グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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第5章 【黒の心】

第5章21 【鬼は輝きを得ず】

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「酷い熱ねぇ......」

「うぅ......ネイのおでこ......熱い......」

「なら座らなきゃいいじゃん」

 ネイの魔法によって、なんだかんだあって謎の施設から脱出してきた。今、あそこは騎士団が調査しているはずだ。

 邪龍教との戦いの時に使った、時魔法と呼ばれるもの。使いすぎると、こうして過度な体調不良を起こすらしい。とても辛そうである。

「わぁ、もう氷が溶けちゃった」

 温泉で簡単にのぼせるくらいだし、これ程の熱は苦痛なんてもんじゃないだろう。言葉にして言うなら生き地獄だ。ネイにかなり無理をさせてしまった。

 それにしても、あの謎の大男達はなんだったのだろうか?ネイとユミが捕まえられた施設も謎であったが、全員見た目がほぼ変わりがなかったのも不思議だ。

 なんだったのだろうか。

「エフィの回復魔法も一切効かないのよね?」

「......はい。なぜか、どんな魔法も効かないんです」

「こいつは一応神様だからな。人間の魔法が効かなくてもおかしくない」

 珍しく神妙な面持ちのヴァルがそう言う。

「その、神様っていうのがよく分かんないんだけど」

「俺だって分からねえよ。ただ、持ってる力は神様だが、体は何も変わらない龍人そのものだ。体調不良だって普通に起こす」

「でもでも、いくらなんでも治癒魔法が効かないっておかしくないですか?」

「......神様だから、他人の魔法を受け付けないとかそういうのがあるのかもしれない」

 厄介な能力......なのかな?

 敵の攻撃は受け付けないが、味方の治癒術だって受け付けない。いや、待てよ......。

「今まで、エフィが、ネイりんを回復してきた事ってあったっけ?」

「......いや、なかったはずだが、それがどうかしたか?」

 ただの記憶違いか......。もしかしたら、今回ので力が暴走してるんじゃないかと思ったが、ただの勘違いだ。今までエフィがネイの治療をしてきたことはない......はず。

 色々思うところはあるが、とにかくネイが一刻も早く復活することを祈ろう。

「今、騎士団から連絡があった」

「あ、お帰りフウロ」

「あの施設は、不思議なことに何も残っていなかったそうだ」

「そりゃ、奴らも不必要な物は置いていないだろうしな」

「そうじゃない。何も残っていなかったんだ」

「「 ......?どういうこと? 」」

 話が読めない。

「私達が斬り倒していた、あの大男達。どこにもいなかったそうだ」

「「 ......!? 」」

 1人や2人ならまだ分かる。でも、今の口ぶりだと、まるで全員いなかったと言ってるようなものだ。

「私達が、確かに倒したはずの大男達は1人もいない。オマケに、何かを研究していたであろう施設なのに、その痕跡がどこにも残っていない。何より、あの施設はこの街を含め、各方面に広がっていたそうだ」

「何のために?」

「さあ。それは分からないが、良くないことが起きているのは事実だ」

「......俺達でどうにかしよう」

「それは私も同意見だが、どこを探すかだ。あれだけの施設を構えていたくらいだ。お前とミイが倒した奴が大元ではないだろう」

「確か、あいつはあの御方とかそんな事を言っていたぞ」

「やはり、ボスはいるみたいだな。それで、次はなぜ奴らがユミを狙っていたのかだ」

「多分、あのネックレスだ」

「「 ネックレス? 」」

 依頼された物だが、あれに何があると言うのだろうか。

「あのネックレスは、ネイ曰く未来視の力があるらしい。それと、ミイ曰く事象改変の力もあるらしい」

「「「 事象改変? 」」」

「あれだ。歴史を好き勝手にできる力だって」

「そんな力があったとは......。それを奴らが知っているとしたら......」

 今後もユミは狙われる。なぜか、ヴァルからネックレスを奪って逃げたユミだが、奴らの動きさえ掴めればユミの行方も知ることが出来る。

「そうとなれば、早速調査を進めよう。私はもう一度騎士団のところに行ってくる」

「気をつけてね」

 なんだかんだでフウロと騎士団は繋がりが深いなぁと思う。ことある事に騎士団のところに行ってるし。まあ、そんなことはどうでも良くて。

「私達はどうする?」

「私はこのままネイさんのお世話です」

「私も、このままネイのお世話かしらねぇ......」

「俺はミイの行方探しだな」

「......?ミイもどっか行っちゃったの?」

「ああ。気になることがあるとか言ってどっかに行っちまった。状況報告もしたいし、俺はミイの行方を探してみる。ついでにユミが見つかれば一石二鳥だな」

「......あれ?契約者の繋がりとかで場所が分かるんじゃないの?」

「それ出来るのネイだけな」

「そうなんだ......。じゃあ、私も手伝う」

「......なんで?」

「だって、1人で探すより2人の方が早いでしょ?」

「お前、もしかして暇してる?」

「ギクッ......」

「......そんな事だろうとは思ったが、まあいいや。探すって言うなら断る理由もない」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 冷たい雪が降っている。

 黒い雲に覆われ、一定の形を保った状態で雪は降り続ける。

 まるで、私の心のようだ。

 道も、輝きも、未来さえも見ることが出来なくなった心で、私は、ただただ意味もなく歩き続けているだけだった。

 お祖母様も、こんな気持ちだったのだろうか。

 人間達に騙されて、それでも信じて進んだ先には闇が広がっていて。一体何を信じれば良いのやら。

「おい待てよ嬢ちゃん」

「......あなたも、私を追いかけて来るのですか」

 黒髪の龍人。背格好も喋り方も全然違うが、どことなくネイに似ている。

「報酬の額はお渡ししたはずでしょう?もうあなた達と私との間には何もないはずです」

「悪ぃが、お前がまだあの男達に狙われてんだ。めんどくせえ話だが、見捨てるわけにはいかねぇ」

 そのまま見捨ててくれればいいのに。私の事なんかほっといてくれればいいのに。

 目の前に立つ龍人は、私と同じ、『空っぽ』であるはずなのに、どうして見て見ぬふりをしてくれないんだ。

 私に付き合ってもいいことはない。

 魔女の子孫だがなんだか知らないが、そのせいで謎の人達に狙われ続ける。唯一信用出来た人達も、結局はこのネックレスが目的だった。この人だってそうに違いない。

「警戒されてんなぁ......」

「当たり前です。あなただって、このネックレスが目的でやって来たんでしょ」

「まるで昔の俺みたいだ」

 昔のあなたがどんな人だったのかは知らないが、適当に私と重ね合わせないでほしい。

 私は私。他の誰とも似ていない。

「言っておくが、俺はそのネックレスにさらさら興味はねえし、あんちゃんの事だって興味はない」

「なら、なぜ来たんですか」

「......似てたから......かな?」

 またそれか。

「なあ、少し話をしようぜ」

「あなたと話すことなどありません」

「まあまあそう言うなって」

 なんなんだこの人は。

 人の後を勝手につけて来たかと思えば、よく分からない事を言う。興味がないのに、なんで話をしようと思う?

 話すことなんて何もない。それとも、思い出話でもさせて、弱みを握ろうとでも言うのか。

「なあ、お前は今、幸せか?」

 いきなり何を言い出すんだ。

 幸せかどうかなんて決まってる。

「あなた達さえいなければ幸せです」

「......そうか。じゃ、誰となら居ても幸せだと言うんだ?」

「......お祖母様だけです」

 お父さんもお母さんも要らない。私には、あの人さえ居てくれればそれでいい。

「お前に何があったのかは知らねえが、人を生き返らせるっていうのだけはやめた方がいいぜ。あんたのためだ」

 またそうやって人体錬成を否定してくる。

 出来ないわけがない。理論は完璧なまでに出来上がっているのだ。例え、錬金術を扱うことが出来なくても、このネックレスを使えばそこの問題は解決できる。

「......これは、俺の知り合いの話なんだがな。人体錬成をした奴の話だ」

「......」

「あいつも、大事な人達がいた。自分の力及ばず死なせてしまった。その後悔は一生付き纏う。その後悔を晴らすために、そいつは何をしたと思う?」

「......話の流れからして、人体錬成以外に無いでしょう」

「そうだ。そいつは持ち得る限りの知力を尽くして、人体錬成の論理を完成させた。実際に錬成して、見事に失敗したけどな」

「それは、その人の知力が足りなかっただけでしょ」

「これでも、当時の王国最高の天才だったんだけどな。むしろ、今の時代のどの化学者よりも賢い。そんな奴が失敗したんだ」

「それは、論理が完璧に作られていなかったから」

「そうだと良かったんだがな。現実はそんなに甘くねえ。間違ってたのは、人体錬成をしようとした事だ」

「なぜ?」

「簡単な話、その行いは神様の逆鱗に触れちまったんだ。普通は歴史からその姿自体を消してしまうらしいが、そいつは運良くこの世に残った」

「神様なんて、いるわけがないでしょ......」

「お前も見ただろ?あのボインな龍人のアホんだら。あいつが神様だ」

 『人を蘇らせるなんてバカなことはせん方がええ。人が人を作るなんぞ神の祖行じゃ。神の怒りに触れるその行いは、その身をも滅ぼすぞ』

 あの人は、全てを知っていたのだろうか。所詮、私達人間は思ったままのことすら出来ない。何かに縛られ、何かに与えられなければ生きていけないのだろうか。

 理不尽に抗うことすら出来ず、不幸を防ぐことも出来ず、幸せは誰かに奪われ、その身を焦がしていく。

「それでも......それでも私は、お祖母様に会いたい」

「1度死んじまった人間はーー」

「分かってる!分かってるの......」

 あの人にも言われた。死んでしまった人は蘇らない。

 それでも私は、ただ1秒でもいいから、もう一度あの人に会いたい。その為ならなんだってする覚悟だったのに......。

 どうして私の足は、こんなにも震えているのだろう。

「......いい加減、現実を認めろ。ユナは蘇らねえ。お前の不幸は取り除かれねえ。それでも、前向いて別の幸せを探すんだろうが」

「分かってる!」

 それが出来たらどれだけ楽だったことだろうか。

 私には、あの人しかいない。

 身寄りのない私を助けてくれ、我が子のようにこっちの世界で育ててもらえた。両親とは大違い。

 こんな、こんな暖かいものを私は望んでいたことに気づいた。気づいてしまった。

 気づかなければ、今、こうして苦しむ必要もなかったのに。

「悪いことは言わねえ。そのネックレス。俺に寄越しな。お前が持ってても、幸せにはならねえよ」

「......嫌だ。嫌だ!」

「......強制はしない。だが、これだけは覚えてろ。死人に縋るな。死人は生き人のためには何もしてくれねえよ」

 冷たい言葉が、私の背中にずっしりと乗りかかる。

「......前向いて生きろよ。あんたはまだ、何もやってねえ。俺達とは違うんだ。道は正せる」

 小さな手が、私の震える肩に当たる。

 そういえば、昔、お祖母様にもこうしてもらったような気がする。

 小さくて、簡単に握り潰せれそうな手だったが、とても暖かかった。

「私は......あの人無しで......幸せになれるの?」

「なれるさ。どん底に落ちた俺が幸せにいられるんだ。悪い事を1つもしてねえお前は、もっと幸せになれるはずだ」

「......」

 幸せに......なれるだろうか。

 縋るものも何もないままで、私は何をすればいいのだろう。

 前を向いて、幸せを見つけるしかないのか......。地道だが、それが私を解放してくれる唯一の手段なのか......。

「困るのよねぇ。そういうの」

 突然の発砲音に合わせて、人影が私の前を横切った。

「うっ......」

「......まさか、私を庇って......」

「へっ......依頼人を守るのは、俺達の仕事らしい......」

 真っ白な雪原がとどんどん赤く染ってゆく。

「ユミちゃん。そんな奴に騙されちゃダメよ?人は蘇らせることが出来る。あなたのおばあちゃんは、生き返ることが出来るのよ」

「......今更、何をしに戻ってきたんですか」

「やーねぇ。あの男にはきつく言っておいてくださいあげたわよ。そのネックレスを渡してくれれば、約束通りあなたの望みを叶えてあげるから」

 今更あいつらの言うことを信用することはできない。

「ユミ......逃げ、ろ......」

「でも、あなたが......」

「俺のことは......気にすんな......。どうせ、長くない......命だ......」

 ダメだ。ここまで来て見捨てることは出来ない。この人が私を見捨てなかったように、私も見捨てるわけにはいかない。

 借りは返しておかないといけない。

「......クソっ......。悪ぃ......」

「あなたのせいじゃありません。私が悪いんです」

「いいや、悪いのはそこの龍人よ。太古の時代に龍人が何をやったか知ってるわよね?村や町を荒らし、戦争を引き起こし、暗黒の時代を作った。私はそんな龍人が大嫌いなのよ!」

 それはただの感情の押しつけだ。この人は悪い人じゃない。

 後ろは不幸にも崖。逃げ場はなし。絶体絶命の危機だ。

「......仕方ねえ。もうひと踏ん張り......しますか......」

 血が出ている腹を押さえて、黒髪の少女が立ち上がる。

「俺の名前はミイだ。覚えておけ」

「あら?もう1回撃たれたいのかしら?」

「......ダメ」

 体が動かない。

「俺は、俺が思ったままのことをするだけだ」

「......ダメ!」

「死になさい」

 白い雪原に、血溜まりができる。私の頬にも飛び散り、嫌な暖かさを覚えさせる。

「嫌ぁぁぁ!」
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