上 下
152 / 434
第6章 【龍の涙】

第6章13 【アイスフレイム】

しおりを挟む
「さあ!皆様早くも3日目!まだまだ盛り上がっているでしょうか!」

 ちっ、うるせえ実況だ。近くに行くと余計にうるさく聞こえる。グリードの気持ちが分かるなこりゃ。

「本日も、実況は私モルゴと解説はケビンさん!そして、ゲストに、ななななんと!我らがグランアーク王国現国王!アトラス王だーーーー!」

 マジかよ。国のトップが実況席に座るってどんな状況だ?普通じゃねえ。

「アトラス王!本日はよろしくお願いします!」

「うむ。よろしく頼むよ。と言っても、何を話せばいいのか分からないんじゃがな!ハッハッハ!」

「大丈夫です!実況は私がしますので、ただ感想を漏らしていけば問題はありません!」

「そうか!それは実に楽しみじゃなー!ハッハッハ!」

 これが現国王か......。クロムとはまた違った感じの明るい王様だな。妙に馴染みやすそうな王様だ。

「さて!本日は午前と午後で別の試合を行います!まずは午前の部!極限の闘技場!」

 この、目の前にそびえ立つでけぇ建物の事か。

「ルールは簡単!まず初めに、どのチームから挑むか順番を決めます!って、もう決めてますね」

 順番は、俺から順にハイルン、ジン、エスメラルダ、シオン、レイヴン、キュウセイ、シアラ。

「この闘技場には、数々の魔物が現れます!魔物は、Eから順番に、クラスが存在します!最高はSです!それで、各魔物を倒すと、クラスに応じた得点が入ります!」

「獲得した点に応じて順位が決まるわけですな」

「ええ!ただし、この闘技場には一定数しか魔物はいません!自分の力量に応じてどこでやめるかを考えてくださいね!」

「別に、やられたらそれで終わりではないのか?」

「はい。そこのとこ、疑問に思いますよね!闘技場の内部でやられた場合、それまでに稼いだ点は全て失います!更に、チームとして1回戦、2回戦と稼いだポイントも一部減ってしまいます!」

「なるほど。無理せず頑張れと」

「ええ!クラスの高い魔物が出てくる中盤に、全力で挑むことが出来る3番目、4番目あたりの人が有利ですね」

 何が3番目、4番目が有利だ。こんなもの、1番最初の奴が全部ぶっ飛ばせば終わるじゃねえか。って事で、俺が有利だ。

 エレノアの分、しっかりと稼いでやるぜ。

「それでは、最初のチャレンジャー!ヴェルド選手!意気込みをどうぞ!」

「......」

「ヴェルド選手?」

「他のギルドに点は渡さねえ。全部、俺がぶっ飛ばしてやる!」

「おぉっと!これは物凄いやる気だー!そんな大口叩いて大丈夫なのかー!?」

エスメラルダ「グランメモリーズも中々の大物を出してきましたわね。そんなので負けたら大変ですよ?」

 勝手に言ってろ。マジでお前らには点を渡さねえからな。特に、ダークソウルの野郎共には......

「それでは始まります!ヴェルド選手!準備をしてください!」

 準備も何も、もうとっくに出来ている。

「カントダウンを始めます!3!」

「2!」

「1!」

「全員ぶっ飛ばしてやるぜ!」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「アイスニードル!アイスバスター!」

 10、20、30......

 ヴェルドは着々と魔物達を討伐していっている。

 この様子なら、中盤のBとAまでは楽に進められそうだ。

 ただ、問題はSランクに入ってから。話によれば、Sランクの魔物は凶暴で大型なものが多い。果たして、ヴェルドが同時に襲いかかってくるSランクを討伐できるだろうか。

「アイススピア!」

 40......。

「これは凄い!凄い!凄い!ヴェルド選手!1人でもう半分も討伐しかねない勢いだー!」

エフィ「凄いですねヴェルドさん。本当に全部討伐しかねない勢いですよー。私としては、動物さん達が傷つくのはちょっと、アレなんですけど......」

 そういや、そんな設定もあったかな......。

シロップ「ネイー、もうちょっと奥に行って見ようよー」

「無理言わないでください。この席は、丁度実況席の真正面なんですから。バレますよ」

シロップ「なんかめんどくさいね~。ここからじゃ、よく見えないよ~」

 龍人の体+ツクヨミという事がバレている。ネイの姿でいても、あの王女様は気づく。変な気を起こさせないためにも、なるべく姿は見せない方がいい。

 なんで、あの人が私のことを知っているのだろうか。関わりがあったのは、800年前の王女。今の王女とは接点の欠片もないはず。

 そもそも、今の王族が昔からの血筋とは限らない。800年間崩れることのない王国なんてあるはずがない。

 ......いや、ただの偶然だろう。この国は運が良かっただけ。長い戦争があっても負けることはなかった。市民の反乱も無かった。ただそれだけ。偶然と言うよりも、ただの奇跡かな。

「アイスグラウンド!」

 50......やっと折り返し地点。でも、ここから先の敵の強さを考えると、まだ序盤を終えた感じだ。

ネメシス「ヴェルドの野郎、中々やるな!1人でバッタバッタと薙ぎ倒してらぁ!」

フェイ「すげー!すげーよ!ヴェルド兄!」

ギーグ「確かに凄いでしょうけど、まだまだライオスさんには及びませんね」

レイ「そうね。まだまだライオスには追いついてないわ」

デン「......」

ギーグ「どうした?デン。急に真面目な顔して」

デン「いや、なんでもない。ただ、ヴェルドが疲れ出してきたなと」

 流石のヴェルドも、70を超えれば疲労が表に出てくる。全部倒すとか言っていたが、やられるまで戦われると困る。

 適当に、キリのいいところで切り上げてほしい。

「アイスクリエイト!氷山!」

 これは、本気で最後まで戦うな。負けないよう祈ろう。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「あ"ぁ"......あ"ぁ"......」

 今何体目だ。

「ヴェルド選手!ななな、なんと!80体目を討伐し終えましたァ!」

 80か......。まだ20も残ってる。それに、ここから先はSランクの魔物共が襲いかかってくる。ここらで切り上げてもいいと思うが、それではMAXの点が入らない。

 エレノアの分を俺が繋げるんだ。あの、バカ軍師を見返してやるんだ。

「ヴェルド選手!まだまだ続行するつもりのようです!」

「ヴェルド様ぁ!頑張ってくださぁーい!」

 お前、一応敵チームだぞ?それに、今んとこ最下位に近い順位じゃねえか。

 まあいいか。あいつはあいつ。俺は俺。

「これが、Sランクの魔物ってやつか......」

 なんか、どこかの村で見た人工物モンスターと似てるな。それが、19体出てくると......。あと1体は、SSランクの魔物が存在しているというところか。

「そろそろ、使ってみてもいい頃か......」

 ヴァル以外には見せたことのない、新たなる俺の魔法。

「見てろよ!バカ軍師!アイスフレイム!」

 氷と炎の合わせ技。相反する属性の魔法を同時に扱う。

 あいつの話も役に立つもんだ。得意属性はただの思い込み。相反する属性は同時に扱えないというのも、ただの思い込み。

 その思い込みを無くした時、魔法は1段階上へと進む。

「これはこれはこれは!?氷と炎の相反する属性を同時に扱っているぞー!?」

「来いよ!化け物共!俺の氷と炎の前に震え上がれ!フレイムクラフト・火山!」

 これも、1ヶ月の修行で手に入れた技。

 未だ誰も成し得たことのない、火の造形魔法。火は燃やす専門だからな。作る側にはならねえ。その常識を、俺はぶち壊した。

「ダイヤモンド・フレア!」

 よし、85!

「リバーサル・マジック!」

「これはこれはこれは!?きゅ、90体目を討伐しましたー!?」

「ほう。これは中々ですな」

「ええ。この国には、これ程の魔導士がいたのですね」

「引っ込んでろ化け物!スターダスト・アイスフレイム!」

 まだだ。まだ強くなれる。

 こんな威力で満足してるようじゃ、100体なんて夢のまた夢だ。

「カタストロフ・氷火!」

「きゅ、99体目ー!?」

「ゴーゴー!ヴェルド様ぁ!」

 見たか、バカ軍師。これが、俺の実力だ。

「......」

 パーカーのせいで、全く見えねえが、きっと悔しそうな顔をしてるに違いねえな。この目で見てみたい。あいつが、俺に対して驚く姿を。

「さて、噂のSSランクの魔物はどいつだ?」

 99体倒した。残るは、その1体だけなのだが、どこにも姿は見えない。

「......?兎?」

 まさか......な。

「グァァァァ!」

 まさか......な。兎が、突然巨大化して凶暴になったとか、そんなわけねえよな?うん。

「グァァァァ!」

 あーそうですか。これが、噂のSSランクって奴か。迫力満点だなこりゃぁ。

「フレイムクラフト・獄炎!」

「グァッ!」

 こりゃ、効いてねえな。つっても、今から諦めることは不可能。やるしかねえ。

「来いよ、化け兎。俺が、てめぇを調理ーー」

「グギャァッ!」

「なっ......ブハッ!」

 カッコイイセリフ言ってる時に攻撃してくんなよ。

「アイスクリエイト・氷河!」

「グラァっ!」

「カタストロフ・氷火!」

 ダメだ。全然効いてねえ......。

 折角、ヴァルの野郎と肩並べて鍛えて習得した魔法なのに、ここで真価を発揮してくれねえのか。

「ヴェルド!負けんじゃねぇ!」

 あいつの声がここまで響いてくる。

「......分かってるよ!俺は、こいつには負けねえ!お前にも負けねえ!誰にも負けねえ!」

 1発、喰らわせてやるか。

 俺に、悪魔殺しの素質があると言ったネイ。あいつを恐怖で震え上がらせるほどの魔法。多分、あと5ヶ月くらいは嫌われる。じゃあ、なんでヴァルは大丈夫なんだよ。今から使う魔法は、あいつの滅龍奥義にも匹敵するぞ?

「......滅魔奥義・絶冷氷華」

「グァ!グァ!グァァァァ!?」

 ......

 ......

 ......

「ひゃ、100体目、討伐完了......」

 後で聞いた話だが、ここで出てきた魔物は全部そっくりに作られ偽物。だが、素材にアンデッド属性の物が多く含まれていたらしくーー生き物として動かすためらしいーーアンデッドを皆殺しに出来る俺が圧倒的に有利だったとの事。オマケに、1番を引いちまったから正に作戦勝ち。

 つまり、俺の実力は予想以上だったが、これくらいは簡単だと踏まれていたらしい。腹が立つ。

 観覧席にいたあいつの顔は、きっとちょっと驚いただけだったのだろう。畜生。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「え~ヴェルド選手が、まさかまさかの100体討伐を成し得たため、ここで他ギルドは0点とするのも色々言われそうなので、ここで急遽、別ルールで2位から下の順位をつけたいと思います!」

ハイルン「ほう、他のルールで、2位から下と......」

シオン「まあ良いではないか。100体討伐は、ここにいる我らでは難しかろう。そこの、黒魔導士さんを除いてな」

キュウセイ「......」

エスメラルダ「そうですね。シオンさんでも、あれは無理ですよね?」

シオン「ああ。あんな化け物軍団、我では絶対に無理だな。1位はグランメモリーズBの物だ」

「はい!他チームの同意が得られたようなので、ルールを説明します!ルールは簡単、急遽用意させていただいた、騎士団試験用の魔法具に、思いきりの魔法をぶち当ててもらいます!この魔法具は、当たったマナの量、力を数値として映し出します!」

「なるほど。その数値が高い順に順位をつけるということかな?」

「ええ!そうです!それでは、先程決めた順番でよろしくお願いします!」

ハイルン「じゃあ、まず俺からだな。絶対封鎖!」

 22051。

「これは、高いのかね?」

「まだ分かりません。他のチームの方々が出す数字次第です!」

ジン「炎闇陣・デビルブラスト......」

 35827。

「おお!ジン選手!1万点以上ハイルン選手を抜きました!」

エスメラルダ「じゃあ、次は私ですね。双剣乱舞!」

 32567。

「ハイルン選手よりかは上ですが、惜しくもジン選手より下です!」

エスメラルダ「あちゃぁ、力みすぎちゃったかなぁ」

シオン「では、次は我だな。滅龍奥義・深淵の波動」

 58691。

「おおっと!シオン選手!大きく抜かしましたァ!」

レイヴン「滅龍奥義・呪怨封殺」

 65321。

「またまた大きく抜かしたァ!流石、コールドミラーの魔導士!」

ハイルン「このままだと、俺最下位かよ!?」

キュウセイ「......」

 1。

「あ、あの~キュウセイ選手?真面目にやっていただけませんか?」

キュウセイ「これが、俺の真面目だ」

「そ、そうですか......」

シアラ「ヴェルド様が頑張った分、シアラも頑張ります!水界の奇跡!」

 99999......。

「......ゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑゑ!?」

「やりましたよ!ヴェルド様ぁ!」

「そのう、グランメモリーズとは、強い魔導士の集まりなのかね?とても弱小とは思えないのだが」

「......え、ええっと、2位、グランメモリーズAチーム。3位、コールドミラー、4位、シェミスターライト、5位、ハイドロオーシャンズ、6位、トゥインクルアスタロト、7位、マジックアルケミスト、8位、ダークソウルとなります。え、ええっと、このままお昼休憩となります。続きは午後からです!」

 1位:グランメモリーズB29点
 2位:コールドミラー27点
 3位:ダークソウル21点
 4位:グランメモリーズA19点
 5位:シェミスターライト16点
 6位:ハイドロオーシャンズ15点
 7位:マジックアルケミスト12点
 8位:トゥインクルアスタロト7点

*トゥインクルアスタロトもマジックアルケミストも優勝候補です。
しおりを挟む

処理中です...