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外伝 【白と黒の英雄】
外伝21 【白×黒 思いの交わる夜】
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「はぁ......はぁ......はぁ......。やっと......終わり、ましたぁ~」
カンナが息を荒げたままベッドに倒れ込む。
早速背中の傷を確認するが、そこにあったはずの傷は、何事も無かったかのように、完璧に消えていた。痛みもない。
「しばらく、寝て、いいですよ、ね......」
この1週間で見た事がないダラけを見せてくる。本当に、お疲れ様だ。
「終わったか?デルシア」
扉越しに兄さんの声が聞こえてくる。
「なんとか終わりました」
「そうか。約束の時間には、間に合いそうだな」
兄さんが兜だけを外した武装状態で入ってくる。時間までまだまだあるのだから、そこまで意気込まなくても。
それはそうと、私の体は全快とまでは行かないものの、ある程度の戦いはできるようになっている。軽く体を動かしても、本当に痛みなど感じない。これが王国最強の治癒術師の力......、恐るべし。
「......戦いの準備は出来ている。今すぐにでも出発は可能だ」
兄さんが窓の外を指さしてそう言う。外を見ると、白陽の軍隊が綺麗に整列して城門に並んでいた。
「待たせたら悪いとか考えるなよ。あれはお前に俺達の団結力を見せるためのものだ。これから、玉座の間で団結式を行う。これに着替えてやって来い」
これに着替えてから、と兄さんは言ったが、どこにも兄さんが用意したであろう服はない。
「おっとすまん。サツキ、持ってきてくれ」
扉が開き、サツキが綺麗に折りたたまれた状態の服を持って入ってくる。
「あれ?それ、私の服じゃありませんよね?」
戦いの時に着ていた物とは全然違う。まあ、ボロボロになっていたし、使い物にはならないことが分かってはいたのだが。
「白陽の武将服をベースに、白と黒で塗装した総指揮官の服だ。腰あたりに白と黒で小さく太陽と月が書かれているのがオシャレポイントだ」
なぜか兄さんが鼻高々にそう言う。まさかとは思うが、兄さんがデザインしたんじゃ......。
「......」
「安心してください姉さん。姉さんが着ていたものがベースなので、動きやすくはなっていますよ。ただ、その分防御が無いも同然なのですが......」
本当だ。見た目こそ違うけれど、陣羽織を除けば、私の服そのもの。ということは、本当にデザインしたのはサツキか。
「1時間後に、玉座にて団結式を行います。遅れずにやって来てください」
そう言うと、兄さんとサツキは部屋を出て行った。ところで、兄さんが鼻高々にしていたのは何だったのだろうか。まあ、あの兄さんの事だし、特に深い意味は無いだろうけど。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
約束の時が来た。
2日ほど前に、この作戦を聞いてからずっと落ち着きを保っていられなかった。この2日間がとても長く感じるほどに。
「改めて全員に言っておく。俺達はこの作戦を完遂する為に、決してギリスにバレる訳にはいかない。極秘裏に、少数ずつでこの城を発つ」
アルフレアの作戦はこうだ。
ギリスにバレる訳にはいかない黒月軍は、暗殺隊と奇兵隊を合わせて2部隊ずつギリエア大橋に向けて発つ。先陣はアルフレアが務め、1番最後の部隊に私達とベルディアが入る。
幸いなことに、この時間はギリスが非覚醒状態。バレる可能性は低いだろうが、念には念を入れてだ。
「俺はそろそろ出ないといけない。ベルディア、後は任せたぞ」
そう言って、アルフレアはこの部屋を出ていった。
「ーーいよいよね。2週間くらい前に、獣人の里でばったり出会ったあなた達が、こうして2つの国を結びつけるだなんて、思ってはいたけどここまで早くにできたのは予想外だったわ」
それは私達も同じ思いであるが、早いに越したことはない。きっと、デルシアもこの状況を作れたことに喜びを感じている。
ただ、喜びを感じているだけではダメだ。むしろ、ここからが本番。口実になったとは言えど、異世界に敵がいたのは予想外。
敵の規模が分からない上に、白陽と黒月の初の共闘。上手くいく補償なんてどこにもないし、上手くいかない可能性だって普通にある。異色の軍隊をデルシアが指揮することになるが、デルシア1人で出来るわけがない。私達が全力でサポートしないといけない。
「......1つだけ、確認させて欲しいのだけれど、向こうに数時間だけいたあなた達が、こっちに戻ってくると9ヶ月も経っていたなよね?」
「ーーええ、そうね」
何となく言いたいことは分かる。
どれだけかかるか分からない戦いで、こっちに戻ってこれた時に、どれだけ時間が経っているのか。
「ベルディアの不安は分かるけれど、もうここはなるようにしかならないわ」
「やっぱりそうよねぇ......。暗殺隊も奇兵隊も家族はいないから大丈夫でしょうけれど、白陽の方はねぇ......」
下手したら、愛する家族との一生の別れとなる可能性もある。デルシアがそこら辺を説明したのかは分からないが、この事を覚えていてくれてるのなら、白陽の軍隊は数がかなり少なくなっていることが予想される。
「デルシアに任せる。それしかないでしょ」
「......まあ、あの子の事だから、白陽の軍隊はたったの1部隊だけ、なんてことも有り得るわね」
そうなったらそうなったで困るのだが、デルシアを信じると決めた以上、文句は言えない。
「そうだカイナ」
「おぉ、呼んだかにゃ?」
「さっきの話を聞いてたら分かると思うのだけれど......」
「ああ、帰ってきたらどれだけ経ってるか分からにゃいってやつ?にゃら、あたしは大丈夫さ。どうせ、里に戻ったら爺ちゃんが死んでるか生きてるかくらいの違いしかないだろうから」
お爺さんもっと存在感を出して!孫に嫌われてるよ!いや、嫌いと言うよりも、どうでもいいって感じになってる!
「なんてのは嘘嘘。そこら辺はちゃんと考えてるけど、分からにゃいんだったら、もうなるようになっちゃえ!って感じで行こー!」
この城にいる間、全然喋らなかったカイナだが、ここまで元気が溢れているのなら、もう問題はないだろう。後は、カイナの言う通り、なるようになれ、ということだ。
「さて、私達もそろそろ出発しましょ。ギリスにだけはバレないようにね」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ーーいよいよ約束の時が来た」
玉座の中央に、周りの兵士達に囲まれるようにして立つ兄さん。その姿は、歴代の白陽王のような凛々しいものとなっていた。ちょっとカッコイイ。
「俺達の妹、デルシアが運び込んで来た情報、異世界からの敵。俺達は、俺達が住む世界を守るために、今日この日をもって黒月との和平を結ぶことにした」
その言葉を聞いた兵士達がざわつきだす。流石に、そこまでの話は通っていなかったか。
「集まってもらっといてなんだが、お前達には、1つ警告しなければならない」
あたりがしんと静まり返る。
「この戦いは、生きて帰れたとしても、愛する者との一生の別れになりうる可能性がある」
再び、あたりがざわつきだす。なぜか、隣のネイも私の肩をつついて「どういう事ですか?」と聞いてきた。
(向こうの世界は、どういうわけかこちらと時間の流れが違うんです。ほんの数時間でも、こっちに戻ってきたら1、2年経ってるかもしれないってことです)
驚くかと思ったが、ネイはなんだそんな事か、と言わんばかりにほっと胸を撫で下ろした。こんな言い方をしていいのかは分からないが、ネイは記憶喪失だから、特に思うことも無いのだろう。
「ーー別れが嫌な者は、今すぐこの場を立ち去れ。生半可な覚悟では、この戦いを生き延びることは出来ない」
ざわつきが静寂へと変わる。
みな、誰とも話さず、1人で悩んでいるようだ。すると、ぽつりぽつりと一部の兵士達がこの場を離れていく。
「......」
離れていく兵士達の姿を、兄さんは黙って見守っている。
「俺は......」
そんな中、1人の兵士が声を上げる。
「俺は、この場に残る」
見ると、二番隊の隊長を務めている人だった。
「俺達が自分可愛さに逃げれば、愛する家族が代わりに死ぬ。そんなの、俺は認めない。それに、可能性ってだけの話だ。絶対とは決まっていない!」
必死に、涙をこらえるかの様な声でそう言う。
「シンゲン様。俺は、俺の為に戦います」
「......」
兄さんは小さく頷くだけだった。
「俺も戦う!」
「俺もだ!」
「私だって!」
その光景を見て、帰りかけていた兵士達が戻ってくる。
あたりから、俺も、私も、という声がたくさん聞こえる。
みな、他人に押し付けたい気持ちを追いやって、この場に残ってくれた。
「お前ら!覚悟は出来ているんだろうな!」
「「「 はい! 」」」
「よし、それだけ聞けたら十分だ!出陣!」
「「「 オォォォ! 」」」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
月に照らされ、赤く染まる橋。ギリエア大橋。
かつて、この橋はよく戦場となり、多くの血を流してきた。
その橋の両端に、白と黒の軍隊が並ぶ。
見据える先には、因縁の敵の姿。だが、そんな関係も今日この日をもって終わりとなる。
白と黒の主将が、橋の中央に並ぶ。双方の後ろには、後に、この戦いの功労者となる者達の姿が並んでいる。
あれだけ意気込んでいた両部隊だが、いざ、前まで敵だった者を目にすると、自然と活気が減っていく。
不安、恐れ、憎悪。
そういった感情が、本当に味方にしていいのかと思わせてくる。
△▼△▼△▼△▼
目の前に構える黒の軍隊。
不思議なものだ。
つい先日まで敵どうしだった我らが、こうして手を取り合うためにこの場にいるとは......。世の中、何が起こるか分かったもんじゃないな。
「......」
こうして、いつまでも佇んでいる訳にはいかない。1歩踏み出して宣言しなければならないというのに、目の前に進む勇気が出てこない。
△▼△▼△▼△▼
△▼△▼△▼△▼
目の前に構える白の軍隊。
こんな日がやってくるなど、考えもしなかった。
敵どうしだった我らが、同じ目的のために手を取り合う。天地がひっくり返らない限りは起きないものだと思っていたが、本当に、天地がひっくり返ってしまったみたいだ。
これも、全てあいつらのせいなのか。
「......」
シンゲンがゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
いつまでもこうして、佇んでいる訳にはいかないな。そう思い、俺も1歩を踏み出す。
△▼△▼△▼△▼
△▼△▼△▼△▼
「月夜に輝きし、黒の軍隊よ。我らは、今日この日をもって黒と白の戦いを終わらせるためにやって来た」
「太陽に照らされし、白の部隊よ。我らは長きに渡る戦乱の時代に終止符を打つためにここまでやって来た」
白と黒の大正の刃が、互いに交差する。
「戦乱の時代は、今終焉を告げ、新たなる時代を築き上げる」
「そして、この世界に平和を、愛する者達と過ごせる豊かな世界を作るため」
両者の目と目が合わさる。
「「 俺達は、互いに手を取り、世界の平和を目指すことを宣言する!! 」」
「グガァォォォ!」
まるで、その誓が合図だったかのように、辺りに異界の敵が湧き出す。
「考えてはいたが、本当に出てくるとは......」
「どうせ、奴らは狙ってたんだろ?こんなに大軍が構えてるんだ。狙わない理由がない」
「そのようだな。シンゲン殿」
「呼び捨てでいいアルフレア!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「本当に出てきた!」
兄さんが予想していたので、対策はしていたが、まさか本当にこの場を襲ってくるとは......。
折角ミューエ達と再会出来るチャンスだと思ったのに、早くもその目論みが潰された。
敵は、橋の中央付近を中心に湧き出している。そして、瞬く間に私達を包囲するように布陣していく。やはり、これまでに私達を襲ってきた敵は、残党ではなくここから湧き出ていたようだ。
兄さん達を助けに行こうかと思ったが、どうやらその必要は無さそうだ。
見えないはずの敵を相手に、2人はバッタバッタとその群れを斬り殺していく。
「デルシア、久しぶり♪」
「ヒィィィ、ね、姉さん!?」
対岸にいたはずのベルディア姉さんがこちら側にいる。
「一刻も早くあなたに会いたくてねぇ。お姉ちゃん我慢できなくなっちゃった」
なっちゃったじゃないよ。作戦とかあるんだから、指示通りに動いてよ......。
「困りますベルディア様。万一の作戦はアルフレア様から伝えられているはずです。持ち場に戻ってください」
ほら、サツキに怒られた。怒られただけで退くことはないだろうけど。
「うちの軍隊は大丈夫よ。みーんな、あの敵に対しての戦い方は心得てるから。そんなことよりも、御自分の軍隊を心配されてはどうかしら?」
普通の人が聞けば心配だらけだが、確かに暗殺隊と奇兵隊ならどうにでも出来そうではある。むしろ、問題なのは普通の人間が9割以上を占める白陽軍。
「......分かりました。これ以上は咎めません。その代わり、私達に手を貸してもらえないでしょうか」
「さっき、あなたと私のお兄様がその約束をしていたはずよ」
「......それもそうですね」
ベルディアとサツキが肩を並べて後方を囲む敵を見据える。
「デルシア、ここはお姉ちゃん達に任せといて。あなたは早くミューエ達のところに行って無事を報告してきなさい」
「え?でも......」
「姉さん。何度も言うが、私達を信用してくれ。私達は、ただの人間だが、姉さんが心配する程弱くはない」
姉さんとサツキの目は本気そのもの。私と話している間も、敵の様子を注意深く観察している。
これ以上ここにいても迷惑をかけるだけだと悟った私は、素直に姉さん達に甘えることにした。
「必ず、生き残ってください」
△▼△▼△▼△▼
△▼△▼△▼△▼
「生き残って、だって」
「相変わらず姉さんは心配症だ。一体、どういう育ち方をしたらああなるのやら」
「あら、私に文句があるって言うの?」
「いえ、立派な子に育てましたな、と」
「ふふ......。さて、お喋りはここまでよ。そろそろ敵の配置も見えたんじゃないかしら?」
「そうですね。ーー全員、染色弾の準備!奴らの正体を明かせ!」
カンナが息を荒げたままベッドに倒れ込む。
早速背中の傷を確認するが、そこにあったはずの傷は、何事も無かったかのように、完璧に消えていた。痛みもない。
「しばらく、寝て、いいですよ、ね......」
この1週間で見た事がないダラけを見せてくる。本当に、お疲れ様だ。
「終わったか?デルシア」
扉越しに兄さんの声が聞こえてくる。
「なんとか終わりました」
「そうか。約束の時間には、間に合いそうだな」
兄さんが兜だけを外した武装状態で入ってくる。時間までまだまだあるのだから、そこまで意気込まなくても。
それはそうと、私の体は全快とまでは行かないものの、ある程度の戦いはできるようになっている。軽く体を動かしても、本当に痛みなど感じない。これが王国最強の治癒術師の力......、恐るべし。
「......戦いの準備は出来ている。今すぐにでも出発は可能だ」
兄さんが窓の外を指さしてそう言う。外を見ると、白陽の軍隊が綺麗に整列して城門に並んでいた。
「待たせたら悪いとか考えるなよ。あれはお前に俺達の団結力を見せるためのものだ。これから、玉座の間で団結式を行う。これに着替えてやって来い」
これに着替えてから、と兄さんは言ったが、どこにも兄さんが用意したであろう服はない。
「おっとすまん。サツキ、持ってきてくれ」
扉が開き、サツキが綺麗に折りたたまれた状態の服を持って入ってくる。
「あれ?それ、私の服じゃありませんよね?」
戦いの時に着ていた物とは全然違う。まあ、ボロボロになっていたし、使い物にはならないことが分かってはいたのだが。
「白陽の武将服をベースに、白と黒で塗装した総指揮官の服だ。腰あたりに白と黒で小さく太陽と月が書かれているのがオシャレポイントだ」
なぜか兄さんが鼻高々にそう言う。まさかとは思うが、兄さんがデザインしたんじゃ......。
「......」
「安心してください姉さん。姉さんが着ていたものがベースなので、動きやすくはなっていますよ。ただ、その分防御が無いも同然なのですが......」
本当だ。見た目こそ違うけれど、陣羽織を除けば、私の服そのもの。ということは、本当にデザインしたのはサツキか。
「1時間後に、玉座にて団結式を行います。遅れずにやって来てください」
そう言うと、兄さんとサツキは部屋を出て行った。ところで、兄さんが鼻高々にしていたのは何だったのだろうか。まあ、あの兄さんの事だし、特に深い意味は無いだろうけど。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
約束の時が来た。
2日ほど前に、この作戦を聞いてからずっと落ち着きを保っていられなかった。この2日間がとても長く感じるほどに。
「改めて全員に言っておく。俺達はこの作戦を完遂する為に、決してギリスにバレる訳にはいかない。極秘裏に、少数ずつでこの城を発つ」
アルフレアの作戦はこうだ。
ギリスにバレる訳にはいかない黒月軍は、暗殺隊と奇兵隊を合わせて2部隊ずつギリエア大橋に向けて発つ。先陣はアルフレアが務め、1番最後の部隊に私達とベルディアが入る。
幸いなことに、この時間はギリスが非覚醒状態。バレる可能性は低いだろうが、念には念を入れてだ。
「俺はそろそろ出ないといけない。ベルディア、後は任せたぞ」
そう言って、アルフレアはこの部屋を出ていった。
「ーーいよいよね。2週間くらい前に、獣人の里でばったり出会ったあなた達が、こうして2つの国を結びつけるだなんて、思ってはいたけどここまで早くにできたのは予想外だったわ」
それは私達も同じ思いであるが、早いに越したことはない。きっと、デルシアもこの状況を作れたことに喜びを感じている。
ただ、喜びを感じているだけではダメだ。むしろ、ここからが本番。口実になったとは言えど、異世界に敵がいたのは予想外。
敵の規模が分からない上に、白陽と黒月の初の共闘。上手くいく補償なんてどこにもないし、上手くいかない可能性だって普通にある。異色の軍隊をデルシアが指揮することになるが、デルシア1人で出来るわけがない。私達が全力でサポートしないといけない。
「......1つだけ、確認させて欲しいのだけれど、向こうに数時間だけいたあなた達が、こっちに戻ってくると9ヶ月も経っていたなよね?」
「ーーええ、そうね」
何となく言いたいことは分かる。
どれだけかかるか分からない戦いで、こっちに戻ってこれた時に、どれだけ時間が経っているのか。
「ベルディアの不安は分かるけれど、もうここはなるようにしかならないわ」
「やっぱりそうよねぇ......。暗殺隊も奇兵隊も家族はいないから大丈夫でしょうけれど、白陽の方はねぇ......」
下手したら、愛する家族との一生の別れとなる可能性もある。デルシアがそこら辺を説明したのかは分からないが、この事を覚えていてくれてるのなら、白陽の軍隊は数がかなり少なくなっていることが予想される。
「デルシアに任せる。それしかないでしょ」
「......まあ、あの子の事だから、白陽の軍隊はたったの1部隊だけ、なんてことも有り得るわね」
そうなったらそうなったで困るのだが、デルシアを信じると決めた以上、文句は言えない。
「そうだカイナ」
「おぉ、呼んだかにゃ?」
「さっきの話を聞いてたら分かると思うのだけれど......」
「ああ、帰ってきたらどれだけ経ってるか分からにゃいってやつ?にゃら、あたしは大丈夫さ。どうせ、里に戻ったら爺ちゃんが死んでるか生きてるかくらいの違いしかないだろうから」
お爺さんもっと存在感を出して!孫に嫌われてるよ!いや、嫌いと言うよりも、どうでもいいって感じになってる!
「なんてのは嘘嘘。そこら辺はちゃんと考えてるけど、分からにゃいんだったら、もうなるようになっちゃえ!って感じで行こー!」
この城にいる間、全然喋らなかったカイナだが、ここまで元気が溢れているのなら、もう問題はないだろう。後は、カイナの言う通り、なるようになれ、ということだ。
「さて、私達もそろそろ出発しましょ。ギリスにだけはバレないようにね」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ーーいよいよ約束の時が来た」
玉座の中央に、周りの兵士達に囲まれるようにして立つ兄さん。その姿は、歴代の白陽王のような凛々しいものとなっていた。ちょっとカッコイイ。
「俺達の妹、デルシアが運び込んで来た情報、異世界からの敵。俺達は、俺達が住む世界を守るために、今日この日をもって黒月との和平を結ぶことにした」
その言葉を聞いた兵士達がざわつきだす。流石に、そこまでの話は通っていなかったか。
「集まってもらっといてなんだが、お前達には、1つ警告しなければならない」
あたりがしんと静まり返る。
「この戦いは、生きて帰れたとしても、愛する者との一生の別れになりうる可能性がある」
再び、あたりがざわつきだす。なぜか、隣のネイも私の肩をつついて「どういう事ですか?」と聞いてきた。
(向こうの世界は、どういうわけかこちらと時間の流れが違うんです。ほんの数時間でも、こっちに戻ってきたら1、2年経ってるかもしれないってことです)
驚くかと思ったが、ネイはなんだそんな事か、と言わんばかりにほっと胸を撫で下ろした。こんな言い方をしていいのかは分からないが、ネイは記憶喪失だから、特に思うことも無いのだろう。
「ーー別れが嫌な者は、今すぐこの場を立ち去れ。生半可な覚悟では、この戦いを生き延びることは出来ない」
ざわつきが静寂へと変わる。
みな、誰とも話さず、1人で悩んでいるようだ。すると、ぽつりぽつりと一部の兵士達がこの場を離れていく。
「......」
離れていく兵士達の姿を、兄さんは黙って見守っている。
「俺は......」
そんな中、1人の兵士が声を上げる。
「俺は、この場に残る」
見ると、二番隊の隊長を務めている人だった。
「俺達が自分可愛さに逃げれば、愛する家族が代わりに死ぬ。そんなの、俺は認めない。それに、可能性ってだけの話だ。絶対とは決まっていない!」
必死に、涙をこらえるかの様な声でそう言う。
「シンゲン様。俺は、俺の為に戦います」
「......」
兄さんは小さく頷くだけだった。
「俺も戦う!」
「俺もだ!」
「私だって!」
その光景を見て、帰りかけていた兵士達が戻ってくる。
あたりから、俺も、私も、という声がたくさん聞こえる。
みな、他人に押し付けたい気持ちを追いやって、この場に残ってくれた。
「お前ら!覚悟は出来ているんだろうな!」
「「「 はい! 」」」
「よし、それだけ聞けたら十分だ!出陣!」
「「「 オォォォ! 」」」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
月に照らされ、赤く染まる橋。ギリエア大橋。
かつて、この橋はよく戦場となり、多くの血を流してきた。
その橋の両端に、白と黒の軍隊が並ぶ。
見据える先には、因縁の敵の姿。だが、そんな関係も今日この日をもって終わりとなる。
白と黒の主将が、橋の中央に並ぶ。双方の後ろには、後に、この戦いの功労者となる者達の姿が並んでいる。
あれだけ意気込んでいた両部隊だが、いざ、前まで敵だった者を目にすると、自然と活気が減っていく。
不安、恐れ、憎悪。
そういった感情が、本当に味方にしていいのかと思わせてくる。
△▼△▼△▼△▼
目の前に構える黒の軍隊。
不思議なものだ。
つい先日まで敵どうしだった我らが、こうして手を取り合うためにこの場にいるとは......。世の中、何が起こるか分かったもんじゃないな。
「......」
こうして、いつまでも佇んでいる訳にはいかない。1歩踏み出して宣言しなければならないというのに、目の前に進む勇気が出てこない。
△▼△▼△▼△▼
△▼△▼△▼△▼
目の前に構える白の軍隊。
こんな日がやってくるなど、考えもしなかった。
敵どうしだった我らが、同じ目的のために手を取り合う。天地がひっくり返らない限りは起きないものだと思っていたが、本当に、天地がひっくり返ってしまったみたいだ。
これも、全てあいつらのせいなのか。
「......」
シンゲンがゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
いつまでもこうして、佇んでいる訳にはいかないな。そう思い、俺も1歩を踏み出す。
△▼△▼△▼△▼
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「月夜に輝きし、黒の軍隊よ。我らは、今日この日をもって黒と白の戦いを終わらせるためにやって来た」
「太陽に照らされし、白の部隊よ。我らは長きに渡る戦乱の時代に終止符を打つためにここまでやって来た」
白と黒の大正の刃が、互いに交差する。
「戦乱の時代は、今終焉を告げ、新たなる時代を築き上げる」
「そして、この世界に平和を、愛する者達と過ごせる豊かな世界を作るため」
両者の目と目が合わさる。
「「 俺達は、互いに手を取り、世界の平和を目指すことを宣言する!! 」」
「グガァォォォ!」
まるで、その誓が合図だったかのように、辺りに異界の敵が湧き出す。
「考えてはいたが、本当に出てくるとは......」
「どうせ、奴らは狙ってたんだろ?こんなに大軍が構えてるんだ。狙わない理由がない」
「そのようだな。シンゲン殿」
「呼び捨てでいいアルフレア!」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「本当に出てきた!」
兄さんが予想していたので、対策はしていたが、まさか本当にこの場を襲ってくるとは......。
折角ミューエ達と再会出来るチャンスだと思ったのに、早くもその目論みが潰された。
敵は、橋の中央付近を中心に湧き出している。そして、瞬く間に私達を包囲するように布陣していく。やはり、これまでに私達を襲ってきた敵は、残党ではなくここから湧き出ていたようだ。
兄さん達を助けに行こうかと思ったが、どうやらその必要は無さそうだ。
見えないはずの敵を相手に、2人はバッタバッタとその群れを斬り殺していく。
「デルシア、久しぶり♪」
「ヒィィィ、ね、姉さん!?」
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「一刻も早くあなたに会いたくてねぇ。お姉ちゃん我慢できなくなっちゃった」
なっちゃったじゃないよ。作戦とかあるんだから、指示通りに動いてよ......。
「困りますベルディア様。万一の作戦はアルフレア様から伝えられているはずです。持ち場に戻ってください」
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普通の人が聞けば心配だらけだが、確かに暗殺隊と奇兵隊ならどうにでも出来そうではある。むしろ、問題なのは普通の人間が9割以上を占める白陽軍。
「......分かりました。これ以上は咎めません。その代わり、私達に手を貸してもらえないでしょうか」
「さっき、あなたと私のお兄様がその約束をしていたはずよ」
「......それもそうですね」
ベルディアとサツキが肩を並べて後方を囲む敵を見据える。
「デルシア、ここはお姉ちゃん達に任せといて。あなたは早くミューエ達のところに行って無事を報告してきなさい」
「え?でも......」
「姉さん。何度も言うが、私達を信用してくれ。私達は、ただの人間だが、姉さんが心配する程弱くはない」
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これ以上ここにいても迷惑をかけるだけだと悟った私は、素直に姉さん達に甘えることにした。
「必ず、生き残ってください」
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「生き残って、だって」
「相変わらず姉さんは心配症だ。一体、どういう育ち方をしたらああなるのやら」
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「いえ、立派な子に育てましたな、と」
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いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
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断罪まで、あと10分。
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すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
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断罪はエンタメへ。
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これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
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処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
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