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第6章 【龍の涙】

第6章28 【雷神VS氷神】

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 残るはコールドミラーのリアムとノア。ヴァルとネイの2人がかりで倒したーーと言っても余裕そうに見えたがーー相手だ。なるべく力を残した状態で挑みたかたっが、運悪く、ノアの相手が俺になってしまった。

 ここでやられたら、結果的にグランメモリーズの負けが決まる。いや、他の奴らがこいつ含めてあと2人を倒してくれれば引き分けにもできるが、2つのギルドがトップだなんて俺は認めない。というより、気にくわない。

ノア「覚悟はよろしいでしょうか」

ライオス「お前の方こそ出来てんだろうな。やられる覚悟が」

ノア「ここでやられるつもりはありません。あなたを倒して、コールドミラーの最強への踏み台とさせて頂きます」

 毎年優勝してるくせによく言うぜ。

ノア「いきます。氷神の刃!」

 氷で作った刃の数々を、俺に向けて放つ。ヴェルドのアイススピアレインの横版だな。ならば、避けるのも容易い。

ノア「この刃には、ホーミング機能が付いています」

 なるほど。要するにめんどくさいって事だろ?

ライオス「雷雨!」

 氷の刃は、俺の雷でいとも容易く崩れ落ちる。

ノア「なるほど。やるようですね」

ライオス「お前、ひょっとして神殺しゴッドスレイヤーか?」

ノア「ええ。昔、住んでいた故郷で習得した技です」

ライオス「その故郷は、良いところだったか」

ノア「ええ。村の人達は優しくて、孤児だった私になんでも教えてくれました。ただ、ある日を境にその幸せは奪われることになります」

ライオス「幸せを奪われたか......ヴェルドみてぇだな」

ノア「ヴェルド様を知っているのですか!」

 突然、ノアが攻撃の手を止める。

ライオス「知ってるも何も、この大会に出てるだろ?俺達の仲間として」

ノア「......そうですか」

ライオス「あいつの事は良いから、その昔話を聞かせろよ。拳を交えてな」

ノア「......幸せを奪った原因。それは、ある日、村を襲いに来た龍人によってもたらされたものでした」

 ここまでの話を聞けば分かる事だが、ヴェルドとこいつは同じ村の出身だな。通りで氷属性の魔法を得意とするわけだ。関係あるのかは知らんが。

ノア「龍人......6回戦にて、姿を現した飛龍の者。関係ないとは分かっていても、この拳の震えが止まることはありませんでした」

ライオス「ヴェルドの野郎も、最初はそうだったぞ。俺は見てないから詳しくは知らんが、正体を知った日に殴りかかる奴だったからな」

ノア「ヴェルド様は、賢そうに見えて感情で動くタイプです。そうなっても、仕方ないでしょう」

ライオス「なるほどな。お前ら氷の一族は揃って龍人が嫌いだと」

ノア「......あのような事さえなければ、差別的な目で見ることはなかったと思います」

 それは、"あくまで"の話だな。世界の嫌われ者である龍人は、何をどうしようが嫌われ者のまま。龍人として生まれたが故に生き辛いあいつの気持ちも分かるってもんだ。まあ、当の本人はもう気にしてないと思うが。

ライオス「なら、俺の方からも昔話をしていいか」

ノア「良いですよ。拳を交えながらなら」

ライオス「......昔昔、ある所に超強い雷使いの男がいました。そいつは、初めはグレたスラムの住民でした」

ノア「私とは、また違った酷い出自ですね」

ライオス「ある日、そいつの元に、凄い魔導師が訪れました。その魔導師は、男の力を見て、勝手に自分のギルドのメンバーにしました」

ノア「結構いい話ですね。飛びすぎですけど」

ライオス「その、グレた男の名を、『ライオス』と言う」

ノア「......それ、あなたの話じゃありませんか?」

 お前も自分のことを話してただろうが。

ライオス「いつしか、その男の周りには、変な3人組がまとわりつくようになりました」

ノア「続くの!?」

ライオス「そいつらは、『ライオス護衛隊』と自称し、ライオスの意見関係なしに動きました」

ノア「......」

ライオス「だが、ライオスにとって、彼らの存在は心の支えともなっていました」

ノア「......やっぱり、良い話なのですか?」

ライオス「ライオスは、そう思いつつも、彼らを手駒のようにして扱いました」

ノア「最悪じゃないですか!?ライオスって人!」

ライオス「だが、何があってもあいつらは仲間。あいつらが、俺の背中を押してくれる限り、俺は前に進み続ける」

ノア「......話は終わりですか?」

ライオス「......滅神奥義・雷牙迅雷!」

ノア「滅神奥義・氷魔繚乱ひょうまりょうらん

 疾風の如く駆け抜ける雷の牙と、辺り一面に咲く氷の花々。両者の実力は拮抗しているが、範囲が広い分、ノアの方が優勢。

 だが、俺には奥の手が用意されている。

ライオス「壊神奥義!雷波終焉!」

ノア「......なっ、奥義の上から奥義を......」

ライオス「鍛え方が違う。冷静に戦うだけで勝てるほど、俺は甘くないぜ?ちゃんと、第六感、ってやつを使わねえとな」

ノア「......不覚」

 昔話では、孤児とか言ってたか。俺も、似たようなもんだったな。まあ、氷は雷に勝てない。相性的には普通だけどな。

 さて、変な時間を取られてしまったが、他の奴らがリアムと遭遇してない事を祈る。リアムを倒すためには、全員が揃った状態で挑むのが好ましい。

 グランメモリーズ58点
 コールドミラー58点

 優勝は、すぐそこまで迫っている。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

セリカ「なんで王女様がこんなところに......!」

ゼイラ「......」

 まさか、回り込まれた?でも、後ろの方に人影はない。ゼイラ1人なのか?

ゼイラ「これまでの無礼をお許しください」

ネイ「許せと言われて許す人がいるんですか?こんな、変な処刑人を落としてまで」

ゼイラ「......いえ、その呪術師には、ここまで案内するように命じたはずですが」

 ......?どういうこと?

シヴィニア「ああ、そういや、あなた達を連れて来いって言われてたんだっけ。そこの、炎のドラゴンさんのせいですっかり忘れてたわぁ」

 呆れて言葉も出ない。元々、私達を外に連れ出すはずだったのに、謎の戦いが起きるなんて......

ゼイラ「......」

ネイ「......」

ゼイラ「話した方が、よろしいでしょうか」

ネイ「当たり前です。私を捕らえセリカさんの鍵を取った理由、詳しく聞かせてもらいましょうか?アポカリプスの件も含めて」

ゼイラ「......そこまで、知っているのですね。ならば、これをお返しします」

 ゼイラが取り出した物は、精霊の鍵とネイりんの2つの剣。ただし、精霊の鍵は十二級と呼ばれるもの全て。って事は......

セリカ「まさか、ベルメルもどこかに?」

ゼイラ「彼女は、私達の仲間として動いてくれています。本来ならば、セリカさん、あなたも協力者になってもらいたかったのですが......」

 ヴァルの、過剰な防衛のせいか......

 あの時、詳しい話とかは何も聞かなかったからなぁ。ちゃんと聞けてたら、牢に入れられることもなかったのかな。

ネイ「アポカリプスの事、どうして知ってるんですか。あれはーー」

ゼイラ「人類史にないはず。そうですよね」

ネイ「......」

ゼイラ「私自身、アポカリプスがどれほどのものなのかは知りません。ですが、世界を破壊する存在であると認知しております」

ネイ「そのアポカリプスが、ここにやって来るんですね」

ゼイラ「いえ。ここにやって来る訳ではありません」

ネイ「......なら、なぜ『アポカリプス討伐計画』なんて書き記した紙切れがあるんですか」

ゼイラ「......アポカリプスは、世界を破壊する存在。いずれ、この世界に襲いかかるという予言が出ております」

 予言......?占い系の魔法?使える人は少ないって聞いてるけど......

ゼイラ「いずれ来る厄災。それを、突破する方法があります」

ネイ「どうやって......?あれは、人間が勝てるようなものではないはず」

ゼイラ「龍達の力を使います」

「「「 龍? 」」」

ゼイラ「人間が勝てるものではない。ならば、この地に眠る龍達の力を使います」

ネイ「......一応、計画を聞いておきましょうか」

 ネイりんは、品を定めるような目付きでゼイラを見ている。

ゼイラ「まず、精霊達の鍵を使って、この王都各所に龍の召喚陣を敷きます」

セリカ「それが、私の鍵を取っていった理由?」

ゼイラ「ええ。誠に、勝手なことをしてしまって申し訳ありませんでした。それで、龍を召喚した後、その龍の匂いに釣られたアポカリプスを一網打尽にします」

 なるほど。龍に対抗するには龍の力。実に理にかなっているように思える作戦。

ネイ「勝算は......?」

ゼイラ「十分にあります。1体の龍に対して、12体の龍。それに、この大会の期間中は魔導士も集まっております。あなた様のような強い魔導士もたくさんいます」

ネイ「......それで、本当に勝てると思ってるんですか」

ゼイラ「思ってるからこそ、この作戦を実行しようと思ってるのです」

ネイ「......呆れた作戦ですね」

ゼイラ「え......?」

ネイ「今すぐ、その作戦を中止しなさい」

ゼイラ「なぜですか!」

ネイ「いずれ来る厄災。そうだとしても、わざわざこちらから呼ぶ必要なんてないんです」

ゼイラ「今、ここには奴を倒せる戦力が揃っています!なぜ、あなたのような人が否定するんですか!」

ネイ「あなた達人間は、あれの存在を知らない。あれが、どれほどのものかを、あなた達は知らない」

ゼイラ「いくら世界を壊すと言っても、所詮はドラゴン!同じドラゴンを12体も集めれば、奴に勝つことができます!」

ネイ「分からないようなら言います!奴は、龍を殺すついでに世界を破壊してるに過ぎない!」

 ネイが、珍しく大声を上げている。

ネイ「いずれ来るのなら、その時を待てばいいだけ!何も、自ら呼んでまで戦う必要はない!」

ゼイラ「なぜですか!奴を倒すなら、今が絶好の機会だって説明しているはずでしょ!なんで、理解してくれないんですか!ツクヨミ様!」

ネイ「......私は、あなたが信じてやまないツクヨミではない。ツクヨミは、800年前に、アポカリプスの手によって死んだ。私は、その生まれ変わりに過ぎない。当時の力を出すことも出来ない」

ゼイラ「そ......んな......ツクヨミ様が......」

 ゼイラの口調が、途端に弱くなる。昔のネイが殺されたことを聞いて、期待が出来なくなったのだろう。

 ネイりんは強い。だけど、そのネイりんが殺されるような相手。アポカリプスは、龍殺しドラゴンスレイヤーの力を持っている。

 龍を殺すついでに世界を破壊する。聞いただけで恐ろしい存在だ。それを、天敵どころか、アポカリプス目線からしたら獲物でしかない12体の龍を用意して倒そうとするなんて、無謀すぎる。

 ようやく、ネイりんの言いたい事も分かってきた。

ネイ「分かったのなら、今すぐ計画を中止してください」

ゼイラ「......無理......です」

ネイ「なんでですか」

ゼイラ「もう、計画はシドウを通じて国王にまで伝わっています。国王も、この作戦には賛成してくれました」

ネイ「......1つ。あなたは、どこからアポカリプスの存在を知ったのですか」

ゼイラ「......ヒカリと名乗る者に、その脅威を教えてもらいました」

セリカ「ヒカリん!?」

 私は、ヴァル達と目を合わせる。

 ヒカリが生きてるかもしれないという話は、前々からよく聞いていた。まさか、そのヒカリんが......?

ゼイラ「彼は、アポカリプスが、いずれここにやって来ると話しました。そのアポカリプスを倒すためには、この大会中に呼び寄せてしまう方が良いと。精霊の鍵を使った、ドラゴンの復活方法も彼に教えて頂きました」

 彼......男?だったら、私達が知ってるヒカリではないのか。

ネイ「......その、ヒカリの言うことを、なぜ信用したのですか」

ゼイラ「......彼は、大会の内容、結果全てを言い当てました......。恐らく、もうそろそろ終わる決勝戦の結果も当たっています。彼がとてつもない魔導師であることは、それだけで理解出来ました。だから、信用してしまいました」

ネイ「......とにかく、今すぐ、計画を止めましょう。龍の復活が免れないのなら、1つでも多くの召喚陣を潰していきます」

ゼイラ「出来るのですか」

ネイ「幸い、十二級精霊の鍵全てがここにあります。私と、セリカでどうにか出来ます」

セリカ「え!?私!?」

ネイ「10体もの精霊と契約しているセリカさんの力が必要です。精霊魔法は、信用の上で成り立つものですから」

セリカ「う、うん......頑張る......」

 よく分からないけど、大変なことを任された気がする......

ゼイラ「私は......」

ネイ「ぜイラさんはヴァル達と一緒に、今すぐ魔導士達に復活する龍を討伐するよう説明してください。今、ここで私が話したことを交えて」

ヴァル「分かった。そういう事なら任せとけ」

ミラ「ある意味、世界の命運をかけた大事な戦いね」

ネイ「アポカリプスが気づく前に、龍を全て殺すことが出来れば、奴が来る可能性も低くなります。お願いしますよ」

 全員が首を縦に振って、目指すべき場所に向けて走り出した。

セリカ「ネイりん、冷静に考えて、龍の召喚陣の場所分かるの?」

ネイ「龍を召喚するほどです。どこに召喚陣が開いたかは、私の感覚で分かりますよ」

セリカ「そ、そうなんだ......」
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