひたすらに走る。
背中には唯一血の繋がった家族であるカンナが眠っている。
あれだけの騒ぎがあったんだから、目を覚ましてもいいとは思ったのだが、この子は本当にお寝坊さんだ。まあ、今はそっちの方が助かる。
ゼータ達はどうなっただろうか。治療は大体済ませた。後は、オメガとロウラに任せておけば大丈夫なはず。
それにしても、あのエルドラとかいう人は何だったのだろうか。いきなり襲いかかってきたかと思えば、ゼータの仇っぽいし......。デルシアの仲間になるって言ったのに、知らないことが多すぎる。誰でもいいから今の状況を1から10まで説明して欲しい。
「......ぁ」
「セルカ?」
微かな唸り声がしたので、セルカの様子を見る。
「お姉......ちゃん......?」
「良かった。目が覚めたのね」
セルカが意識を取り戻した。
良かった。あまりにも起きないもんだから、実は死んでいた、なんてことを考えていた。
「もう大丈夫。あなたを縛り付ける者は誰一人としていないから」
セルカが辺りをキョロキョロと見渡している。まだ脳の整理が追いついていないのだろう。
「......っ、お姉ちゃん!今すぐ城に戻って!」
目をパッチリと開けたセルカが、急にそう叫ぶ。
「も、戻れって、やっとの思いで脱出できたのに」
「お願い。戻って!じゃないと、みんな死んでしまう!」
死ぬ?どういうことだ?もう、あの城に驚異は無いはず。ギリスが危険そうに見えるが、私達の逃亡に気づかない限りは大丈夫なはず。それに、そうなるようベルディア様が時間を稼いでいてくれてるはずだ。
「見える。見えるの」
「見えるって何が?」
「みんなが死んじゃう未来。黒月が始まりで、その次が白陽。そして、グランアーク、イーリアス。最後には、この世界が真っ黒に染まる......いや、無に返る」
イマイチ話が呑み込めない。
ええと、黒月が出発点で、そこから世界に闇が広がる?誰が、なんのため......いや、デルシア達が相手にしている奴らがそうするのか?
「私が捕らえられた理由は、鬼族に下手な手出しをさせない為じゃない。未来が見える子を他の人と接触させないためなの。信じてもらえないだろうけど、今すぐ城に戻ってお姉ちゃん!」
未来が見える......。そんな力、初めて聞いた。ずっと傍で一緒に暮らしていたのに、そんな力、気づきもしなかった。
「洗脳とかは、されてないよね?」
私は恐る恐るセルカの額に手を触れる。脳に異常はない。魔法とか呪術を掛けられた痕もない。嘘はない。
「でも、今城に戻るのは危険なの。せめて、郷に戻って、郷の仲間を連れてからね」
「......猶予は、後1週間くらい......ううん。4日?」
4日......。そんな短い期間で往復できるだろうか。いや、明後日あたりは黒月軍がギリエア大橋に出陣する予定があったはず。そこに合わせれば......。ギリギリ間に合うか?
「お姉ちゃん。世界は滅びに向かってる。なんでそんな未来が見えるのかは、私にも分からない。でも、このままじゃダメなの」
セルカの目は本気そのもの。今から城に戻るべきか。でも、戻れば......。ああどうすれば......。
「その話、本気なら俺達にも手伝わせてくれねえか?」
エルドラが持つナイフが、ゼータの腹部目掛けて真っ直ぐに突き出される。
目の前に広がる血の海。そして、殺される私達。そのビジョンが脳裏を過った。
「......?あら、仕留め損なったかしら?」
しかし、神だか悪魔だかが救いの手を差し伸べてくれたのか、奇跡的にゼータに攻撃は当たらなかった。ただ、それだけで危機を逃れられるほど現実は甘くない。
「っ......」
変な避け方をしたせいで、ゼータのバランスが崩れた。次はもうない。
「これで終わりよ」
再び、エルドラの持つナイフが、ゼータの胸部目掛けて突き出される。
「......」
「......」
終わりだ。そう思ったのに、また神か悪魔かが救いの手を差し伸べてくる。まるで、「負けるな」と言っているかのように。
ゼータとエルドラの間に、2つの『影』が現れた。
「......」
「......」
2つの影は、何も言わずにエルドラに攻撃を始める。ゼータよりも圧倒的に早く、息の合った攻め。エルドラが追い詰められるのは、最早時間の問題だった。
「オメガ......なぜ、ここに来たのですか......」
オメガ......。確か、暗殺隊の総指揮長だったような......。ということは、もう1つの影は奇兵隊総指揮長のロウラか?
確かに、あの2人ならここまでの動きを見せることに納得出来る。
「ふんっ、これじゃあ、私の分が悪いだけね。一旦引き上げさせてもらうわ」
「させるかエルドラ!」
ゼータが立ち上がるが、すぐにその場に倒れてしまう。
見ると、ゼータの体のあちこちに切り傷ができている。流血によって、血液が足りなくなってきているのだろう。腹部を刺されていたら、致命傷ではなく死んでいた。早く、止血しなければ。
「......」
「......」
オメガとロウラが目を合わせ、エルドラの両隣に立つ。これで、奴の逃げ道はなくなった。
「ゼータ、今は休んでてください。後は、私達で奴を仕留めます」
ゼータは、口をパクパクとさせ、何かを伝えようとしていたが、何も伝わってこないまま、気を失ってしまった。
「そんなので逃げられなくなると思った?」
エルドラが自身の足元に魔方陣を生成する。
「また会える日を楽しみにしているわ」
何かに気づいたオメガとロウラが取り抑えようとするが、その一歩手前で、エルドラは姿を消した。どこにも逃げ道はなかったのに、まるで雷のように暴れ、跡形もなくいなくなってしまった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
時はギリエア大橋での戦いから、5日を跨いだ日のことである。
「ーー以上が作戦だ」
全てを話し終え、ほっと一息。
全員、ここに連れてきた時よりも顔が良くなっている。デルシアの無事を確認でき、目的が達成されそうにあるからだろう。
「さっきも話したが、デルシアは無事だ。かなりの大怪我を負ったらしいが、向こうの治癒術師のお陰で一命は取り留めた。手放しでは喜べないだろうが、近いうちに会うことも出来る」
「それが、今週末の密談でしょう?」
密談とは、また物騒な。ただの話し合いだ。
そうは思ったが、形的には密談で正しい。むしろ、そうしないと俺とベルディアの命が危うい。
「ギリスの様子だが、ここ最近は変なことを連呼するだけで、特に問題はない」
「質問よろしいでしょうか」
イグシロナが手を挙げそう言う。
「言ってみろ」
「変なこと、とは、何を連呼されているのでしょうか?」
言うべきか否か。いや、言うべきだろうな。
「白陽を殺せ、黒月も潰せ。全てを無に返せ。そう連呼している。気味が悪いな」
「白陽と黒月、それに、その言い方だと、世界丸ごとを支配するつもりでしょうか」
ガンマが顎に手を当てて唸っている。
「多分、あいつに支配するつもりは無い。この世界を破壊する。それが奴、いや、奴らの望みだろう」
「世界全てねー。規模がよく分からにゃいよ」
一切口出しをしてこなかったカイナが、やっと口を開いたかと思えばただの感想だった。しかし、言っていたことには共感が持てる。
「異界の敵の規模がどれくらいか分からない以上、こちらは最低限の防衛軍を残して、向こう側に渡る。崖を飛び降りろというのがよく分からんが、経験者が4人もいるし、嘘はないだろう」
「そこは未だに分からにゃいな」
「私もね。まあ、デルシアが言うんだから間違いはないのでしょうけれど、正直不安は残るわね」
「そこは心配しないで。向こうに着いたら気を失ってる程度で済むから」
何を心配しないでいいのやら。その間に殺られたらどうなるんだ。俺だけでも意識を保っておかなければならないな。
「最後に、質問はないか?」
「はい」
ミューエが真っ直ぐに手を挙げる。
「1つ気になっていたのだけれど、アイリスはどうなったの?」
「アイリス?」
あの鬼の娘に何かあったのだろうか?
「ああ、あれは上手くやったらしいわよ。途中でエルドラが出てきたらしいけどね」
「......今、なんと......?」
ガンマが怒りに満ちた声でそう言う。
「......そうね。ガンマにとっては因縁の相手だったもんね」
「奴が、この城に姿を現したと言うのですか......」
「ゼータ達に聞いた話だとね。セルカの脱獄を手伝ってた時に現れたらしいわよ」
「あの娘を逃がしたというのか」
話が勝手に進んでいるが、聞き捨てならないことがある。というか、俺の知らないところで大掛かりなことを進めるな。
その念を込めてベルディアに視線を送る。
「これも策の内よ。アイリスだって貴重な戦力なんだから、取り入れられる要素があるなら、そこを突いてあげるの」
「......またお前は俺になんの話もしないで」
「仕方ないでしょ。この話をしたのは、あの橋での戦いよりも前なんだから。それで、エルドラに関してなのだけれど」
ベルディアが話を切りかえてしまった。もう話すことはない、ということか。まあ、あの娘1人逃げられたところで俺には何もない。今は大人しく話を聞いておくか。
「エルドラはゼータとアイリスを殺そうとしたんだけど、間一髪のところでオメガとロウラちゃんが出現。ゼータの傷は酷かったけど、なんとか死人は出なかったわ」
「......奴が、また殺しを......」
「逃げ道を塞いだらしいのだけれど、よく分からない魔法で逃げられたらしいわ。すまないってゼータも言ってたわ」
「彼が謝ることはありません。むしろ、この城で起きていたことなのに、気づくことが出来なかった自分に腹が立ちます」
エルドラに関して、俺が知ることは少ないが、ゼータとガンマに相当な恨みがあるのは知っている。知っていても、俺には何も出来ない。
ただ、この城に勝手に侵入したというのには違和感がある。裏口を使ったとしても、あそこには常に鍵をかけているし、昨日見に行った時にも壊されてはいなかった。
隙を見計らって侵入したという考えもあるが、それならもっと早くに姿を現しているはずだ。それとも、ベルディアがいなくなるタイミングでも待っていたのだろうか?なんのために......。
「......ねぇ、1つ思いついたことがあるのだけれど」
ミューエが怪訝な顔つきでそう言う。嫌なことを思いついたのか。
「もしかしたらの話なんだけれど」
多分、俺もこいつと同じことを考えている。
「エルドラも、向こうの世界の住人なんじゃないの?」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「はぁ......はぁ......はぁ......」
走る。後ろを見ずに、ひたすらに走る。
背中には唯一血の繋がった家族であるカンナが眠っている。
あれだけの騒ぎがあったんだから、目を覚ましてもいいとは思ったのだが、この子は本当にお寝坊さんだ。まあ、今はそっちの方が助かる。
ゼータ達はどうなっただろうか。治療は大体済ませた。後は、オメガとロウラに任せておけば大丈夫なはず。
それにしても、あのエルドラとかいう人は何だったのだろうか。いきなり襲いかかってきたかと思えば、ゼータの仇っぽいし......。デルシアの仲間になるって言ったのに、知らないことが多すぎる。誰でもいいから今の状況を1から10まで説明して欲しい。
「......ぁ」
「セルカ?」
微かな唸り声がしたので、セルカの様子を見る。
「お姉......ちゃん......?」
「良かった。目が覚めたのね」
セルカが意識を取り戻した。
良かった。あまりにも起きないもんだから、実は死んでいた、なんてことを考えていた。
「もう大丈夫。あなたを縛り付ける者は誰一人としていないから」
セルカが辺りをキョロキョロと見渡している。まだ脳の整理が追いついていないのだろう。
「......っ、お姉ちゃん!今すぐ城に戻って!」
目をパッチリと開けたセルカが、急にそう叫ぶ。
「も、戻れって、やっとの思いで脱出できたのに」
「お願い。戻って!じゃないと、みんな死んでしまう!」
死ぬ?どういうことだ?もう、あの城に驚異は無いはず。ギリスが危険そうに見えるが、私達の逃亡に気づかない限りは大丈夫なはず。それに、そうなるようベルディア様が時間を稼いでいてくれてるはずだ。
「見える。見えるの」
「見えるって何が?」
「みんなが死んじゃう未来。黒月が始まりで、その次が白陽。そして、グランアーク、イーリアス。最後には、この世界が真っ黒に染まる......いや、無に返る」
イマイチ話が呑み込めない。
ええと、黒月が出発点で、そこから世界に闇が広がる?誰が、なんのため......いや、デルシア達が相手にしている奴らがそうするのか?
「私が捕らえられた理由は、鬼族に下手な手出しをさせない為じゃない。未来が見える子を他の人と接触させないためなの。信じてもらえないだろうけど、今すぐ城に戻ってお姉ちゃん!」
未来が見える......。そんな力、初めて聞いた。ずっと傍で一緒に暮らしていたのに、そんな力、気づきもしなかった。
「洗脳とかは、されてないよね?」
私は恐る恐るセルカの額に手を触れる。脳に異常はない。魔法とか呪術を掛けられた痕もない。嘘はない。
「でも、今城に戻るのは危険なの。せめて、郷に戻って、郷の仲間を連れてからね」
「......猶予は、後1週間くらい......ううん。4日?」
4日......。そんな短い期間で往復できるだろうか。いや、明後日あたりは黒月軍がギリエア大橋に出陣する予定があったはず。そこに合わせれば......。ギリギリ間に合うか?
「お姉ちゃん。世界は滅びに向かってる。なんでそんな未来が見えるのかは、私にも分からない。でも、このままじゃダメなの」
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