グランストリアMaledictio

ミナセ ヒカリ

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第8章√VS 【闇の魂】

第8章30 【子の旅立ち】

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 それから2日後。

 ガタガタと揺れる馬車に乗って、王都より若干西側にある広大な草原に、私達は来ていた。

 草原って言うけど、ここはライトフィリア家の私有地。将来的に、遊園地を初めとした娯楽施設を建てる予定らしい。まあ、そんな計画が立ち上がってから、かれこれ5年は経っているのだけれど......

 で、その草原の遥か向こう側に見える、王城にも引けを取らない城が、私の実家。私のお父さんは、金持ちであることを表に出したがる人なのだ。うーん、権力者ってとことん自分の力を誇示したがるよねー?

 まあ、別にそんなことはどうでも良くて、草原を突っ切った先の巨大な門の前で、昔、私の世話係を担当していた『ヴルーア』さん(52歳、初老の男性)が立っていた。

「......お嬢様!?」

 案の定、普段はぼーっとしている目を飛び出させて私を凝視してきた。

「あ、大変失礼致しました。お帰りなさいませ。セリカお嬢様」

ヒカリ「ぶふっ!」

 こら、そこ笑わない。今までの私を見てきたら、つい笑いたくなっちゃうのは分かるけど、ちょっとは抑えて。

ネイ「せ、セリカお嬢様かっっっ、君がお嬢様っっアハッアハハハハハ」

 ネイりんは隠そうとする気が一切ないらしく、凄くバカにした感じで腹を抱えて笑っている。

 それに、ヴァルとかヴェルド、シアラにフウロも、みんなして必死に笑いを堪えている。確かに、初見だと吹いてしまいそうになるかもしれないけど、そんなに面白いものかな?

「セリカお嬢様、こちらの方々は?」

セリカ「うーん、私のボディガード。ちょっと、屋敷内で大変なことになるかもしれないから」

「......なるほど。全てを察しました。私は、何があろうともお嬢様の味方でございます。ですが、今のヴァーリア様は大変、ご気分がよろしくございません。くれぐれも、流血沙汰にならないようお気をつけてくださいませ」

セリカ「ありがとう。ヴルーアさん」

「いえいえ。こうして、お久方振りにお嬢様の元気なお姿を見られただけで眼福というものでございます」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

ヴァル「案外、すんなりと入れたな」

セリカ「まあね。一応、召使いの人達とは仲良くしてたから」

フウロ「だが、この格好はなんだ?これでは、まるでメイドと執事ではないか?」

 ヴァルもフウロも、今の自分の姿に疑問を感じている。

 そりゃそうだ。屋敷に入ったかと思えば、いきなり衣装室に通されてこの格好にさせられたのだから。ちなみに、着替えをしている間も、ラナの口調となったネイりんはずっと笑い続けていた。つくづく幸せ者だと思った。

セリカ「ボディガードとは言えど、一応お父さんの前だからね。なるべく穏便に話をつけるためにも、ヴァル達には使用人のフリをしてもらわないと」

ヴェルド「とは言われても、この格好は慣れねぇな。なんだ?このピチピチな下着は?」

 高い物なんだから、大切に扱わなきゃいけないでしょ。あんたら2日3日に1回程度しか風呂に入らないって聞いてるんだから。

 まあ、そんなこんなで、みーんな、面白おかしな格好に仕上がってるが、唯一ネイりんだけめちゃめちゃ似合ってたことは忘れないであろう。いつもいつもバカにされてるんだから、今度、メイド服で1日給仕をさせてやる。

シアラ「ヴェルド様ぁ!カッコイイですよ!私の目にはアーサー王が玉座に座ってる時くらいカッコよく見えますぅ!」

ヴェルド「それ、カッコイイのか?」

 うーん、シアラの表現にはちょっと疑問が残るけど、ヴェルドもヴェルドで良い感じに仕上がってるのは面白いかな?これも弄りがいがありそう。

ヒカリ「で、何でもいいけど終わらせるなら早めにやっちゃいなさいよ。セリカお嬢様っ」

ネイ「ぶっ......ちょ、ちょっとやめてくれたまえwwwこれ以上www僕の腹をwwwアハッアハハハハハッ」

ヴァル「お前、どんだけセリカお嬢様って響きがツボにハマったんだよ。確かに面白いけどさ」

ネイ「す、すまないwwwだってwwwぶっ」

 もういいよ。バカにしてるってことは十二分に理解したから。

フウロ「そういや、セリカは着替えないのか?さっき、お父さんが相手だからと私達にこの格好にさせたとか言ってたが、自分は普段着で大丈夫なのか?」

セリカ「うん。一応、縁切りを宣言しに行くわけだからね。この家の人間じゃないって見た目から示していかないと」

ヴァル「......本当にいいのか?もう、親父さんと会えなくなるってことだろ?」

セリカ「大丈夫大丈夫。いざ私がいなくなってから、自分の過ちに気づいてくれると思うから。その時になったら、もう1回仲直りしてあげるの」

ヒカリ「どうかしらね。親父なんてもんは、1度縁を切ったら簡単に戻るもんじゃないと思うけど」

セリカ「でも、ヒカリんはお父さんと仲直りしたんでしょ?」

ヒカリ「あんなの仲直りなんて言わないわよ。ただ認めてやっただけ。別に、家族として生きたいとか思ってないんだから」

 ヒカリんの『別に』=言葉の意味が反対ってことだから、つまりはそういうことか。

ヒカリ「ちょ、何ニヤついてんのよ!」

セリカ「別に。何でもない」

 ......縁を切るなんて言ってるけど、出来ることならお父さんが反省してくれてるといいな。ヴルーアさんの話からは、そんな事微塵も考えてないだろうけど。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 そんなこんなで、お父さんが待つ書斎へと、私達は通された。

 久し振りに見る、父の大きな背中。ちょっと前に、龍との戦いの後で見た父は、表向きの優しそうな男。しかし、家庭内ではそんな姿は一切見せない。父は、何事にも厳しく、優しさなどそんな言葉は辞書に載っとらん、といった感じの人。そんなのだから、お母さんが流行病にかかって死んでしまうんだ。

「遅かったな。セリカ」

「っ......」

 ただの一言なのに、かなりの重圧を感じる......長らく忘れていたけど、これが普段のお父さんだった。

「全く、5年も私から逃げ続けて......。一体、この家の何が気に食わないと言うのだ?お前に必要なものは全て与えてやった。最高の教育。最高の魔道。最高の食事。他にもたくさんだ。それなのに、なぜお前はそんな顔をする?」

「......」

 どうしよう。いざ、面と向かって話をすると、上手く言葉が口から出ない。

「オマケに、なんだその庶民的な装いは。私は、お前にそのようなものを教えた覚えはない」

「......」

 お父さんの圧が、そのまま唇に乗っかかったかのような感覚だけど、今日ばかりはその圧に抗ってみせる。

 私の口から言わなければ何も伝わらない。私が何を思っているのか。私の気持ちをお父さんに全力でぶつける。

「......ふぅー。お父様。1つだけ、先に質問をしてもよろしいでしょうか」

「......良いだろう。1つだけだ。だが、その問に答えた後、お前は私の問に答えよ」

 ......落ち着け。私。何を言うべきか。何を聞くべきかは、昨日1人で練習したはずだ。堂々と、ハッキリ大きな声で言うんだ。

「......どうして、そんな必死になってまで私を連れ戻したがるのですか?娘だからとかいう、本音を隠した答えはいりません」

「......そうか。いいだろう、丁度いい機会だ。......5年前、お前が家を出て行ったのと同時に、縁談の話が来た。ある、有名な政治家の息子さんだ。私が政界に進出するチャンスだと思った。しかし、お前はほんの少し前にどこかへと逃げてしまった。だから、あの手この手でお前を探し、血が流れるような事態になろうと連れ戻そうとした。これが、私の本音だ。いや、更に言うならば、縁談の話さえなければお前など気にしとらん」

 そんな理由で、私が所属していたギルドを次々と解散に追い込んだというのか......やる事が酷すぎる......

「お前の質問には答えた。次は私の番だ。なぜ、お前はどれだけの事があろうと、私から逃げ続けた。お前が逃げなければ、無駄な血を見ることもなく済んだというのにだ。それに、その顔はなんだ?私に向けているその視線は、敵意か?」

 自分でも気づかないうちに、酷い顔でお父さんを睨んでいた。仕方ない。そうでもして気を張っておかないと、私自身が暴れだして、お父さんを殺してしまいそうになる。冗談じゃない。実際、腹の底にグズグズと湧き上がる『殺意』というものがある。

「......私は、お父さんの道具じゃない。お父さんが出世するための都合のいい道具じゃない。私は私の道を行く。それを許してくれないのなら、私は家を出る。あの日、私はそう言って家を出た。お父さんは好きにしろと言った。そんな事も忘れちゃったの?」

「知らんな。所詮は青二才のガキが何か言ってるくらいにしか感じなかったからな」

 要は、私の事なんて眼中になかったってことでしょ。なのに、いざ出世のために必要となれば、急に視界にその姿が映る。都合のいい目だ。

「私はお父さんのために動くことをしない。その縁談の話も私は知らないし、もちろん賛成しない」

「お前の意見は求めぬ。今、ここにお前が現れたこと。それは、私にとって都合のいいものだ。そして、後ろの召使い共がお前の息がかかった者だということくらいは察しがついている」

 そればっかりは、お父さんの気持ちが分かる。だって、どう見てもヴァル達の姿は怪しさプンプンだもの。

「お前さえ戻ってくれば、お前が反対しようが縁談の話は進む。抵抗せずに、1ヶ月は大人しく私の元にいろ」

 どうやって隠れていたのか、周りの本棚から黒いローブを被った人達が現れる。

 逃がすつもりはない、その意志を表しているのだろう。

「なんだコイツら」

「あれだろ、逃がさねぇぞってことだろ」

「流石に、そろそろ私達の出番か」

 みんな、そろそろ痺れを切らし始めている。出来ることなら、この屋敷で血が流れるのは見たくないのだけれど、お父さんが引かなければ仕方なし。

 お父さんは、完全にこちらを舐めているようだけど、ギルドの魔導士を舐めるのはやめた方がいい。ただ、私がどういう過程でここに現れたのかを考えれば、あんな黒装束の兵だけを置いているとは思えない。

「結婚もしとらんお前だ。相手を見れば、すぐにその気になる。お前の友達を殺したくなければ、そいつらを鎮めて、私の元へ来い。これが、最終通告だ」

 何が最終通告よ。そんなのに、私が乗るわけないじゃない。

「なあ、こいつらぶっ飛ばしていいか?そろそろ拳から火が出そうなんだけど」

「まだ待って。最後の手段に出るから」

 うずうずとしているヴァルが、私に耳打ちするように近づいてくる。よく耐えた。耐えたけど、あともうちょっとだけ。

 「結婚もしとらん」。いい言葉をくれた。この作戦で行こう。

「お父さん、黙ってたけど、私、この人と結婚してるから!」

「「「 ......は? 」」」

 部屋いっぱいに大きな「は?」の音が流れた。

「結婚してるんだったら、その縁談の話はないよね!?」

「っ......おい、貴様。その話は本当か?」

「あー......えー、ああ、本当だ。俺達、ラブラブだから」

 私の必死な顔で、全てを察してくれたのか、丁寧に腕まで組んでくれる。

 前に、ネイりんがやってた技。まさか、お父さん相手にも有効だとは思わなかったけど、意外と人って、「結婚してる」って言葉に敏感だよね?

「っ......もう良い。お前ら、奴らを始末しろ。男さえいなくなってしまえば、こちらのものだ」

 え!?強硬手段に出るつもり!?

 流石にそれは予想外の展開。いや、なんとなく来そうだとは予感してたけど。

「何これ!?」

 壁から現れたのが全てではなかった。本当に、どこに隠れてたんだってくらいのレベルで黒服達が、あっちからこっちからと現れる。

「おいおいおい!こんな数、捌ききれねぇぞ!」

「弱音を吐くな!セリカがいなくなってもいいのか!」

「弱音じゃねぇよ!」

「ヴェルド様は私が守ります!ウォータードロップ!」

「それ、貫通して俺に当たるわ!」

「ちょっと、みんな落ち着いて!」

 って言っても、こんな数を相手にして落ち着けられるわけないよね。お父さん、相変わらず手加減ってものを知らないね......。

「全く、黙って見てれば、結局この様か」

「本当、バカみたい。なぁにが、自分の過ちに気づいてくれるよ。全然そんな雰囲気しないじゃない」

 仰る通りです......。ぐうの音も出ない。

「まあ、僕に任せていたまえ。悪夢の世界」

 一瞬、黒い何かが通り過ぎたような気がして、その次の瞬間に、黒服達が全員倒れていた。

「軽く、10時間くらいは眠るんじゃないかな?まぁ、その間、ずーっと悪夢を見続けているがね。これも、相応の罰だと思いたまえ」

「なっ......」

 一瞬にして、ネイりんがお父さんの首に剣を回し、そのお父さんに向けて、ヒカリんが銃口を向けている。

「元精霊魔導師だと言うのに、魔導士を舐めすぎだ。まあ、僕がイレギュラーすぎる、というのも理由だろうがね」

 完全にお父さんを追い詰めた......。何この2人、仕事が早すぎるでしょ......なんか、こういう人達を言い表す言葉があったよね?何だったっけ?

「今後、君達がどれだけ僕らのギルドを襲ってこようが、僕達グランの魔導士がいる限り、君の望みは叶わない。大人しく、ここで剣を鞘に収めてくれると助かるよ。僕自身、無駄な血は見たくないからね」

 冷や汗と共に、お父さんはその場に崩れ落ちた。

「......好きにしろ」

 一瞬だけ、お父さんが悲しそうな顔をしていたのを、私は見逃さなかった。
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