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第5章 【黒の心】
第5章21 【鬼は輝きを得ず】
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「酷い熱ねぇ......」
「うぅ......ネイのおでこ......熱い......」
「なら座らなきゃいいじゃん」
ネイの魔法によって、なんだかんだあって謎の施設から脱出してきた。今、あそこは騎士団が調査しているはずだ。
邪龍教との戦いの時に使った、時魔法と呼ばれるもの。使いすぎると、こうして過度な体調不良を起こすらしい。とても辛そうである。
「わぁ、もう氷が溶けちゃった」
温泉で簡単にのぼせるくらいだし、これ程の熱は苦痛なんてもんじゃないだろう。言葉にして言うなら生き地獄だ。ネイにかなり無理をさせてしまった。
それにしても、あの謎の大男達はなんだったのだろうか?ネイとユミが捕まえられた施設も謎であったが、全員見た目がほぼ変わりがなかったのも不思議だ。
なんだったのだろうか。
「エフィの回復魔法も一切効かないのよね?」
「......はい。なぜか、どんな魔法も効かないんです」
「こいつは一応神様だからな。人間の魔法が効かなくてもおかしくない」
珍しく神妙な面持ちのヴァルがそう言う。
「その、神様っていうのがよく分かんないんだけど」
「俺だって分からねえよ。ただ、持ってる力は神様だが、体は何も変わらない龍人そのものだ。体調不良だって普通に起こす」
「でもでも、いくらなんでも治癒魔法が効かないっておかしくないですか?」
「......神様だから、他人の魔法を受け付けないとかそういうのがあるのかもしれない」
厄介な能力......なのかな?
敵の攻撃は受け付けないが、味方の治癒術だって受け付けない。いや、待てよ......。
「今まで、エフィが、ネイりんを回復してきた事ってあったっけ?」
「......いや、なかったはずだが、それがどうかしたか?」
ただの記憶違いか......。もしかしたら、今回ので力が暴走してるんじゃないかと思ったが、ただの勘違いだ。今までエフィがネイの治療をしてきたことはない......はず。
色々思うところはあるが、とにかくネイが一刻も早く復活することを祈ろう。
「今、騎士団から連絡があった」
「あ、お帰りフウロ」
「あの施設は、不思議なことに何も残っていなかったそうだ」
「そりゃ、奴らも不必要な物は置いていないだろうしな」
「そうじゃない。何も残っていなかったんだ」
「「 ......?どういうこと? 」」
話が読めない。
「私達が斬り倒していた、あの大男達。どこにもいなかったそうだ」
「「 ......!? 」」
1人や2人ならまだ分かる。でも、今の口ぶりだと、まるで全員いなかったと言ってるようなものだ。
「私達が、確かに倒したはずの大男達は1人もいない。オマケに、何かを研究していたであろう施設なのに、その痕跡がどこにも残っていない。何より、あの施設はこの街を含め、各方面に広がっていたそうだ」
「何のために?」
「さあ。それは分からないが、良くないことが起きているのは事実だ」
「......俺達でどうにかしよう」
「それは私も同意見だが、どこを探すかだ。あれだけの施設を構えていたくらいだ。お前とミイが倒した奴が大元ではないだろう」
「確か、あいつはあの御方とかそんな事を言っていたぞ」
「やはり、ボスはいるみたいだな。それで、次はなぜ奴らがユミを狙っていたのかだ」
「多分、あのネックレスだ」
「「 ネックレス? 」」
依頼された物だが、あれに何があると言うのだろうか。
「あのネックレスは、ネイ曰く未来視の力があるらしい。それと、ミイ曰く事象改変の力もあるらしい」
「「「 事象改変? 」」」
「あれだ。歴史を好き勝手にできる力だって」
「そんな力があったとは......。それを奴らが知っているとしたら......」
今後もユミは狙われる。なぜか、ヴァルからネックレスを奪って逃げたユミだが、奴らの動きさえ掴めればユミの行方も知ることが出来る。
「そうとなれば、早速調査を進めよう。私はもう一度騎士団のところに行ってくる」
「気をつけてね」
なんだかんだでフウロと騎士団は繋がりが深いなぁと思う。ことある事に騎士団のところに行ってるし。まあ、そんなことはどうでも良くて。
「私達はどうする?」
「私はこのままネイさんのお世話です」
「私も、このままネイのお世話かしらねぇ......」
「俺はミイの行方探しだな」
「......?ミイもどっか行っちゃったの?」
「ああ。気になることがあるとか言ってどっかに行っちまった。状況報告もしたいし、俺はミイの行方を探してみる。ついでにユミが見つかれば一石二鳥だな」
「......あれ?契約者の繋がりとかで場所が分かるんじゃないの?」
「それ出来るのネイだけな」
「そうなんだ......。じゃあ、私も手伝う」
「......なんで?」
「だって、1人で探すより2人の方が早いでしょ?」
「お前、もしかして暇してる?」
「ギクッ......」
「......そんな事だろうとは思ったが、まあいいや。探すって言うなら断る理由もない」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
冷たい雪が降っている。
黒い雲に覆われ、一定の形を保った状態で雪は降り続ける。
まるで、私の心のようだ。
道も、輝きも、未来さえも見ることが出来なくなった心で、私は、ただただ意味もなく歩き続けているだけだった。
お祖母様も、こんな気持ちだったのだろうか。
人間達に騙されて、それでも信じて進んだ先には闇が広がっていて。一体何を信じれば良いのやら。
「おい待てよ嬢ちゃん」
「......あなたも、私を追いかけて来るのですか」
黒髪の龍人。背格好も喋り方も全然違うが、どことなくネイに似ている。
「報酬の額はお渡ししたはずでしょう?もうあなた達と私との間には何もないはずです」
「悪ぃが、お前がまだあの男達に狙われてんだ。めんどくせえ話だが、見捨てるわけにはいかねぇ」
そのまま見捨ててくれればいいのに。私の事なんかほっといてくれればいいのに。
目の前に立つ龍人は、私と同じ、『空っぽ』であるはずなのに、どうして見て見ぬふりをしてくれないんだ。
私に付き合ってもいいことはない。
魔女の子孫だがなんだか知らないが、そのせいで謎の人達に狙われ続ける。唯一信用出来た人達も、結局はこのネックレスが目的だった。この人だってそうに違いない。
「警戒されてんなぁ......」
「当たり前です。あなただって、このネックレスが目的でやって来たんでしょ」
「まるで昔の俺みたいだ」
昔のあなたがどんな人だったのかは知らないが、適当に私と重ね合わせないでほしい。
私は私。他の誰とも似ていない。
「言っておくが、俺はそのネックレスにさらさら興味はねえし、あんちゃんの事だって興味はない」
「なら、なぜ来たんですか」
「......似てたから......かな?」
またそれか。
「なあ、少し話をしようぜ」
「あなたと話すことなどありません」
「まあまあそう言うなって」
なんなんだこの人は。
人の後を勝手につけて来たかと思えば、よく分からない事を言う。興味がないのに、なんで話をしようと思う?
話すことなんて何もない。それとも、思い出話でもさせて、弱みを握ろうとでも言うのか。
「なあ、お前は今、幸せか?」
いきなり何を言い出すんだ。
幸せかどうかなんて決まってる。
「あなた達さえいなければ幸せです」
「......そうか。じゃ、誰となら居ても幸せだと言うんだ?」
「......お祖母様だけです」
お父さんもお母さんも要らない。私には、あの人さえ居てくれればそれでいい。
「お前に何があったのかは知らねえが、人を生き返らせるっていうのだけはやめた方がいいぜ。あんたのためだ」
またそうやって人体錬成を否定してくる。
出来ないわけがない。理論は完璧なまでに出来上がっているのだ。例え、錬金術を扱うことが出来なくても、このネックレスを使えばそこの問題は解決できる。
「......これは、俺の知り合いの話なんだがな。人体錬成をした奴の話だ」
「......」
「あいつも、大事な人達がいた。自分の力及ばず死なせてしまった。その後悔は一生付き纏う。その後悔を晴らすために、そいつは何をしたと思う?」
「......話の流れからして、人体錬成以外に無いでしょう」
「そうだ。そいつは持ち得る限りの知力を尽くして、人体錬成の論理を完成させた。実際に錬成して、見事に失敗したけどな」
「それは、その人の知力が足りなかっただけでしょ」
「これでも、当時の王国最高の天才だったんだけどな。むしろ、今の時代のどの化学者よりも賢い。そんな奴が失敗したんだ」
「それは、論理が完璧に作られていなかったから」
「そうだと良かったんだがな。現実はそんなに甘くねえ。間違ってたのは、人体錬成をしようとした事だ」
「なぜ?」
「簡単な話、その行いは神様の逆鱗に触れちまったんだ。普通は歴史からその姿自体を消してしまうらしいが、そいつは運良くこの世に残った」
「神様なんて、いるわけがないでしょ......」
「お前も見ただろ?あのボインな龍人のアホんだら。あいつが神様だ」
『人を蘇らせるなんてバカなことはせん方がええ。人が人を作るなんぞ神の祖行じゃ。神の怒りに触れるその行いは、その身をも滅ぼすぞ』
あの人は、全てを知っていたのだろうか。所詮、私達人間は思ったままのことすら出来ない。何かに縛られ、何かに与えられなければ生きていけないのだろうか。
理不尽に抗うことすら出来ず、不幸を防ぐことも出来ず、幸せは誰かに奪われ、その身を焦がしていく。
「それでも......それでも私は、お祖母様に会いたい」
「1度死んじまった人間はーー」
「分かってる!分かってるの......」
あの人にも言われた。死んでしまった人は蘇らない。
それでも私は、ただ1秒でもいいから、もう一度あの人に会いたい。その為ならなんだってする覚悟だったのに......。
どうして私の足は、こんなにも震えているのだろう。
「......いい加減、現実を認めろ。ユナは蘇らねえ。お前の不幸は取り除かれねえ。それでも、前向いて別の幸せを探すんだろうが」
「分かってる!」
それが出来たらどれだけ楽だったことだろうか。
私には、あの人しかいない。
身寄りのない私を助けてくれ、我が子のようにこっちの世界で育ててもらえた。両親とは大違い。
こんな、こんな暖かいものを私は望んでいたことに気づいた。気づいてしまった。
気づかなければ、今、こうして苦しむ必要もなかったのに。
「悪いことは言わねえ。そのネックレス。俺に寄越しな。お前が持ってても、幸せにはならねえよ」
「......嫌だ。嫌だ!」
「......強制はしない。だが、これだけは覚えてろ。死人に縋るな。死人は生き人のためには何もしてくれねえよ」
冷たい言葉が、私の背中にずっしりと乗りかかる。
「......前向いて生きろよ。あんたはまだ、何もやってねえ。俺達とは違うんだ。道は正せる」
小さな手が、私の震える肩に当たる。
そういえば、昔、お祖母様にもこうしてもらったような気がする。
小さくて、簡単に握り潰せれそうな手だったが、とても暖かかった。
「私は......あの人無しで......幸せになれるの?」
「なれるさ。どん底に落ちた俺が幸せにいられるんだ。悪い事を1つもしてねえお前は、もっと幸せになれるはずだ」
「......」
幸せに......なれるだろうか。
縋るものも何もないままで、私は何をすればいいのだろう。
前を向いて、幸せを見つけるしかないのか......。地道だが、それが私を解放してくれる唯一の手段なのか......。
「困るのよねぇ。そういうの」
突然の発砲音に合わせて、人影が私の前を横切った。
「うっ......」
「......まさか、私を庇って......」
「へっ......依頼人を守るのは、俺達の仕事らしい......」
真っ白な雪原がとどんどん赤く染ってゆく。
「ユミちゃん。そんな奴に騙されちゃダメよ?人は蘇らせることが出来る。あなたのおばあちゃんは、生き返ることが出来るのよ」
「......今更、何をしに戻ってきたんですか」
「やーねぇ。あの男にはきつく言っておいてくださいあげたわよ。そのネックレスを渡してくれれば、約束通りあなたの望みを叶えてあげるから」
今更あいつらの言うことを信用することはできない。
「ユミ......逃げ、ろ......」
「でも、あなたが......」
「俺のことは......気にすんな......。どうせ、長くない......命だ......」
ダメだ。ここまで来て見捨てることは出来ない。この人が私を見捨てなかったように、私も見捨てるわけにはいかない。
借りは返しておかないといけない。
「......クソっ......。悪ぃ......」
「あなたのせいじゃありません。私が悪いんです」
「いいや、悪いのはそこの龍人よ。太古の時代に龍人が何をやったか知ってるわよね?村や町を荒らし、戦争を引き起こし、暗黒の時代を作った。私はそんな龍人が大嫌いなのよ!」
それはただの感情の押しつけだ。この人は悪い人じゃない。
後ろは不幸にも崖。逃げ場はなし。絶体絶命の危機だ。
「......仕方ねえ。もうひと踏ん張り......しますか......」
血が出ている腹を押さえて、黒髪の少女が立ち上がる。
「俺の名前はミイだ。覚えておけ」
「あら?もう1回撃たれたいのかしら?」
「......ダメ」
体が動かない。
「俺は、俺が思ったままのことをするだけだ」
「......ダメ!」
「死になさい」
白い雪原に、血溜まりができる。私の頬にも飛び散り、嫌な暖かさを覚えさせる。
「嫌ぁぁぁ!」
「うぅ......ネイのおでこ......熱い......」
「なら座らなきゃいいじゃん」
ネイの魔法によって、なんだかんだあって謎の施設から脱出してきた。今、あそこは騎士団が調査しているはずだ。
邪龍教との戦いの時に使った、時魔法と呼ばれるもの。使いすぎると、こうして過度な体調不良を起こすらしい。とても辛そうである。
「わぁ、もう氷が溶けちゃった」
温泉で簡単にのぼせるくらいだし、これ程の熱は苦痛なんてもんじゃないだろう。言葉にして言うなら生き地獄だ。ネイにかなり無理をさせてしまった。
それにしても、あの謎の大男達はなんだったのだろうか?ネイとユミが捕まえられた施設も謎であったが、全員見た目がほぼ変わりがなかったのも不思議だ。
なんだったのだろうか。
「エフィの回復魔法も一切効かないのよね?」
「......はい。なぜか、どんな魔法も効かないんです」
「こいつは一応神様だからな。人間の魔法が効かなくてもおかしくない」
珍しく神妙な面持ちのヴァルがそう言う。
「その、神様っていうのがよく分かんないんだけど」
「俺だって分からねえよ。ただ、持ってる力は神様だが、体は何も変わらない龍人そのものだ。体調不良だって普通に起こす」
「でもでも、いくらなんでも治癒魔法が効かないっておかしくないですか?」
「......神様だから、他人の魔法を受け付けないとかそういうのがあるのかもしれない」
厄介な能力......なのかな?
敵の攻撃は受け付けないが、味方の治癒術だって受け付けない。いや、待てよ......。
「今まで、エフィが、ネイりんを回復してきた事ってあったっけ?」
「......いや、なかったはずだが、それがどうかしたか?」
ただの記憶違いか......。もしかしたら、今回ので力が暴走してるんじゃないかと思ったが、ただの勘違いだ。今までエフィがネイの治療をしてきたことはない......はず。
色々思うところはあるが、とにかくネイが一刻も早く復活することを祈ろう。
「今、騎士団から連絡があった」
「あ、お帰りフウロ」
「あの施設は、不思議なことに何も残っていなかったそうだ」
「そりゃ、奴らも不必要な物は置いていないだろうしな」
「そうじゃない。何も残っていなかったんだ」
「「 ......?どういうこと? 」」
話が読めない。
「私達が斬り倒していた、あの大男達。どこにもいなかったそうだ」
「「 ......!? 」」
1人や2人ならまだ分かる。でも、今の口ぶりだと、まるで全員いなかったと言ってるようなものだ。
「私達が、確かに倒したはずの大男達は1人もいない。オマケに、何かを研究していたであろう施設なのに、その痕跡がどこにも残っていない。何より、あの施設はこの街を含め、各方面に広がっていたそうだ」
「何のために?」
「さあ。それは分からないが、良くないことが起きているのは事実だ」
「......俺達でどうにかしよう」
「それは私も同意見だが、どこを探すかだ。あれだけの施設を構えていたくらいだ。お前とミイが倒した奴が大元ではないだろう」
「確か、あいつはあの御方とかそんな事を言っていたぞ」
「やはり、ボスはいるみたいだな。それで、次はなぜ奴らがユミを狙っていたのかだ」
「多分、あのネックレスだ」
「「 ネックレス? 」」
依頼された物だが、あれに何があると言うのだろうか。
「あのネックレスは、ネイ曰く未来視の力があるらしい。それと、ミイ曰く事象改変の力もあるらしい」
「「「 事象改変? 」」」
「あれだ。歴史を好き勝手にできる力だって」
「そんな力があったとは......。それを奴らが知っているとしたら......」
今後もユミは狙われる。なぜか、ヴァルからネックレスを奪って逃げたユミだが、奴らの動きさえ掴めればユミの行方も知ることが出来る。
「そうとなれば、早速調査を進めよう。私はもう一度騎士団のところに行ってくる」
「気をつけてね」
なんだかんだでフウロと騎士団は繋がりが深いなぁと思う。ことある事に騎士団のところに行ってるし。まあ、そんなことはどうでも良くて。
「私達はどうする?」
「私はこのままネイさんのお世話です」
「私も、このままネイのお世話かしらねぇ......」
「俺はミイの行方探しだな」
「......?ミイもどっか行っちゃったの?」
「ああ。気になることがあるとか言ってどっかに行っちまった。状況報告もしたいし、俺はミイの行方を探してみる。ついでにユミが見つかれば一石二鳥だな」
「......あれ?契約者の繋がりとかで場所が分かるんじゃないの?」
「それ出来るのネイだけな」
「そうなんだ......。じゃあ、私も手伝う」
「......なんで?」
「だって、1人で探すより2人の方が早いでしょ?」
「お前、もしかして暇してる?」
「ギクッ......」
「......そんな事だろうとは思ったが、まあいいや。探すって言うなら断る理由もない」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
冷たい雪が降っている。
黒い雲に覆われ、一定の形を保った状態で雪は降り続ける。
まるで、私の心のようだ。
道も、輝きも、未来さえも見ることが出来なくなった心で、私は、ただただ意味もなく歩き続けているだけだった。
お祖母様も、こんな気持ちだったのだろうか。
人間達に騙されて、それでも信じて進んだ先には闇が広がっていて。一体何を信じれば良いのやら。
「おい待てよ嬢ちゃん」
「......あなたも、私を追いかけて来るのですか」
黒髪の龍人。背格好も喋り方も全然違うが、どことなくネイに似ている。
「報酬の額はお渡ししたはずでしょう?もうあなた達と私との間には何もないはずです」
「悪ぃが、お前がまだあの男達に狙われてんだ。めんどくせえ話だが、見捨てるわけにはいかねぇ」
そのまま見捨ててくれればいいのに。私の事なんかほっといてくれればいいのに。
目の前に立つ龍人は、私と同じ、『空っぽ』であるはずなのに、どうして見て見ぬふりをしてくれないんだ。
私に付き合ってもいいことはない。
魔女の子孫だがなんだか知らないが、そのせいで謎の人達に狙われ続ける。唯一信用出来た人達も、結局はこのネックレスが目的だった。この人だってそうに違いない。
「警戒されてんなぁ......」
「当たり前です。あなただって、このネックレスが目的でやって来たんでしょ」
「まるで昔の俺みたいだ」
昔のあなたがどんな人だったのかは知らないが、適当に私と重ね合わせないでほしい。
私は私。他の誰とも似ていない。
「言っておくが、俺はそのネックレスにさらさら興味はねえし、あんちゃんの事だって興味はない」
「なら、なぜ来たんですか」
「......似てたから......かな?」
またそれか。
「なあ、少し話をしようぜ」
「あなたと話すことなどありません」
「まあまあそう言うなって」
なんなんだこの人は。
人の後を勝手につけて来たかと思えば、よく分からない事を言う。興味がないのに、なんで話をしようと思う?
話すことなんて何もない。それとも、思い出話でもさせて、弱みを握ろうとでも言うのか。
「なあ、お前は今、幸せか?」
いきなり何を言い出すんだ。
幸せかどうかなんて決まってる。
「あなた達さえいなければ幸せです」
「......そうか。じゃ、誰となら居ても幸せだと言うんだ?」
「......お祖母様だけです」
お父さんもお母さんも要らない。私には、あの人さえ居てくれればそれでいい。
「お前に何があったのかは知らねえが、人を生き返らせるっていうのだけはやめた方がいいぜ。あんたのためだ」
またそうやって人体錬成を否定してくる。
出来ないわけがない。理論は完璧なまでに出来上がっているのだ。例え、錬金術を扱うことが出来なくても、このネックレスを使えばそこの問題は解決できる。
「......これは、俺の知り合いの話なんだがな。人体錬成をした奴の話だ」
「......」
「あいつも、大事な人達がいた。自分の力及ばず死なせてしまった。その後悔は一生付き纏う。その後悔を晴らすために、そいつは何をしたと思う?」
「......話の流れからして、人体錬成以外に無いでしょう」
「そうだ。そいつは持ち得る限りの知力を尽くして、人体錬成の論理を完成させた。実際に錬成して、見事に失敗したけどな」
「それは、その人の知力が足りなかっただけでしょ」
「これでも、当時の王国最高の天才だったんだけどな。むしろ、今の時代のどの化学者よりも賢い。そんな奴が失敗したんだ」
「それは、論理が完璧に作られていなかったから」
「そうだと良かったんだがな。現実はそんなに甘くねえ。間違ってたのは、人体錬成をしようとした事だ」
「なぜ?」
「簡単な話、その行いは神様の逆鱗に触れちまったんだ。普通は歴史からその姿自体を消してしまうらしいが、そいつは運良くこの世に残った」
「神様なんて、いるわけがないでしょ......」
「お前も見ただろ?あのボインな龍人のアホんだら。あいつが神様だ」
『人を蘇らせるなんてバカなことはせん方がええ。人が人を作るなんぞ神の祖行じゃ。神の怒りに触れるその行いは、その身をも滅ぼすぞ』
あの人は、全てを知っていたのだろうか。所詮、私達人間は思ったままのことすら出来ない。何かに縛られ、何かに与えられなければ生きていけないのだろうか。
理不尽に抗うことすら出来ず、不幸を防ぐことも出来ず、幸せは誰かに奪われ、その身を焦がしていく。
「それでも......それでも私は、お祖母様に会いたい」
「1度死んじまった人間はーー」
「分かってる!分かってるの......」
あの人にも言われた。死んでしまった人は蘇らない。
それでも私は、ただ1秒でもいいから、もう一度あの人に会いたい。その為ならなんだってする覚悟だったのに......。
どうして私の足は、こんなにも震えているのだろう。
「......いい加減、現実を認めろ。ユナは蘇らねえ。お前の不幸は取り除かれねえ。それでも、前向いて別の幸せを探すんだろうが」
「分かってる!」
それが出来たらどれだけ楽だったことだろうか。
私には、あの人しかいない。
身寄りのない私を助けてくれ、我が子のようにこっちの世界で育ててもらえた。両親とは大違い。
こんな、こんな暖かいものを私は望んでいたことに気づいた。気づいてしまった。
気づかなければ、今、こうして苦しむ必要もなかったのに。
「悪いことは言わねえ。そのネックレス。俺に寄越しな。お前が持ってても、幸せにはならねえよ」
「......嫌だ。嫌だ!」
「......強制はしない。だが、これだけは覚えてろ。死人に縋るな。死人は生き人のためには何もしてくれねえよ」
冷たい言葉が、私の背中にずっしりと乗りかかる。
「......前向いて生きろよ。あんたはまだ、何もやってねえ。俺達とは違うんだ。道は正せる」
小さな手が、私の震える肩に当たる。
そういえば、昔、お祖母様にもこうしてもらったような気がする。
小さくて、簡単に握り潰せれそうな手だったが、とても暖かかった。
「私は......あの人無しで......幸せになれるの?」
「なれるさ。どん底に落ちた俺が幸せにいられるんだ。悪い事を1つもしてねえお前は、もっと幸せになれるはずだ」
「......」
幸せに......なれるだろうか。
縋るものも何もないままで、私は何をすればいいのだろう。
前を向いて、幸せを見つけるしかないのか......。地道だが、それが私を解放してくれる唯一の手段なのか......。
「困るのよねぇ。そういうの」
突然の発砲音に合わせて、人影が私の前を横切った。
「うっ......」
「......まさか、私を庇って......」
「へっ......依頼人を守るのは、俺達の仕事らしい......」
真っ白な雪原がとどんどん赤く染ってゆく。
「ユミちゃん。そんな奴に騙されちゃダメよ?人は蘇らせることが出来る。あなたのおばあちゃんは、生き返ることが出来るのよ」
「......今更、何をしに戻ってきたんですか」
「やーねぇ。あの男にはきつく言っておいてくださいあげたわよ。そのネックレスを渡してくれれば、約束通りあなたの望みを叶えてあげるから」
今更あいつらの言うことを信用することはできない。
「ユミ......逃げ、ろ......」
「でも、あなたが......」
「俺のことは......気にすんな......。どうせ、長くない......命だ......」
ダメだ。ここまで来て見捨てることは出来ない。この人が私を見捨てなかったように、私も見捨てるわけにはいかない。
借りは返しておかないといけない。
「......クソっ......。悪ぃ......」
「あなたのせいじゃありません。私が悪いんです」
「いいや、悪いのはそこの龍人よ。太古の時代に龍人が何をやったか知ってるわよね?村や町を荒らし、戦争を引き起こし、暗黒の時代を作った。私はそんな龍人が大嫌いなのよ!」
それはただの感情の押しつけだ。この人は悪い人じゃない。
後ろは不幸にも崖。逃げ場はなし。絶体絶命の危機だ。
「......仕方ねえ。もうひと踏ん張り......しますか......」
血が出ている腹を押さえて、黒髪の少女が立ち上がる。
「俺の名前はミイだ。覚えておけ」
「あら?もう1回撃たれたいのかしら?」
「......ダメ」
体が動かない。
「俺は、俺が思ったままのことをするだけだ」
「......ダメ!」
「死になさい」
白い雪原に、血溜まりができる。私の頬にも飛び散り、嫌な暖かさを覚えさせる。
「嫌ぁぁぁ!」
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驚く事に今までの人生で身に付けた技術、知識はそのままだから有能だけど、いつ巻き戻るか分からないから結婚とかはすっかり諦めていた。
だけど今回は違う。
強力な仲間が居る。
アリッサは今度こそ自分の人生をまっとうしようと前を向く事にした。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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