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第5章 【黒の心】
第5章20 【龍は闇を得ず】
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「はぁ、はぁ......はぁ......」
目の前を走るネイの速度が徐々に遅くなっている。
「だ、大丈夫ですか?」
「す、すまぬ。なんせ、体力がないもんじゃから」
怠惰だから、運動不足なのか。そう考えると納得。
「あとどれくらい時間を止めていられるんですか?」
「やろうと思えばずっとじゃが......」
「......何か、不都合が発生するんですね」
「言うて妾だけじゃがな。歴史書の管理が面倒くさくなるだけじゃ」
「その歴史書っていうのは?」
「今は気にせんでええ。お主らにも、妾にもこれといった損害はない」
ネイさんの言うことだから大丈夫なのだろう。多分。
「あ、この奥です!」
広間に出て、見覚えのある階段が見えた。
「上に上がればヴァル達がおるじゃろうが......」
「この階層から考えると、下に降りてさっさとネックレスを取り戻した方が早いです」
「......信じるからな」
本来なら、ネイさんの仲間を連れて行った方が確実かもしれない。でも、時間を止めていられる状況とネイさんの体力的な問題で、取り戻しに行った方が早いとなると、取り戻して逃げに徹した方が確実だと思う。
正しいかどうかなんて分からない。でも、今の時間を止めていられる状況を長く利用した方が良いと思う。ネイさんはこれといった損害はないと言っていたが、多分嘘だ。お祖母様も、未来視を使わなかったのは、何かしらのデメリットがあるからだ。そうじゃないと説明がつかない。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
周りの時間が止まった。
ネイが力を使ったようだ。
「......やっぱり、俺とお前以外は動けないのか」
「そもそも、お前が動けてること自体驚きなんだが」
「多分、ネイの契約者だから効かないとかそんなもんだろ」
「だろうな。で、どうする?この無敵時間を」
時間が止まっている状況をどう利用するべきか。先にネイと合流するべきか。
でも、あいつがずっと時間を止めていられるわけではない。せめて、ここにいる大男達を片付けておくか。
「ヴァル、ここは俺が全部やっとく。お前はあいつを探して連れて来い」
「分かった」
ミイに任せておけば、適当に血溜まりを作って終わっているだろう。なので、俺はネイを探しに行く。幸い、下に降りるための階段はすぐ目の前だ。
「任せたぞ」
「任せとけっても、動かねえ人形相手に負けねえけどな」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
あたりを確認。時を止めてるから心配する必要はないのだが、怒り心頭状態のレイジが無効化してきた例外もある。慎重に進んで損はない。
「はぁ、はぁ......」
「あの、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫じゃ」
こんな人間相手に心配されるほどやわではない。
広間には誰もいないみたいだ。この騒ぎで大方出払っているのであろう。
「......行くぞ」
「はい」
いくら最下層と言えど、あのネックレスがある保証はない。むしろ、あの大男が持っている可能性の方が高い。そして、あいつがここまで出払ってきてないところを見ると、ここでぶんぞりかえっていると踏んだのだが。
「誰もいないですね」
当てが外れたか......。まあ、目的の物を手に入れたんだし、私達のことは放っておいてトンズラしてる可能性もある。
「すみません。こんなところまで付き合わせてしまって」
「いや、まだ諦めるには早い」
「どうするつもりですか?」
「ルフォー・ア・オブジェクトIDI4376MS・ディスチャージ」
あのネックレスの場所が私の視界に映し出される。どうやら、ここよりも奥の隠し部屋にあるようだ。
「見つけたぞ」
「ほ、本当ですか?」
「この先に、隠し部屋が、あるそうじゃ。行くぞ」
「わ、分かりました」
いかんな。そろそろ限界が近づいてきておる。ユミを、不安にさせておるが、あともうちょっと耐えねば......。
「見た感じ......普通の壁ですけど......」
「解き方があるのじゃろうな」
解き方を探している時間はない。所詮は壁。壊せばどうにかなる。
「ちょっと離れてろ。......アルテマ」
特殊な壁でもない。もっと弱めの魔法でも壊せれたであろう。マナの無駄遣いにはなったが、道は開いた。
「また階段か......」
「時間を止めていられるのだから、ゆっくり行きましょう?」
悟らせてはいけない。できるだけ、元気な姿で最後まで見届けねばならない。
ただ、それにしても階段続きは疲れる。この施設を作った主は、こんなダンジョンで疲れないのだろうか。
「......」
「あ、あれは......」
小さな小部屋に、大層大事そうにネックレスが飾られてあった。なぜ、連中がこのネックレスを狙うのかは謎だが、取り戻してしまえばこっちの物だ。
これで、ようやくこの薄汚い洞窟ともおさらば。
「......」
頭が痛い。そろそろ限界か?
「戻りましょう、ネイさん」
「そ、そうじゃな」
そういえば、ヴァルとミイはこの状況でも行動できたはず。運が良ければ、帰り道で合流できるかもしれない。
「......すまんが、肩を貸してはくれんか?」
「......?良いですけど」
敵はまだまだいる。怠惰の力を解除したとして、逃げ切れるだろうか。
「......敵は、いないみたいです」
いたとしても、時間を止めているから大丈夫。問題は、私が力尽きた時。
「はぁ......はぁ......」
「あの、本当に大丈夫ですか?無理してるんじゃーー」
「いいから黙って進め。これくらい何ともない」
「わ、分かりました」
視界が朦朧としてきた。吐き気はしないが、立つだけで精一杯。ユミにも大きくもたれかかっている。
「ネイさん、大丈夫じゃないですよね?」
「だ、だいろうふら」
「絶対大丈夫じゃないですって!やっぱり、時間を止めていたら何かしらの不都合があるんでしょ!?」
「気、気にするてない。おふしほはめひ......」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
時間が動き出した。あいつも、そろそろ限界だと判断したのだろうか。
「......」
壁に身を潜めて辺りを伺う。誰もいないようだ。
この先に進めば、問題なく最下層まで辿り着く。ネイはこの先にいる。
「デス・アロー!」
「氷華!」
戦いの音がする。間違いなくこの先にネイはいるが、今聞こえた技はどちらもネイのものではない。
「くっ......」
「ネックレスは返してもらったぞ」
少女と、先程までに見たような大男が対峙している。少女の傍らには、ぐったりと横たわっているネイがいる。
「ネイっ!」
「......誰だ貴様」
大男が物凄い形相で睨んでくる。先程の魔法といい、他の男達とは違う存在。恐らく、ここのボスといったところか。
「ヴァ......ル......」
「ネイに何をした!」
「私は何もしていない。勝手に倒れただけだ。まあ、そこの鬼の娘には多少の手出しはしたがね」
時魔法の副作用か。
体の弱いネイじゃ、あの手の魔法には大きな反動がやってくる。悪い意味で人間らしさを見せてきたというわけだ。
「邪魔をしなければ、貴様と龍の娘の命だけは見逃してやろう」
嘘はついていない。だが、はいそうですか、ととんずらできるわけない。
俺とネイは見逃しても、ユミのことは殺すつもりだろう。それではダメだ。
せめて、ミイが駆けつけてくれればこの状況もどうにか出来るかもしれないのに。
「......」
「どうするか?このまま、お前も死んでみるか?上にいる仲間達も一緒に殺してやろうか?」
やはり、とっくに気づかれてはいたようだ。だが、俺の仲間達はお前らに殺されるほど弱くはねぇ。
武器は持ってないし、マナの適性も高くはないように見える。無理矢理接近戦に持ち込めば、相性がいいのはこっちだ。
「......戦う気か。ならば、この娘は殺さねばな」
「させねえよ!」
俺が突っ込むよりも先に、黒い影があの大男の前に立ちはだかる。
「悪ぃヴァル。思った以上に、雑魚の掃除に時間をかけた」
「ミイ......」
全く、人がカッコつけようとしていたのに、なぜこうも都合よく現れてカッコイイ真似をしてくれるのだろうか。だが、仲間が増えたことには素直に感謝だ。
「お前も敵か......」
「そうだ。悪いが、依頼人を守るのも俺達の仕事らしい。というわけで、依頼人を狙うお前には死んでもらう!」
ミイの素早い剣が、大男に息つく間も与えさせない。
「お前の相手はミイだけじゃねえよ」
大男の背後に回り込んで、力強い鉄拳をぶち込む。
「グハッ......」
「ナイスだヴァル!」
「おう!」
お互いにグッドサインを送り合う。
そういえば、ヴェルド達がやって来てないが、上の方でまだ戦ってんのかな?
「くっ......」
「いい加減、負けを認めちまったらどうだ?そうすりゃ、俺達も殺しまではしねえよ」
嘘だな。あいつは、多分ここで殺すだろう。事件にはならねえから大丈夫だが。
「......貴様らに、負けるわけには......でなければ、あの御方が......」
「さっさとそのネックレスを返しやがれ。依頼人さんの大事なもんなんだよ」
「その鬼の娘に渡すわけにはいかない。その娘に預けておけば、世界は破滅の道を辿る......」
何をわけの分からないことを言ってんだか......。1度、破滅の危機を迎えた俺たちにとって、世界の破滅とかそういう脅しが効くと思ったのか。
「くたばれ!」
膝蹴りを相手の腹にぶち込む。大体の奴はこれで動けなくなる。
この大男も、見た目の割には鍛えられていないようだ。魔法も弱いし、本当にこんな立派な施設を構えるほどのボスなのだろうか。
「そのネックレスを寄越せ。そうすりゃ、見逃してやる」
騎士団だったら見逃しはしないだろうが、俺達の目的は犯人逮捕じゃない。依頼人を守り抜くことだ。それに、これ以上無駄な争いはしたくない。ネイを早くエフィあたりに見せたいからだ。
「なあ、ヴァル。こいつ、斬っちゃダメなのか?」
「言う事聞かんかったら斬っていい。ただし、断末魔は上げさせるな」
「りょーかい」
さて、ネイを背中に抱えて、倒れた大男の内ポケットからネックレスを取り出す。相にも変わらず綺麗な輝きを放ってる。
「......ヴァル、それは」
「どうかしたか?ミイ」
「それ、ただの未来視のネックレスじゃねえぞ」
「......?どういう事だ?」
「それ、未来視以外に、とんでもねえ術式が編み込まれてやがる」
「......?」
なぜ急に、今になってそんなものが?と思った矢先、俺の手からネックレスが消えた。
「ユミ......?」
「......今まで、ありがとうございました」
ミイをも超える速さでユミが消え去った。
「なあ?術式って何が編み込まれていたんだ?」
「......事象改変の術式。ネイが、大昔に編み出した魔法だ」
事象改変......ってことは、歴史をまんま変えちまう魔法ってわけか。確かに、それはとんでもない魔法だな。
「その魔法は、あったことなかったことを好き勝手にできる代わり、自分の人生を代償にしちまう魔法なんだ」
そうまでして、あの少女には叶えたい夢があったということなのだろうか。俺には分からないが、この大男が言ってた世界を破滅させるという意味が分かった気がする。
「あの女、とんでもねえこと企んでやがる」
「だとしたら、止めに行かねえと......」
すぐに追いかけたい気持ちもあるが、ぐったりしているネイの事も不安だ。とりあえず、今はお預けにしておこう。
「ミイ、あいつのことは、追追調べる。今はこいつだ」
「......ああそうだな」
目の前を走るネイの速度が徐々に遅くなっている。
「だ、大丈夫ですか?」
「す、すまぬ。なんせ、体力がないもんじゃから」
怠惰だから、運動不足なのか。そう考えると納得。
「あとどれくらい時間を止めていられるんですか?」
「やろうと思えばずっとじゃが......」
「......何か、不都合が発生するんですね」
「言うて妾だけじゃがな。歴史書の管理が面倒くさくなるだけじゃ」
「その歴史書っていうのは?」
「今は気にせんでええ。お主らにも、妾にもこれといった損害はない」
ネイさんの言うことだから大丈夫なのだろう。多分。
「あ、この奥です!」
広間に出て、見覚えのある階段が見えた。
「上に上がればヴァル達がおるじゃろうが......」
「この階層から考えると、下に降りてさっさとネックレスを取り戻した方が早いです」
「......信じるからな」
本来なら、ネイさんの仲間を連れて行った方が確実かもしれない。でも、時間を止めていられる状況とネイさんの体力的な問題で、取り戻しに行った方が早いとなると、取り戻して逃げに徹した方が確実だと思う。
正しいかどうかなんて分からない。でも、今の時間を止めていられる状況を長く利用した方が良いと思う。ネイさんはこれといった損害はないと言っていたが、多分嘘だ。お祖母様も、未来視を使わなかったのは、何かしらのデメリットがあるからだ。そうじゃないと説明がつかない。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
周りの時間が止まった。
ネイが力を使ったようだ。
「......やっぱり、俺とお前以外は動けないのか」
「そもそも、お前が動けてること自体驚きなんだが」
「多分、ネイの契約者だから効かないとかそんなもんだろ」
「だろうな。で、どうする?この無敵時間を」
時間が止まっている状況をどう利用するべきか。先にネイと合流するべきか。
でも、あいつがずっと時間を止めていられるわけではない。せめて、ここにいる大男達を片付けておくか。
「ヴァル、ここは俺が全部やっとく。お前はあいつを探して連れて来い」
「分かった」
ミイに任せておけば、適当に血溜まりを作って終わっているだろう。なので、俺はネイを探しに行く。幸い、下に降りるための階段はすぐ目の前だ。
「任せたぞ」
「任せとけっても、動かねえ人形相手に負けねえけどな」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
あたりを確認。時を止めてるから心配する必要はないのだが、怒り心頭状態のレイジが無効化してきた例外もある。慎重に進んで損はない。
「はぁ、はぁ......」
「あの、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫じゃ」
こんな人間相手に心配されるほどやわではない。
広間には誰もいないみたいだ。この騒ぎで大方出払っているのであろう。
「......行くぞ」
「はい」
いくら最下層と言えど、あのネックレスがある保証はない。むしろ、あの大男が持っている可能性の方が高い。そして、あいつがここまで出払ってきてないところを見ると、ここでぶんぞりかえっていると踏んだのだが。
「誰もいないですね」
当てが外れたか......。まあ、目的の物を手に入れたんだし、私達のことは放っておいてトンズラしてる可能性もある。
「すみません。こんなところまで付き合わせてしまって」
「いや、まだ諦めるには早い」
「どうするつもりですか?」
「ルフォー・ア・オブジェクトIDI4376MS・ディスチャージ」
あのネックレスの場所が私の視界に映し出される。どうやら、ここよりも奥の隠し部屋にあるようだ。
「見つけたぞ」
「ほ、本当ですか?」
「この先に、隠し部屋が、あるそうじゃ。行くぞ」
「わ、分かりました」
いかんな。そろそろ限界が近づいてきておる。ユミを、不安にさせておるが、あともうちょっと耐えねば......。
「見た感じ......普通の壁ですけど......」
「解き方があるのじゃろうな」
解き方を探している時間はない。所詮は壁。壊せばどうにかなる。
「ちょっと離れてろ。......アルテマ」
特殊な壁でもない。もっと弱めの魔法でも壊せれたであろう。マナの無駄遣いにはなったが、道は開いた。
「また階段か......」
「時間を止めていられるのだから、ゆっくり行きましょう?」
悟らせてはいけない。できるだけ、元気な姿で最後まで見届けねばならない。
ただ、それにしても階段続きは疲れる。この施設を作った主は、こんなダンジョンで疲れないのだろうか。
「......」
「あ、あれは......」
小さな小部屋に、大層大事そうにネックレスが飾られてあった。なぜ、連中がこのネックレスを狙うのかは謎だが、取り戻してしまえばこっちの物だ。
これで、ようやくこの薄汚い洞窟ともおさらば。
「......」
頭が痛い。そろそろ限界か?
「戻りましょう、ネイさん」
「そ、そうじゃな」
そういえば、ヴァルとミイはこの状況でも行動できたはず。運が良ければ、帰り道で合流できるかもしれない。
「......すまんが、肩を貸してはくれんか?」
「......?良いですけど」
敵はまだまだいる。怠惰の力を解除したとして、逃げ切れるだろうか。
「......敵は、いないみたいです」
いたとしても、時間を止めているから大丈夫。問題は、私が力尽きた時。
「はぁ......はぁ......」
「あの、本当に大丈夫ですか?無理してるんじゃーー」
「いいから黙って進め。これくらい何ともない」
「わ、分かりました」
視界が朦朧としてきた。吐き気はしないが、立つだけで精一杯。ユミにも大きくもたれかかっている。
「ネイさん、大丈夫じゃないですよね?」
「だ、だいろうふら」
「絶対大丈夫じゃないですって!やっぱり、時間を止めていたら何かしらの不都合があるんでしょ!?」
「気、気にするてない。おふしほはめひ......」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
時間が動き出した。あいつも、そろそろ限界だと判断したのだろうか。
「......」
壁に身を潜めて辺りを伺う。誰もいないようだ。
この先に進めば、問題なく最下層まで辿り着く。ネイはこの先にいる。
「デス・アロー!」
「氷華!」
戦いの音がする。間違いなくこの先にネイはいるが、今聞こえた技はどちらもネイのものではない。
「くっ......」
「ネックレスは返してもらったぞ」
少女と、先程までに見たような大男が対峙している。少女の傍らには、ぐったりと横たわっているネイがいる。
「ネイっ!」
「......誰だ貴様」
大男が物凄い形相で睨んでくる。先程の魔法といい、他の男達とは違う存在。恐らく、ここのボスといったところか。
「ヴァ......ル......」
「ネイに何をした!」
「私は何もしていない。勝手に倒れただけだ。まあ、そこの鬼の娘には多少の手出しはしたがね」
時魔法の副作用か。
体の弱いネイじゃ、あの手の魔法には大きな反動がやってくる。悪い意味で人間らしさを見せてきたというわけだ。
「邪魔をしなければ、貴様と龍の娘の命だけは見逃してやろう」
嘘はついていない。だが、はいそうですか、ととんずらできるわけない。
俺とネイは見逃しても、ユミのことは殺すつもりだろう。それではダメだ。
せめて、ミイが駆けつけてくれればこの状況もどうにか出来るかもしれないのに。
「......」
「どうするか?このまま、お前も死んでみるか?上にいる仲間達も一緒に殺してやろうか?」
やはり、とっくに気づかれてはいたようだ。だが、俺の仲間達はお前らに殺されるほど弱くはねぇ。
武器は持ってないし、マナの適性も高くはないように見える。無理矢理接近戦に持ち込めば、相性がいいのはこっちだ。
「......戦う気か。ならば、この娘は殺さねばな」
「させねえよ!」
俺が突っ込むよりも先に、黒い影があの大男の前に立ちはだかる。
「悪ぃヴァル。思った以上に、雑魚の掃除に時間をかけた」
「ミイ......」
全く、人がカッコつけようとしていたのに、なぜこうも都合よく現れてカッコイイ真似をしてくれるのだろうか。だが、仲間が増えたことには素直に感謝だ。
「お前も敵か......」
「そうだ。悪いが、依頼人を守るのも俺達の仕事らしい。というわけで、依頼人を狙うお前には死んでもらう!」
ミイの素早い剣が、大男に息つく間も与えさせない。
「お前の相手はミイだけじゃねえよ」
大男の背後に回り込んで、力強い鉄拳をぶち込む。
「グハッ......」
「ナイスだヴァル!」
「おう!」
お互いにグッドサインを送り合う。
そういえば、ヴェルド達がやって来てないが、上の方でまだ戦ってんのかな?
「くっ......」
「いい加減、負けを認めちまったらどうだ?そうすりゃ、俺達も殺しまではしねえよ」
嘘だな。あいつは、多分ここで殺すだろう。事件にはならねえから大丈夫だが。
「......貴様らに、負けるわけには......でなければ、あの御方が......」
「さっさとそのネックレスを返しやがれ。依頼人さんの大事なもんなんだよ」
「その鬼の娘に渡すわけにはいかない。その娘に預けておけば、世界は破滅の道を辿る......」
何をわけの分からないことを言ってんだか......。1度、破滅の危機を迎えた俺たちにとって、世界の破滅とかそういう脅しが効くと思ったのか。
「くたばれ!」
膝蹴りを相手の腹にぶち込む。大体の奴はこれで動けなくなる。
この大男も、見た目の割には鍛えられていないようだ。魔法も弱いし、本当にこんな立派な施設を構えるほどのボスなのだろうか。
「そのネックレスを寄越せ。そうすりゃ、見逃してやる」
騎士団だったら見逃しはしないだろうが、俺達の目的は犯人逮捕じゃない。依頼人を守り抜くことだ。それに、これ以上無駄な争いはしたくない。ネイを早くエフィあたりに見せたいからだ。
「なあ、ヴァル。こいつ、斬っちゃダメなのか?」
「言う事聞かんかったら斬っていい。ただし、断末魔は上げさせるな」
「りょーかい」
さて、ネイを背中に抱えて、倒れた大男の内ポケットからネックレスを取り出す。相にも変わらず綺麗な輝きを放ってる。
「......ヴァル、それは」
「どうかしたか?ミイ」
「それ、ただの未来視のネックレスじゃねえぞ」
「......?どういう事だ?」
「それ、未来視以外に、とんでもねえ術式が編み込まれてやがる」
「......?」
なぜ急に、今になってそんなものが?と思った矢先、俺の手からネックレスが消えた。
「ユミ......?」
「......今まで、ありがとうございました」
ミイをも超える速さでユミが消え去った。
「なあ?術式って何が編み込まれていたんだ?」
「......事象改変の術式。ネイが、大昔に編み出した魔法だ」
事象改変......ってことは、歴史をまんま変えちまう魔法ってわけか。確かに、それはとんでもない魔法だな。
「その魔法は、あったことなかったことを好き勝手にできる代わり、自分の人生を代償にしちまう魔法なんだ」
そうまでして、あの少女には叶えたい夢があったということなのだろうか。俺には分からないが、この大男が言ってた世界を破滅させるという意味が分かった気がする。
「あの女、とんでもねえこと企んでやがる」
「だとしたら、止めに行かねえと......」
すぐに追いかけたい気持ちもあるが、ぐったりしているネイの事も不安だ。とりあえず、今はお預けにしておこう。
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